労働者性とは?労働者と業務委託の判断基準をチェックリストで確認

作業中 労働者性とは?労働者と業務委託の判断基準をチェックリストで確認

「会社から労働者ではなくフリーランスとして扱われている」

「労働者とフリーランスはどのような違いがあるの?」

「労働者性はどのような基準で判断するのだろうか?」

会社と雇用契約を締結して働く労働者は、労働基準法による保護を受けることができます。これに対して、会社と業務委託契約を締結するフリーランスは、原則として、労働者にはあたりませんので、残業代が支払われないなど労働基準法によるさまざまな保護を受けることができません。

ただし、形式上雇用関係にないフリーランスや業務委託契約の個人事業主であっても、実質的にみて労働者性が認められ、残業代請求や不当解雇を争えることもあります

そのため、フリーランスとして働いている方は、労働者性の判断基準をしっかりと押さえておくことが大切です。

本記事では、

・労働者性の判断基準

・労働者性を判断するためのチェックリスト

・労働者性が認められた場合のメリット

などについてわかりやすく解説します。

簡単なチェックリストも掲載していますので、労働者性を満たす可能性のある方は、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

労働者性とは?

労働者性とは

労働者性とは何を判断するための基準なのでしょうか。以下では、労働者性とは何か、雇用契約と業務委託契約の違いについて説明します。

労働者性とは?

労働基準法9条では、「労働者」を事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者と定義しています。労働基準法上の労働者にあたるかどうかを、一般的に「労働者性」と呼び、基本的には、以下の基準により判断します。

・労務が他人の指揮監督下において行われているかどうか

・報酬が指揮監督下における労働の対価として支払われているか

なお、労働者性の詳細な判断基準については、2章で詳しく説明します。

労働者性がある場合(雇用契約)と労働者性がない場合(業務委託契約など)の違い

雇用契約と業務委託契約の大きな違いは、労働基準法の適用を受けるかどうかという点です。

雇用契約を締結した労働者は、労働基準法による保護を受けることができますが、業務委託契約を締結したフリーランスには、基本的には労働基準法は適用されません。フリーランスは、会社からの指揮監督を受けることなく自由に働けるというメリットがありますが、最低賃金の保障がなく、残業をしても残業代が支払われないなどデメリットもあります。

ただし、労働基準法が適用される「労働者」であるかは、単に契約の名称のみで判断するわけではありませんので、フリーランスであっても労働者性が認められれば、労働基準法による保護を受けられますので、会社に対して残業代を請求できる、簡単に解雇されることがないなどの利益を享受することができます。

労働者性の判断基準

労働者性はどのような基準で判断するのでしょうか。以下では、労働者性の判断基準について説明します。

労働者性の判断基準のまとめ

「使用従属性」に関する判断基準

労働者性の有無は、基本的には「使用従属性」が認められるかという観点から判断します。使用従属性は、主に「指揮監督下の労働であること」「報酬の労務対償性があること」という2つの要素により判断されます。

【指揮監督下の労働であること】

「指揮監督下の労働であること」は、以下の4つの要素により判断します。

-仕事の依頼、業務従事の指示などを拒否できるかどうか-

具体的な仕事の依頼、業務従事の指示などに対して諾否の自由を有していれば、他人に従属して労務を提供するとはいえませんので、対等な当事者間の関係性にあり、指揮監督関係を否定する重要な要素になります。

これに対して、具体的な仕事の依頼、業務指示などを拒否することができないのであれば、労働者性を推認させる重要な要素になります。

ただし、契約内容によっては諾否の自由がないことのみで指揮監督関係を判断できないこともありますので、契約内容も考慮する必要があります。

-業務遂行上の指揮監督の有無-

業務の内容および遂行方法について具体的な指揮命令を受けていることは、指揮監督関係の基本かつ重要な要素になります。

ただし、通常行われる程度の指示にとどまる場合には、指揮監督を受けているとはいえませんので、指揮命令の程度も踏まえて判断しなければなりません。

-拘束性の有無-

勤務場所および勤務時間が指定・管理されていることは、指揮監督関係の基本的な要素になります。

ただし、業務の性質上または安全確保の必要上などの理由で勤務場所および勤務時間が指定されることもありますので、拘束性の有無が業務の性質によるものか、業務遂行を指揮命令する必要によるものかを見極める必要があります。

