「課長に昇進したら残業代が支払われなくなってしまった」
「キャリアアップしたつもりが、残業代がなくなったため収入が減少した」
「役職手当が支払われているものの、わずかな金額しかもらえていない」
課長に昇進したことをきっかけに会社から「課長は管理職だから残業代は出ない」と言われるケースがあります。
日本一有名な「課長」であった「島耕作」氏も、課長昇進によって残業代が出なくなったと話していましたが、労働法規的には違法の可能性が高いです。
しかし、そのようなケースの多くは違法な残業代不払いに該当する可能性があります。なぜなら、「課長」という肩書だけでは、労働基準法上の管理監督者には該当しないからです。
そのため、残業代が支払われない課長職の方は、ご自身が労働基準法上の管理監督者に該当するかをしっかりと確認することが大切です。
本記事では、
・会社が課長に残業代を支払わない2つの理由
・労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかの判断基準
・役職手当に残業代を含めて支払うことの問題点
などについて、わかりやすく解説します。
残業代が支払われないことに不満を感じている課長職の方は、本記事のチェックリストを参考に残業代請求の可否を確認してみましょう。
目次
会社が課長に残業代を支払わない2つの理由
課長職に昇進したタイミングで会社から残業代が支払われなくなることが多いです。それには主に以下のような理由が考えられます。
管理職は残業代の対象外という理由
労働基準法では、管理監督者に該当する労働者に対しては、労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されませんので、残業代の支払いが不要となります。
「課長」は、一般的に管理職と呼ばれる人になりますので、会社によっては、「管理職=管理監督者」として扱い、残業代の支払いの対象外としているところもあります。正確には、「管理職=管理監督者」ではありませんが、経営陣の誤った理解から課長に対して残業代が支払われていないケースも多いです。
役職手当に残業代が含まれているという理由
課長に昇進すると残業代が出なくなる代わりに、役職手当という特別な手当てが支給されます。会社としては、役職手当に残業代が含まれているという理由で、課長に対して別途残業代の支払いをしないケースが多いです。
しかし、課長職に対して支払われる役職手当は、平社員のときに支払われていた残業代に比べて圧倒的に低い金額です。そのため、課長に昇進したものの、全体的にみると収入が減ってしまったという方も少なくありません。また、収入が減るにもかかわらず責任が増えるため、課長への昇進をステップアップと捉えていない労働者も増えてきているようです。
「課長=管理監督者」ではない!課長でも残業代請求は可能
課長が労働基準法上の管理監督者に該当しない場合には、会社に対して残業代を請求することが可能です。以下では、管理監督者性の判断基準やチェックリストを紹介します。
労働基準法上の管理監督者とは
労働基準法上の管理監督者とは、経営者と一体的な立場にある労働者のことをいいます。このような管理監督者に該当する場合、労働基準法上の労働時間、休憩、休日の各規定が適用されませんので、残業代の支払いも不要となります。
会社によっては、「課長=管理監督者」として残業代を支払わないところもありますが、管理監督者に該当するかは、肩書ではなく職務内容や責任・権限、勤務態様、待遇などの実態に即して判断しなければなりません。
肩書だけで管理監督者性を判断している場合、管理監督者には該当しないケースが多いため、課長であっても残業代を請求できる可能性が高いです。
管理監督者の判断基準
管理監督者に該当するかどうかは、
・経営者に近い職務内容および責任・権限が与えられている
・労働時間についての裁量がある
・地位に相応しい待遇を受けている
などの要素に基づいて総合的に判断することになります。以下では、それぞれの判断要素についての詳しい内容をみていきましょう。
【職務内容および責任・権限】
管理監督者は、労働時間、休憩、休日などの規制の枠を超えて活動せざるを得ないような重要な職務内容や責任・権限があることが判断要素の一つとなります。
・会社の会議に参加して重要な事項を決定する権限を有している
・部署内の部下に関する成績評価や解雇などの権限を有している
・新入社員の採用に関する権限を有している
・労働環境の改善に関して経営者側に意見を出せる立場にある
上記のような事情がある場合には、課長であっても管理監督者と判断される可能性があります。他方、課長という肩書が与えられていても、一般の平社員と同様に業務内容の決定権を有していない場合や会社の決定事項を部下に伝えるだけの権限しかない場合には、管理監督者に該当しない可能性が高いでしょう。
【勤務態様】
管理監督者といえるためには、自分の労働時間について裁量を有していることが必要です。経営者に近い立場になればなるほど、自分の判断で行動しなければなりませんので、会社による労働時間の管理が馴染まないというのがその理由です
・勤務時間が定められている
・早退・遅刻に対してペナルティがある
上記のような事情がある場合には、課長であっても管理監督者に該当しない可能性が高いでしょう。
【賃金などの待遇】
管理監督者は、会社内で重要な職務や権限を担っていますので、他の労働者よりも賃金などの待遇が優遇されていなければなりません。
・課長に昇進したことで手取り金額が減った
・役職手当が支払われていない
・役職手当が支払われていても、昇進前の残業代には到底及ばない金額である
上記のような事情がある場合には、課長であっても管理監督者に該当しない可能性が高いでしょう。
管理監督者性をチェックリストで確認
課長の管理監督者性についての簡単なチェックリスト作成しましたので、ご自身が残業代請求が可能な課長であるかを判断するために、以下のチェックリストを確認してみましょう。
チェックリストに複数当てはまる人は、名ばかり管理職である可能性が高いため、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。ただし、チェックリストに該当しないからといってただちに管理監督者と認められるわけではありませんので注意が必要です。
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役職手当に残業代は含まれる?固定残業代が違法になるケース
