裁量労働制のSEも残業代請求可能!違法な5つの手口を弁護士が解説

裁量労働制のSEも残業代請求可能!違法な5つの手口を弁護士が解説

「SEの仕事は残業が多くてきつい」

「納期に間に合わせるために無理してでも残業をしなければならない」

「適切な残業代が支払われているのか疑問がある」

SE(システムエンジニア)は、仕事の性質上、残業が多くなる傾向があります。IT業界全体にいえることですが、タイトな納期、クライアントからの急な仕様変更、人手不足などが原因で毎月長時間の残業を強いられている方も少なくありません。

残業時間が長時間になれば、当然残業代も高額になりますが、会社は、さまざまな理由をつけて残業代を支払ってくれないことがあります

残業代を請求するのは、労働者であるSEの権利ですので、未払い残業代がある場合にはしっかりと対応してくことが大切です。

本記事では、

・SEの残業時間が長くなる4つの要因

・裁量労働制と残業代との関係

・企業側がSEの残業代を不払いとする違法な5つの手口

などについてわかりやすく解説します。

会社の違法な言い分に対して対抗していくには法的知識が不可欠となりますので、まずは弁護士に相談するようにしましょう。

SEの残業時間が長くなる4つの要因

SEの残業時間が長くなる要因としては、以下の4つが考えられます。

SEの残業時間が長くなる4つの要因

タイトな納期とスケジュール

SEの業務は、クライアントから設定された納期を厳守しなければなりません。余裕のある納期が設定されていれば、残業をせずに対応することができますが、実際には、非常にタイトな納期が設定されているケースが多いです。

特に開発系のSEだとプロジェクトの進捗の遅れを取り戻すために、納期直前には長時間の残業を余儀なくされることも少なくありません。

クライアントからの急な仕様変更

SEの仕事は、基本計画の段階で契約を締結するケースが多く、契約段階で完全な仕様が固まっていることは少ないです。そのため、プロジェクトが進行中にクライアントから仕様変更が入ることも日常茶飯事といえます。

開発が終盤に差し掛かる段階で、突然大規模な仕様変更があるとそれに対応するために、残業が必要になります。クライアントの意向には逆らうことができませんので、無理な要望でも対応せざるを得ないのが実情です。

SE業界全体の人手不足

SE業界全体では、深刻な人材不足に悩まされており、十分なSEを確保できていない企業も少なくありません。SEの人手が足りていない企業では、当然SE一人当たりの仕事量も多くなるため、通常の業務時間内では処理できず、残業になることもあるようです。

特に、下請企業になると低予算で現場を回さなければなりませんので、SEの負担は非常に大きなものとなります。

残業は当たり前という体質

SEが働くIT業界では、残業が当たり前という体質があります。そのような体質の中で働いていた人が職場の経営者や上司になっていると、残業を前提とした働き方を求められてしまいます。

IT業界のすべてがそのような体質というわけではありませんが、上に立つ人間の考え方次第で、SEの働き方が大きく変わってしまうでしょう。

裁量労働制のSEであっても残業代を請求できる可能性がある

SEに裁量労働制が適用される場合は、原則として残業代は発生しません。しかし、裁量労働制でも例外的に残業代を請求できるケースもありますので、すぐに諦めるのではなく、例外的なケースに該当するかをチェックすることが大切です。

裁量労働制とは

専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、業務遂行の手段・方法、時間配分などを労働者の裁量に委ねる必要がある20の対象業務について、実際の労働時間とは関係なく、あらかじめ定めた時間を労働時間とみなす制度です。

専門業務型裁量労働制の対象となる業務は、厚生労働省令および厚生労働大臣が告示する20の業務に限って認められます。SEが該当する可能性があるのは、「情報処理システムの分析又は設計の業務」です。

そのため、会社によってはSEに裁量労働制を適用して、残業代の支払いを不要としているところもあるようです。

なお、裁量労働制と残業代請求についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

裁量労働制でもSEが残業代請求できる5つのケース

裁量労働制でもSEが残業代請求できる5つのケース

裁量労働制で働くSEであっても、以下のようなケースに該当する場合には、例外的に残業代を請求できる可能性があります。

【裁量労働制の対象業務に該当しない】

SEという肩書で働く労働者がすべて裁量労働制の対象になるわけではありません。裁量労働制の適用対象業務である「情報処理システムの分析又は設計の業務」は、以下のような業務を指します。

