このサイトではセクハラで悩む女性に向けて、弁護士が法的根拠をもとにセクハラ問題をどのように解決していくのかも解説しています。
今回の事例は、学習塾で働く20代の女性が、職場の上司である社長にセクハラを強要されて退職にまで追い込まれてしまったケース。
不本意な退職にまで追い込まれてしまったものの、職場の上司と担当弁護士が直接交渉を行うことにより和解金として150万円を勝ち取ることができたという事例を紹介します。
目次
職場の上司からのセクハラの内容~弁護士との相談に至るまで~
相談者は、地方に住む、塾で先生として働く20代女性。
子供のことが大好きで、仕事も誇りをもって取り組んでいました。
しかし相談者が塾に入った当初から、職場の上司である社長から私生活について尋ねられたり、何かと身体を触れられることがありセクハラに悩んでいました。
また何度も二人での食事に誘われましたが、毎回断っていました。
そんなある日、職場の上司から「取引先との会食が今日あるのだが、予定していた人間が急きょ来れなくなったため、どうしても一緒に来てほしい。」と言われました。
そのような事情と自らの立場を考えると、さすがに断ることができず、やむなく参加することに。
ところが、その会食の場には結果取引先でなく職場の上司の友人・知人がいた、いわば飲み会でした。
ただ相談者がそれに気付いた時点では、取引先と思っていたこともあり勧められたお酒はできるだけ飲まないといけないと頑張っていたせいで、かなり酔いが回っていました。
ようやく会が終わり、相談者が帰ろうとすると職場の上司が「方面も一緒だし送っていくから」と。
普段からセクハラされていたこともあってやんわり断るも、職場の上司は半ば強引にタクシーに乗り込んできました。
それから家付近に到着すると、職場の上司も一緒に降りてきていました。
ただもう既にこの時点では、酔いも回っていたせいか家に帰るのが精一杯の状況であったため、職場の上司が一緒に降りて付いてきていることに気づくこともできませんでした。
職場の上司は、「家に入るところまで確認しないと心配だから」と。
もちろん「もう大丈夫ですから」と相談者は断ったものの、一向に聞き入れてくれずでした。
周りに助けを求めることができない状況で、普段からセクハラをしてくる職場の上司を部屋に入れることだけは避けたいと押し問答になりましたが、トイレを催していたこともあり仕方なく職場の上司が家の前までついてくることに。
そして家の鍵を開けると、そこからは部屋に強引に上がり込んできて、力ずくで身体を触られ、キスまでされてしまいました。
度を超えたセクハラに相談者が泣きながら抵抗すると、我に返ったのか職場の上司は何も言わず帰っていきました。
すぐ「職場の上司にセクハラされた」と警察に連絡しようか迷ったものの、クラス担任を請け負っており、かつ受験シーズンも間近で、生徒たちの顔が浮かんでくると、せめて受験シーズンが終わるまでは仕事を続けなければならないと思い、連絡は行わないことに。
もっとも、受験シーズンさえ終われば退職することは決意。
相談者は、口惜しさと恐怖を感じながらもなんとか翌日も出勤し、職場の上司と会ってもあえて平然とした態度を取りました。
にもかかわらず職場の上司は何事もなかったかのように、同様に食事に誘ってきたり、身体に触れてきたり、セクハラは結局受験シーズンまで続きました。
相談者は受験シーズンが終わると同時に退職。
職場の上司のセクハラ行為に対して何か請求できないかと弊所に相談に来られました。
関連記事:セクハラについて
職場の上司とセクハラ問題を争うために弁護士と相談~方針決定~
まず相談者は、強引に家まで上がり込んできてキスまでされた行為はもちろんのこと、入社当初から退職まで続いたセクハラ行為の慰謝料を請求したいとのことでした。
また職場の上司の上記セクハラ行為がなければ退職することもなかったので、そのことについても請求できるなら請求したいとのこと。
弁護士は、職場の上司のセクハラ行為は民法709条の不法行為として慰謝料を請求できることを説明。
あわせて退職したことについてもセクハラ行為が原因といえるので、逸失利益を請求できることも伝えました。
(逸失利益とは、不法行為に基づく損害賠償において、その不法行為の事実がなければ得たであろうと思われる利益のことをいいます。)
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。引用|民法
もっとも請求にあたっては、裁判になれば当然、交渉段階においても証拠が必要に。
特にセクハラについては、相手方が否定してきたり、同意があったなど反論してくることがよく見受けられるのでより重要と説明。
そこで相談者に対し、何かセクハラ行為の証拠となるものはないか、録画や録音、写真、メール等のやり取り、日記などでもいいのでと尋ねました。
すると、退職直前に相手方と話した際に、職場の上司が上記すべてのセクハラ行為をしたことを認め謝罪した旨の録音及びその後に重ねて謝罪してきたメッセージのやり取りを持っているとのこと。
相談者はぜひとも依頼したいとのことで当法律事務所の弁護士にご依頼いただくことに。
弁護士への要望としては、早期解決と可能な限りの金額を請求してくださいとのこと。
担当弁護士の方針としては、最初のアクションにつき電話で交渉することを提案。
本来、弁護士からセクハラの慰謝料を請求する場合、書面を内容証明にて送付するのが一般的です。
しかし、今回の相手方は家族を持っており、また社長という立場。
ですので自宅や職場に送ると、本人が受け取るとは限らないため、それを代理で受領した家族や職場の従業員に知られる可能性がでてきます。
もっとも職場の上司としては、普通の感覚であればセクハラに関して家族や従業員に知られたくないと考えます。
そこでセクハラの慰謝料請求を内容証明で送る手段もありましたが、家族や従業員に知られるリスクを考慮し、あえて電話で連絡したと伝えることにより、早期解決につなげるというものです。
