「トラック運転手として働いているけど、拘束時間が長いわりに残業代が少ない」
「荷待ち時間には残業代は出ないと言われたけど本当なのか?」
「適正な残業代が払われていないなら、会社に請求したい!」
トラック運転手などの運送業は、残業の多い業種として知られています。集荷量の増加や人手不足などが原因で、トラック運転手一人当たりの負担が増加し、過酷な長時間労働を強いられている方も少なくありません。
このような長時間労働が常態化している職場では、未払い残業代が発生している可能性が高いです。
実際の事例でも福岡県内の運送会社に勤務していた運転手の男性5人が会社に対し、未払い賃金などの支払いを求めた訴訟で、福岡地裁は、合計約1億2000万円の支払いを命じたというものもありますので、トラック運転手の残業代請求では、高額な残業代が認められる可能性もあることがわかります。
本記事では、
・2024年問題といわれるトラック運転手の残業規制
・トラック運転手の残業代が不払いになる違法な4つの手口
・トラック運転手の残業代の計算方法や請求方法
などについてわかりやすく解説します。
トラック運転手の方は、本記事を参考に残業代に関する正しい知識を身につけておきましょう。
目次
【2024年問題】トラック運転手の残業時間の上限が年960時間に
「物流業界の2024年問題」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。これは、2024年4月からトラック運転手に対する残業時間の上限規制が適用されることで生じる、以下のような問題を指す言葉です。
・トラック運転手の輸送量の減少
・配送運賃の値上げ
・給料減少によるトラック運転手の離職
・運送会社の利益減少
大企業の労働者には2019年4月から、中小企業の労働者には2020年4月から残業時間の上限規制が導入されていますが、トラック運転手に対してはすぐに導入することによる影響が大きいことからしばらくの間上限規制の適用が猶予されていました。しかし、2024年4月から一般の労働者と同様に以下のような上限規制が適用されています。
・残業時間の上限は、原則として月45時間、年360時間
・臨時的な特別な事情がある場合には年960時間
これによりトラック運転手の長時間労働の問題は、ある程度改善されることが期待できます。しかし、すべての残業がなくなるというわけではありませんので、未払い残業代の問題については引き続き生じる可能性がある点に注意が必要です。
トラック運転手の残業代が不払いになる違法な4つの手口
長時間労働が常態化しているトラック運転手では、会社による残業代不払いが生じる可能性があります。以下では、会社側の残業代不払いの違法な手口を紹介します。
荷待ち時間を労働時間として扱わない
荷待ち時間とは、荷物の積み降ろしのために生じるトラック運転手の待機時間をいいます。荷主や倉庫などの物流施設の都合によりどうしても荷待ち時間は生じてしまいますので、トラック運転手としては避けられない時間といえます。
会社からは、「荷待ち時間は実際に仕事をしているわけではないから、残業代は出ない」と説明されることがあります。しかし、このような労働時間の取り扱いは違法である可能性が高いです。
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、実際に作業をしていない時間であっても労働から完全に解放されていない限りは労働時間に含まれると考えられています。
トラック運転手の荷待ち時間は、
・荷主などから指示があればすぐに対応しなければならない
・複数のトラックが順番待ちをしているため、その場を離れることができない
などの事情がありますので、労働から完全に解放されているとはいえません。
そのため、荷待ち時間についても労働時間に含めて残業代を請求することができます。
なお、労働時間と休憩時間のルールについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
固定残業代を理由とする残業代の不払い
固定残業代とは、あらかじめ一定時間分の残業代を基本給に含めて支払う制度です。たとえば、みなし残業時間が30時間と設定されている場合、実際に残業した時間が10時間であったとしても30時間残業したものとみなして、残業代をもらうことができます。
残業の多いトラック運転手では、給料計算事務を簡略化するために固定残業代制度が導入されているケースが多いです。そのような会社では、「固定残業代制度を導入しているから、固定残業代以外の残業代を支払う必要はない」という理屈で、残業代の支払いを拒むことがあります。しかし、そのような取り扱いは違法です。
固定残業代制度を導入していたとしても、実際の残業時間がみなし残業時間を超過していた場合には、超過分の時間に相当する残業代を支払わなければなりません。これまで超過分の残業代が支払われていないという方は、しっかりと請求していくようにしましょう。
なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
歩合給を理由とする残業代の不払い
運送業界では、一般企業よりも成果主義・能力主義の考えが強いため、配達数や移動距離に応じた歩合給が導入されているケースが多いです。このような歩合給が導入されている会社では、「歩合給だから残業代は出ない」、「歩合給に残業代が含まれている」などと説明されることがあります。
