長時間残業で悩むプログラマーが残業代請求可能な5つのケースを解説

長時間残業で悩むプログラマーが残業代請求可能な5つのケースを解説
弁護士 若林翔
2024年06月11日更新

「プログラマーとして働いているけど残業が多いと感じている」

「プログラマーの残業代がきちんと支払われているか不安だ」

「会社から残業代は出ないと言われたけど、本当なのか?」

プログラマーというと、毎日残業ばかりで過酷な労働環境で働いているというイメージを持たれる方も少なくありません。実際のプログラマーの仕事も、残業が多いといえますので、そのようなイメージも間違ってはいないでしょう。会社によっては、深夜にまで及ぶ長時間残業を強いられることもあり、それに伴い未払い残業代が発生しているケースもあります。

会社から残業代が支払われずお困りの方は、いいようにこき使われないようにするためにもプログラマー特有の残業代に関する問題をきちんと押さえておくことが大切です。

本記事では、

・プログラマーの残業が長時間になる5つの原因

・プログラマーの残業代が不払いになる5つのケース

・プログラマーが残業代を請求する方法

などについてわかりやすく解説します。

残業代請求には時効がありますので、未払い残業代請求をお考えの方は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

プログラマーの残業の実態

厚生労働省が公表している「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、プログラマー(ソフトウェア制作者)の企業規模別残業時間は、以下のようになっています。

プログラマー(ソフトウェア制作者)の企業規模別残業時間

この調査結果だけ見ると、プログラマーの残業時間は少ないように感じるかもしれません。しかし、厚生労働省の調査では、以下のような理由から実際の労働時間より短く反映されるといわれています。

・長時間労働を隠すため会社が実際の残業時間よりも少なく回答をしている

・サービス残業などが残業時間に反映されていない

・ブラックな職場では、残業を申告しても認められない

そのため、プログラマーの残業の実態としては、上記の統計結果よりも、多くの残業をしていると考えられます。プログラマーが勤務する会社によっては、過労死ラインである月80時間の残業時間を超えているところもあるようです。

プログラマーの残業が長時間になる5つの原因

プログラマーの残業が長時間になる5つの原因

プログラマーの残業が長時間になる原因としては、主に以下の5つが考えられます。

人手不足

IT業界全体で慢性的な人材不足が進んでいるため、プログラマーについても十分な人材を確保できていない会社も少なくありません。IT業界は、今後も成長が予想される業界ですが人手不足の状況が改善されなければ、現在の人員で業務を行わなければならず、プログラマーの一人当たりの負担も必然的に大きくなってしまいます。

人手不足を補うために、残業をして業務を遂行しなければならないのが、プログラマーに残業が多いといわれる原因の一つです。

突発的なトラブルへの対応

プロジェクトが大掛かりになればなるほど、システムのバグや不具合など予期せぬトラブルが生じるケースが多くなります。また、突発的なシステム障害が生じることが多いのもIT業界の特徴といえます。

このような想定外の突発的なトラブルが生じてしまうと、本来の業務時間外であっても対応せざるを得ませんので、トラブルが頻発するとそれだけ残業時間も長くなってしまいます。

クライアントからの急な仕様変更

プログラマーの業務は、クライアントの要望に沿ったシステムやプログラムを開発し、納品することです。

クライアントによっては、急な仕様変更や機能の追加などを求めてくることがあります。また、システム開発に関する知識や経験がないクライアントだと、無茶な要求をしてくることもあります。

クライアントからのこのような要望に関しては、基本的に応じていかなければなりません。そのため、十分な納期が確保されていない状況で急な仕様変更などがなされると、納期に間に合わせるために残業をしなければならなくなります。

十分なスケジュールが確保されていない

売上重視の会社では、無理なスケジュールであるにもかかわらず、多くの仕事を受注するため、そのしわ寄せが現場で働くプログラマーなどにいくことになります。

クライアントから設定された納期は、絶対に守らなければなりませんので、納期までにシステムを納品するためには、長時間の残業をして業務にあたらなければなりません。納期直前になると深夜までの残業や会社に泊まり込みでの残業も決して珍しいことではありません。

スキル不足

プログラマー自身のプログラミングスキルに対して仕事のレベルが高すぎると、業務をこなすまでに長時間を要してしまいます。また、プログラミング技術を身につけるには、自主的な学習も必要になりますので、プログラミング技術を覚えながらの作業になると、どうしても時間がかかってしまいます。

