「webデザイナーとして働いているけれども残業が多くて大変」
「会社からきちんと残業代が支払われているかが気がかりだ」
「webデザイナーは裁量労働制だから残業代は出ないと言われたけれども本当?」
webデザイナーは、クライアントからの無理な要求や短い納期に対応するために、長時間の残業を強いられることも珍しくありません。
業界の雰囲気としても残業が当たり前と考えられている風潮もあるようです。
webデザイナーであっても、一般企業の労働者と同様に残業をすれば残業代を請求することができますが、専門性の高いwebデザイナーは、裁量労働制などの賃金制度を理由に残業代が支払われていないケースもあります。
しかし、裁量労働制を適用するには一定の要件がありますので、適用要件を満たさないwebデザイナーの方は、会社に対して残業代を請求することができます。
本記事では、
・webデザイナーに残業が多いと言われる6つの理由
・webデザイナーの裁量労働制が適法かどうかのチェックポイント
・webデザイナーに残業代が支払われないよくある4つの手口
についてわかりやすく解説します。
webデザイナーの方は、本記事を参考にご自身のケースが残業代請求が可能なケースであるかどうかをチェックしてみましょう。
目次
webデザイナーの残業の実態
webデザイナーというと残業が多いイメージを持たれる方もいると思います。実際のwebデザイナーの平均的な残業時間はどのくらいなのでしょうか。
大手転職サイト「リクルートエージェント」の調査によると、webデザイナーの平均残業時間は、1か月あたり21.4時間となっています。
残業の多い上位20業種の平均残業時間は、1か月あたり26.8時間~42.2時間ですので、webデザイナーの残業時間が特に多いというわけではなさそうです。
しかし、企業規模やwebデザイナーの業務内容によっては、長時間の残業を強いられることもありますので、実際の残業時間はケースバイケースといえるでしょう。
そのため、毎月長時間の残業をしているというwebデザイナーの方は、未払い残業代が発生している可能性もありますので、ご自身の残業代をきちんと把握することが重要です。
webデザイナーに残業が多いと言われる6つの理由
webデザイナーは、業務の性質上、残業が多くなりやすい職種の一つと言われています。
それには、以下のような6つの理由があるからです。
納期が決まっている
webデザイナーの仕事は、クライアントから納期を設定されますので、納期に間に合うように作業を行わなければなりません。
極端に短い納期を設定されてしまうと、通常の業務時間内の作業だけでは間に合わず、夜遅くまで残業をしなければならない日が続くこともあります。
会社としては、多くの依頼を受けることで利益を上げようとしますので、多少無理なスケジュールでも仕事を受けてしまうのも残業が多くなる要因の一つといえます。
クライアントの指示に振り回される
webデザイナーは、クライアントの要望に沿った制作物を作成するのが仕事になります。
しかし、クライアントの多くは、web制作やデザインに関する知識のない素人であることが多く、クライアントからの無理難題や無茶な指示に振り回されることも珍しくありません。
また、クライアントからの入稿テキストや素材データの提供がなければ作業が進められないにもかかわらず、それらが送られてくるのが納期直前になると、残業をしなければ間に合わない状況になります。
このようなクライアントの指示に振り回されることで、webデザイナーの残業が多くなってしまいます。
webディレクターの能力が低い
webデザインの現場では、全体を統括するwebディレクターという立場の人がいます。
webディレクターは、円滑にプロジェクトを進めるために、作業工数や作業時間を割り出して、スケジュールを立てるなどの管理業務を行っています。
優秀なwebディレクターであれば、無理のない計画立案により、webデザイナーへの負担は少なくなりますが、能力の低いwebディレクターだと納期に間に合わせるためにwebデザイナーが残業をして対応しなければならなくなります。
クオリティを追求しすぎる
webデザイナーは、クライアントの要望に沿うようにwebデザインの制作を行いますが、webデザインには1つの正解があるわけではありません。
よりクライアントに満足してもらえるようクオリティを高めていくと、それに応じて作業時間も増えてしまい、残業をしなければ制作物が完成しないということもあります。
そのため、モノづくりのクオリティに拘る人ほど、残業時間が長くなる傾向にあります。
残業が当たり前という風潮
webデザイナーの業界では、残業が当たり前という風潮があることも残業が多い原因のひとつです。
そのような考え方が強く残っている会社だと、残業を減らすための取り組みに消極的であり、むしろ長時間残業を前提としてwebデザイン制作のスケジュールを組むこともあります。
知識やスキルのアップデートが必要
web業界では、日々技術が進化しており、デザインのトレンドの移り変わりも非常に激しい業界です。
そのため、少し前までは最新のデザインであったものが、すぐに過去のものになってしまいますので、webデザイナーは、常に最新の知識やスキルのアップデートに努めなければなりません。
通常の業務時間内は、ウェブデザインの制作に追われているため、知識やスキルのアップデートは、どうしても業務時間外に行わなければなりませんので、それにより残業が増えてしまいます。
裁量労働制だとwebデザイナーに残業代は支払われない?