・ニーズの把握、ユーザーの業務分析などに基づいた最適な業務処理方法の決定およびその方法に適合する機種の選定

・入出力設計、処理手順の設計などアプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定など

・システム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善などの業務

プログラムの設計または作成を行うプログラマーは、裁量の乏しい業務といえますので、SEと呼ばれていたとしても、裁量労働制を適用することはできません。

【労使協定の締結・届出がない】

裁量労働制を導入するには、使用者と過半数労働組合または過半数代表者との間で労使協定を締結して、それを労働基準監督署長に届け出なければなりません。

会社とSEとの雇用契約で裁量労働制を定めただけでは、裁量労働制が適用されませんので、このような場合は会社に対して残業代請求が可能です。

【裁量労働制に関して労働者の同意がない

裁量労働制を導入するためには、就業規則にその旨が記載されているだけでは足りず、必ず労働者本人から個別の同意を得る必要があります。

会社から裁量労働制導入にあたって同意を求められた記憶がない場合には、違法な裁量労働制である可能性がありますので、同意の有無について確認してみるとよいでしょう。

実労働時間とみなし労働時間がかけ離れている

裁量労働制を導入すればSEを残業させ放題になるわけではありません。実労働時間とみなし労働時間があまりにもかけ離れているような場合は、裁量労働制の適用が違法となります。

みなし労働時間が法定労働時間を上回っている

裁量労働制を適用する際に定められたみなし労働時間が法定労働時間を上回っている場合は、みなし労働時間に残業が含まれていますので、その時間に応じた残業代を請求することができます。

企業側がSEの残業代を不払いとする違法な5つの手口

企業側がSEの残業代を不払いとする違法な5つの手口

残業の多いSEに対する残業代を少しでも減らそうという目的で、以下のような違法な手口により残業代を不払いにする企業もあります。

サービス残業を強いる

違法な残業代不払いをするブラック企業では、タイムカードを定時に打刻させ、それ以降の時間帯も当然のように働かせることがあります。これは、残業をしていたという証拠を残さないようにするためのものであり、当然に違法な扱いとなります。

サービス残業を強いられているSEは、残業時間に応じた残業代を請求できる権利がありますので、しっかりと請求していくようにしましょう。

固定残業代制を悪用する

固定残業代制度とは、一定時間分の残業代をあらかじめ給料に含めて支払う制度をいいます。残業の多いSEでは、固定残業代制を導入しているところも多いでしょう。

固定残業代制は、実際の残業時間がみなし残業時間に満たなかったとしても満額の固定残業代の支払いを受けられるという点では労働者にもメリットのある制度です。しかし、固定残業代制が導入されていたとしても、みなし残業時間を超えて残業をしたときは、固定残業代とは別途残業代の支払いが必要になります。

企業によってはこの固定残業代制を悪用して、固定残業代以外一切残業代を支払わないという扱いをすることがありますので、当然このような扱いは違法となります。

なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

名ばかり管理職として扱う

課長やマネージャーなどの役職が与えられているSEは、管理職であることを理由に残業代が支払われないことがあります。

労働基準法では、経営者と一体的な立場にある人のことを「管理監督者」と定め、残業代の支払いを不要としています。しかし、管理監督者と一般的な管理職は、同義ではなく管理職であっても管理監督者に該当しないケースも多く存在します。

このような名ばかり管理職として働くSEは、会社に対して残業代を請求することが可能です。

なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事をご参照ください。

年俸制を理由に残業代を支払わない

年俸制とは、年間の給与総額を決定し、その金額を分割して毎月支払う制度ですので、会社からは、「年俸制は給与総額がきまっているから、残業代は出ない」などと説明されることがあります。このような年俸制は、IT業界でよく採用されていますが、年俸制だからといって残業代の支払いが不要になるわけではありません。

年俸制で働くSEであっても残業をすればその時間に応じた残業代を請求する権利がありますので、しっかりと請求していきましょう。

なお、年俸制でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

労働者ではなく業務委託として扱う

SEとして採用された方の中には、会社との雇用契約ではなく業務委託という形式で働いている方もいるかもしれません。

残業代を請求できるのは、労働基準法上の労働者に限られますので、フリーランスとして働くSEの方は残業をしたとしても残業代を請求することはできません。しかし、労働者であるかフリーランスであるかは、契約の名称ではなく実態に即して判断しなければなりません。そのため、実態が労働者と変わらないフリーランスのSEの方は、労働基準法上の「労働者」に該当し、会社に対して残業代を請求できる可能性があります。

