「タクシー運転手の労働時間のルールはどうなっているのだろうか?」
「歩合給制で働くタクシー運転手も残業代を請求できる?」
「2024年4月1日から新たに適用される労働時間のルールを知りたい」
タクシー運転手は、早朝から深夜までタクシーを走らせていますので、一般の労働者とは異なる労働時間のルールが適用されます。
タクシー運転手の勤務形態も昼日勤、夜日勤、隔日勤務の3つの携帯があり、それぞれに適用される労働時間のルールも異なりますので、しっかりと押さえておくことが大切です。
また、タクシー運転手の多くは、歩合給制で働いていると思いますが、歩合給制でも残業代を請求することができます。
長時間タクシーの運転をしているのに、残業代が給料に反映されていないという場合は、会社に対して請求していくようにしましょう。
本記事では、
・タクシー運転手の労働時間の実態とルール
・歩合給のタクシー運転手と残業代との関係
・タクシー運転手が残業代を請求する手順
などについてわかりやすく解説します。
拘束時間の長いタクシー運転手は、残業代も高額になる可能性がありますので、残業代の不払いに気付いたときは早めに弁護士に相談するようにしましょう。
目次
タクシー運転手の労働時間の実態|3つの勤務形態
タクシー運転手の労働時間の実態はどうなっているのでしょうか。以下では、タクシー運転手の3つの勤務形態について説明します。
昼日勤
昼日勤とは、一般的なビジネスマンと同様に昼間の時間帯に働く勤務形態です。
タクシー会社によって勤務時間は異なりますが、午前7時から午後4時まで、または、午前8時から午後5時までの時間帯が一般的です。
夜日勤や隔日勤務のように夜勤のない勤務形態ですので、女性や高齢の方に人気のある働き方です。
夜日勤
夜日勤とは、昼日勤とは逆で毎日夜間の時間帯に働く勤務形態です。
タクシー会社によって勤務時間は異なりますが、午後6時から翌午前2時まで、または、午後7時から翌午前3時までの時間帯が一般的です。
夜日勤は、深夜割増料金が発生しますので、昼日勤に比べて給料が高く設定されています。
隔日勤務
隔日勤務とは、昼日勤と夜日勤の2つを合わせて、2日分を一度に働く勤務形態です。
タクシー会社によって勤務時間は異なりますが、午前8時から翌午前2時までの時間帯が一般的です。
昼日勤や夜日勤だとタクシーの稼働率が低下してしまうため、少しでも稼働率を上げるために隔日勤務を採用している会社が多いといえます。すなわち、隔日勤務がタクシー運転手の主流の働き方になります。
【2024年4月1日施行】タクシー運転手の労働時間のルール
タクシー運転手は、隔日勤務により労働時間や拘束時間が長くなる傾向があります。このような長時間労働が続くとタクシー運転手の健康にも悪影響が生じますので、タクシー運転手の労働時間に関しては、以下のようなルールが設けられています。
拘束時間と休息期間の定義
拘束時間とは、労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む)の合計時間をいいます。すなわち、始業時刻から終業時刻までの使用者に拘束されるすべての時間です。
休息期間とは、使用者の拘束を受けない期間をいいます。すなわち、勤務と次の勤務との間にあって、直前の拘束時間における疲労の回復を図り、労働者の生活時間として労働者が自由に処分することができる時間のことです。休憩時間や仮眠時間とは異なりますので、注意が必要です。
日勤勤務の拘束時間・休息期間
日勤勤務の拘束時間および休息期間は、以下のようなルールが定められています。
隔日勤務の拘束時間・休息期間
隔日勤務の拘束時間・休息期間は、以下のようなルールが定められています。
車庫待ち等勤務の特例
車庫待ち等勤務とは、顧客の需要に応じるため状態として車庫等において待機する就労形態のことをいいます。具体的には、以下の要件を満たす人が車庫待ち等勤務にあたります。
・事業場が人口30万人以上の都市に所在していないこと・勤務時間のほとんどについて「流し営業」を行っていないこと
・夜間に4時間以上の仮眠時間が確保される実態であること
・原則として、事業場内における休息が確保される実態であること
このような車庫待ち等勤務の場合、拘束時間について、以下のような特例が定められています。
休日に関するルール
