「憧れの商社に入社できたものの、残業が多いと感じている」
「海外とのやり取りが多いため、深夜や早朝でも対応しなければならない」
「部長に昇進したら残業代が出なくなったため、収入が減ってしまった」
商社というと就職人気ランキングでも上位に入ってくる人気の業種です。年収も高く、福利厚生も充実しているため、多くの方が志望する業界ですが、その反面激務で残業も多いと言われています。
出世のためにサービス残業を受け入れている方や役職を理由に残業代が支払われていな方の中には、本来残業代を請求できるにもかかわらず、知らずに時効になってしまっている方も少なくありません。
会社に対してきちんと残業代を請求するためにも、商社の残業に関する基礎知識を身につけておくことが大切です。
本記事では、
・商社で残業が多い5つの理由
・商社に残業代を請求できる6つのケース
・商社で働く人が残業代を請求するために必要な証拠
などについてわかりやすく解説します。
残業代を請求する権利には、時効がありますので、未払い残業代の存在に気付いたときは早めに行動するようにしましょう。
目次
商社で残業が多い5つの理由
一般的に激務といわれる商社ですが、それには、以下のような理由があるからです。
そもそもの仕事量が多い
商社は、好待遇の業種として知られていますが、収入が多いということはそれに比例して仕事量も多いということです。
商社で働く人の多くが複数のプロジェクトを掛け持ちしており、大きなプロジェクトの担当になると、調査・交渉のために国内外を問わず何度も出張にいかなければならないこともあります。また、部署によっては、朝早くに出社して、日付が変わるまで仕事をすることもあります。
このようにそもそもの仕事量が多いため、それを処理するために長時間の残業となってしまうのです。
高い目標が設定されている
商社の営業部門で働く人の多くは、会社からノルマが設定されていることがあります。ノルマを達成することで、個人の評価が上がり、昇給や昇進につながりますので、プライベートの時間を削ってでもノルマ達成に尽力する人も多いです。
目標が高ければ高いほど、それを達成するためには多くの時間を費やさなければなりませんので、必然的に残業時間も長くなってしまいます。
海外との取引が多い
商社は、海外の企業を相手に取引をすることが多いため、取引先の国との時差によっては、早朝や深夜に連絡をとったり、打ち合わせをしなければなりません。
海外の取引先の営業時間に合わせて働く結果、残業をしなければ対応できないケースもあるようです。
取引先との接待や交際がある
商社の営業部門で働く人は、取引先との接待や交際がつきものです。人脈を広げることにより、新たな仕事につながるチャンスになりますので、積極的に接待や交際に参加している方も多いと思います。
取引先との飲み会やゴルフなどは、業務時間外や休日に行われますので、残業をして参加しなければなりません。
定時で帰りにくい雰囲気がある
定時で自分の仕事が終わったとしても、周りの同僚や上司、先輩などが残業をしている状況だと自分だけ定時で帰るのは難しいこともあります。このあたりは企業によっても変わってきますが、残業が当たり前という風潮の企業だと定時で帰りにくい雰囲気があり、周りに合わせて残業をしてしまうことがあります。
商社に残業代を請求できる6つのケース
以下のようなケースに該当する方は、商社に対して、残業代を請求できる可能性があります。
サービス残業をさせられているケース
残業時間が多いと「能力がない」と扱われることをおそれて、実際の残業時間よりも少なく申告しているなど出世のためにサービス残業を受け入れている方も少なくありません。
しかし、残業をした場合に残業代を請求するのは労働者として当然の権利です。サービス残業も残業代請求の対象になりますので、きちんと会社に対して請求してくようにしましょう。
早朝や深夜に海外との打ち合わせや連絡をしているケース
国際的な取引をしている部署では、海外の取引先の営業時間に合わせて早朝や深夜に打ち合わせをすることがあります。本来の業務時間外の対応であったとしても、取引先との打ち合わせは、業務に不可欠な時間といえますので、残業代請求の対象となる労働時間に含まれます。
業務時間外の打ち合わせ時間が労働時間から除外されているという方は、それを含めて残業代を請求することが可能です。
固定残業代しか支払われていないケース
固定残業代とは、一定時間分の残業代を毎月の給料に含めて支払う制度です。残業の多い商社では、固定残業代制度が採用されているところも多いでしょう。
このような固定残業代制度は、会社によっては誤った運用がなされていることもありますので注意が必要です。よくある誤解が「固定残業代を支払っていれば、別途残業代を支払う必要はない」というものです。固定残業代制度は、通常の残業代の支払いを一切不要とする制度ではありませんので、固定残業代制度で想定されている残業時間を超えて働いたときは、固定残業代とは別に残業代を請求することができます。
なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
年俸制を理由に残業代が支払われていないケース
商社では、成果主義型の人事制度が導入されているところも多く、そのような企業では、年俸制という給与形態が採用されることがあります。年俸制とは、個人の能力や成績に応じて年間の賃金を決定する給与制度です。年功序列型の賃金制度のような定期昇給という概念はなく、前年度の働き具合に応じて年俸額が決まります。
このような年俸制がとられている企業では、年俸制を理由に残業代が支払われないことがあります。しかし、年俸制であっても残業代の支払いは必要ですので、残業代が支払われていない場合には、会社に対して残業代を請求することができます。
なお、年俸制でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
管理職を理由に残業代が支払われないケース
商社では、部長やマネージャーに昇進するとその時点から残業代が支払われなくなることがあります。会社からは「管理職だから残業代は出ない」と説明されることもあると思いますが、管理職でも残業代を請求できる可能性があります。
