ブラックな運送会社を見極める5つのポイントと残業代請求の方法を解説

ブラックな運送業を見極める5つのポイントとっ残業代請求の方法を解説
弁護士 若林翔
2024年07月22日更新

「運送業でトラック運転手をしているが、勤めている会社がブラックかもしれない」

「運送業でブラックと言われることが多いのはなぜ?」

「ブラックな運送会社を見極めるポイントが知りたい」

運送業というと労働時間が長く、給料が安いなどの理由でブラックなイメージを持たれる方もいるかもしれません。すべての運送業がブラックというわけではありませんが、残業をしても残業代が支払われないブラック企業が存在するのも実情です。このようなブラックな運送業で働く方は、「ブラックだから仕方ない」と諦めるのではなく、会社に対してしっかりと残業代請求を行っていくようにしましょう。

本記事では、

・運送業がブラックになりやすい4つの要因

・ブラックな運送会社を見極める5つのポイント

・ブラックな運送会社に対する残業代請求の方法

などについてわかりやすく解説します。

ブラック企業に対して残業代請求をしても、会社側は簡単には応じてくれませんので、まずは残業代請求に強い弁護士に相談するのがおすすめです。

運送業はブラック?運送業の労働実態

厚生労働省が公表している「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、運送業(道路貨物運送業)の労働時間および残業時間の実態は、以下のようになっています。

運送業の労働時間および残業時間の実態
これに対して、産業計の労働時間および残業時間の実態は、以下のようになっています。

産業計の労働時間および残業時間の実態

運送業と産業計の残業時間を比較すると、運送業の残業時間の方が圧倒的に多いことがわかります。このような統計結果からみてもわかるように、運送業は、他の業種よりも残業時間の長い業種であるといえるでしょう。

運送業がブラックになりやすい4つの要因

運送業がブラックになりやすい4つの要因

運送業がブラックと言われるのは、主に以下の4つの要因があるからです。

労働時間が長い

上記の統計結果からもわかるように、運送業は、労働時間が長い業種であるといえます。

運送業では、所定労働時間のほかにも残業時間や荷待ち時間などが発生しますので、拘束時間は非常に長くなります。仕事がある日は、仕事を終えて帰宅すると肉体的にも精神的にも疲労困憊で、プライベートの時間を楽しむ余裕もありません。

深夜労働が多い

運送業のなかでも長距離トラックの運転手は、渋滞を避けるためであったり、荷物の搬入先の営業時間までに荷物を届ける必要があるなどの理由から深夜の運転が当たり前の環境になっています。

拘束時間が長く、深夜労働が多い不規則な勤務形態だと、体調を崩すことも多くなるため、心身への負担が非常に大きい仕事といえます。このような深夜労働が多いということも運送業がブラックと呼ばれる要因の一つです。

慢性的な人手不足

運送業では、慢性的な人手不足に悩まされています。十分な人員が確保できていない会社では、労働者一人当たりの負担も大きくなりますので、過酷な長時間労働を強いられる可能性もあります。

特にブラック企業では、人員の入れ替わりも激しいため、新人であっても十分な教育訓練を受けることなく過大な仕事を任せられてしまうでしょう。

給料が安い

運送業は、全産業と比較しても給料が安い傾向があります。拘束時間が長く、仕事内容も過酷であるにもかかわらず、それに見合う給料がもらえていないと感じる労働者が多いことも、運送業がブラックと呼ばれる要因の一つといえるでしょう。

ブラックな運送会社を見極める5つのポイント

ブラックな運送会社を見極める5つのポイント

現在勤めている運送会社がブラック企業であるかを判断するためのポイントとしては、以下の5つが挙げられます。どれか一つでも当てはまるようであれば、ブラック企業である可能性があります。

残業をしても残業代が支払われない

ブラック企業の特徴として、残業をしても残業代が支払われないという点が挙げられます。

労働基準法では、1日8時間・1週40時間を超えて働いた場合には、残業代が発生すると定められています。このように残業代を請求する権利は、労働者に法律上認められた当然の権利ですので、どんな理由があろうと会社側が勝手にそれを奪うことは認められません。

