不動産業界では、
「営業職だから残業代は出ない」
「歩合給だから残業代は支払われない」
といった慣行が根強く残っており、長時間労働にもかかわらず適切な残業代が支払われていないケースが少なくありません。
実際に、不動産会社の営業社員が未払い残業代を請求した裁判では、
会社側が
「歩合給中心の給与体系である」
「営業職はみなし労働時間制である」
などと主張したにもかかわらず、労働時間の管理実態などが重視され、数百万円規模の残業代の支払いが認められた事例も報じられています。
この事例からもわかるように不動産会社で働く人であっても、労働基準法上の「労働者」に該当する限り、残業代を請求する権利があります。
営業職であることや歩合給であること、「管理職」や「業務委託」といった名目が付けられている場合でも、実態によっては残業代の支払いが必要となるケースは多く存在します。
もっとも、「自分は残業代請求できるのか分からない」「どのように請求すればよいのかわからない」と悩まれている方も多いのではないでしょうか。
不動産業界特有の働き方や賃金体系が関係するため、正確な判断や適切な請求には専門的な知識が不可欠です。
グラディアトル法律事務所では、不動産業界を含むさまざまな業種における未払い残業代請求について豊富な解決実績があります。これまで数多くの労働者の方の権利回復をサポートしてきた経験をもとに、適切な見通しの提示から交渉・訴訟対応まで一貫したサポートが可能です。
| 本記事では、 ・不動産業界における残業代の基本知識 ・未払いが発生しやすい違法なケース ・残業代の具体的な計算方法 ・請求手順や注意点 |
などをわかりやすく解説します。
不動産会社で働いている方や、未払い残業にお悩みの方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
不動産会社で働く人でも残業代請求はできる
不動産会社で働く人であっても、原則として残業代を請求することは可能です。
なぜなら、不動産業界であっても労働基準法が適用される点に変わりはなく、会社に雇用されて働いている限り「労働者」として保護されるからです。
労働基準法では、1日8時間・週40時間を超えて働いた場合には、会社は割増賃金(残業代)を支払う義務があると定められています。
しかし、不動産業界では「営業職だから残業代は出ない」「歩合給だから対象外」といった説明がされることが少なくありません。
たしかに、一定の要件を満たす場合には、事業場外労働のみなし労働時間制や管理監督者といった制度が適用され、残業代が支払われないケースもあります。
もっとも、これらの制度が適用されるためには厳格な要件を満たす必要があり、単に営業職であることや歩合給であることを理由に残業代が不要となるわけではありません。
実際には、制度の適用要件を満たしていないにもかかわらず、会社側の都合で残業代が支払われていないケースも多く見受けられます。
また、「業務委託契約」や「個人事業主」という形式で契約している場合であっても、勤務時間や業務内容が会社の指示・管理下にある場合には、実質的には労働者と判断され、残業代請求が認められる可能性があります。
このように、不動産会社で働いているという理由だけで残業代請求ができないわけではありません。 まずは、自身の働き方や契約内容を踏まえ、法的に残業代請求が可能かどうかを正しく判断することが重要です。
不動産業界で本当は残業代の対象なのに、不払いになっている違法なケース
不動産業界では、さまざまな理由を付けて残業代が支払われていないケースが見受けられます。しかし、その中には法的に認められない「違法な不払い」も多く含まれています。
ここでは、不動産が溶解に特に多い典型的な残業代不払いのケースを紹介します。
サービス残業を強制する
もっとも典型的なのが、いわゆる「サービス残業」です。
たとえば、
「営業は成果で評価するから残業代は出ない」
「自主的に残っているだけ」
といった理由で、長時間労働にもかかわらず残業代が支払われないケースがあります。
しかし、会社の指示や業務上の必要性に基づいて行われている以上、それは労働時間に該当します。タイムカードを打刻させた後に仕事をさせる、持ち帰り業務を強制するなどの行為も違法となる可能性が高いです。
