「残業代が未払いだと会社はどのような罰則を受けるのだろうか?」
「会社が残業代未払いを理由とした罰則を受けるにあたって、労働者としてすべきことはある?」
「残業代未払いは労基署と弁護士のどちらに相談したらよいのだろうか?」
残業代の未払いは、労働基準法違反となりますので、残業代を正しく支払わない会社に対しては、労働基準監督署による立入検査や行政指導の対象となります。
また、行政指導に従わない会社に対しては、罰則が適用される可能性もあります。
悪質な会社に対して罰則の適用を望む場合には、労働基準監督署に申告することになりますが、未払い残業代の支払いを受けたいのであれば、弁護士に相談することも必要です。
本記事では、
・残業代未払いにより会社が受ける罰則
・残業代未払いで生じる罰則以外のリスク
・残業代未払いで会社が罰則を受けるまでの流れ
などについてわかりやすく解説します。
未払い残業代の回収に向けた対応についても説明していますので、残業代を取り戻す際の参考にしてみてください。
目次
残業代未払いによる罰則
残業代の未払いがあった場合に、会社やその代表者などが受ける罰則としては、主に以下の3つが挙げられます。
時間外、休日および深夜の割増賃金の不払い
時間外労働とは、1日8時間・1週40時間を超えて働くことをいいます。
休日労働とは、1週間に1回または4週を通じて4日以上付与することが義務付けられている法定休日に働くことをいいます。
深夜労働とは、午後10時から翌午前5時までの深夜時間帯に働くことをいいます。
このような時間外、休日、深夜労働をした場合には、以下の割増率により増額した割増賃金の支払いが義務付けられています。
・時間外労働……25%以上
・休日労働……35%以上
・深夜労働……25%以上
会社がこのような割増賃金の支払い義務に違反した場合には、労働基準法違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。
36協定の締結・届出義務違反
労働者に対して法定労働時間を超えた残業をさせるためには、労働組合または労働者の過半数代表者との間で36協定を締結し、それを労働基準監督署に届け出なければなりません。
36協定とは、法定労働時間を超えた残業や法定休日労働をさせる場合に必要になる労使協定で、労働基準法36条に基づく協定であることから「36(さぶろく)協定」と呼ばれています。
36協定の締結または届出義務に違反した場合には、労働基準法違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。
残業時間の上限規制違反
36協定の締結・届出をすれば、労働者に残業を命じることが可能になりますが、無制限に残業をさせられるわけではありません。
残業時間には、月45時間・年360時間という上限が設けられていますので、このような上限規制に違反すると罰則が適用されます。
ただし、臨時的な特別な事情がある場合には、月45時間・年360時間という上限を超えて残業を命じることが可能ですが、その場合でも年720時間、月100時間未満、複数月平均80時間が限度となります。
このような残業時間の上限規制に違反した場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。
残業代未払いにより罰則適用された実際の事例
厚生労働省では、労働基準関係法令違反により送検された企業を公表しています。そのうち、残業代未払いなどにより送検された主な事案としては、以下のものがあります。
このように残業代未払いや36協定締結・届出義務違反は、全国各地の事業所で発生しています。悪質な残業代未払いの事案については、送検され、刑事事件として罰則が適用される可能性がありますので、残業代未払いで苦しむ労働者の方は、労働基準監督署への申告を検討してみてもよいかもしれません。
残業代未払いで生じる罰則以外の会社へのダメージ
残業代未払いがあった場合には、労働基準法違反による罰則だけでなく、以下のようなリスクが生じる可能性もあります。
多くの労働者による未払い残業代請求
残業代未払いで罰則を受けるとなると、事前に会社に労働基準監督署の調査が入ることになるため、多くの従業員がその事実を知ることになるでしょう。その事実を知った従業員が取る行動となれば未払い残業代の請求です。労働基準法違反による罰金を支払ったとしても、それはあくまでも刑事罰に過ぎませんので、罰金の支払いにより民事上の残業代の支払い義務がなくなるわけではありません。多くの従業員からの残業代請求は、会社の財務状況に大きなダメージを与える可能性があります。
裁判所による付加金の支払い命令
会社との話し合いで未払い残業代の問題が解決できない場合、労働者としては、未払い残業代の支払いを求めて裁判所に訴えを提起することになります。十分な証拠があれば、残業代の支払いを命じてもらうことができますが、裁判になると、未払い残業代に加えて、付加金の支払いを命じてもらえる可能性があります。
付加金とは、会社が労働者に残業代などを支払っていない場合に、裁判所がその金額と同一額の支払いを命じることができる制度です。簡単に言えば、残業代未払いをする悪質な会社への制裁措置といえます。
裁判で付加金が認められると、会社は残業代の支払いだけでなく付加金の支払いもしなければなりませんので、大きなダメージを与えることができます。
会社の社会的信用性の低下
労働者に対して適正な残業代の支払いをしていなかったことが、外部に公表されれば、顧客や取引先からブラック企業とのレッテルを貼られて、会社の社会的信用性は大きく低下します。これまで築き上げてきたものが一瞬にして失われてしまいますので、会社にとっては大きなダメージとなるでしょう。
取引先から取引を打ち切られてしまう、優秀な人材が流出してしまう、新規採用が困難になるなどの重大なダメージを避けるために、労働者からの残業代請求に応じてくれる可能性もあります。
残業代未払いで会社が罰則を受けるまでの流れ
残業代の未払いがあった会社が罰則を受ける流れは、以下のようになっています。
残業代未払いに関する証拠を集める