どういうことかというと、職場の上司が素直に請求に応じるのであれば、相談者へのセクハラ行為を家族や従業員に知られずに済む一方、応じないのであれば訴訟提起するしかなく、そうなると今回のセクハラ行為はまず周囲に知られることになるだろうと告知。
このように告知することで、相手方によっては、家族や従業員に知られたくがないために請求に応じようと考え、早期解決になるということです。
他方、金額については、セクハラ行為に対する慰謝料とセクハラを原因とする退職による逸失利益あわせて200万円を損害賠償として請求することを提案。
ただし現状セクハラの裁判例をみると、依頼者と類似する事案においては150万円を超える金額を認められたケースは稀で、多くは数十万円から百万円程度であることを説明。
それゆえ裁判になればもとより、交渉段階でも職場の上司に弁護士がつけば、上記の裁判例を踏まえたうえで減額交渉されるであろうことを伝えました。
以上につき、ともに相談者は了承し、弁護士はセクハラにまつわる事件に着手していくことに。
セクハラ慰謝料を職場の上司に請求~解決に至るまで~
早速、担当弁護士は職場の上司に電話。
職場の上司の反応は「セクハラはやってない、むしろ誘われた」などとセクハラ行為を否定し反論までしてきました。
弁護士は、そうであれば次の法的措置をとらざるを得ないと回答。
それでも職場の上司は何の根拠があるのか不明でしたが意見を変えることなく交渉は終了。
相談者に報告し、残念ながら上記のような対応だったので、請求意思を明確にするためにも通常どおり内容証明を送ることに。
すると、弁護士から内容証明というかたちで書面が届いたことでようやく相手に本気度が伝わったのか、職場の上司も弁護士を立て回答してきました。
その内容は電話での回答とは一変し、「同意があったと思っていた。しかし、お互いの認識に行き違いがあったとはいえ、傷つけたとしたのなら申し訳なかった。」というものでありました。
もっとも金額としては、セクハラの慰謝料として30万円、退職とセクハラ行為は関係性がないため逸失利益は0円と、こちらが請求した金額から大きくかけ離れた和解金の提示。
これを相談者に伝えると、職場の上司の態度に憤りを感じるとともにセクハラを我慢した甲斐もないと悲しさを覚えていました。そして、今回のセクハラ行為に関して徹底的に戦ってくださいとのこと。
弁護士は相談者から提出してもらった証拠を武器に相手方弁護士と交渉していくことに。
証拠の存在を相手の弁護士に示すと、分が悪いと感じたのか、和解金額を80万円にあげてきました。
これは、セクハラ行為のみに対する慰謝料としてみれば、前述したとおり裁判例で認められる相場ではあるものでした。
しかし、セクハラを我慢して退職せざるを得なかったことまで考えると、徹底的に戦ってほしいと要望する相談者が納得いく金額とはいえません。
そのため、その金額では交渉は決裂で、訴訟に移行せざるを得ないと伝えました。
相手方代理人は、職場の上司本人と再度検討してみると回答。
その後出てきた和解金の提示は、150万円と前回から約2倍に。
職場の上司は訴訟となることを嫌がったのか、大きな上げ幅といえるものでした。
ただこの金額が最大限で、これ以上を望むのであれば訴訟してもらっても構わないとも伝えてきました。
弁護士は相談者に報告とともに説明。
依頼の際にも話したように、職場の上司に弁護士がついた交渉ではここまでが限界と思われると。
他方、訴訟に移行したしてもセクハラの慰謝料と逸失利益を含めた金額がこれ以上大きくなる可能性はそこまでなく、むしろ下がる可能性もあり、また解決まで時間がかかってしまうと伝えました。
相談者は限界と思える金額まで上げてくれているなら、金額面は納得できるとのこと。
そして気持ちとしても早くケリをつけて次のステップに行きたいので、訴訟までは行わず今回の和解金の提示を受け入れることに。
こうして事件は終結に至りました。
職場でのセクハラに悩む女性への弁護士からのコメント
そもそもセクハラ事例の多くは、お互いの認識のずれから生じています。
というのは、セクハラされる側は嫌だとしても、特に職場ではその上下関係から明確な拒否をできないことがほとんどです。
一方、セクハラしている側はたいていが嫌がっていることを認識していません。
それゆえ、セクハラが1度だけで終わるケースはまれで、今回の事案のように継続して行われるのです。
またセクハラ事例の特徴として、セクハラされた側が退職してから、もしくは退職の際など時間が経ってから問題が顕在化することが多いです。
周囲の目や立ち位置を考えると、在職中にセクハラを会社に伝えることは現実問題なかなか難しいからです。
そのため、時間が経過しているがゆえに第三者の証拠を集めることが困難なケースが往々にあります。
ですので、できるかぎり自らで電話の録音、メール等のやり取り、日記などは証拠として残しておくべきです。
もちろん当人にとっては辛い出来事であるため、形として残しておきたくなく、むしろ消去したい気持ちがあるかと思います。
ただ相手方を許せないと思うのであれば、その気持ちを何とかおさえて相手方と戦うために残しておきましょう。
くわえて、セクハラ事例はその慰謝料の換算に明確な基準があるわけではありません。
かつ残念ながら相手方も、たかがセクハラだろうと考えている人が少なくありません。
したがって、個人で交渉したとしても金額面で折り合わないことがよく見受けられます。
そのような場合には、弁護士に相談・依頼することも検討すべきです。
弁護士であれば、何より交渉の専門家でありますし、証拠のほか過去の同種の裁判例などを根拠に相手方を説得させ、スムーズに事件解決に導くことも可能だからです。
最後にセクハラをはじめ労働問題でお悩みの方は、遠慮なく当法律事務所にご相談ください。