「残業をする際は事前に申請を行い、会社の許可が必要になっている」
「仕事が終わらないから残業したのに、許可がないため残業代は出ないと言われた」
「残業が許可制になっているものの、実際にはほぼ形骸化している」
長時間残業を減らす目的で、残業の許可制を導入している会社も増えてきています。許可制を導入し、不必要な残業を減らすことができれば、企業側および労働者側の双方にメリットのある制度だといえます。
しかし、実際には、残業の許可制を不適切に運用し、サービス残業を強制しているケースもありますので注意が必要です。
無許可の残業であっても会社に対して残業代を請求できる可能性がありますので、正しい知識を身につけておきましょう。
本記事では、
・残業許可制の概要
・残業許可制で残業代の不払いが違法になるケースとならないケース
・無許可残業で会社に対し残業代を請求する手順
などについてわかりやすく解説します。
ご自身で残業代請求が可能かどうか判断できないときは、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
目次
残業許可制とはどのような制度?
残業許可制とは、労働者が残業をする際、事前に申請を行い、会社の許可を得ることを義務付ける制度をいいます。
残業許可制が導入されている会社では、所定の手続きに従って、残業の申請をして、許可を得なければ残業が認められません。無許可で行った残業については、基本的には労働時間としてカウントされず、残業代の支払いもありません。
残業許可制を適切に運用していれば、
・不要な残業を減らすことができる
・労働者の心身の健康を保てる
・生産性の向上につながる
などのメリットがあるため、会社側および労働者側の双方にとってメリットのある制度といえます。
しかし、会社によっては残業許可制を違法に運用することで、未払い残業代が発生しているケースもありますので、残業許可制の会社で働いている人は注意が必要です。
残業許可制で残業代の不払いが違法になる4つのケース
残業許可制では、無許可の残業に対しては、基本的には残業代は支払われません。しかし、以下のようなケースでは、残業許可制の違法な運用にあたりますので、会社に対して残業代を請求することができます。
残業許可制を定めていても労働者に周知していない
残業許可制を導入するためには、就業規則などで残業許可制を定めた上で、それを労働者に周知する必要があります。このようなルールの整備がきちんとなされていない場合、会社側は、無断残業であることを理由に残業代の支払いを拒むことができません。そのため、残業の許可を得なかったとしても、会社に対して残業代を請求することが可能です。
残業許可制が形骸化している
残業許可制がルール化され、周知されていたとしても、残業許可制が形骸化しているケースがあります。たとえば、以下のような運用をしている場合には、残業許可制が形骸化していると評価される可能性が高いといえます。
・残業許可制について定期的な周知を行っていない
・残業申請についての決められたフォーマットや流れがない
・残業申請書を提出しなくても特に注意をされることがない
残業許可制が形骸化している場合は、無許可の残業であっても労働時間に含まれますので、会社に対して残業代請求をすることができます。
黙示の残業命令があったと評価できる
残業許可制の会社では、会社からの許可がなければ原則として残業をすることができません。しかし、会社から残業命令があった場合には、残業申請をしていなくても残業許可があったと評価できますので、残業代を請求することができます。
会社からの残業命令には、明示的なものだけでなく黙示の残業命令も含まれます。黙示の残業命令があったといえるケースとしては、以下のものが挙げられます。
・残業しなければ終わらない仕事量
・残業しなければ間に合わない納期
・残業せずに帰ると上司から怒られる
無許可残業を黙認していた
残業許可制が導入されている場合、無許可での残業は基本的には認められません。しかし、会社によっては、労働者が残業申請をすることなく残業をしているのを把握していながら、それに対して、注意や指導などを行わず黙認しているというケースもあります。このような無許可残業を黙認していたようなケースでは、残業許可制を理由に残業代の支払いを拒むのは違法となりますので、残業代を請求することが可能です。
残業許可制で残業代の不払いが違法にならない3つのケース
会社に申請することなく無許可で残業をした以下のケースについては、残業代を請求することができません。
残業許可制を周知し適正な運用をしている
会社で残業許可制のルールが就業規則などで明記され、そのルールが労働者に周知徹底されている場合、残業許可制の適正な運用がなされているといえます。
このようなケースでは、会社に申請することなく無許可で残業をしたとしても、労働時間には該当しませんので、会社に対して残業代を請求することはできません。残業代を請求したいのであれば、決められた手続きに則り、残業申請を行い、会社の許可を得てから残業をするようにしましょう。