残業代未払いを理由とする罰則を科して欲しいときは、労働者から労働基準監督署に申告するに必要があります。残業代未払いに関する証拠収集は、労働基準監督署による調査でも行いますが、相談時にある程度残業代未払いに関する証拠がそろっていれば、労働基準監督署も動きやすいといえます。
そのため、労働基準監督署に申告する前提として、労働者自身でも未払い残業代に関する証拠を集めておくとよいでしょう。
なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
労働基準監督署に申告する
労働基準監督署への相談方法には、主に以下の3つの方法があります。
・面談相談
・電話相談
・メールでの情報提供
このうち電話相談では、残業代未払い問題の解決に向けた一般的なアドバイスをしてくれますが、労働基準監督署に動いてもらうことは期待できません。また、メールでの情報提供は、相談ではなく情報提供にすぎませんので、具体的な回答を得ることはできず、参考情報としか扱われません。
そのため、会社に対する罰則の適用を望むのであれば、未払い残業代に関する証拠を持参して、労働基準監督署に赴き、面談相談を行うとよいでしょう。
労働基準監督署による調査
労働者からの申告の結果、労働基準法違反が疑われる事案では、労働基準監督署による調査が行われます。事業所への調査を実施する場合には、以下のような流れで調査が行われます。
・労働関係帳簿の確認
・事業主や責任者へのヒアリング
・事業場への立ち入り調査および労働者へのヒアリング
・口頭での改善指示または指導
残業代が未払いになっている場合には、労働基準監督署による調査により明らかになるでしょう。
残業代未払いに対する是正勧告
調査の結果、残業代の未払いが明らかになった場合、労働基準監督署から事業主に対して、「是正勧告書」が交付されます。
是正勧告書の交付を受けた事業主は、期日までの指摘された違反内容を改善した上で、「是正(改善)報告書」の提出をしなければなりません。
司法処分(送検・起訴)
労働基準監督官には、司法警察員として労働基準法違反の事案について捜査する権限が与えられています。調査の結果、労働基準法違反の事実が確認され、違反の内容および程度が重大・悪質である場合や事業主が行政指導に従わない事案については、労働基準監督官により送検されることもあります。
検察官は、証拠関係を踏まえて、起訴または不起訴の判断を行います。起訴となった場合には、刑事裁判により罰則が科されることになります。
未払い残業代の問題を労基署ではなく弁護士に相談すべき4つの理由
残業代の未払いが生じたときは、労働基準監督署に申告することで、会社に罰則を科すことが期待できます。しかし、それだけでは未払い残業代の問題を解決できませんので、残業代の未払いの問題は、弁護士に相談するのがおすすめです。
労基署では未払い残業代の回収はしてくれない
労基署で残業代が未払いになっている旨の申告をすれば、調査や是正勧告などを行ってくれます。しかし、労基署による是正勧告には強制力がありませんので、会社が是正勧告を受けたとしても、それに応じて残業代を支払ってくれるとは限りません。
会社が任意に残業代を支払わない場合には、それ以上労基署では対応できませんので、労基署への相談だけでは、残業代の回収までは期待できません。
弁護士であれば、未払い残業代の回収に向けてサポートすることができますので、残業代を回収できる可能性が高くなるでしょう。
証拠収集や残業代計算をサポートできる
会社に対して残業代を請求するためには、労働者側で未払い残業代に関する証拠を集め、未払い残業代の計算をしなければなりません。
しかし、知識や経験がない一般の労働者では、どのような証拠が必要になるのか、どのような方法で残業代を計算すればよいのか判断できません。弁護士に相談をすれば、残業代請求に必要となる証拠収集や残業代計算をサポートしてもらうことができますので、初めての残業代請求でも不安なく進めることができます。
会社との交渉を任せられる
労働者の代理人として会社と未払い残業代の交渉をすることができるのは弁護士だけです。
労働基準監督署に相談しても、実際に交渉をするのは労働者自身ですので、大きな負担となります。会社との交渉をすることが負担に感じるときは、専門家である弁護士に交渉を委ねてみるとよいでしょう。
労働審判や訴訟にも対応できる
会社との交渉が決裂したときは、裁判所に労働審判の申立てや訴訟の提起が必要になります。このような法的手続きは、専門的な知識や経験がなければ適切に対応することができません。よくわからない状態では、本来勝てるはずの裁判にも負けてしまうリスクがありますので、自分だけで対応するのはリスクが大きいといえます。
敗訴のリスクを少しでも減らすためには、専門家である弁護士のサポートが不可欠ですので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
残業代未払いの問題はグラディアトル法律事務所に相談を
残業代未払いの問題を依頼する弁護士は、弁護士であれば誰でもよいというわけではありません。弁護士によって得意とする分野が異なりますので、残業代未払いの問題については、残業代請求に強い弁護士に相談することが重要です。
グラディアトル法律事務所では、これまで数多くの残業代請求事案を取り扱ってきた豊富な実績と経験があります。残業代請求に必要となる証拠収集の方法や会社側の違法な手口などを熟知していますので、迅速かつ適切に残業代の問題を解決に導くことができます。
残業代に関する相談については、相談料無料、着手金0円から対応していますので、残業代請求をお考えの方は、グラディアトル法律事務所までご相談ください。
まとめ
会社による残業代未払いがあった場合、労働基準法違反となりますので、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が適用されます。
もっとも、労働者が関心を有するのは、会社が罰せられるかどうかではなく会社から未払い残業代が支払われるかという点です。労働基準監督署への相談だけでは、未払い残業代の回収はできませんので、未払い残業代の回収を希望するなら弁護士への相談が必要です。
会社に対して残業代請求をお考えの方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。