「不動産業界で働いているけど、残業が多くて大変」
「サービス残業ばかりで残業代を支払ってもらえない」
「会社からは残業代は出ないと言われたけど本当だろうか?」
不動産業界では、残業や休日出勤が多く、個人ノルマを達成するために長時間残業を強いられるケースも少なくありません。また、長時間残業を強いられている方の多くは、適切な残業代が支払われていないこともあります。
長期間残業代が支払われていない状態だと、未払い残業代の金額も高額になりますので、時効になるまでにしっかりと請求していくことが大切です。
本記事では、
・不動産業界の残業で残業が多いと言われる4つの理由
・不動産会社が残業代を支払わない違法な6つの手口
・不動産会社に対して未払い残業代を請求する方法
などについてわかりやすく解説します。
長時間残業は、過労死のリスクもありますので、会社に改善を求めるためにも、未払い残業代の請求を検討していきましょう。
目次
不動産業界の残業の実態
不動産業界は、一般的に残業の多い業種として知られていますが、実際にはどの程度の残業が行われているのでしょうか。
OpenWorkが調査した「日本の残業時間 定点観測」によると、不動産業界の月間平均残業時間(2023年7月~9月)は、30.50時間となっています。調査対象となった全10業種のうち、不動産業界の月間平均残業時間は、コンサルティング業界(33.98時間)、マスコミ・広告業界(32.94時間)に次いで、3番目に多い数字となっています。
このような統計結果からも不動産業界が残業の多い業種であることがわかります。残業時間に見合った残業代が支払われているのであれば、頑張って働く意欲もわきますが、実際には適切な残業代が支払われていないケースも多いようです。
以下では、不動産業界で残業が多いと言われる理由や不動産会社が残業代を支払わない違法な手口などを見ていきましょう。
不動産業界で残業が多いと言われる4つの理由
不動産業界で残業が多いと言われるのは、以下のような理由があるからです。
顧客の都合に合わせて働かなければならない
不動産会社の業務は、顧客を相手とする接客業になりますので、どうしても顧客の都合に合わせて働かなければなりません。平日であれば顧客との商談は、顧客が仕事を終えてからになりますので、早くても午後6時から、遅ければ午後9時から商談開始ということも珍しくありません。
また、不動産管理業務をメインに扱う会社では、深夜の水漏れ、設備の故障、鍵の紛失などに対応しなければなりません。
このように顧客の都合に合わせて働かなければならないという業務の性質上、不動産業界は、どうしても残業が多くなってしまいます。
ノルマを達成する必要がある
不動産業界では、個人ノルマが設定されていることが多く、成績次第では給与や賞与の大幅な増額が期待できます。そのため、収入を少しでも増やしたいという思いから、休日やプライベートの時間を削ってまで、業務を行う人もいます。
また、ノルマを達成できないと上司から厳しく責められるため、残業を余儀なくされるケースもあります。
残業があたりまえの風潮がある
不動産業界では、基本的に体育会系の古い体質が根強く残っています。このような体質の会社では、長時間残業は当たり前という考え方が定着してしますので、契約が取れるまでひたすら営業電話やチラシ配りをさせられることもあるようです。
このあたりは就職した会社によって異なりますが、根性論や精神論をかざしてくる会社では長時間残業を覚悟しておいた方がよいかもしれません。
書類作成などの事務作業が多い
不動産業界では、不動産という高額な商品を扱うことになりますので、契約に必要となる書類も膨大なものになります。
・売買契約書
・重要事項説明書
・登記事項証明書、公図、建物図面、地積測量図
・建築確認済証、建築検査済証
・物件パンフレット
このような書類を準備するのは、顧客との商談がない時間を利用することになりますので、商談が立て込んでいる日だと、残業をしなければ処理できないこともあります。契約書など重要書類に間違いがあっては大変ですので、二重・三重のチェックをしなければならず、それも長時間残業の要因の一つとなります。
不動産会社が残業代を支払わない違法な6つの手口
不動産業界は残業が多い業種で業に関する証拠がない状態で請求しても、未払い残業代の支払いに応じてもらうのは困難ですので、まずは残業に関する証拠を集めることが重要です。すが、不動産業界で働く労働者には、残業時間に応じた残業代を請求する権利があります。しかし、実際には、以下のような違法な手口により、適切な残業代が支払われていないことがあります。
サービス残業を強制する
不動産業界では、残業をしても残業代が支払われないという、いわゆる「サービス残業」が強制されているケースが多いです。「営業成績を上げたいなら残業してでも働け!」、「こんな成績で恥ずかしくないのか!」などパワハラまがいの言動があると、残業代が出ないことがわかっていても残業しなければならない状況に追い込まれてしまいます。