このようなプログラマー自身のスキル不足も残業の多い原因の一つとして挙げられます。

プログラマーの残業代が不払いになる5つのケース

プログラマーの残業代が不払いになる5つのケース

プログラマーの残業代が不払いになりやすいケースとしては、以下の5つが挙げられます。

固定残業代を理由とする残業代の不払い

固定残業代とは、あらかじめ一定時間分の残業代を基本給に含めて支払う制度です。残業の多いプログラマーでは、固定残業代制度が導入されているケースも多いでしょう。

しかし、固定残業代制度は、固定残業代を支払えば残業させ放題という制度ではありません。みなし残業時間を超えた残業に対しては、固定残業代とは別に残業代の支払いをしなければなりません。そのため、固定残業代以外に一切残業代が支払われていないという場合には、会社に対して未払い残業代を請求できる可能性が高いといえます。

なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

みなし残業代(固定残業代)に追加の残業代を請求できる6つのケース

管理職を理由とする残業代の不払い

プログラマーで働く方が会社内で「課長」や「マネージャー」、「プロジェクトリーダー」などの肩書が与えられている場合、そのことを理由として残業代が支払われないケースがあります。

しかし、一般的な「管理職」と労働基準法上の「管理監督者」は、同じ意味ではありませんので、会社内で管理職の肩書が与えられていたとしても、経営者と一体的な立場にあると評価できなければ、残業代の不払いは違法となります。

労働基準法上の管理監督者は、労働者の勤務実態に即して判断しますので、以下のような事情がある場合には、残業代を請求できる可能性があります。

・スタッフの採用や解雇の権限が与えられていない

・部下の人事考課に関する権限が与えられていない

・遅刻や早退を理由に賃金が控除される

・出退勤の自由がない

・職務手当が支払われていても、残業代を含めると一般社員よりも低待遇

なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事をご参照ください。

「管理職の残業代は出ない」は間違い!違法なケースや請求方法を解説

裁量労働制を理由とする残業代の不払い

裁量労働制とは、実際の労働時間ではなくあらかじめ会社と労働者の間で決めた一定時間を働いたものとみなす制度です。裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。

IT業界で働く労働者に適用される可能性のあるのは、専門業務型裁量労働制ですが、法律により適用対象となる業務は20業種に限定されています。IT業界に関連のある適用業種としては、「情報処理システムの分析または設計の業務」がありますが、これは、システム設計について裁量のあるエンジニアに限られると考えられています。

そのため、プログラマーに関しては、専門業務型裁量労働制の適用対象業務には含まれませんので、会社から裁量労働制を理由に残業代が不払いになっているときは、違法である可能性が高いでしょう。

なお、裁量労働制と残業代請求についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

裁量労働制で残業代はどうなる?未払分を請求するための必携知識

年俸制を理由とする残業代の不払い

年俸制とは、給与額を1年単位で決定する賃金体系をいいます。主に、成果主義型の人事制度を採用している会社で導入されていますが、プログラマーにも年俸制を採用している会社もあるでしょう。

そのような会社では、「年俸制だから残業代は出ない」と説明しているかもしれませんが、そのような扱いは違法です。年俸制であっても、残業をすれば残業代を請求できますので、会社に対してしっかりと請求していくようにしましょう。

なお、年俸制でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

年俸制も残業代が支払われる!計算方法や支払い不要なケースを解説

業務委託契約を理由とする残業代の不払い

会社に対して残業代を請求できるのは、労働基準法上の「労働者」に限られます。会社と業務委託契約を締結するフリーランスや個人事業主の方は、労働者には該当しませんので、残業をしたとしても会社に対して残業代を請求することはできません。

しかし、労働者かフリーランス・個人事業主であるかは、契約の名称で決まるのではなく、会社との間に使用従属性が認められるかどうかという観点から実質的に判断します。そのため、実態として会社で働く他の労働者とほぼ同様の働き方をしているのであれば、労働基準法上の労働者に該当し、会社に対して残業代を請求できる可能性があります。

なお、労働者と業務委託の判断基準についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

労働者性とは?労働者と業務委託の判断基準をチェックリストで確認

プログラマーが残業代を請求する方法

プログラマーが残業代を請求する方法

プログラマーが残業代を請求する場合、以下のような流れ・方法によって請求していきます。

証拠を集める

残業代請求が成功するかどうかは、証拠の有無にかかっているといっても過言ではありません。証拠がない状態では、会社との交渉で応じてもらえず、裁判になっても裁判所に支払いを命じてもらうことはできません。そのため、会社に残業代請求を行う前に、しっかりと証拠を集めておくことが大切です。

プログラマーが残業代請求をするにあたって必要になる証拠としては、以下のようなものが考えられます。

・タイムカード

・勤怠管理システムのデータ

・会社のパソコンの利用履歴

・業務日報

・オフィスの入退室記録

・業務用のメールやLINE、チャットなどの履歴

・交通系ICカードの利用履歴

・残業時間をまとめた手書きのメモ

なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

タイムカードないけど残業代もらえる!あれば役に立つ証拠16選!