タクシー運転手の休日は、休息期間に24時間を加算して得た、連続した時間のことをいいます。また、いかなる場合であってもその時間が30時間を下回ることはできません。
そのため、日勤勤務の場合は継続33時間(休息期間9時間+24時間)、隔日勤務の場合は継続46時間(休息期間22時間+24時間)を下回るのは認められません。
歩合給のタクシー運転手でも残業代を請求できる
歩合給で働くタクシー運転手も多いと思いますが、そもそも、歩合給制で働いている場合、残業代を請求することができるのでしょうか。
そもそも歩合給制とは
歩合給制とは、労働者の仕事の成果や売り上げに応じて給与が支払われる成果報酬型の給与形態です。歩合給制には、主に以下の2つの制度があります。
・固定給+歩合給(インセンティブ制)
・完全歩合給(フルコミッション制)
インセンティブ制は、固定給部分があるため生活は安定しますが、フルコミッション制に比べると歩合給部分が少なくなります。他方、フルコミッション制は、能力の高い人ほど高額な収入を得られますが、成果につながらなければ報酬がゼロということもあります。
なお、労働基準法では、労働者に対して出来高払いの給与が保障されていますので、完全歩合給制だと出来高払いの保障給が支払われない点で違法となります。そのため、タクシー会社に雇用されて働くタクシー運転手は、固定給+基本給というインセンティブ制で働いていることになります。
歩合給制でも残業代請求は可能
歩合給制が採用されているタクシー運転手であっても、時間外労働、休日労働、深夜労働などの考え方は、一般的な月給制の労働者と変わりません。
すなわち、歩合給制でも1日8時間、1週40時間という法定労働時間を超えて働いた場合には、時間外労働に対する割増賃金が支払われます。また、午後10時から翌午前5時までの深夜帯に働いたときは深夜労働に対する割増賃金が支払われます。さらに、法定休日に働いた場合には、休日労働に対する割増賃金が支払われます。
このように歩合給制のタクシーも残業代請求をすることができますので、残業代の未払いがあるときは、しっかりと請求していくようにしましょう。
歩合給制での残業代の計算方法
歩合給での残業代の計算は、以下の計算式により計算します。
残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間
この計算式自体は、通常の月給制のものと変わりありませんが、歩合給では、固定給部分と歩合給部分を分けて計算しなければなりません。
以下では、上記計算式に含まれる各要素についてみていきましょう。
【1時間あたりの基礎賃金】
<固定給部分>
固定給部分の1時間あたりの基礎賃金は、以下の計算式により計算します。
1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月の平均所定労働時間
1か月の平均所定労働時間=(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月
なお、上記の月給には以下の手当は含まれませんので注意が必要です。
・家族手当
・通勤手当
・別居手当
・子女教育手当
・住居手当
・臨時に支払われた手当
・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
【歩合給部分】
歩合給部分の1時間あたりの基礎賃金は、以下の計算式により計算します。
1時間あたりの基礎賃金=歩合給の額÷総労働時間
【割増賃金率】
「割増賃金率」は、残業時間に応じて、以下のように定められています。
・時間外労働……25%以上
・深夜労働(午後10時から翌午前5時まで)……25%以上
・休日労働……35%以上
・月60時間を超える時間外労働……50%以上
固定給部分には、時間外労働分の時間単価が含まれていませんので、時間単価に相当する部分も支払う必要があります。そのため、1時間あたりの賃金の125%が時間外労働の時間単価となります。
他方、歩合給部分には、時間外労働の時間単価に相当する部分が含まれていますので、1時間あたりの賃金の25%が時間外労働の時間単価となります。
【残業時間】
残業時間には、法定内残業と法定外残業の2種類があります。