管理監督者に該当しない場合、会社に対して残業代請求が可能となります。しかし、そのような場合でも会社からは「役職手当に残業代が含まれているから、残業代は支払えない」との反論が出されることがあります。これは役職手当が固定残業代にあたるとの反論といえます。
しかし、以下のケースに該当する場合には、役職手当に固定残業代を含めて支払うのは違法となりますので、課長からの残業代請求は認められるでしょう。
固定残業代部分と能力に対する対価部分を区別していない
役職手当に固定残業代を含めて支払うためには、能力給部分と固定残業代部分が明確に区別され、どちらに該当するかが判別できる状態でなければなりません。雇用契約、就業規則などにおいて、両者を明確に区別していない場合には、固定残業代が違法・無効となりますので、会社に対して残業代を請求することができます。
みなし残業時間を超過しているのに追加で残業代が支払われない
固定残業代は、みなし労働時間に相当する残業代をあらかじめ支払う制度です。固定残業代を支払っているからといって残業代の支払いが一切不要になるわけではなく、みなし労働時間を超えた部分については、固定残業代とは別途残業代を請求することが可能です。
役職手当に残業代を含めて支払っているというケースでは、ほとんどの場合、役職手当とは別に残業代の支払いをしていませんので、固定残業代が違法となり、残業代請求が可能となるでしょう。
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就業規則などに固定残業代の記載がない
固定残業代制度を導入するためには、就業規則や雇用契約などにおいて固定残業代制度に関する定めを設ける必要があります。
このような定めがない状態では、「役職手当に固定残業代が含まれる」という会社側の主張は、単なる詭弁にすぎませんので、会社に対して残業代を請求することができます。
課長が会社に対して残業代を請求する手順
会社に対して残業代請求をお考えの課長職の方は、以下のような手順・方法で請求することになります。
残業に関する証拠を集める
会社に対して残業代請求をするためには、残業に関する証拠が不可欠となります。証拠がない状態では、残業代請求が認められることはありませんので、あらかじめ十分な証拠を集めることが重要です。
残業に関する証拠としては、残業代の未払いを立証するための証拠と残業時間を立証するための証拠の2つがあります。
・雇用契約書
・就業規則
・賃金規程
・給与明細
・賃金台帳
・タイムカード
・勤怠管理システムのデータ
・業務日報
・業務上のメール、LINE、チャットなどの履歴
・オフィスの入退室記録
・パソコンのログイン、ログアウト履歴
・残業時間を記載した手書きのメモ
なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
未払い残業代を計算する
残業に関する証拠が確保できたら、次はそれに基づいて未払い残業代の計算を行います。
課長の未払い残業代請求の事案では、会社からは管理職を理由に一切残業代が支払われていませんので、残業時間のすべてについて残業代が未払いの状態となります。
そのため、未払い残業代の金額も高額になりますので、正確に計算をするためにも、専門家である弁護士にサポートしてもらうとよいでしょう。
内容証明郵便を送付する
会社への残業代請求は、まずは内容証明郵便を利用して行うのが一般的です。
内容証明郵便とは、文書の内容やいつ・誰が・誰に対して送付したのかを証明できる形式の郵便です。会社側に対して残業代請求の本気度を示す効果だけでなく、残業代の時効の完成を6か月間猶予するという効果もあります。
そのため、残業代の時効が迫っている場合には特に有効な手段となりますので、必ず内容証明郵便を利用するようにしましょう。
会社と交渉をする
会社との交渉では、自分が名ばかり管理職にあたることを証拠に基づき説明し、これまでの未払い残業代の支払いを求めていきます。手元に十分な証拠がない場合には、会社との交渉において証拠の開示を求めていくこともできます。
会社との交渉では、未払い残業代の金額、支払い方法、支払時期などのすり合わせを行い、合意が成立したときは、合意書の作成を行います。
労働審判の申立て・訴訟提起をする
会社との交渉で合意に至らないときは、裁判所に労働審判の申立てや訴訟の提起を行います。
労働審判は、原則3回までの期日で合意の成立を目指す手続きで、合意に至らないときは労働審判という形で裁判所が判断を下してくれます。裁判に比べて迅速かつ柔軟な解決が期待できますので、訴訟提起前に労働審判を利用してみるとよいでしょう。
労働審判での解決も難しいときは、最終的に裁判により解決を図ります。裁判になると1年程度の期間がかかることもありますので、弁護士に対応を委ねるのがよいでしょう。
課長職で残業代がもらえない方はグラディアトル法律事務所に相談を
残業代がもらえずお困りの課長職の方は、グラディアトル法律事務所までご相談ください。
課長職の管理監督者性を正確に判断できる
管理監督者に該当するかどうかは、さまざまな要素を踏まえて総合的に判断していく必要があります。そのため、専門的な知識や経験がなければ管理監督者性を正確に判断することは難しいといえます。
グラディアトル法律事務所では、管理職の方の残業代問題を多数扱っていますので、豊富な実績と経験を有しています。課長職の管理監督者性の問題についても正確に判断することが可能ですので、まずは当事務所までご相談ください。
交渉や労働審判・裁判手続きを代わりに対応できる
会社との交渉や労働審判・裁判などの手続きを労働者個人ですべて行わなければならないのは、大きな負担となります。不慣れな方だと判断を誤り、不利な条件で解決に応じてしまうリスクもありますので、専門家に依頼するのが安心といえるでしょう。
グラディアトル法律事務所では、残業代トラブルを得意としていますので、事案に応じた解決方法を熟知しています。より満足のいく条件で解決するには、残業代トラブルに強い弁護士に依頼することが重要となりますので、まずは当事務所までご相談ください。
まとめ
課長という肩書だけでは、基本的には労働基準法上の管理監督者には該当しません。課長という理由だけで残業代が支払われていない場合には、違法な残業代不払いの可能性がありますので、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。
会社に対する残業代請求をお考えの課長職の方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。