固定残業代以外の残業代が支払われない
不動産業界では「固定残業代(みなし残業代)」制度が多く採用されていますが、これが適切に運用されていないケースも目立ちます。
固定残業代は、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払う制度ですが、実際の残業時間がその時間を超えた場合には、差額の残業代を別途支払う必要があります。
それにもかかわらず、「固定残業代を払っているから追加は出ない」として、それ以上の残業代を支払わない場合は違法です。
歩合給を理由として残業代を支払わない
不動産営業では、基本給に加えてインセンティブ(歩合給)が支払われるケースが一般的です。
しかし、「歩合給があるから残業代は出ない」と説明されることがありますが、このような取り扱いは原則として認められていません。
歩合給であっても賃金の一部である以上、それを基礎として残業代を計算する必要があります。歩合給を理由に残業代を一切支払わない場合は、違法となる可能性が高いです。
営業職に裁量労働制(事業場外労働のみなし労働時間制)を適用する
営業職に対して、「外回りだから労働時間は管理できない」として、事業場外労働のみなし労働時間制が適用されるケースがあります。
しかし、この制度が適用されるのは、「労働時間の算定が困難な場合」に限られます。スマートフォンやGPS、日報などで業務状況を把握できる場合には、原則として適用は認められません。
にもかかわらず、形式的に制度を適用し、実際の長時間労働に対する残業代を支払わない場合は違法となる可能性があります。
管理職を理由として残業代を支払わない
「店長だから」
「主任だから」
といった理由で、管理職として扱われ、残業代が支払われないケースもあります。
しかし、労働基準法上の「管理監督者」に該当するためには、経営に関与する権限や高い裁量、相応の待遇などが必要です。
単に役職名が付いているだけで、実態としては一般社員と同様の働き方をしている場合には、管理監督者には該当せず、残業代の支払いが必要となります。
営業職を個人事業主として扱う
近年、不動産営業を「業務委託契約」や「個人事業主」として扱うケースも増えています。
しかし、勤務時間や業務内容が会社の指示に従っている場合や、実質的に会社に従属して働いている場合には、形式にかかわらず「労働者」と判断される可能性があります。
このような場合、会社が残業代の支払いを免れるために形式だけ業務委託としているのであれば、違法と判断される可能性が高いです。
【モデルケース】不動産会社で働く人の未払い残業代トラブル解決のポイントを弁護士が解説
ここでは、不動産業界で実際に起こり得る未払い残業代トラブルについて、架空のモデルケースをもとに説明します。

モデルケース
Aさん(30代・男性)は、不動産会社で営業職として勤務していました。 給与体系は「基本給+歩合給+固定残業代(40時間分)」というものでした。
しかし、実際の労働時間は月80時間を超える残業が常態化しており、固定残業時間を大幅に超えていました。それにもかかわらず、会社からは「営業職はみなし労働だから」「歩合給があるから残業代は出ない」と説明され、追加の残業代は一切支払われていませんでした。
また、タイムカードは形式的なもので、実際には終業後も顧客対応や契約書作成を行うことが常態化しており、正確な労働時間は記録されていませんでした。
不審に思ったAさんは、弁護士に相談し、未払い残業代の請求を行うことを決意しました。
残業代請求の経過
まずAさんは、弁護士の助言のもと、以下のような証拠を収集しました。
・業務メールの送受信履歴(深夜・休日対応の記録)
・会社支給スマートフォンの通話履歴
・PCのログイン
・ログアウト履歴
・日報やスケジュール帳の記録
・給与明細(固定残業代の内訳確認)
これらの証拠をもとに労働時間を再現し、残業時間を算定したところ、未払い残業代は約250万円にのぼることが判明しました。
その後、内容証明郵便により会社に対して請求を行いましたが、会社側は当初、「みなし労働制が適用される」「固定残業代で全て支払済み」として支払いを拒否しました。
