「営業職には残業代は出ないと言われたけど本当なのか?」
「取引先との接待の時間も残業代を支払ってもらいたい」
「営業手当をもらっていると残業代を請求できない?」
営業職は、外回りの営業や取引先での顧客対応などが多いため、労働時間を把握するのが難しい職種の一つです。しかし、営業職であっても、労働時間に応じた残業代を支払わなければならず、営業職を理由に残業代を支払わないのは違法な扱いである可能性があります。
会社側から「営業職だから残業代はでない」と言われたときに、適切な反論をするためにも、会社側が営業職に残業代を支払わない違法な手口を理解しておくことが大切です。
本記事では、
- 営業職に残業代を支払わない会社側のよくある4つの違法な手口
- 営業職が残業代を請求できる可能性のある4つの時間
- 営業職が残業代を請求するために必要な準備
などについてわかりやすく解説します。
誤解の多い営業職と残業代との関係について、この機会にしっかりと正しい知識を身につけておきましょう
目次
営業職でも残業代は支払われる!よくある会社側の違法な4つの手口
営業職でも残業代は支払われます。以下では、営業職に残業代を支払わない会社側のよくある4つの手口を説明します。
営業手当以外に残業代が支払われていない
会社側から「営業職には、営業手当が支払われているから残業代は出ない」と言われることがあります。しかし、このような言い分が常に正しいわけではありません。
営業手当とは、営業職としての役割や責任に対して支払われる手当です。
営業手当が以下のような営業職の責務に対して支給される場合には、残業代としての性質は含まれていませんので、営業手当とは別に残業代を請求することができます。
- スーツや靴などの身だしなみを整えるための負担
- 接待に参加するための負担
- 取引先へ移動する際の交通費の負担
他方、営業手当が労働時間の把握が困難な営業職への固定残業代としての性質を有している場合には、一定時間分の残業代については営業手当で支払い済みですので、残業時間がその範囲内であれば残業代を請求することはできません。
ただし、固定残業代として営業手当が支払われている場合でも、固定残業時間を超えた部分については、固定残業代とは別に残業代が発生しますので、残業代を請求することが可能です。
みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
事業場外みなし労働時間制の違法な適用
会社側から「外回りの営業職は、労働時間の把握が困難であるため、事業場外みなし労働時間制が適用され、残業代は出ない」と言われることがあります。しかし、外回り営業職だからといって常に事業場外みなし労働時間制が適用されるわけではありません。
そもそも「事業場外みなし労働時間制」とは、外回りなど労働時間の管理が難しい労働者に対して適用される労働時間制度の一つで、実際の労働時間にかかわらずあらかじめ定めた労働時間分を働いたものとみなす制度です。みなし労働時間として、法定労働時間の範囲内の時間が設定されていた場合、実際の労働時間が法定労働時間を超えていたとしても残業代は支払われません。
このような事業場外みなし労働時間制が適用されるには、「労働時間の算定が困難」な場合に該当しなければならず、外回り営業職であっても以下のようなケースでは、事業場外みなし労働時間制は適用されません。
- 複数人で外回り営業を行い、その中に労働時間を管理する人がいる
- 電話やメールなどで指示を受けながら外回りをしている
- 営業先などを会社から具体的に指示されている
- 外回り営業が終わり次第、会社に戻るよう指示されている
このようなケースに該当する場合には、事業場外みなし労働時間制の違法な適用となりますので、会社に対して残業代を請求できます。
歩合制を理由とする残業代の不払い
会社側から「営業職には歩合給が導入されているため、残業代は出ない」と言われることがあります。しかし、歩合給だからといって残業代を支払わなくてもよいことにはなりません。歩合給は、営業成績などの成果に応じて給料が決まる賃金体系ですが、法定労働時間を超えて働いた場合には、残業代の支払いが必要になります。
また、会社側から「歩合給には残業代が含まれている」と言われることもありますが、通常の賃金部分と残業代部分が明確に区分されていない限り、そのような扱いは違法となります。
業務委託契約を理由とする残業代の不払い