さまざまな理由を付けて残業代を支払おうとしない会社は、ブラック企業である可能性が高いでしょう。

荷待ち時間に対して残業代が支払われない

運送業では、荷物を運搬する時間以外にも荷待ち時間が発生します。荷待ち時間とは、荷物の積み降ろしのために荷主や物流施設などで待機する時間をいいます。荷待ち時間は、実際に作業をしている時間ではないため、会社によっては荷待ち時間を労働時間として扱わず賃金の支払い対象外とすることがあります。

しかし、荷待ち時間であっても、指示があればすぐに対応できるよう待機していなければならず、その時間を自由に使うことは認められていません。このような荷待ち時間は、使用者の指揮命令下に置かれている時間と評価できますので、本来は労働時間に含めなければなりません。

荷待ち時間を労働時間から除外している会社は、違法な賃金不払いをしていることになりますので、ブラック企業といえるでしょう。

なお、労働時間と休憩時間のルールについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

労働時間と休憩のルールとは?法律の規定と違法な休憩の対処法

長時間のみなし残業がある

みなし残業とは、あらかじめ一定時間の残業を想定したみなし残業代を支払う制度です。長時間労働の多い運送業では、みなし残業制度が導入されているところも多いでしょう。

みなし残業時間を設定すること自体は違法ではありませんが、長時間のみなし労働時間が設定されている場合には、ブラック企業である可能性があります。

法律上の残業時間の上限は、月45時間とされており、毎月の平均残業時間が80時間を超えると過労死のリスクが高くなります。そのため、残業時間の上限である月45時間を超えるみなし残業時間が設定されている会社は、ブラック企業といえるでしょう。

なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

みなし残業代(固定残業代)に追加の残業代を請求できる6つのケース

歩合給制を理由として残業代が支払われない

運送業で働くトラック運転手は、一般的な月給制ではなく、歩合給制により働いている方も少なくありません。歩合給制には、主に以下の2つの制度があります。

・固定給+歩合給(インセンティブ)

・完全歩合給制(フルコミッション)

このうち完全歩合給制は、労働基準法により保障された出来高払いの保障給の支払いがないため基本的には違法なります。また、歩合給制であっても残業代は発生しますので、歩合給制を理由に残業代の支払いをしないのも違法となります。

このような違法な歩合給制の運用をしている会社は、ブラック企業といえるでしょう。

なお、歩合給制と残業代請求の関係の詳細については、以下の記事をご参照ください。

歩合給でも残業代を請求できる!計算方法や残業代請求の流れを解説

雇用契約ではなく業務委託契約で採用する

運送会社によっては、トラック運転手を雇用契約ではなく、業務委託契約で採用することもあります。業務委託契約で採用すること自体は違法ではありませんが、実態が雇用契約と変わらないにもかかわらず、契約の名称だけで業務委託契約と扱うのは違法となります。

このような会社では本来支払うべきである残業代の支払いを行っていませんので、違法なブラック企業になります。

なお、労働者と業務委託の判断基準についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

労働者性とは?労働者と業務委託の判断基準をチェックリストで確認

ブラックな運送会社に対する残業代請求の方法

ブラックな運送会社に対する残業代請求の方法

ブラックな運送会社に対する残業代請求は、以下のような方法で行います。

内容証明郵便の送付

残業代請求は、まずは内容証明郵便を利用して未払い残業代の支払いを求める書面を送ります。

内容証明郵便とは、以下の事項を日本郵便株式会社が証明してくれる形式の郵便です。

・差し出した日付

・差出人の住所、氏名

・受取人の住所、氏名

・文書に書かれた内容

内容証明郵便を利用する理由は、残業代を請求したという証拠を残しておくためです。残業代を請求することを法律上の「催告」と呼び、時効の完成を6か月間猶予する効果があります。後日会社から「残業代請求なんてされていない」といった反論がなされても対応できるように、必ず内容証明郵便で残業代請求を行うようにしましょう。

なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

残業代の時効は3年!時効を阻止する方法と残業代請求の流れを解説

会社との交渉

残業代を請求する内容証明が届いたら、会社の労務管理責任者または経営者と残業代に関する交渉を行います。会社が未払い残業代の存在を認めているのであれば、金額・支払い方法・支払時期などの条件面の話し合いを進めていくことになります。

しかし、未払い残業代の存在を否定しているようであれば、労働者側で証拠に基づいて残業代が未払いになっていることを立証していかなければなりません。そのため、未払い残業代の計算根拠となって証拠を提示しながら、会社との話し合いを進めていきましょう。