そこで、労働審判を申し立てたところ、最終的には会社側が未払いを認め、約200万円の支払いで和解が成立しました。
残業代請求が認められたポイント
本件で残業代請求が認められたポイントは、以下のとおりです。
①実際の労働時間を客観的証拠で立証できた点
タイムカードが不正確であっても、メールやPCログなど複数の証拠を組み合わせることで、長時間労働の実態が認められました。
②固定残業代制度が適切に運用されていなかった点
固定残業時間を超えた分について追加支払いがされていなかったため、制度の不備が認定されました。
③みなし労働制の適用要件を満たしていなかった点
営業活動の進捗や行動が会社により詳細に管理されていたことから、「労働時間の算定が困難」とは認められませんでした。
弁護士による解説
不動産業界では、本件のように「営業職」「歩合給」「固定残業代」といった制度が複雑に組み合わされていることが多く、会社側がこれらを理由に残業代の支払いを拒むケースが少なくありません。
しかし、重要なのは形式ではなく「実態」です。
どのような契約や制度が採用されていても、実際の働き方が労働基準法の保護対象に該当すれば、残業代請求は認められます。
また、タイムカードがない、あるいは正確でない場合でも、メールや業務記録などから労働時間を立証することは十分可能です。
不動産業界の残業代請求では、証拠の集め方や制度の法的評価が結果を大きく左右します。適切な対応を行うためにも、早い段階で弁護士に相談することが重要です。
不動産会社で働く人の残業代の計算方法

未払い残業代を請求するためには、まず「いくら請求できるのか」を把握することが重要です。ここでは、残業代の基本的な計算方法とポイントを説明します。
残業代の基本的な計算式
残業代は、以下の計算式で算出されます。
残業代=時給×残業時間×割増率
残業代=時給×残業時間×割増率
ここでいう「時給」は、月給制の場合には以下のように算出します。
時給=月給÷1か月の所定労働時間
なお、残業代の計算に含まれる賃金には、基本給のほか、役職手当や歩合給なども含まれるのが原則です(※一部の手当は除外される場合があります)。
不動産業界では歩合給の割合が大きいケースも多いため、これを含めて計算するかどうかが、残業代の金額に大きく影響します。
割増賃金の種類
残業代は、労働時間の種類に応じて割増率が異なります。
| ・時間外労働(法定労働時間を超えた場合)→割増率:25%以上(※月60時間を超える部分は50%以上) ・深夜労働(22時〜翌5時)→割増率:25%以上 ・休日労働(法定休日に労働した場合)→割増率:35%以上 |
これらは重複して適用されることもあります。たとえば、深夜に時間外労働を行った場合には、25%+25%=50%以上の割増率が適用されます。
残業代計算の具体例
以下に、不動産会社で働く営業職の例をもとに、残業代の計算を見てみましょう。
【前提条件】
・月給:30万円(基本給+歩合給含む)
・所定労働時間:160時間
・時間外労働:月40時間(すべて通常の時間外労働)
①時給の算出
30万円÷160時間=約1875円
②残業代の算出
1875円×40時間×1.25=約9万3750円
このように、月40時間の残業がある場合、約9万円以上の残業代が発生する計算になります。
これが長期間にわたって未払いとなっている場合、請求額は数十万円〜数百万円にのぼることも珍しくありません。
不動産業界では、固定残業代や歩合給などの影響により、残業代の計算が複雑になりがちです。そのため、正確な金額を把握するためには、賃金体系を踏まえた専門的な検討が必要となります。適正な残業代を算出するためにも、早めに弁護士へ相談することが重要です。
不動産会社で働く人が残業代請求のために集めておくべき証拠
未払い残業代を請求するうえで、最も重要となるのが「労働時間を裏付ける証拠」です。 会社が残業時間を正確に把握・記録していない場合でも、客観的な資料を集めることで、残業の事実を立証できる可能性があります。
ここでは、残業代請求をする際に集めるべき証拠を紹介します。

タイムカード・勤怠記録
もっとも基本的かつ重要な証拠が、タイムカードや勤怠システムの記録です。