労働基準法では、経営者と一体的な立場にある労働者を「監理監督者」と定めており、管理監督者に対しては残業代の支払いは不要です。しかし、管理監督者と管理職は、同義ではありませんので、管理職の肩書が与えられている人であっても、以下のような事情がある場合には、管理監督者性が否定され残業代を請求することができます。
・社員の採用や解雇に関する決定権がない・経営方針や事業計画への決定権がない
・会社の決定事項を部下に伝えるだけで、自身には裁量権がほとんどない
・一般の労働者と同様に出退勤時間が決められている
・早退や遅刻をするとその分が給与から控除される
・少額(1~2万円程度)の役職手当しかもらえていない
なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事もご参照ください。
裁量労働制が適用されないケース
裁量労働制とは、実際の労働時間にかかわらずあらかじめ定めた労働時間分働いたものとみなす制度です。裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類があります。
・専門業務型裁量労働制……業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務として指定された20業種で導入できる裁量労働制
・企画業務型裁量労働制……事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などで企画・立案・調査・分析を行う労働者に導入できる裁量労働制
裁量労働制は、適用対象となる業種に限定がありますので、適用対象でないにもかかわらず、裁量労働制を適用するのは違法となります。
なお、裁量労働制と残業代請求についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
商社で働く人が残業代を請求するために必要な証拠
商社で働く人が残業代を請求する際には、証拠により自分がどれだけ残業をしたのかを明らかにしなければなりません。証拠がない状態で会社に請求をしても、残業代の支払いを受けることは難しいため、事前に十分な証拠を集めておくことが重要になります。
商社では、基本的にはタイムカードや勤怠管理システムにより労働時間が管理されていますので、これらの証拠により残業をしたことを明らかにできるケースが多いです。しかし、サービス残業に関してはタイムカードなどには反映されていませんので、以下のような証拠により立証していく必要があります。
- ・パソコンのログイン、ログアウト履歴
- ・オフィスの入退室記録
- ・社内チャットや取引先とのメールの履歴
- ・交通系ICカードの履歴
- ・タクシーの領収書
- ・出退勤時間を記録したメモ
なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
商社で働く人の残業代の計算方法
商社で働く人の残業代は、以下のような計算式により算出します。
・残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間
月給制で働く労働者の方は、月給を1か月の平均所定労働時間で割って「1時間あたりの基礎賃金」を算出します。
また、割増率賃金率は、時間帯によって、以下のように決められています。
- ・時間外労働……25%以上
- ・深夜労働(午後10時から翌午前5時まで)……25%以上
- ・休日労働……35%以上
- ・月60時間を超える時間外労働……50%以上
通常の残業であれば25%以上、深夜残業になると50%以上の割増賃金率が適用されます。
たとえば、月給85万円、1か月の平均所定労働時間が170時間の人がある月に60時間残業をした場合の残業代は、以下のようになります。
(85万円÷170時間)×1.25×60時間=37万5000円
残業代の時効は3年ですので、過去3年分を遡って請求する場合には、37万5000円×36か月=1350万円もの残業代を請求することができます。
なお、残業代計算方法の詳細は、以下の記事もご参照ください。
商社に対する残業代請求が認められた裁判例|広島高裁平成19年9月4日判決
【事案の概要】
原告は、精密測定機器、金属工作機械、機械工具等の販売・輸出入を業とする被告会社に勤務し、得意先・メーカーと電話・ファクシミリでの対応、注文・見積りの処理、在庫管理、営業員との打合わせなどを主な仕事とする内勤業務に従事していました。
原告は、被告会社から時間外勤務に対する時間外勤務手当の支払いを受けていなかったことから、未払い残業代の支払いを求めて訴えを提起しました。
【裁判所の判断】
裁判所は、被告会社においては通常の時間外勤務に対して、自己啓発や個人都合であるという解釈に基づき、時間外勤務手当を支払わない状態が常態化していたと認定し、未払いの残業代として約240万円の支払いを命じました。
なお、原告は、すでに2年の時効で消滅している残業代についても、不法行為を理由として請求していましたが、裁判所はその請求も認めています。
商社への残業代請求はグラディアトル法律事務所に相談を
商社は、高収入で人気のある業種の一つですが、その反面、激務で残業の多い業種でもあります。適切な残業代が支払われているのであればよいですが、サービス残業を強いられるなどして、残業代が正しく支払われていない場合には、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。
当事務所は、これまで多くの残業代請求事案を解決に導いた経験と実績がありますので、商社で働く方の未払い残業代の問題も迅速かつ適切に解決することが可能です。商社で働く方は、高収入であることが多く、未払い残業代の金額も高額になる傾向があります。残業代の時効は3年ですので、そのまま放置していると大切な残業代が失われてしまうおそれがありますので、早めに相談することをおすすめします。
まとめ
商社では長時間の残業が行われていることも多く、高額の残業代が発生している可能性もあります。残業代請求にあたっては、証拠収集や残業代計算などが必要になりますので、自分で対応するのが難しいと感じる場合には、弁護士の活用を考えてみてはいかがでしょうか。
商社に対する残業代請求をお考えの方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。