会社から「webデザイナーは裁量労働制が適用されるから残業代は出ない」と言われることがあります。
しかし、裁量労働制を適用するには、労働者の個別同意が必要になりますので、同意なく裁量労働制が適用されているケースでは、違法な適用となります。
以下では、裁量労働制に関する詳しい内容と要件を説明します。
裁量労働制とは
裁量労働制とは、実際の労働時間とは関係なく、あらかじめ会社と労働者との間で定められた時間を労働したものとみなす制度です。
一般的な労働時間制は、働いた時間の長さに応じて賃金が支払われますが、裁量労働制は、仕事の成果に対して賃金が支払われますので、専門性の高い業務や労働者の裁量が大きい業務で導入されています。
たとえば、裁量労働制でみなし労働時間を8時間と定めた場合、実際の労働時間が10時間だったとしても、8時間分の賃金しか請求できず、残業代は発生しません。
そのため、webデザイナーに裁量労働制が適用されている場合には、残業代が請求できない可能性があります。
なお、裁量労働制と残業代請求についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
裁量労働制が有効となるための3つの要件
裁量労働制は、すべての業務や職種に適用される制度ではありません。
裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類がありますが、webデザイナーへの適用が問題となるのは、専門業務型裁量労働制ですので、以下では、専門業務型裁量労働制が適用される3つの要件を説明します。
【対象業務に該当すること】
専門業務型裁量労働制を導入できる業務は、以下の20種類の業種に限られます。
以前は、19種類の業種とされていましたが、法改正により2024年4月1日から「銀行又は証券会社の顧客のM&Aに関する調査、分析、考察、助言に関する業務」が追加され、20種類となりました。
①新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
②情報処理システムの分析又は設計の業務(例:システムエンジニア)
③新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法第2条第28号に規定する放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務
④衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務(例:デザイナー)
⑤放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
⑥広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(例:コピーライター)
⑦事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(例:システムコンサルタント)
⑧建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(例:インテリアコーディネーター)
⑨ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
⑩有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(例:証券アナリスト)
⑪金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
⑫学校教育法に規定する大学における教授研究の業務
⑬銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務
⑭公認会計士の業務
⑮弁護士の業務
⑯建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
⑰不動産鑑定士の業務
⑱弁理士の業務
⑲税理士の業務
⑳中小企業診断士の業務
【事業所ごとに労使協定を締結すること】
専門業務型裁量労働制を実施するためには、会社と過半数労働組合または過半数代表者との間で、以下の事項を定めた労使協定の締結が必要になります。
①制度の対象とする業務②1日の労働時間としてみなす時間
③対象業務の遂行の手段や時間配分の決定などに関し、使用者が適用労働者に具体的な指示をしないこと
④適用労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉確保措置の具体的内容
⑤適用労働者からの苦情処理のために実施する措置の具体的内容
⑥制度の適用にあたって労働者本人の同意を得なければならないこと
⑦制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取り扱いをしてはならないこと
⑧制度の適用に関する同意の撤回の手続き
⑨労使協定の有効期間
⑩労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意および同意の撤回の労働者ごとの記録を労使協定の有効期間中およびその期間満了後3年間保存すること
【労働者本人の同意を得ること】
労使協定を締結したら、適用対象となる労働者に以下の事項を説明して、同意を得る必要があります。
・対象業務の内容や労使協定の有効期間をはじめとする労使協定の内容等専門型の制度の概要
・同意した場合に適用される賃金や評価制度の内容
・同意をしなかった場合の配置および処遇
就業規則による包括的な合意では、労働者の同意にはあたりませんので、必ず労働者から個別に同意を得なければなりません。
【就業規則などに定めがあること】
裁量労働制を労働者に適用するためには、労働契約上の根拠が必要になります。
そのため、労使協定とは別に個別の労働契約または就業規則などで裁量労働制に関する規定を定める必要があります。
webデザイナーの裁量労働制が適法かどうかのチェックポイント
上記の裁量労働制の要件を踏まえて、どのような場合にwebデザイナーへの裁量労働制の適用が適法となるのでしょうか。
対象業務に該当し、webデザイナーに一定の裁量が認められているか?