出退勤時間が客観的に記録されているため、労働時間の立証において非常に有力な証拠となります。 ただし、不動産業界では「打刻後の業務」や「直行直帰」が多く、実態と乖離しているケースも少なくありません。
そのため、タイムカードの記録だけでなく、他の証拠と組み合わせて立証することが重要です。
業務メールやチャットの履歴
業務に関するメールやチャットの送受信履歴も、労働時間を裏付ける重要な証拠です。
たとえば、深夜や休日に顧客対応をしているメール、上司からの指示が送られているチャットなどは、その時間帯に業務を行っていたことを示す有力な資料となります。
特に不動産業界では、顧客対応が夜間や休日に及ぶことも多いため、これらの履歴は重要な証拠となります。
PCのログイン・ログアウト記録
会社のパソコンのログイン・ログアウト履歴も、実際の勤務時間を推認する証拠として有効です。
業務用PCの使用時間が長時間にわたっている場合、継続的に業務に従事していたことの裏付けとなります。 また、リモートワークや外出先での業務が多い場合にも有効な証拠となります。
日報・スケジュール帳などの業務記録
日報やスケジュール帳、営業記録なども重要な証拠です。
訪問先や商談時間、業務内容が記載されていれば、1日の業務の流れや労働時間を具体的に再現することができます。 手書きのメモや個人的な記録であっても、継続的に作成されていれば証拠として評価される可能性があります。
証拠収集のポイント
証拠を集める際には、以下の点に注意することが重要です。
| ・できるだけ複数の証拠を組み合わせる ・日付・時刻が分かる形で保存する ・退職前から継続的に収集しておく |
会社側は残業の事実を否定することも多いため、証拠は多ければ多いほど有利になります。
不動産会社で働く人が未払い残業代を請求する手順
未払い残業代を請求するには、適切な手順に沿って進めることが重要です。いきなり裁判を起こすのではなく、段階的に対応していくのが一般的です。ここでは、基本的な残業代請求の流れを説明します。

残業代未払いの証拠収集
まず最初に行うべきなのが、証拠の収集です。
前章で解説したとおり、タイムカードやメール、PCログなどをもとに、自身の労働時間をできる限り正確に把握します。
そのうえで、残業時間と未払い残業代の概算を算出します。
この段階で重要なのは、「後からでは証拠が入手できなくなる可能性がある」という点です。特に在職中の場合には、アクセス権限があるうちに証拠を確保しておくことが重要です。
内容証明郵便を利用して会社に請求
証拠と未払い額の整理ができたら、会社に対して正式に請求を行います。
一般的には、内容証明郵便を利用して、未払い残業代の支払いを求める通知を送付します。
内容証明郵便を使うことで、
「いつ・どのような内容で請求したか」
を客観的に証明することができます。
また、この段階で弁護士が代理人として通知を送付することで、会社側の対応が大きく変わるケースも少なくありません。
会社との交渉
内容証明郵便を送付した後は、会社との交渉に入ります。
会社が未払いを認めれば、支払い金額や支払方法について協議し、合意に至れば和解が成立します。交渉によって解決できれば、時間や費用を抑えることが可能です。
一方で、会社が支払いを拒否したり、低額な提示しかしない場合には、次の手続きに進む必要があります。
労働審判・訴訟
交渉で解決しない場合には、労働審判または訴訟を提起します。
労働審判は、原則として3回以内の期日で迅速な解決を目指す手続きであり、多くの残業代請求はこの段階で解決しています。
それでも合意に至らない場合には、通常の民事訴訟に移行し、裁判所の判断を求めることになります。
不動産業界で残業代請求をする際の注意点

未払い残業代は、労働者の正当な権利として請求できるものですが、実際に請求を進めるにあたってはいくつか注意すべきポイントがあります。事前にリスクや重要事項を理解しておくことで、トラブルを回避しながら適切に対応することができます。
時効に注意する
残業代請求には時効があります。
現在、未払い残業代の請求権は「3年」で時効により消滅します。 そのため、長期間にわたって未払いがある場合でも、すべてを請求できるわけではありません。