内容証明郵便を送付する

会社に残業代請求をする際には、まずは内容証明郵便を利用して未払い残業代の支払いを求める書面を送付します。

内容証明郵便とは、いつ・誰が・誰に対して・どのような文書を送付したのかを証拠化することができる形式の郵便です。残業代請求には時効がありますので、内容証明郵便を利用して未払い残業代を請求すれば、法律上の「催告」をしたという証拠を残すことができます。催告は、時効の完成を6か月間猶予することができますので、時効の完成が迫っている場合には、有効な手段となります。

なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

残業代の時効は3年!時効を阻止する方法と残業代請求の流れを解説

会社と交渉をする

内容証明郵便が届いたタイミングで、会社との交渉を開始します。

残業代の支払いを否定する会社を説得するためにも、交渉時には、未払い残業代の計算根拠となって証拠を提示しながら冷静に話し合いを進めていくことが重要です。お互いの交渉により残業代の支払いに関する合意が成立したら、合意書を作成しておきましょう。

労働審判の申立て・訴訟提起をする

会社との話し合いで合意に至らないときは、裁判所に労働審判の申立てや訴訟提起をする必要があります。

どちらの手段を利用するかは状況によって異なりますが、話し合いによる解決の余地があるのであれば、労働審判を利用した方が早期解決が見込めます。手段の選択に迷うようであれば、専門家である弁護士に相談してアドバイスしてもらうとよいでしょう。

プログラマーの残業代請求が認められた裁判例

【事案の概要】

コンピューター会社(被告)にシステムエンジニアとして勤務する原告が未払い残業代などの支払いを求めた事案です。

この会社では、みなし労働時間を1日8時間とする裁量労働制が採用されていたため、原告には、残業代が支払われていませんでした。また、原告は、被告会社において課長の立場にあり、部下8、9人の監督をする地位にありました。

【裁判所の判断】

裁判では、①原告に対して裁量労働制が適用されるか、②原告が管理監督者に該当するかどうかが争点となりました。裁判所は、それぞれの争点について、以下のような判断をして、被告に対して残業代の支払いを命じました。

①裁量労働制が適用されるか

裁判所は、以下のような理由から原告への裁量労働制の適用を否定しました。

・原告にはシステム設計の一部しか発注されていない

・業務についてかなりタイトな納期を設定されていた

・原告の業務は、業務遂行の裁量性に乏しいものであった

②原告が管理監督者に該当するか

裁判所は、以下のような理由から原告の管理監督者性を否定しました。

・原告は、企業の事業経営に関する重要事項に関与していなかった

・従業員の採用権限を有していなかった

・役職手当として月5000円が管理監督者に対する手当としては十分なものとはいえない

プログラマーの残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

プログラマーの残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

会社に対する残業代請求をお考えのプログラマーの方は、グラディアトル法律事務所までご相談ください。

証拠収集や残業代計算のサポートができる

プログラマーの方が残業代請求をするためには、ご自身で残業に関する証拠収集や未払い残業代の計算を行わなければなりません。しかし、証拠収集や残業代計算にあたっては、専門的知識と経験が必要になりますので、一般の方では適切に対応することが困難です。

グラディアトル法律事務所では、残業代請求に関する豊富な実績と経験がありますので、プログラマーの方が必要になる証拠やその収集方法についても熟知しています。また、複雑な残業代計算も迅速に行うことが可能ですので、まずは当事務所までご相談ください。

会社との交渉や労働審判・訴訟対応を任せられる

プログラマーの方が個人で会社との交渉をしても、会社側はまともに取り合ってくれない可能性があります。また、個人で労働審判や訴訟を行うのは非常に困難ですので、弁護士のサポートが不可欠です。

グラディアトル法律事務所には、残業代の問題に強い経験豊富な弁護士が多数在籍していますので、労働者の代わりに会社との交渉を行い、会社を説得し、残業代の支払いに応じさせられる可能性があります。万が一、会社が交渉に応じなかったとしても、労働審判や訴訟についても引き続き対応し、最後まで全力でサポートいたします。

まとめ

プログラマーは、残業の多い業種として知られており、残業代が未払いになっている可能性も高いといえます。残業代請求権には、時効がありますので、長期間放置していると給料日ごとに残業代がどんどん消えていってしまいます。

そのようなリスクを回避するには、早期に弁護士に相談し、未払い残業代の請求に向けて行動を開始することが重要です。未払い残業代請求は、残業代問題に詳しい弁護士に相談することが重要です。会社への残業代請求をお考えのプログラマーの方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。



弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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