しかし、残業をすれば残業代がでるというのは法律上認められた労働者の権利ですので、サービス残業の時間も含めて残業代を請求することが可能です。会社に在籍中は、残業代請求をしづらいという場合には、会社を退職するタイミングでもよいので、しっかりと未払い残業代の請求を行うようにしましょう。
固定残業代以外の残業代が支払われない
固定残業代とは、あらかじめ一定時間分の残業代を給料に含めて支払う制度です。たとえば、固定残業代として30時間分が支払われている場合、その月の残業時間が30時間以内であれば、固定残業代によりすでに残業代は支払い済みとなりますので、別途残業代を請求することができません。
しかし、固定残業代は、残業代の支払いを一切不要にするという制度ではありません。固定残業代で想定されている残業時間を超えて働いた場合には、固定残業代とは別に、残業代の支払いをしなければなりません。
会社から固定残業代以外の残業代が支払われないという場合には、固定残業代の違法な運用がなされている可能性がありますので注意が必要です。
なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
歩合給を理由として残業代を支払わない
歩合給とは、労働者の成果や業績(契約件数、売上金額など)により給与額が決まる制度です。不動産業界では、ノルマに応じたインセンティブ報酬を設定するなど、歩合給を採用しているケースが多いです。このような歩合給が採用されている会社では、「歩合給だから残業をしても残業代は出ない」と言われることがあります。
しかし、歩合給であっても時間外労働、深夜労働、休日労働に関する考え方は、一般的な月給制の場合と変わりません。そのため、歩合給でも残業をしていれば、残業時間に応じた残業代を請求することができます。
なお、会社によっては歩合給の中に残業代が含まれていると反論してくることがありますが、歩合給部分と残業代が明確に区別されていなければ、そのような反論は認められません。
営業職に裁量労働制(事業場外労働のみなし労働時間制)を適用する
事業場外労働のみなし労働時間制とは、実際の労働時間を会社が把握するのが難しい業務に対して、実際の労働時間ではなく所定労働時間や業務のために通常必要とされる時間を働いたものとみなす制度です。不動産会社の営業職は、労働時間の管理が難しいなどの理由から、この「事業場外労働のみなし労働時間制」の適用を理由として、残業代の支払いに応じてもらえないことがあります。
しかし、事業場外労働のみなし労働時間制が適用されるのは、事業場外で業務に従事し、労働時間の算定が困難な業務に限られます。不動産会社の営業職であっても、
・電話やメールなどで上司と連絡をとり、指示を受けながら業務をしている
・日々の業務日報を提出しなければならない
・外回り営業を終えると事業所に戻るよう指示されている
などの事情がある場合には、事業場外労働のみなし労働時間制は適用されません。
事業場外労働のみなし労働時間制は、不動産会社の営業職に対する残業代不払いの手口として利用されることの多い制度ですので、該当する方は特に注意が必要です。
なお、裁量労働制と残業代請求についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
管理職を理由として残業代を支払わない
「店長」、「営業課長」などの肩書が付与されている方は、会社から「管理職だから残業代は出ない」と言われることがあります。
労働基準法では、管理監督者に該当する場合には残業代の支払いが不要になりますが、「管理監督者=管理職」というわけではありません。管理監督者は、経営者と一体的な立場にある労働者のことをいいますので、その判断は肩書ではなく実態に即して判断する必要があります。
そのため、以下のような事情がある場合には、管理職の肩書が与えられていたとしても、残業代を請求できる可能性があります。
・従業員の採用、解雇、人事異動に関する権限が与えられていない・本社の経営方針に口出しができない
・経営会議での決定事項を部下に伝えるだけ
・労働時間が厳格に管理されており、定時になるまで退社ができない
・残業代をもらっている部下の方が給与額が多い
・役職手当はもらっているものの、1万円など少額である
なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事もご参照ください。
営業職を個人事業主として扱う
不動産業界では、フルコミッション制という会社と業務委託契約を締結し、完全歩合給で働く人もいます。会社に雇用されている労働者とは異なり、このようなフルコミッション制の人は個人事業主に該当しますので、労働基準法は適用されず、残業代の支払いも不要となります。
しかし、実際には、労働者と変わらない働き方であるにもかかわらず、形式上業務委託契約を締結し、残業代を支払わないケースもありますので注意が必要です。労働者に該当するかどうかは、主に以下のような要素に基づき実質的に判断されます。
・指揮監督下の労働であること
・報酬の労務対償性があること
・事業性の有無
・専属性の有無