会社から「業務委託契約だから残業代は出ない」と言われることがあります。しかし、雇用契約であるか、業務委託契約であるかは、契約の形式ではなく実態に即して判断する必要があります。そのため、業務委託契約という形式がとられていたとしても、実態が個人事業主ではなく労働者といえる場合には、会社に対して残業代を請求することができます。
具体的には、以下のような事情がある場合には、業務委託契約ではなく雇用契約だと判断されやすいでしょう。
- 仕事の依頼や業務指示に対する諾否の自由がない
- 勤務場所や勤務時間が拘束されている
- 早退や欠勤により報酬が控除される
- 業務に必要な機械や器具が会社負担で用意されている
営業職が残業代を請求できる可能性のある4つの時間
営業職で残業代請求ができるかどうかが問題になる時間としては、以下の4つの時間が挙げられます。会社から労働時間として除外されている場合には、その時間も含めて残業代を請求できる可能性があります。
取引先との接待の時間
営業職は、新規顧客の開拓や取引の継続を目的として、取引先との接待を行う機会が多いです。就業時間後に行われた会食などの接待については、労働時間から除外している会社も多いですが、残業代を請求できる可能性があります。
接待が労働時間にあたるかどうかは、使用者の指揮命令下に置かれた時間と評価できるかどうかによって判断します。たとえば、以下のような接待であれば、残業代を請求できる可能性が高いといえます。
【会社から接待への参加が強制されている】
会社から接待への参加が強制されている場合には、使用者の指揮命令に基づくものといえますので、労働時間として評価される可能性が高いです。
明示的な接待への参加指示がなかったとしても、以下のような事情がある場合には、黙示による接待への参加強制といえますので、残業代を請求することが可能です。
- 接待後の報告が義務付けられている
- 接待に参加しない営業職は人事評価で不利に扱われる
- 接待への参加がノルマの要素の一つとされている
- 接待に参加しないと上司から嫌がらせを受ける
【営業目的で接待を行う】
取引先との接待が単なる飲食の機会ではなく、新規顧客の開拓や取引継続のための営業目的として利用されている場合には、労働時間と評価される可能性があります。
実際に取引先との接待を行い、契約に結び付いたという事情があれば、残業代を請求できる可能性が高くなるでしょう。
【接待中に業務が発生する】
接待をするための会場設営、司会進行、後片付けなどの業務が発生する場合には、労働時間と評価され、残業代を請求できる可能性があります。
上司とともに接待に同行する部下は、さまざまな雑務を命じられることがありますので、労働時間と評価される可能性が高いでしょう。
外回り後のデスクワークの時間
営業職は、取引先への訪問や外回り営業だけが業務ではなく、会社に戻ってから以下のような仕事を行わなければなりません。
- 業務日報や報告書の作成
- 見積書の作成
- メールへの返信
- 他部署への業務指示
- 経費の精算
外回り営業が長引くと、会社に戻るのが終業時間を過ぎてからということも珍しくありません。このようなデスクワークの時間も使用者の指揮命令下に置かれた時間といえますので、残業代を請求することができます。
取引先への移動時間
営業職は、取引先への訪問や外回り営業のための移動時間が長くなることが多いです。このような移動時間も使用者の指揮命令下に置かれた時間と評価できる場合には、労働時間に含まれますので、残業代を請求することができます。
たとえば、以下のような移動時間については、残業代請求の対象になる可能性が高いです。
- 会社から取引先への移動時間
- 取引先から別の取引先への移動時間
- 取引先から会社への移動時間
他方、自宅から取引先への直行、取引先から自宅への直帰の移動時間は、労働時間ではなく通勤時間といえますので、残業代を請求することはできません。
自宅で行った持ち帰り残業
営業職は、取引先と会社との位置関係によっては、会社に戻らず、自宅で残務の処理をすることもあります。このような持ち帰り残業は、会社から明示的な指示があれば当然労働時間に含まれますが、明示的な指示がなくても以下のような事情がある場合には、黙示の残業指示があったものとして、残業代を請求できる可能性があります。
- 持ち帰り残業をしなければ翌日の業務に支障がでる
- 持ち帰り残業をしていることを認識しながら黙認していた
- 持ち帰り残業をしなければ人事評価で不利に扱われる
営業職が残業代請求をするために必要な準備
営業職が残業代請求をするためには、あらかじめ以下のような準備を行っておくとスムーズに残業代請求を行うことができます。
労働条件を確認する