webデザイナーは、裁量労働制が定める業務のうち「システムエンジニア」または「デザイナー」に該当する可能性があります。
しかし、裁量労働制の対象業務は、単に業務の名称ではなく実態に即して判断する必要があります。
裁量労働制は、定型的な業務ではなく、自由な発想に基づく業務に対して適用される制度ですので、webデザイナーに業務に関する一定の裁量が与えられている必要があります。
そのため、会社から指示されている仕事をこなしているだけのwebデザイナーに対しては、裁量労働制の適用は認められません。
みなし労働時間が実態に即しているか?
裁量労働制では、実際の労働時間ではなくみなし労働時間が賃金の支払い対象の労働時間となります。
しかし、残業代の支払いを免れるために、実際の労働時間からかけはなれたみなし労働時間を定めるのは、違法となる可能性があります。
たとえば、webデザイナーの実際の労働時間が1日11時間あるにもかかわらず、みなし労働時間を8時間と定めるのは、実態に即したものとはいえず違法と評価される余地もあるでしょう。
みなし労働時間に相当する残業代が支払われているか?
専門業務型裁量労働制が適用される業務は、労働時間が1日8時間を超えるものであることが多いため、みなし労働時間も8時間を超える時間が定められていることがあります。
このようなケースでは、法定労働時間である8時間を超えた部分については、残業代の支払いが必要になります。
給与明細を確認して、残業代の支払いがなされていない場合には、違法な裁量労働制の適用といえるでしょう。
なお、裁量労働制と残業代請求についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
webデザイナーに残業代が支払われないよくある4つの手口
webデザイナーに対して残業代を支払わない会社側のよくある手口としては、以下の4つが挙げられます。
5-1 固定残業代以上の残業代を支払わない
固定残業代とは、実際の残業時間にかかわらず、あらかじめ定めた残業代を支払う制度です。
固定残業代が導入されている場合、実際の残業時間が固定残業時間よりも少なかったとしても、固定残業代満額が支払われます。
しかし、実際の残業時間が固定残業時間を上回っている場合には、固定残業代とは別途残業代を支払わなければなりません。
会社によっては、固定残業代を支払えばそれ以上の残業代を支払う必要はないと誤解しているところもありますので注意が必要です。
なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
テレワークによるサービス残業
webデザイナーは、必要なソフトさえあれば、会社での作業ではなく自宅でのテレワークでも対応可能な職業です。
コロナ禍をきっかけにテレワークが導入された会社では、現在でもテレワークを続けているところもあるでしょう。
しかし、テレワークになると労働時間の管理が難しくなるため、長時間の残業をしているにもかかわらず、残業代が一切支払われていないケースもあります。
テレワークだからといって残業代の支払いが不要になるわけではありませんので、労働者側は、残業時間に関する証拠をしっかりと残して、会社に対して未払い残業代を請求してくことが必要です。
持ち帰り残業の強制
webデザイナーは、納期に追われて通常の業務だけでは間に合わないという場合、自宅に仕事を持ち帰り、深夜や休日に作業を強いられることがあります。
このような持ち帰り残業も使用者による指揮命令下に置かれた時間と評価できる場合には、労働時間にあたり、残業代を請求することができます。
会社から持ち帰り残業の明示的な指示があった場合はもちろんのこと、明示的な指示がなくても以下のような事情があれば、黙示による指示があったといえますので、残業代請求が可能です。
・客観的にみて勤務時間内に終わらない量の業務が指示された
・納期に間に合わせるためには、持ち帰り残業をしなければならない状況だった
・労働者が持ち帰り残業をしていることを会社が黙認していた
業務委託契約を理由に残業代を支払わない
webデザイナーは、専門性の高い業務であることから、雇用契約ではなく業務委託契約という形式がとられることがあります。
業務委託契約に基づき作業をする人は、労働者にはあたりませんので、実際の作業時間が法定労働時間を超えていたとしても、会社(委託先)に対して、残業代を請求することはできません。