-代替性の有無-

 

・本人に代わって他人が労務を提供することが認められている

・本人が自らの判断により補助者を使うことが認められている

など労務提供の代替性が認められている場合には、指揮監督関係を否定する要素の一つになります。

【報酬の労務対償性があること】

・報酬が時間給を基礎として計算されるなど労働の結果による較差が少ない

・欠勤した場合には応分の報酬が控除される

・残業をした場合には通常の報酬とは別の手当てが支給される

など報酬の性格が使用者の指揮監督下で一定時間労務を提供したことに対する対価と判断される場合には、使用従属性を補強する要素となります。

「労働者性」の判断を補強する要素

上記の使用従属性に関する判断基準だけでは、労働者性の判断が困難な場合があります。そのような場合には、労働者性の判断を補強する以下のような要素も踏まえて総合的に判断する必要があります。

【事業性の有無】

以下のような事情がある場合には、事業者としての性質が強く、労働者性を弱める要素となります。

・本人が所有する機械や器具を使用し、それらが著しく高価なものである

・報酬額が当該企業において同様の業務に従事する正社員と比較して著しく高額である

・業務遂行上の損害に対する責任を負う

・独自の商号使用が認められている

【専属性の程度】

以下のような事情がある場合には、労働者性の有無に関する判断を補強する要素となります。

・他者の業務に従事することが制度上締約され、または時間的余裕がなく事実上困難である

・報酬に固定給部分があり、その額も生計を維持し得る程度のものであるなど生活保障的な要素が強い

労働者性の判断基準をチェックリストで確認!

労働者性の判断基準は、上記のとおりですが、それだけではどのような場合に労働者性が認められるのか判断できないという方もいると思います。そのような方に向けて、労働者性の簡単なチェックリストを作成しましたので、ご確認ください。

該当する要素が多ければ多いほど労働者性が認めらえる可能性が高くなりますので、複数項目該当する方は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

労働者性の判断基準のチェックリスト

労働者性が争われる典型的な場面

労働者性が争われる典型的な場面としては、以下の2つが挙げられます。

労働者と業務委託・自営業者・フリーランス

労働者性が争われる典型的な場面の一つが、労働者または業務委託・自営業者・フリーランスのどちらに該当するかどうかが争われる場面です。

労働者を雇用する会社では、労働者が残業をした場合、残業代を支払わなければなりません。しかし、業務委託・自営業者・フリーランスであれば労働基準法が適用されませんので、残業代の支払いが不要になります。そのため、人件費の負担を少しでも抑えようという考えで、雇用契約から業務委託契約へと切り替えを行うケースがあります。

しかし、すでに説明したとおり、労働者性の有無は、契約の名称ではなく、使用従属性という実態に即して判断します。そのため、会社から業務委託・自営業者・フリーランスとして扱われている方であっても労働者性が認められ残業代を請求できる可能性があります。

労働者と経営者

労働者性が争われる典型的な場面のもう一つが労働者または経営者(役員)のどちらに該当するかが争われる場面です。

会社と経営者(役員)は、委任関係にありますので、労働基準法による保護の対象外となります。労働基準法の適用や社会保険・雇用保険の加入義務を免れようとする意図で、本来は労働者であるにもかかわらず役員として扱うケースもあります。

しかし、上記と同様に労働者性の有無は使用従属性という実態に即して判断しますので、経営者(役員)であっても労働者性が認められる可能性があります。

労働者性が認められた場合のメリット

労働者性が認められた場合のメリット

労働者性が認められると、以下のようなメリットが生じます。

会社に対して残業代を請求できる

労働者性が認められると労働基準法が適用されますので、残業時間に応じた残業代を請求することができます。また、深夜労働や休日労働をしたときも、以下のような割増賃金を請求することができます。

残業時間に対する割増賃金率

フリーランスや自営業者として扱われていた方は、これまで一切残業代などが払われていない状態ですので、労働者性が認められると高額な残業代を請求できる可能性があります。