また、時効は何もしなければ進行し続けるため、早めに請求を行うことが重要です。 内容証明郵便による請求や裁判手続きによって、時効の進行を止めることができます。
「気づいたときには請求できる期間が過ぎていた」という事態を避けるためにも、できるだけ早く行動することが大切です。
会社との関係悪化のリスク
残業代請求を行うことで、会社との関係が悪化する可能性があります。
特に在職中に請求を行う場合には、配置転換や評価への影響などを不安に感じる方も少なくありません。 もちろん、残業代請求を理由とした不利益取扱いは原則として違法ですが、実務上は関係がぎくしゃくするケースもあります。
そのため、在職中に請求するのか、退職後に請求するのかといったタイミングについても慎重に検討する必要があります。
早めに証拠を確保する重要性
残業代請求では、証拠の有無が結果を大きく左右します。
しかし、退職後は会社のシステムにアクセスできなくなるため、タイムカードやメール、PCログなどの証拠を入手できなくなる可能性があります。
また、会社側が証拠の提出を渋るケースもあります。
そのため、在職中の段階から意識的に証拠を収集・保存しておくことが非常に重要です。
不動産業界で働く人の残業代が争われた裁判例の紹介
不動産業界における残業代トラブルは、実際に裁判で争われるケースも少なくありません。 特に、不動産営業職に特有の「歩合給」「みなし労働時間制」「管理職扱い」などが争点となることが多く、裁判例は実務上の重要な判断基準となります。
ここでは、実際の裁判例をもとに、どのような点が争われ、どのような判断がなされたのかをみていきましょう。
不動産営業職における残業代請求が認められた事例|名古屋地裁令和5年2月10日判決
【事案の概要】
本件は、不動産会社で営業職として勤務していた労働者が、未払い残業代などの支払いを求めた事案です。
会社側は、営業職は外回り業務が中心であるとして「事業場外みなし労働時間制」を適用し、労働時間を一定時間とみなしていました。 また、給与には約60時間分の固定残業代が含まれていました。
これに対し、労働者は、実際には出社後に業務を行い、上司に行動予定を報告するなど会社が労働時間を把握できる状況にあったとして、未払い残業代の支払いを求めました。
【裁判所の判断】
①みなし労働時間制の適用を否定
原告は毎朝、上司に対して詳細な業務予定をメールで報告しており、外出時も一度出社してから戻るなど、会社が勤務状況を把握できる状況にありました。
そのため、「労働時間の算定が困難」とはいえず、みなし労働時間制の適用は認められませんでした。
②実労働時間を証拠から認定
PCのログイン・ログアウト記録などをもとに労働時間が認定され、未払い残業代の支払いが命じられました。
③固定残業代は有効だが超過分は支払い義務あり
固定残業代制度自体は有効と判断されましたが、固定時間(約60時間)を超える残業については、別途支払い義務があるとされました。
【ポイント】
- 営業職であっても、会社が労働時間を把握できる場合はみなし労働制は無効
- タイムカードがなくても、PCログやメールなどで労働時間は立証可能
- 固定残業代があっても、超過分の残業代は必ず請求できる
この判例は、不動産営業職に多い「みなし労働」「固定残業代」を理由とした残業代不払いが、実態によっては違法と判断されることを示した事例といえます。
完全歩合制の「外交員」に労働者性が認められた事例|東京地裁令和5年3月30日判決
【事案の概要】
本件は、不動産会社で「外交員」として完全歩合制で働いていた者が、自身は労働者であるとして未払い残業代や付加金の支払いを求めた事案です。
会社側は、外交員は個人事業主であり、労働者ではないため残業代の支払い義務はないと主張しました。
これに対し、原告は、勤務時間や業務内容が会社によって管理されており、実態として労働者であると主張しました。
【裁判所の判断】
①労働者性を肯定
裁判所は、以下の事情を重視し、原告は労働基準法上の労働者に該当すると判断しました。
- 営業案件は会社から割り振られ、実質的に拒否の自由がなかった
- 営業マニュアルや会議参加など、業務遂行について指揮監督を受けていた
- 出勤時間(午前9時40分まで)や休日数が定められており、時間的拘束があった