労働審判の申立て

会社との話し合いが決裂したときは、労働審判の申立てを行います。

労働審判は、裁判官1名と労働審判員2名からなる労働審判委員会が実態に即して迅速かつ適正に労働問題の解決を図る裁判所の手続きです。裁判に比べると解決までの期間が大幅に短いため、裁判手続きを利用する前に労働審判の手続きを利用してみてもよいでしょう。

ただし、労働審判に対する異議申し立てがあったときは、労働審判の効力が失われて、通常の民事訴訟の手続きに移行することになります。

なお、労働審判で残業代請求をする流れについては、以下の記事をご参照ください

労働審判で残業代請求をする流れ・費用・期間などをわかりやすく解説

訴訟の提起

会社との交渉が決裂した場合または労働審判に対して異議申し立てがあった場合には、最終的に訴訟により未払い残業代の問題の解決を図ります。

訴訟では、裁判所が証拠により未払い残業代の有無および金額の認定が行いますので、労働者側で未払い残業代の存在などを主張立証していかなければなりません。訴訟手続きは、専門的かつ複雑な手続きになりますので、労働者個人ではなく専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくのがおすすめです。

なお、裁判で残業代請求をする流れについては、以下の記事をご参照ください。

裁判で残業代請求をすべき5つのケースと裁判の流れ・期間・費用

運送業で残業代請求の証拠になるものとは?

運送会社に対する残業代請求を成功させるには、証拠が重要になります。証拠がなければ残業代を支払ってもらうのは困難ですので、まずは十分な証拠を集めるようにしましょう。

残業に関する証拠としては、残業代の未払いを立証するための証拠と残業時間を立証するための証拠の2つがあります。

【残業代の未払いを立証するための証拠】

・雇用契約書

・就業規則

・賃金規程

・給与明細

・賃金台帳

【残業時間を立証するための証拠】

・タイムカード

・タコグラフ

・業務日報

・運転日報

・ETCカードの利用履歴

・ドライブレコーダーの映像

・残業時間を記載した手書きのメモ

なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

タイムカードないけど残業代もらえる!あれば役に立つ証拠16選!

運送業の残業代請求が認められた裁判例

運送業の残業代請求が認められた裁判例

以下では、運送業の残業代請求が認められた裁判例を紹介します。

最高裁令和5年3月10日判決

【事案の概要】

Xは、運送会社Y社に雇用され、トラック運転手として勤務していました。

Y社ではもともと日々の業務内容等に応じて月ごとの賃金総額が決められ、その賃金総額から基本給と基本歩合給を差し引いた金額が時間外手当となるという給与体系になっていました(旧給与体系)。

しかし、労基署からの指導を受けたことをきっかけに、給与体系を以下のように変更することになりました(新給与体系)。

支払われる給与は、①基本給、②基本歩合給、③勤続手当、④残業手当、深夜割増手当、休日割増手当、⑤調整手当の5つ。なお、便宜上、各項目を以下のように呼ぶこととします。

・①+②+③:「基本給等」

・④:「本件残業代」

・④+⑤:「本件割増賃金」

しかし、Xに支払われる月ごとの賃金総額は、新給与体系に変更後も日々の業務内容に応じて決められていたため、新給与体系の下でも、Xの総労働時間や実際に支払われた賃金総額は、旧給与体系のときとほとんど変わりませんでした。

Xは、新給与体系では労基法37条の割増賃金が支払われたとはいえないと主張し、未払い残業代の支払いを求めて訴えを提起しました。

【裁判所の判断】

裁判所は、以下のような理由から、本件ではY社による残業代の支払いでは労基法37条の割増賃金の支払いがなされたとはいえないと判断しました。

・新給与体系は、その実質において、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される賃金総額を超えて労働基準法37条の割増賃金が生じないようにすべく、旧給与体系の下においては通常の労働時間の賃金に当たる基本歩合給として支払われていた賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であるというべきである。そうすると、本件割増賃金は、その一部に時間外労働等に対する対価として支払われているものを含むとしても、通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分をも相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。

・本件割増賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかが明確になっているといった事情もうかがわれない以上、本件割増賃金につき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないことになるから、Y社のXに対する本件割増賃金の支払により、同条の割増賃金が支払われたものということはできない。