残業せざるを得ない状況ではなかった
・残業代を稼ぐ目的で定時までの終わるはずの仕事を終わらせずに残業をしている
・仕事をほとんどしていないのに、いつまでも社内に残ってダラダラ過ごしている
・期限までに余裕があるにもかかわらず、残業をしている
このような残業を行う必要がないにもかかわらず残業をしているケースでは、会社による明示または黙示の残業指示があったと評価できません。そのため、実際に仕事をしていたとしても労働時間とはいえず、会社に対して残業代を請求することはできません。
無許可残業を何度も注意されていた
残業許可制が導入されている会社では、残業をするためには、基本的に残業申請を行い、会社の許可を得る必要があります。必要な申請や許可を得ることなく残業をしていると、上司などから無許可残業の注意や指導を受けることもあるでしょう。
このような注意や指導を繰り返し受けているにもかかわらず、無許可残業を行っている場合には、残業許可制の適正な運用がなされていると評価できますので、会社に対して残業代請求をすることはできません。
無許可残業で未払い残業代を請求する手順
残業許可制の会社で許可なく残業をしていた方が残業代を請求する手順は、以下のとおりです。
無許可でも残業代請求が可能なケースに該当する証拠を集める
残業許可制の会社では、基本的には会社の許可がなければ残業代を請求することができません。そのため、残業代の請求をする場合には、無許可の残業でも残業代を請求できる以下のケースに該当することを立証していかなければなりません。
・残業許可制を定めていても労働者に周知していない
・残業許可制が形骸化している
・黙示の残業命令があったと評価できる
・無許可残業を黙認していた
具体的な証拠については、就業規則、業務量や業務指示に関するメールなどが考えられますが、事案によって必要な証拠が異なりますので、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。
未払い残業代の計算
会社に対して残業代を請求するためには、未払い残業代の計算をしなければなりません。未払い残業代の計算は、以下の計算式によって計算します。
残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間
1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月の平均所定労働時間
1か月の平均所定労働時間=(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月
なお、上記の月給には以下の手当は含まれませんので注意が必要です。
また、「割増賃金率」は、残業時間に応じて、以下のように定められています。
なお、残業代計算方法の詳細は、以下の記事もご参照ください。
内容証明郵便の送付
未払い残業代の計算ができた段階で、会社に内容証明郵便を送付します。
内容証明郵便とは、文書の内容などを証明できる形式の郵便です。内容証明郵便自体には、支払いを強制する効力まではありませんが、残業代を請求したという証拠を残すことができます。
残業代請求権には、消滅時効がありますので、一定期間権利行使がなければ残業代が時効により消滅してしまいます。未払い残業代の請求をすれば、法律上の「催告」に該当しますので、時効の完成を6か月間猶予することができます。内容証明郵便を利用すれば、催告をしたという証拠を残せますので、必ず内容証明郵便を利用して残業代請求を行いましょう。
会社との交渉
内容証明郵便が届いたら、会社との交渉を開始します。
残業許可制の会社では、「無許可の残業代から残業代は支払えない」などと反論がなされることが予想されます。このような反論があったときは、無許可でも残業代請求が可能なケースに該当することを証拠により立証していくことが重要です。
会社との交渉で合意に至ったときは、口頭での合意だけで終わらせるのではなく、必ず合意書を作成するようにしましょう。
労働審判・訴訟
会社との交渉で解決できなかったときは、裁判所に労働審判の申立てまたは訴訟の提起を行います。
労働審判は、労働者と事業者との間の労働関係トラブルに特化した紛争解決制度です。原則として3回以内の期日で終了することになっていますので、裁判と比べて迅速な解決が期待できます。また、まずは調停という話し合いによる解決が試みられますので、実態に即した柔軟な解決が出期待できます。
訴訟の前に労働審判を利用しなければならないという決まりはありませんが、会社との話し合いの余地が残されているようであれば、労働審判を利用してみてもよいでしょう。
残業許可制で残業代請求が認められた当事務所の事案および裁判例