たとえば、会社から仕事の進め方について細かく指示をされている、勤務先や勤務時間を指定されている、欠勤するとその分が給料から控除されるなどの事情がある場合には、業務委託契約という形式であったとしても残業代を請求できる可能性があります。
不動産会社に対して未払い残業代を請求する方法
不動産会社に対して未払い残業代を請求する場合には、以下のような方法で行います。
残業代の証拠収集
会社に対して残業代請求をする際には、労働者の側で残業をしたことおよびその時間を立証していかなければなりません。
残業をしたことを立証することができる代表的な証拠としては、以下のものが挙げられます。
- タイムカード
- 勤怠管理システムのデータ
- 業務日報
- パソコンのログイン、ログアウト履歴
- 入退室記録
- 残業を指示されたメールやLINEの履歴
- 顧客との打ち合わせメモ
なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
未払い残業代の計算
不動産会社で働く人の残業代は、以下のような計算式により算出します。
・残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間
月給制で働く労働者の場合は、以下のような計算式により、月給から「1時間あたりの基礎賃金」を計算しなければなりません。
・1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月の平均所定労働時間
・1か月の平均所定労働時間=(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月
その際には、以下のような手当は月給から除外しなければなりません。
また、「割増賃金率」は、残業時間に応じて、以下のように定められています。
このように残業代計算は、非常に複雑な計算になりますので、正確に計算するためにも、専門家である弁護士に任せるのが安心です。
なお、残業代計算方法の詳細は、以下の記事もご参照ください。
内容証明郵便の送付
会社に対する残業代請求は、まずは内容証明郵便を送るところから始めます。
内容証明郵便とは、いつ・誰が・誰に対して・どのような内容の文書を送ったのかを証明できる郵便です。内容証明郵便を利用すれば、残業代請求を行ったという証拠を残すことができますが、それは残業代の時効との関係で非常に有効な手段となります。
残業代請求には、3年という時効がありますので、時効期間を経過してしまうと、残業代を請求することができなくなってしまいます。内容証明郵便を利用して残業代請求をすれば、残業代の時効の進行を一時的にストップすることができますので、時効期間が迫っているという場合には、まずは内容証明郵便を送るようにしましょう。
なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事もご参照ください。
会社との交渉
内容証明郵便が会社に届いたら、次は、会社との交渉を行います。
未払い残業代を請求する場合には、労働者側から計算の根拠となった資料を提示しながら話し合いをすることで、会社側の理解も得やすくなるといえます。また、話し合いによる早期解決を希望する場合には、労働者側でも一定の譲歩が必要になりますので、相手の出方を見ながら柔軟に対応していくようにしましょう。
労働審判の申立て・訴訟提起
会社との話し合いがまとまらず交渉が決裂したときは、裁判所に労働審判の申立てまたは訴訟の提起をする必要があります。いずれの手段をとるべきかは、具体的な状況によって異なりますので、専門家である弁護士に相談しながら進めていくようにしましょう。
不動産会社に残業代を請求するならグラディアトル法律事務所に相談を
不動産業界では、長時間のサービス残業を強いられるなど過酷な労働環境で働いている方が多いです。大切なプライベートの時間や休日を削ってまで働いているのですから、その対価である残業代はしっかりと請求していかなければなりません。
しかし、知識や経験がない一般の方では、会社を相手にして適正な残業代の支払いを受けるのは難しく、会社と交渉をしてもまともに取り合ってくれないこともあります。ご自身での対応が難しいと感じたときは、すぐにグラディアトル法律事務所までご相談ください。
当事務所には、残業代請求に関する豊富な知識と経験を有する弁護士が多数在籍していますので、会社側の違法な残業代不払いの手口に対しても、適切な反論を行うことが可能です。交渉で解決が難しい事案については、労働審判や裁判により解決に導くことができますので、最後まで安心してお任せください。
まとめ
不動産会社への残業代請求をお考えの方は、残業代が時効により消滅してしまう前に早めに行動する必要があります。個人での対応だと、証拠収集や残業代計算に手間取ってしまい、大切な残業代が時効により失われてしまう可能性があります。
迅速に未払い残業代の問題に対応するには、専門家である弁護士のサポートが必要になりますので、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。