営業職の労働条件は、他の労働者とは異なる内容が適用されているケースも少なくありません。そのため、会社に対して残業代請求を行う前提として、営業職に適用される労働条件を確認し、正確に把握しておくことが大切です。
営業職が確認しておくべきポイントには、以下の5つが挙げられます。
- 営業職の契約の形式と実態(雇用契約と業務委託契約のどちらに該当するか)
- 営業職の賃金体系(月給制、歩合制、年俸制など)
- 営業手当の性質
- 固定残業代の支払いの有無および金額
- 事業場外みなし労働時間制の適用の有無
なお、これらの5つのポイントは、雇用契約書や就業規則により確認することができます。
実際の労働時間に関する証拠を集める
会社に対して残業代を請求するためには、残業をしたことおよび残業代の金額を証拠により立証していかなければなりません。特に、営業職だとタイムカードにより労働時間の管理ができていないケースもありますので、以下のような方法で残業時間に関する証拠を残しておくことが大切です。
- 業務日報に記載された出退勤時刻
- 入退室記録
- パソコンのログイン、ログアウトの履歴
- 上司からの着信履歴やメールの送受信履歴
- FAXの送信履歴
- 営業で使用する手土産を購入した際のレシート
- 出退勤時間を記載した手書きのメモ
なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
会社に業務内容の報告を行う
営業職に事業場外みなし労働時間制が適用されている場合には、みなし労働時間が法定労働時間を超えていない限り、残業代は発生しません。
しかし、営業職に事業場外みなし労働時間制を適用するには、労働時間の算定が困難であるという事情が必要です。事業場外みなし労働時間制が適用されないケースであることを立証するためにも、以下のような証拠を残しておくようにしましょう。
- 営業先や業務内容を指示されていたことがわかるメール
- 営業先や訪問時間などを具体的に記載した業務日報
- 上司と一緒に外回り営業をしたことを記載した業務日報
- 営業先からの直帰を禁止する規則や社内ルール
営業職の残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください
残業代請求をお考えの営業職の方は、弁護士のサポートが必要になりますので、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。
証拠収集や残業代請求のサポートできる
営業職は、業務の性質上、一般的な労働者に比べて労働時間の正確な把握が難しいという特徴があります。会社に対して未払い残業代を請求するためには、労働者の側で残業時間を立証しなければならず、十分な証拠がなければ残業をしたにもかかわらず、残業代を支払ってもらえないというリスクがあります。
グラディアトル法律事務所では、未払い残業代請求の事案に関する豊富な経験と実績がありますので、労働時間の立証が難しい営業職であっても、さまざまな証拠に基づき残業時間を立証することができます。必要な証拠収集についても、経験豊富な弁護士がサポートしますので、安心してお任せください。
毅然とした態度で会社との交渉を対応できる
未払い残業代を請求するには、まずは会社との交渉が必要になります。営業職は、交渉能力に長けているといっても、雇われている会社を相手だと強気な態度で交渉することができず、満足いく条件を引き出すことができません。
しかし、弁護士であれば法的観点から労働者の権利を主張することができますので、会社側の違法・不当な手口に対しても適切に反論を行うことができます。また、弁護士は、交渉の専門家ですので、会社が相手であっても毅然とした態度で交渉を進めることで、有利な条件で解決できる可能性が高くなります。
会社との示談交渉は、労働者個人で対応するのは困難なケースが多いため、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。
まとめ
営業職だからといって残業代が出ないということはありません。会社から営業職であることを理由に一切残業代が支払われていない場合には、違法な残業代不払いの可能性があります。このようなケースでは、過去にさかのぼって多額の残業代を請求できる可能性もありますので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
会社への残業代請求をお考えの営業職の方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。