しかし、歩合給制であっても残業をした場合には残業代の支払いが必要になりますので、歩合給を理由に一切残業代を支払わないのは違法です。また、歩合給に残業代を含めて支払うことも可能ですが、割増賃金と通常の労働の賃金部分が明確に区別されていない場合は、違法となります。
歩合給を理由に残業代を支払わない会社は、違法な運用を行っているところが多いため、残業代を請求できる可能性が高いでしょう。
請負契約を理由とする残業代の不払い
会社とトラック運転手との間の契約が請負契約となっている場合、会社から「請負契約だから残業代は出ない」と説明されることがあります。
たしかに、個人事業主やフリーランスのトラック運転手には、労働基準法が適用されませんので、残業をしたとしても残業代を請求することはできません。しかし、労働基準法が適用される労働者であるか、適用のない個人事業主・フリーランスであるかは、単に契約の名称のみによって判断するわけではありません。労働実態からみて実質的に労働者であるといえる場合には、請負契約を締結しているトラック運転手であっても残業代を請求することが可能です。
具体的には、以下のような事情がある場合には、労働者として残業代を請求できる可能性が高いでしょう。
・会社から業務に関する細かい指示を受けている
・始業時刻や終業時刻などが定められており、労働時間が管理されている
・会社が所有するトラックを使用している
・給料から源泉徴収されている
なお、労働者と業務委託の判断基準についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
トラック運転手の残業代の計算方法
トラック運転手が運送会社に対して残業代を請求するには、その前提として、未払い残業代を計算する必要があります。トラック運転手の賃金体系は、主に通常の固定給制と歩合給制の2種類がありますので、以下ではそれぞれの給与体系ごとの残業代の計算方法を説明します。
固定給の場合の計算方法
通常の固定給制の場合は、以下のような計算式により残業代を計算します。
残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間
1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月の平均所定労働時間
1か月の平均所定労働時間=(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月
なお、上記の月給には以下の手当は含まれませんので注意が必要です。
・家族手当
・通勤手当
・別居手当
・子女教育手当
・住居手当
・臨時に支払われた手当
・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
また、「割増賃金率」は、残業時間に応じて、以下のように定められています。
なお、残業代計算方法の詳細は、以下の記事もご参照ください。
歩合給の場合の計算方法
労働者に対して完全歩合給制を適用するのは違法となりますので、基本的には、「固定給+歩合給」という給与体系になっているはずです。「固定給+歩合給」という給与体系の場合、固定給部分と歩合給部分を分けて計算する必要があります。固定給部分の計算は、上記と同様ですので、以下では、歩合給部分の残業代の計算方法を説明します。
残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間
1時間あたりの基礎賃金=歩合給÷総労働時間
なお、歩合給の場合には、時間外労働の時間単価に相当する部分は、歩合給に含まれていると考えられるため、歩合給の残業代計算で用いる時間外労働の割増賃金率は、時間単価の125%ではなく、25%で足りるとされています。
トラック運転手が残業代の請求に必要となる証拠とは?
トラック運転手が運送会社に残業代請求をするにあたっては、残業に関する証拠を集める必要があります。会社を辞めてからでは残業に関する証拠収集が困難になりますので、残業代請求を考えているのであれば、できるだけ会社に在籍しているうちに必要な証拠を集めるようにしましょう。
残業に関する証拠としては、残業代の未払いを立証するための証拠と残業時間を立証するための証拠の2つがあります。
・雇用契約書
・就業規則
・賃金規程
・給与明細
・賃金台帳
・タイムカード
・タコグラフ
・業務日報
・運転日報
・ETCカードの利用履歴
・ドライブレコーダーの映像
・残業時間を記載した手書きのメモ
なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
トラック運転手が残業代を請求する方法
トラック運転手が運送会社に対して残業代を請求する場合、以下のような流れ・方法によって行います。
内容証明郵便の送付
会社に対する残業代請求は、まずは内容証明郵便を送るところからスタートするのが一般的です。内容証明郵便とは、文書の内容やいつ・誰が・誰に対して送ったのかを証明できる形式の郵便です。
内容証明郵便を利用して残業代請求を行えば、残業代を請求したという証拠を残すことができます。これは、主に残業代の時効との関係で有効です。残業代の請求は、法律上の「催告」にあたりますので、時効の完成を6か月間猶予するという効果があります。そのため、時効の完成が間近に迫っているという事案では、内容証明郵便を利用して残業代請求を行うようにしましょう。
なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
会社との交渉
内容証明郵便が会社に届いたら会社との交渉をスタートします。
しかし、残業代の支払いを行わないブラック企業では、内容証明郵便を送っても無視されてしまったり、本来もらえるはずの金額よりも大幅に低い金額しか提示してこないケースも多いです。
そのため、労働者個人で会社と交渉するのが難しいと感じたときは、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
労働審判・訴訟
会社との交渉では合意に至らない場合は、裁判所に労働審判の申立てや訴訟の提起をする必要があります。
労働審判は、原則として3回までの期日で手続きが終了することになっていますので、裁判よりも早期解決が期待できる手続きです。必ず労働審判を利用しなければならないわけではありませんが、迅速かつ柔軟な解決が期待できますので、まずは労働審判を利用してみるとよいでしょう。
労働審判でも決着がつかないときは、最終的に裁判により解決を図ります。裁判にまで発展するような事案は、専門家である弁護士のサポートが不可欠となりますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
トラック運転手の残業代請求に関する裁判例
以下では、トラック運転手の残業代請求に関する裁判例を紹介します。
トラック運転手の歩合給制における残業代に関する裁判例|大阪高裁令和3年2月25日判決
【事案の概要】
Y社は、貨物自動車運送事業等を目的とする会社であり、Xらは、集配業務を行う集配職としてY社に雇用されていました。Y社では、基本給と歩合給からなる給与体系となっていましたが、能率手当の計算過程で残業代の主要部分が差し引かれ、実質的に残業代のほとんどが支払われないという制度であったため、このような給与制度が違法であると主張し、未払い残業代の支払いを求めた事案です。
【裁判所の判断】
裁判では、Xらに支払われていた時間外手当Aが労働基準法37条の割増賃金として支払われたといえるかが争点となりました。
裁判所は、時間外手当Aは通常の労働時間の賃金にあたる部分と割増賃金にあたる部分とを明確に区別して支給していたなどの理由から、時間外労働に対する割増賃金はすでに支払い済みであるとして、Xらの請求を棄却しています。
約1億2000万円の残業代の支払いが命じられた裁判例|福岡地裁平成30年11月16日判決
【事案の概要】
Xらは、Y会社と労働契約を締結し、長距離トラック運転手として運送業務に従事していました。Xらは、毎月少なくとも100~200時間程度の時間外労働があったと主張し、未払い残業代として約1億2000万円の支払いを求めた事案です。
【裁判所の判断】
裁判では、Y会社側からXらの給与が運航実績に基づく出来高払い制で、時間外労働に対する割増賃金は、出来高払いに含まれるとの主張がありました。
しかし、裁判所は、Y会社の主張する出来高払い制は、就業規則が定める条件よりも不利なものであることから無効として、Xらの請求額とほぼ同額の約1億2000万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
トラック運転手の残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください
運送会社に対して残業代請求をお考えのトラック運転手の方は、グラディアトル法律事務所までご相談ください。
残業代問題を得意とする弁護士が多数在籍
残業代問題を依頼する弁護士は、弁護士であれば誰でもよいというわけではありません。業種によって残業代請求には特有の問題がありますので、労働者の業種に応じた特殊性を考慮して残業代請求を行うためには、残業代問題に関する豊富な知識と経験が不可欠となります。
グラディアトル法律事務所では、これまでさまざまな残業代請求の事案を解決に導いてきた豊富な実績と経験がありますので、トラック運転手の残業代問題についても適切に解決することが可能です。残業代問題の相談や依頼をできる弁護士をお探しのトラック運転手の方は、まずは当事務所までお気軽にご相談ください。
24時間365日受付、土日や夜間相談も可能
トラックドライバーの方は、長時間労働により弁護士に相談したくても相談に行く時間がないというケースも珍しくありません。弁護士への相談が遅れてしまうと、残業代が時効により消滅してしまう可能性が高くなりますので、早めに相談する必要があります。
グラディアトル法律事務所では、相談の予約については24時間365日受け付けています。また、実際の法律相談についても平日だけでなく土日や夜間の相談にも対応していますので、トラック運転手の方も相談しやすい状況といえます。
まずは相談だけでも結構ですので、残業代請求をお考えのトラック運転手の方は、当事務所までお問い合わせください。
まとめ
2024年4月からトラック運転手にも残業時間の上限規制が適用されることになりました。これにより以前のような長時間労働を強いられる労働環境からは解放される可能性がありますが、過去の未払い残業代の問題は残ったままです。
会社から適正な残業代が支払われていない場合には、早めに請求しないと時効により消滅してしまう可能性もありますので、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。