法定内残業とは、所定労働時間を超えて法定労働時間の範囲内の残業をいい、割増賃金率の適用はありません。これに対して、法定外残業は、法定労働時間を超えた残業をいい、割増賃金率が適用されます。
残業時間がどちらに該当するかによって割増賃金率の適用の有無が異なるため、しっかりと区別することが大切です。
なお、歩合給制の詳しい残業代計算の方法については、以下の記事をご参照ください。
タクシー運転手が残業代を請求する手順
タクシー運転手が残業代を請求する場合、以下のような手順で進めていきます。
内容証明郵便の送付
タクシー会社との間で未払い残業代についての交渉を始める前に、まずは内容証明郵便を利用して、残業代請求の通知書を送付します。
内容証明郵便は、いつ・誰に対して・どのような内容の文書を送付したかを証明できる形式の郵便ですので、会社に対して残業代請求をしたという客観的な証拠を残すことができます。会社に対して残業代を請求することで、時効の完成を6か月猶予することができますので、内容証明郵便は時効の完成を阻止する手段として有効といえます。
なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
タクシー会社との交渉
残業代請求の通知書には、回答の期限を設けるのが一般的です。会社から期限前に回答があればその内容を踏まえて、今後の対応を検討していきます。
たとえば、会社が未払い残業代の存在を認め、支払いに応じる姿勢を示しているのであれば、金額・支払い方法・支払時期などの条件を詰めていくことになるでしょう。他方、会社が未払い残業代の存在を否定しているのであれば、労働者側で残業代が未払いであることを証明する証拠を提示して、会社を説得していくことになります。しかし、それに応じないようであれば後述する法的手段を検討する必要があります。
労働審判の申立て
労働審判とは、労働者と使用者との間で生じたトラブルをその実情に即して、迅速かつ適正に解決することができる裁判所の紛争解決手段です。
労働審判は、原則として3回以内に期日で終了するため、裁判に比べて早期解決が期待できる手続きです。手続きの内容としてもまずは調停による話し合いでの解決が試みられ、それが難しい場合に労働審判となります。そのため、勝ち負けを決めるだけでなく柔軟な解決も可能です。
いきなり訴訟を提起することもできますが、話し合いによる解決の余地があるのであれば、早期解決の可能性がありますので労働審判の手続きを利用してみるとよいでしょう。
なお、労働審判で残業代請求をする流れについては、以下の記事をご参照ください
訴訟の提起
会社が未払い残業代の支払いに応じない場合、最終的に訴訟を提起する必要があります。
訴訟では、当事者双方の主張立証を踏まえて、裁判所が未払い残業代の有無や金額などを判断し、判決を出してくれます。
会社に対する残業代の支払いを命じる判決が確定すれば、会社が任意に支払いに応じなかったとしても、強制執行の手続きにより強制的に未払い残業代を回収することができます。
なお、裁判で残業代請求をする流れについては、以下の記事をご参照ください。
タクシー運転手が残業代を請求するために必要な証拠
タクシー運転手が残業代を請求するためには、タクシー運転手の側で残業をしたことおよびその時間を証拠により立証していかなければなりません。裁判になると証拠の有無によって結論が左右されますので、タクシー運転手側で十分な証拠を提示できなければ敗訴のリスクが高くなってしまいます。
そのため、タクシー会社に対して残業代請求をする前に、十分な証拠を確保しておくことが大切です。ただし、タクシー運転手は、タイムカードなどで労働時間が管理されていないことも多いため、以下のような証拠を集める必要があります。
・デジタルタコグラフ
・業務日報
・乗車記録
・残業時間を記載した手書きのメモ
なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の2つの記事もご参照ください。
タクシー運転手の残業代請求が認められた裁判例
以下では、タクシー運転手の残業代請求が認められた裁判例を紹介します。
国際自動車事件|最高裁令和2年3月30日判決
【事案の概要】
Xは、タクシーによる一般旅客自動車運送事業などを営むY社に雇用され、タクシー乗務員として勤務していました。Y社では、賃金規則上の定めに従い、歩合給の計算をするにあたって売上高の一定割合に相当する金額から残業手当に相当する金額を控除する扱いをしていましたが、Xは、このような扱いが無効であると主張して、未払い残業代の支払いを求めた事案です。
