「派遣社員の残業代はどこから支払われるのだろうか?」
「派遣社員だと残業を拒否できる?」
「残業代の未払いがあったときはどのように対処すればよいのだろうか?」
派遣社員は、勤務地・勤務日数・仕事内容などの条件を選ぶことができますので、ライフスタイルに合わせて働けるなど正社員にはないメリットがあります。
しかし、派遣社員は、派遣先の会社で軽く扱われがちですので、残業をしても残業代が支払われないケースもあります。派遣社員だからといって残業代を支払わなくてもよいわけではありませんので、しっかりと残業代を請求するためにも、派遣社員の残業代請求の基本的なルールを身につけておきましょう。
本記事では、
・派遣社員の残業代請求の基本的なルール
・派遣の残業代はどこから支払われるのか
・派遣社員の残業代の計算方法
などについてわかりやすく解説します。
派遣社員は、一般的な雇用契約を締結している労働者に比べて契約関係が複雑ですので、残業代請求に関して不安があるときは弁護士に相談するようにしましょう。
目次
派遣社員の残業代請求の基本的なルール
派遣社員でも残業代請求は可能です。以下では、派遣社員の残業代請求の基本的なルールを説明します。
派遣社員でも残業代を請求できる
派遣とは、派遣会社(派遣元)と雇用契約を締結し、実際に働く企業(派遣先)で就業する働き方をいいます。一般的な労働者は、雇用契約を締結した会社で働きますが、派遣社員は、派遣元と派遣先の会社が違うという特徴があります。
このような派遣社員も派遣元との間で雇用契約を締結する労働者ですので、派遣先会社で残業をすれば、残業時間に応じた残業代を請求することができます。
「派遣社員は残業代を請求できない」と思い込んでいる方もいますが、そのような考えは誤りで、派遣社員も残業代請求は可能です。
残業を拒否できるかどうかは契約次第
ライフスタイルに合わせて労働時間を決められることから、正社員ではなく派遣社員を選択する人もいます。このような人にとっては、派遣先からの残業命令を拒否できるかは重要なポイントといえます。
派遣社員が残業を拒否できるかどうかは、契約次第になりますので、まずはご自身の契約内容を確認してみましょう。残業を拒否できる契約内容としては、以下のものが挙げられます。
・派遣元会社との雇用契約書や労働条件通知書に残業に関する規定がない
・派遣元会社との間で36協定を締結していない
派遣元会社との契約内容が上記のものであった場合には、派遣先会社から残業を命じられたとしても、それを拒否することができます。
派遣の残業代はどこから支払われる?
派遣契約は、派遣社員・派遣元会社・派遣先会社の三者間の契約になりますので、どこから残業代が支払われているのか疑問に思う方もいると思います。
結論からいえば、派遣社員の残業代は派遣元会社から支払われます。なぜなら、派遣社員と雇用契約を締結しているのは派遣元会社ですので、残業代の支払い義務も派遣元会社にあるからです。
派遣先会社は、派遣元会社に対して、派遣料金を支払っていますので、派遣元会社は、派遣先会社から支払われた派遣料金の中から派遣社員に給料や残業代を支払うことになります。
派遣社員は、派遣先会社で就業しているため、残業代も派遣先会社から支払われていると誤解しがちですが、正しくは派遣元会社支払っています。そのため、未払い残業代がある場合には、派遣先会社ではなく派遣元会社に請求していくことになります。
派遣社員の労働時間のうちどこからが残業?
派遣社員は、契約で正社員と異なる労働時間が定められていることが多いため、どこからが残業になるかが問題になることがあります。以下では、派遣社員の残業と割増賃金について説明します。
法定内残業と法定外残業
派遣社員の残業を理解するには、「法定内残業」と「法定外残業」を区別することが大切です。
法定内残業とは、所定労働時間を超えて法定労働時間の範囲内での残業をいいます。所定労働時間は、企業が定める労働時間で、雇用契約や就業規則により定められています。
法定外残業とは、法定労働時間を超えた残業をいいます。労働基準法では、1日8時間、1週40時間を法定労働時間と定めていますので、これを超えて働くと法定外残業となります。
法定内残業と法定外残業の大きな違いは、割増賃金の支払いが必要であるかという点です。法定外残業は、後述するような割増賃金が支払われますので、通常よりも多くの残業代をもらうことができます。
派遣社員の割増賃金|時間外労働・深夜労働・休日労働
派遣社員も一般の労働者と同様に残業時間に応じて、以下のような割増賃金率が適用されます。休日労働や深夜労働をした場合に割増賃金が支払われるのも、一般の労働者と同様です。
上記の割増賃金は、重複して適用されますので、たとえば時間外労働と深夜労働が重なった場合は合計50%以上の割増率になり、休日労働と深夜労働が重複する場合は合計60%以上の割増率になります。
派遣社員の残業代の計算方法
派遣社員の残業代計算は、一般の労働者と同様に、次の計算式により算出します。
1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間
以下では、残業代の計算式に含まれる各項目について説明します。
1時間あたりの基礎賃金
派遣社員の給与は、時給制がほとんどですので、「1時間あたりの基礎賃金」は、派遣社員の時給を使って計算します。
割増賃金率
残業をした場合の割増賃金率は、既に説明したとおり、以下のようになります。
・時間外労働……25%以上
・深夜労働(午後10時から翌午前5時まで)……25%以上
・休日労働……35%以上
・月60時間を超える時間外労働……50%以上
残業時間
法定労働時間の範囲内の法定内残業には、割増賃金率は適用されませんので、派遣社員の残業代を計算する際には、法定内残業と法定外残業をしっかりと区別することが大切です。
派遣社員の残業代計算の具体例
時給1500円、所定労働時間6時間で働く派遣社員がある日に9時間の残業をした場合の残業代は、以下のようになります。
法定内残業:1500円×2時間=3000円
法定外残業:1500円×125%×1時間=1875円
合計:3000円+1875円=4875円