しかし、労働者に該当するかどうかは、雇用契約か業務委託契約かという契約の名称ではなく、実態に即して判断する点に注意が必要です。
そのため、以下のような事情がある場合には、契約の名称が業務委託契約であったとしても、労働者に該当し、残業代を請求できる可能性があります。
・勤務場所や勤務時間が拘束されている
・早退や欠勤により報酬が控除される
・業務に必要なパソコンやソフトなどが会社負担で用意されている
年俸制を理由に残業代を支払わない
年俸制とは、年単位で給与額を決定し、その金額を毎月分割して支払う給与制度です。
前年の成果に応じて年俸額が定められるため、主に成果主義を採用する企業で用いられる制度といえます。
年俸制は、年俸額があらかじめ決められていることから、残業をしたとしても残業代の支払は不要だと誤解している方も多いですが、年俸制でも残業代の支払いは必要です。
webデザイナーは、年俸制が導入されているケースが多いといえます。
しかし、年俸制だからといって残業代の支払いが不要になるわけではありませんので、未払い残業代がある場合にはしっかりと請求していくようにしましょう。
なお、年俸制でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
webデザイナーの残業代請求に関する実際の裁判例
webデザイナーに対する専門業務型裁量労働制の適否が問題となった事案として、東京地裁平成30年10月16日判決を紹介します。
事案の概要
原告は、風俗情報ポータルサイトを開設する被告会社の制作部デザイン課に所属し、ウェブ・バナー広告などの制作業務に従事していました。
被告会社では、同業務に従事する労働者に対し、専門業務型裁量労働制を適用し、みなし労働時間として9時間が定められていました。
原告は、専門業務型裁量労働制が適用される業務ではないと主張し、みなし労働時間を上回る残業代が未払いであるとして、会社に対して未払い残業代などの支払いを求めた事案です。
裁判所の判断
専門業務型裁量労働制の適用対象業務であるかは、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段および時間配分の決定などに関し、使用者が具体的な指示をすることが困難かどうかにより判断することを要するとした上で、本件では、以下のような事情が認定されました。
・営業や編集担当社員から顧客の要望に基づく大まかなイメージなどの指示が出されていた
・納期は新規作成のケースでも5営業日程度で、原告は1日あたり10件程度のウェブ・バナー広告を制作していた
・営業担当社員が顧客から完成許可を得ることで納品完了となる扱いがされていた
これらの事情から、原告の本件業務遂行にあたっての裁量は限定的で、専門業務型裁量労働制を適用する余地はないと判断されました。
その結果、会社に対しては、約143万円の未払い残業代の支払いが命じられています。
残業代請求をお考えのwebデザイナーの方はグラディアトル法律事務所にご相談ください
webデザイナーは、納期までにデザインを制作し納品しなければならないため、納期によっては長時間の残業が必要になる業種です。
会社側は、人件費の負担を抑えるために、適用要件を満たさないにもかかわらず、専門業務型裁量労働制を適用するなど違法な手口により、残業代の支払いを免れようとすることがあります。
このような会社側の手口に対して、適切に反論をしていくためには、法的知識や経験が不可欠となります。
グラディアトル法律事務所では、Webデザイナーをはじめとしてさまざまな業種に関する残業請求を解決に導いた実績がありますので、会社側の違法な手口に対しても法的観点から適切に反論を行うことができます。
webデザイナーの方は、長時間残業により未払い残業代の金額も高額になっている可能性がありますので、時効により残業代が失われてしまう前に、まずは当事務所までご相談ください。
8 まとめ
webデザイナーは、長時間労働が常態化しているにもかかわらず、適切な残業代が支払われていないことが多い業種です。
会社によっては、裁量労働制や固定残業代制の違法な適用により、残業代を支払わないケースもありますので、会社側の言い分に納得できないときは、弁護士の相談することをおすすめします。
残業代請求をお考えのwebデザイナーの方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。