【裁判所の判断】
裁判所は、過去の判例を踏襲して、以下のような判断基準を示しました。
・労働契約上の賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と法定割増賃金に当たる部分とを判別できることが必要である
・特定の手当を法定割増賃金として支払っているという場合に、上記の判別ができるというためには、時間外労働の対価の趣旨で支払われていることが必要である
・対価性の有無の判断は、契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮するほか、労基法37条の趣旨を踏まえ、賃金体系全体における当該手当の位置付けにも留意して検討しなければならない
そして、以下のような理由から本件では、労基法37条の定める割増賃金の支払いがなされたとはいえないと判断しました。
・本件割増金を労基法37条の割増賃金とすると、割増賃金を経費として全額をタクシー乗務員に負担させるに等しく労基法37条の趣旨に反する。また状況によっては、出来高払制の賃金部分の全てが割増賃金ということになり、労基法37条所定の割増賃金の本質から逸脱している
・本件割増金には通常の労働時間の賃金である歩合給として支払われるべき部分を相当程度含んでいる
・本件割増金のうち、どの部分が時間外労働に対する対価であるかが明らかでないため、通常の労働時間の賃金に当たる部分との判別ができない
京都地裁令和3年12月9日判決
【事案の概要】
Xらは、タクシー事業を営むY社との間で労働契約を締結し、タクシー運転手として勤務していました。Y社では、歩合給制を採用しており、タクシー運転手の給料には、売上に応じて変動する「基準外手当」という歩合給が含まれていました。
Y社は、この基準外手当に残業代も含まれているとして残業代の支払いをしていなかったため、Xらは残業代が未払いになっているとして、未払い残業代の支払いを求めて訴えを提起しました。
【裁判所の判断】
裁判所は、雇用契約書など書面上、基準外手当を時間外労働の対価とする記載はないと指摘し、歩合給は、所定勤務時間内の賃金にあたり残業代を別途支払う必要があると判断しました。
また、Y社が労働時間に含まれないと主張していた、長時間におよぶ客待ちや移動時間についても労働時間に含まれる旨の判断をしました。
その結果、裁判所は、Y社に対して未払い残業代として合計約1億500万円の支払いを命じました。
タクシー運転手の残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください
タクシー運転手は、歩合給制や変形労働時間制などのもとで働いていますので、一般的な労働者に比べて残業代の計算が複雑なものとなっています。知識や経験がない方では、未払い残業代が発生しているかどうかを正確に判断することができず、残業代が未払いのまま長期間放置しているケースも少なくありません。
しかし、残業代を請求する権利には、3年という時効がありますので、未払い残業代があることに気付いたときは早めに行動する必要があります。大切な残業代を時効により失ってしまう前に、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。
グラディアトル法律事務所では、タクシー運転手をはじめてとしてさまざまな職種・業種の方の残業代請求事案を取り扱っています。これまでの豊富な経験や実績に基づいて、会社側の違法な手口についても適切に反論して、未払い残業代を取り戻すことができます。
残業代請求に関する相談については、初回相談料無料となっていますので、まずは当事務所までお問い合わせください。
まとめ
タクシー運転手の働き方は、労働時間のルールや給与形態が複雑で残業代計算が難しいという特徴があります。知識や経験に乏しい方では、未払い残業代の有無を判断するのは困難といえますので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
タクシー会社への未払い残業代請求は、経験と実績豊富なグラディアトル法律事務所にお任せください。