東京地裁令和5年12月20日判決

【事案の概要】

Xは、運送業を営むYに雇用され、トラック運送業務に従事していました。

Xは、高速道路の使用区間の制限違反、スピード制限の順守違反、あおり運転などを理由にYから解雇されたため、解雇無効と未払い残業代の支払いを求めて訴えを提起しました。

【裁判所の判断】

裁判では、Yから毎月6500円または7000円のみなし残業代が支払われていた旨の主張がなされたため、その有効性が争点となりました。

裁判所は、みなし残業代の金額を定めた契約書が作成されていないこと、通常の労働時間の賃金にあたる部分と割増賃金にあたる部分とを判別することができないことを理由に、Yが主張するみなし残業代は、時間外労働に対する対価としては認められないと判断しました。

その結果、裁判所はYに対して約577万円の残業代の支払いを命じました。

大阪地裁令和6年4月12日判決

【事案の概要】

Xらは、一般貨物自動車運送事業などを事業内容とするY社に雇用され、貨物自動車の運転手として勤務していました。Xらは、Y社から適正な残業代が支払われていないとして、未払い残業代の支払いを求めて訴えを提起しました。

【裁判所の判断】

裁判では、YがXらに対して支払っていた「残業手当保障」、「深夜手当」、「夏季・冬季の賞与」が割増賃金として支払われたものにあたるかが争点になりました。

これについて裁判所は、以下のように判断しています。

①残業手当保障

残業手当保障は、固定残業代として導入しようとしたものと考えられるが、Y社での残業手当保障は、基本賃金の減額をもたらすという点で労働条件の不利益変更にあたる。労働条件の不利益変更にあたっては労働者の個別の同意が必要であるところ、Xらの自由な意思に基づく同意があったとは認められない。

そのため、残業手当保障は、割増賃金として支払われたものではない。

②深夜手当

深夜手当は、中距離運行や長距離運行といった距離の長い運行に伴う運転者の心身の負担に報いる趣旨で支給されていたものと認められる。そのため、深夜手当は、割増賃金の対価としての性質を有するとはいえないため、割増賃金として支払われたものではない。

③夏季・冬季の賞与

夏季・冬季の賞与が未払い割増賃金の精算の趣旨で支払われたと認めるに足りる証拠はなく、割増賃金として支払われたものとはいえない。

以上を踏まえて、裁判所は、Xらの残業代としてY社に対して、約1300万円の支払いを命じました。

ブラックな運送業者への残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

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グラディアトル法律事務所では残業代トラブルの豊富な実績と経験がある

ブラック企業に対する残業代請求は、労働者個人では簡単には応じてもらうことができませんので、弁護士に依頼して対応してもらう必要があります。その際には、弁護士であれば誰でもよいというわけではなく、残業代請求に強い弁護士を選ぶのが重要なポイントになります。

グラディアトル法律事務所は、これまで多数の残業代トラブルを解決に導いた実績と経験がありますので、残業代トラブルに強い事務所といえます。ブラック企業が相手になるケースでも、法的観点から毅然とした態度で労働者側の希望を伝え、正当な権利の実現を目指すことができますので、残業代の未払いでお困りの方は、まずは当事務所までご相談ください。

初回相談料無料、着手金0円から対応可能

弁護士に相談・依頼をしようと思っても経済的な不安から相談・依頼を躊躇してしまう方も少なくありません。初めて弁護士に相談するという方は「高額な弁護士費用をとられるのではないか」、「どのような費用がかかるかわからない」などの不安があるため、なかなか弁護士に相談に行くことができません。

グラディアトル法律事務所では、そのような不安を解消するために、残業代に関する相談については、初回相談料無料で対応しています。また、実際に弁護士に依頼することになった場合の着手金についても0円から対応していますので、経済的な負担なく弁護士に依頼することが可能です。

事件が解決したときは実際に支払われた残業代から報酬金をいただくことになりますので、手元のお金が減るという心配もありません。

まとめ

運送業は、長時間労働が当たり前で残業をしても残業代が支払われないなどの理由からブラックであるという認識を持たれる方も少なくありません。すべての運送業がブラックというわけではありませんが、少なくとも残業代が支払われない状況が続いている場合には、ブラック企業である可能性が高いでしょう。

そのようなブラックな運送業で働いている方は、弁護士のサポートにより未払い残業代を取り戻せる可能性があります。残業代を取り戻したいという方は、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。






弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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