なお、労働者と業務委託の判断基準についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

SEが会社に対して未払い残業代を請求する手順

SEが会社に対して未払い残業代を請求する手順

SEが会社に対して残業代を請求する場合、以下のような手順で行います。

内容証明郵便の送付

SEが会社に対して残業代請求をする場合、まずは内容証明郵便を利用して未払い残業代の支払いを求める通知書を送付します。

普通郵便だと会社に送付した文書の内容がわかりませんので、会社からは「そのような文書は届いていない」などと言われる可能性があります。しかし、内容証明郵便であれば、文書の内容などを証明することができますので、そのような会社の反論を封じることができます。

また、残業代請求をすることで残業代の時効の完成を6か月間猶予することができますが、内容証明郵便は、時効の完成を阻止する手段としても有効です。

なお、残業代請求の内容証明郵便の書き方と基本的なルールについては、以下の記事をご参照ください。

会社との交渉

内容証明郵便に対する会社の対応を待って、今後の方針を決めていきます。

会社が残業代の支払いに応じる姿勢を示した場合は、残業代の金額、支払方法、支払時期などの詳細の条件を話し合って決めていきます。他方、会社が残業代の支払いを拒否した場合は、証拠を提示するなどして説得を試みますが、それが難しい場合は、労働審判や訴訟といった法的手段を検討する必要があります。

労働審判の申立て

会社が交渉に応じてくれないときは、裁判所に労働審判の申立てを行います。

労働審判とは、労働者と使用者との間で生じた労働問題を実態に即して迅速かつ柔軟に解決する制度です。労働審判は、原則として3回以内の期日で終了することとされていますので、裁判に比べて早期に解決が期待できる手続きといえます。

裁判の前に労働審判の申立てをしなければならないといった決まりはありませんが、会社との話し合いによる解決の余地が残されているのであれば、迅速な解決が可能な労働審判を利用してみてもよいでしょう。

なお、労働審判で残業代請求をする流れについては、以下の記事をご参照ください

訴訟の提起

会社との交渉や労働審判でも解決できないときは、最終的に裁判所に訴訟を提起する必要があります。

訴訟では、当事者からの主張立証に基づいて、裁判官が未払い残業代の有無およびその金額を判断し、判決という形で結論を示してくれます。非常に専門的な手続きとなっていますので、知識や経験に乏しい労働者個人では対応が難しいといえます。そのため、訴訟手続きは、専門家である弁護士に依頼するのがおすすめです。

なお、裁判で残業代請求をする流れについては、以下の記事をご参照ください。

SEが残業代請求をするために必要な証拠

SEが残業代請求をするために必要な証拠

SEが会社に対して残業代を請求するためには、残業代が未払いであることを「証拠」により立証していかなければなりません。証拠は、残業代請求の裁判で勝つために必須のものであるとともに、交渉で会社を説得するためにも欠かせない重要なものになります。

証拠がない状態で残業代請求をしても満足いく結果は得られませんので、十分な証拠を集めてから残業代請求をするようにしましょう。

なお、SEが残業代請求をする際に集めるべき証拠としては、以下のような証拠が挙げられます。

・タイムカード

・勤怠管理システムのデータ

・業務日報

・パソコンのログ履歴

・成果物の作成、変更履歴

・残業時間をまとめた手書きのメモ

SEは、パソコンを利用して業務をすることが多いため、パソコンのログ履歴が残業代請求の重要な証拠となります。ただし、会社からは業務と無関係なパソコン利用があったと主張される可能性もありますので、成果物の作成や変更履歴も残しておくとよいでしょう。

なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

SEの残業代請求が認められた裁判例

SEの残業代請求が認められた裁判例

以下では、SEの残業代請求が認められた裁判例を紹介します。

京都地裁平成23年10月31日判決

【事案の概要】

Xは、コンピューターシステムおよびプログラムの企画、設計、開発、販売、受託などを主な業務とするY社との間で雇用契約を締結し、システム開発・分析とプログラミングを担当していました。