以下では、残業許可制で残業代請求が認められた当事務所の事案および裁判例を紹介します。
労働審判により500万円の支払いが認められた事例
【概要】
ご依頼者は、再生可能エネルギーに関するシステム設計、エンジニアリング、コンサルティング業務などを行う会社に雇用され働いていました。
しかし、会社からは、32時間分の固定残業代が支払われていた、32時間以上の残業については承認制がとられていたことなどを理由に残業代の支払いがなされていませんでした。このような状況に疑問を感じたご依頼者は、残業代請求に強い当事務所に相談に来られました。
当事務所の弁護士が契約内容などを精査したところ、会社側の主張は不当である可能性があったことから、正式に依頼を受けて、会社との交渉を開始しました。しかし、会社は、みなし残業制および残業の承認制を理由に残業代の支払いに応じなかったため、労働審判の申立てをすることになりました。
【結果】
労働審判では、当方の主張が全面的に認められ、解決金として500万円の支払いが命じられました。
残業許可制であっても、残業許可制を定めた就業規則が周知されていなかったこと、無許可で残業をしていても会社からは何らの指導や注意もなかったこと、残業をしなければ処理できないような業務量であったことなどを具体的に主張立証することで、無許可残業であっても未払い残業代を請求することができます。
許可制を理由に残業代が支払われないとしても、すぐに諦めるのではなく、まずは当事務所までご相談ください。
無承認の残業について残業代請求が認められた裁判例|東京地裁平成30年3月28日判決
【事案の概要】
Xは、残業承認制度が採用されているY社に勤務していました。Y社の残業承認制度では、午後7時以降に時間外労働をする場合には所定終業時刻である午後6時までに残業の申請を行い、承認を得る必要があるとされていました。
Xは、会社からの承認を受けることなく残業をしていたため、残業代が支払われていなかったことから、Y社に対して未払い残業代の支払いを求めて訴えを提起しました。
【裁判所の判断】
裁判所は、以下のような理由から本件ではYによる黙示の残業指示があったと認定し、未承認の残業についての残業代の支払いを命じました。
・勤続年数の長いXの業務量が多く、所定労働時間内に業務を終了させることが困難な状況にあり、時間外労働が常態化していた
・Y社代表者は、午後7時過ぎに退社する際にXが会社に残っているのを見かけており、深夜にXからのメールを受信することもあったことからすると、Xが残業していることを認識していた
残業許可制の違法な残業代不払いでお悩みの方はグラディアトル法律事務所に相談を
残業許可制の会社で働いている方で、会社から残業代が支払われていないという場合には、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。
無許可残業でも残業代を請求できるか判断できる
残業許可制の会社では、会社の承認を得て残業を行わなければなりませんので、無許可の残業では基本的には残業代を請求することができません。しかし、残業許可制の会社であっても、制度が形骸化していたり、黙示の残業指示があったといえる場合には、無許可の残業でも残業代を請求することが可能です。
会社に対して残業代請求を検討しているのであれば、まずはご自身のケースが残業代請求が可能なケースであるかを把握することが重要になります。グラディアトル法律事務所では、残業許可制での無許可残業の事案で500万円の残業代の支払いが認められた実績がありますので、残業許可制における残業代請求のポイントを熟知しています。そのため、残業代請求が可能であるかを正確に判断するためにも、まずは当事務所までご相談ください。
交渉や労働審判・裁判により残業代請求を実現できる
労働者個人で会社との交渉や労働審判・裁判などの手続きを行わなければならないのは大きな負担となります。自分だけで手続きを進めるのに少しでも不安があるのであれば、グラディアトル法律事務所にお任せください。
当事務所では、残業代請求に関する豊富な経験と知識を有する弁護士が多数在籍していますので、残業許可制での未払い残業請求の事案であっても適切に対応することが可能です。労働者側が希望を実現できるよう最後まで全力でサポートしますので、まずは当事務所までご相談ください。
まとめ
残業許可制の会社では、会社の承認を得てから残業をするのが基本となりますが、例外的に承認を得ずに行った残業であっても残業代を請求できる可能性があります。残業代請求が可能であるかどうかは、専門家である弁護士の判断が必要となりますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
残業許可制の会社で無許可の残業についての残業代請求をお考えの方は、経験と実績が豊富なグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。