このような残業が月に10日間あったとすると、派遣社員に支払われる残業代は4875円×10日=4万8750円となります。
派遣社員が残業代を請求する方法
派遣社員が残業代請求は、以下のような方法で行うのが一般的です。
派遣元会社との交渉
派遣社員の未払い残業代は、「派遣元会社」に請求することになりますので、まずは派遣元会社との間で未払い残業代に関する交渉を行います。
残業代請求には3年の時効がありますので、時効が迫っているという場合には、交渉開始前に内容証明郵便を送付して、時効の完成を6か月間猶予するという方法も有効です。
派遣元会社との間の話し合いで合意に至った場合には、口頭での合意で終わらせるのではなく、必ず合意書を作成するようにしましょう。口約束だけでは後日言った言わないのトラブルになるため、合意内容をしっかりと証拠に残しておく必要があるからです。
労働審判の申立て
派遣元会社との交渉では合意に至らなかった場合には、労働審判の申立てを検討しましょう。
労働審判とは、労働者と事業主との間の労働紛争を解決するための裁判所の手続きです。原則として3回以内の期日で終了しますので、裁判よりも迅速な解決が期待できます。また、労働紛争に関する知識と経験を有する労働審判員が中立・公正な立場で審理・判断に加わりますので、事案に即した柔軟な解決が可能です。
労働審判の手続きは、まずは調停という話し合いによる解決が試みられ、話し合いがまとまらない場合に労働審判が行われます。労働審判により結論が言い渡されますが、不服のある当事者は、異議申立てをすることができますので、適法な異議申立てがあれば労働審判は効力を失い、通常の訴訟手続きに移行します。
訴訟の提起
会社との交渉で解決できないときまたは労働審判による異議申立てがあった場合には、最終的に訴訟手続きによる解決を図ります。
訴訟手続きは、証拠に基づいて主張立証を行わなければならず、非常に専門的かつ複雑な手続きになっていますので、専門家である弁護士のサポートがなければ適切な対応は困難です。そのため、派遣元会社への未払い残業代請求をお考えの方は、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。
派遣社員の残業代請求に関する事例(裁判例)
以下では、派遣社員の残業代請求が認められた裁判例を紹介します。
固定残業代の効力を否定した判例|最高裁平成24年3月8日判決
【事案の概要】
原告は、人材派遣会社(被告)との間で、以下の条件で雇用契約を締結していました。
・月間総労働時間が140時間~180時間までは、基本給41万円
・月間総労働時間が180時間を超える場合は、1時間あたり2560円を別途支払う
・月間総労働時間が140時間に満たない場合は、1時間あたり2920円を控除する
原告は、平成17年5月から平成18年10月まで1日8時間を超える労働をしており、月間総労働時間は、180時間を超えた月が1回、それ以外の月は180時間以下でした。
原告は、被告会社に対して、未払い残業代の支払いを求めて、訴えを提起しました。
本件では、基本給に割増賃金(残業代)が含まれているかどうかが争点となりました。
【裁判所の判断】
裁判所は、以下のような理由から基本給には割増賃金が含まれていないと認め、月間
総労働時間が180時間を超える場合だけでなく、180時間以内の残業に関しても基本給とは別に残業代を支払う必要があると判断しました。
・月間総労働時間が180時間以内では基本給自体の金額が増額されることはない
・基本給と割増賃金が区別されていたという事情はない
・割増賃金の対象となる1か月の時間外労働時間は、月によって勤務する日数が異なるなどの事情により大きく変動し得るものである
・基本給の一部が時間外労働に対する賃金である旨の合意がされたものとはいえない
派遣企業の支店長を名ばかり管理職として残業代の支払いを認めた事例
大手人材派遣会社「グッドウィル」に勤務していた元支店長の従業員ら17人が会社に対して、未払い残業代を請求したという事案について、裁判上の和解が成立したという事案があります。
この事案では、会社側は、原告らが支店長としての地位にあることから、労働基準法上の管理監督者に該当するとして、残業代の支払いを行っていませんでした。原告側は、裁判で労働基準法上の管理監督者に該当しない旨を主張立証したところ、裁判所主導のもとで和解協議が行われ、原告側に未払い残業代を支払う内容の和解が成立しました(日本経済新聞2010,10,6 https://www.nikkei.com/article/DGXNZO15860460W0A001C1CR8000/ 参照)。
残業代請求をお考えの派遣社員の方はグラディアトル法律事務所にご相談ください
派遣契約は、派遣社員・派遣元会社・派遣先会社の三者間の契約ですので、一般の労働者に比べて、複雑な契約形態となります。派遣社員であっても、残業代請求が可能であるという点は一般の労働者と変わりませんが、派遣契約の特殊性を踏まえて、検討する必要があります。このような派遣社員の残業代の問題を適切に対処するには、専門的な知識や経験が不可欠となりますので、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。
当事務所では、残業代に関する問題について豊富な知識と経験を有する弁護士が多数在籍しています。複雑な派遣社員の残業代に関する問題にも迅速かつ適切に解決に導くことができます。
残業代請求に関する相談は、初回法律相談無料となっていますので、まずはお気軽に当事務所までお問い合わせください。
まとめ
派遣社員は、派遣先会社での立場が低いため、サービス残業を強いられるなどして、適切な残業代が支払われないケースも少なくありません。派遣社員であっても残業代請求は可能ですので、望まない残業をしながら残業代を支払ってもらえていないという方は、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
派遣元会社への残業代請求をお考えの方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。