Y社は、裁量労働制の適用および管理監督者であることを理由にXの残業代請求を拒んだため、納得できないXが裁判所に訴えを提起しました。

【裁判所の判断】

裁判所は、裁量労働制の適用および管理監督者の適用の有無について、以下のように判断して、Y社に対して残業代の支払いを命じました。

①裁量労働制の適用の有無

裁判所は、以下のような理由からXの業務は、「情報処理システムの分析又は設計の業務」とはいえず、専門業務型裁量労働制の要件を満たしているとは認められない(=残業代請求を認める)としました。

・本来プログラムの分析又は設計業務について裁量労働制が許容されるのは、システム設計というものが、システム全体を設計する技術者にとって、どこから手をつけ、どのように進行させるのかにつき裁量性が認められるからである

・C社は、下請であるY社に対しシステム設計の一部しか発注していないのであり、しかもその業務につきかなりタイトな納期を設定していたことからすると、下請にて業務に従事する者にとっては、裁量労働制が適用されるべき業務遂行の裁量性は、かなりなくなっていたということができる

・Y社ではXに対して、専門業務型裁量労働制に含まれないプログラミング業務について、未達が生じるほどのノルマを課していた

②管理監督者の適用の有無

裁判所は、以下のような理由からXは労働基準法上の管理監督者に該当しないと判断しました。

・Xは、課長の立場にあり、部下8~9人の監督をする地位にあったものの会社の経営方針については幹部会議に出席して意見を述べることができる程度の立場にあったにとどまり、企業の事業経営に関する重要事項に関与していたとは認められない。

・Xは採用面接に立ち会って採否について意見を述べたことはあるが、従業員の採用権限を有していたとは認められない

役職手当として月額5000円という金額では、到底管理監督者に対する手当としては十分なものとはいえない

大阪地裁平成26年7月25日判決

【事案の概要】

Xは、コンピューターシステムの企画、分析、開発、販売、保守に関する業務などを行うY社との間で雇用契約を締結し、SEとして勤務していました。

Xは、Y社に対して未払い残業代の請求をしたところ、Y社はXが管理監督者に該当することを理由に支払いを拒んだため、裁判所に訴えを提起しました。

【裁判所の判断】

裁判所は、以下のような理由からXは、労働基準法上の管理監督者に該当しないとして、Yに対して残業代の支払いを命じました

・XはITソリューション事業部の部長として、事故が担当するプロジェクトの技術者の確保および協力会社の手配を行う権限を有していたものの、採用や人事評価について最終的な決定権が付与されていたとは認められない

・Xの業務内容は、主にSEとしてプロジェクトチームを組んでシステム開発などを行うというものであり、就業規則で勤務時間が定められていて、実際にも所定の勤務時間にしたがって出勤をしている

SEの残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

SEの残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

会社に対する残業代請求をお考えのSEの方は、グラディアトル法律事務所までご相談ください。

経験豊富な弁護士が残業代請求をサポート

残業が長時間に及ぶSEは、残業代が高額になるため、人件費を少しでも抑えたいと考える企業はさまざまな手口を使って残業代の支払いを拒否してきます。会社からもっともらしい言い分で残業代は支払われない旨伝えられると、納得してしまうSEの方も多いですが、法的には違法な手口であるケースも少なくありません。

このような会社側の違法な手口に対してしっかりと反論していくためには、残業代請求に関する知識や経験が不可欠となりますので、実績と経験豊富なグラディアトル法律事務所までまずはご相談ください。経験豊富な弁護士がSEの残業代請求をしっかりとサポートし、未払い残業代の支払いに向けて尽力いたします。

初回相談料無料、着手金0円から対応

グラディアトル法律事務所では、残業代請求に関する相談は、初回相談料無料で対応しています。相談をしたからといって必ず依頼をしなければならないわけではありませんので、まずはお気軽にご相談にお越しください。

実際に弁護士に依頼することになったときも、着手金は0円から対応していますので、弁護士に依頼するにあたって初期費用はほとんどかかりません。事件が解決したときの報酬金は、会社から回収した残業代の中から支払うことができますので、手持ちのお金は減る心配もありません

まとめ

SEが働くIT業界は、残業の多い業種といわれています。そのような業界で働くSEの方は、会社から適切な残業代が支払われていない可能性がありますので、一度専門家である弁護士に相談してみるとよいでしょう。

実際の残業代が未払いになっているのであれば、弁護士が交渉、労働審判、裁判などの手続きにより未払い残業代を取り戻すことができます。SE個人で対応するのは困難といえますので、早めにグラディアトル法律事務所までご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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