- タイムカードによる管理や罰金制度が存在していた
②労働時間の認定
営業日報、PCログ、スマートフォンの位置情報(タイムライン)などを組み合わせることで、実際の労働時間が認定されました。
③未払い残業代および付加金の支払いを命令
裁判所は未払い残業代約71万円に加え、付加金約48万円の支払いを命じました。会社が労働時間を適切に管理していなかった点も考慮されています。
【ポイント】
- 「完全歩合制」「業務委託契約」であっても、実態次第で労働者と判断される
- 勤務時間や業務内容が会社に管理されていれば、労働者性が認められやすい
- 日報・PCログ・位置情報など複数の証拠で労働時間を立証できる
- 悪質な未払いの場合は付加金が認められることもある
この判例は、不動産業界でよく見られる「個人事業主扱い(業務委託)」が、実態によっては否定されることを示した事例です。形式的な契約内容だけで判断するのではなく、実際の働き方が重視される点に注意が必要です。
不動産業界の残業代請求は弁護士への相談がおすすめ
不動産業界における未払い残業代の問題は、給与体系や働き方の特殊性から、一般的な業界よりも複雑になりがちです。
そのため、適切に請求を進めるためには、弁護士への相談が有効です。
ここでは、弁護士に依頼する主なメリットを説明します。
残業代の正確な計算ができる
残業代請求では、「いくら請求できるのか」を正確に算出することが重要です。
しかし、不動産業界では以下のような要素が絡むため、計算が複雑になりがちです。
- 歩合給がある給与体系
- 固定残業代の有無
- みなし労働時間制の適用の可否
これらを正しく整理しないまま請求すると、本来よりも少ない金額で妥協してしまうおそれがあります。
弁護士に依頼すれば、賃金体系や法的評価を踏まえたうえで、適正な残業代を算出することが可能です。
会社との交渉を任せられる
未払い残業代を請求する際には、会社との交渉が必要となるケースが多くあります。
しかし、個人で交渉を行うと、
・会社に言いくるめられてしまう
・不利な条件での和解を提示される
・精神的な負担が大きい
といった問題が生じがちです。
弁護士が代理人として交渉を行うことで、法的根拠に基づいた適切な主張が可能となり、会社側も真摯に対応せざるを得なくなるケースが多くあります。
労働審判や訴訟に対応できる
会社との交渉で解決しない場合には、労働審判や訴訟といった法的手続きに進む必要があります。
これらの手続きでは、
・主張書面の作成
・証拠の整理
・裁判所での対応
など、専門的な知識と経験が求められます。
弁護士に依頼すれば、これらの手続きを一貫して任せることができ、適切な戦略のもとで解決を目指すことができます。
不動産業界の残業代請求は経験豊富なグラディアトル法律事務所にお任せください

不動産業界の残業代トラブルは、歩合給や固定残業代、みなし労働時間制などが複雑に絡み合うため、 一般的な労働問題よりも専門的な知識と経験が求められます。
適切な主張や証拠の整理ができなければ、本来請求できるはずの残業代を十分に回収できないおそれもあります。
グラディアトル法律事務所では、不動産業界を含むさまざまな業種における未払い残業代請求の実績が豊富にあります。
営業職や歩合制のケース、個人事業主扱いが問題となるケースなど、複雑な事案にも対応してきた経験を活かし、依頼者の状況に応じた最適な解決方法をご提案いたします。
また、証拠収集のアドバイスから残業代の正確な計算、会社との交渉、労働審判・訴訟対応まで一貫してサポートいたします。未払い残業代でお悩みの方は、一人で抱え込まず、まずは当事務所までお気軽にご相談ください。
まとめ
不動産業界では、営業職や歩合給、みなし労働時間制などを理由に、残業代が適切に支払われていないケースが少なくありません。しかし、実際の働き方によっては、残業代請求が認められる可能性は十分にあります。
未払い残業代を回収するためには、労働時間を裏付ける証拠の確保と、適切な手順での請求が重要です。また、制度の形式ではなく実態が重視される点も押さえておく必要があります。
不動産業界特有の問題に対応するためにも、早めに弁護士へ相談し、適切な対応を進めることをおすすめします。