簡単に解雇ができない

労働者性が認められると労働契約法が適用されますので、簡単に解雇することができなくなります。

フリーランスや自営業者だと企業から簡単に契約を切られてしまうなど非常に不安定な立場ですが、労働者性が認められれば安定して働くことができます。

年次有給休暇を取得できる

労働基準法では、雇入れの日から6か月を経過し、その期間の全労働日の8割以上出勤したことを条件に年次有給休暇が付与されます。年次有給休暇は、休んだ日でも給料をもらうことができますので、経済的な不安なく心身の疲労を回復し、リフレッシュすることができます。

労働者性が認められれば、このような年次有給休暇を取得することができます。

雇用保険や労災保険が適用される

労働者性が認められると雇用保険や労災保険に加入することができます。

会社を退職または解雇された場合には、雇用保険から失業手当の支給が受けられますので、再就職先を探す間の経済的な不安が解消されるでしょう。また、仕事中に病気や怪我を負った場合には、労災保険からさまざまな補償を受けることができます。

このように労働者性が認められると非常に手厚い保護を受けられます。

 

労働者性が争点となった判例の紹介

労働者性が争点となった判例

労働者性が肯定された判例|最高裁昭和51年5月6日判決

【事案の概要】

原告は、民間放送会社(被告)と出演契約を締結して音楽演奏に従事していました。原告らで組織する労働組合が被告会社に対して団体交渉の申し入れをしたところ、それを拒否されたため、原告は労働委員会に不当労働行為の救済申し立てを行いました。

しかし、労働委員会は、被告が労働組合法上の使用者にあたらないとして原告の申立てを棄却したため、原告は裁判所に取消訴訟を提起しました。

【裁判所の判断】

裁判所は、以下のような理由から原告の労働者性を肯定しました。

・契約上は出演発注を断ることが禁止されていなかったものの、原則として発注に応じて出演すべき義務のある契約だったと認められる

・演奏という特殊な労務を提供するという性質上、会社から時間的拘束を受けるものではないものの、会社が必要とするときは会社の指定があればこれに従わなければならなかった

・有名芸術家とは異なり演出について裁量を与えられていないため、出演報酬は演奏という労務提供それ自体の対価といえる

労働者性が否定された判例|最高裁平成8年11月28日判決

【事案の概要】

原告は、自己所有のトラックを被告会社に持ち込んで運送業務に従事していたところ、商品の積み込み作業中に転倒して負傷してしまいました。原告は、労災申請を行い療養補償給付などの請求をしたところ、労働基準監督署が労災保険法上の労働者には該当しないとして、不支給処分を下しました。

原告は、これを不服として処分の取り消しを求めて裁判所に訴えを提起しました。

【裁判所の判断】

裁判所は、以下のような理由から原告の労働者性を否定しました。

・会社の業務遂行の指示は、運送業務に必要な運送商品、運送先、納入時刻に限られ、通常の業務上の指揮命令にあたる運転経路や運転方法には及んでいなかった

  • 始業時刻や終業時刻の定めがなかった
  • 報酬は積載可能量と運送距離によって定まる出来高制であった
  • トラック購入代金その他の経費は、運転手が負担していた
  • 源泉徴収や社会保険料などの控除が行われていなかった

労働者性の判断でお悩みの方はグラディアトル法律事務所にご相談を

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労働者性が認められるかどうかによって、労働基準法などの労働者保護規定の適用の有無が変わります。フリーランスとして働いている方は、残業代が請求できるかどうかにもかかわりますので非常に重要な要素となります。

労働者性の有無は、さまざまな要素を総合考慮して判断しますので、一般の方では正確に判断することは困難です。ご自身が労働者であるかどうかを正確に知りたいという方は、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。当事務所では、労働問題に関する豊富な知識と経験がありますので、個別具体的な事情を踏まえて、労働者性が認められるかどうかを判断することが可能です。また、労働者性が認められれば、会社に対して未払い残業代などの請求もできますので、その対応も当事務所にお任せください。

まとめ

労働者性の判断基準は、非常に複雑なものとなっています。本記事で掲載したチェックリストに複数項目該当するという方は、労働者性が認められる可能性が高いため、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。

労働者性の判断にあたっては、弁護士のアドバイスやサポートが不可欠になりますので、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。



弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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