「会社から残業代は30分単位で計算するため、30分未満は残業代が出ないと言われている」
「15分に満たない残業時間が切り捨てられているけど問題ないの?」
「労働時間は何分単位で計算するのだろうか?」
残業時間に応じた残業代が支払われるのは当然のことですが、そもそも、残業代計算の基礎となる労働時間は何分単位で計算すればよいのでしょうか。会社によっては、1時間単位や30分単位で計算し、基準に満たない時間は切り捨てられてしまうことあるようです。
しかし、そのような残業時間の処理は、基本的には違法です。切り捨てられた残業時間がある場合には、未払い残業代の金額も高額になる可能性もありますので、しっかりと請求してくようにしましょう。
本記事では、
- 残業代は何分単位で計算する?
- 例外的に1分単位以外の端数処理が認められるケース
- 残業代を1分単位で計算してもらえないときの対処法
などについてわかりやすく解説します。
目次
残業代計算の基本|残業代は何分単位で計算する?
残業代は、何分単位で計算すべきなのでしょうか。以下では、残業代計算の基本を説明します。
残業代は1分単位で計算するのが原則
残業代は、1分単位で計算するのが原則です。
残業時間を15分単位や30分単位で計算し、それに満たない時間を切り捨てにしている会社も多いです。しかし、このような扱いは、切り捨てられた時間に相当する賃金を支払っていないことになりますので、賃金全額払いの原則を定めた労働基準法24条に違反します。また、残業時間の切り捨てにより割増賃金の支払いがなされていませんので、時間外労働・深夜・休日労働の割増賃金を定めた労働基準法37条にも違反します。
違反した場合の罰則
賃金全額払いの原則を定めた労働基準法24条に違反した場合には、30万円以下の罰金に処せられます。
また、時間外労働・深夜・休日労働の割増賃金を定めた労働基準法37条に違反した場合には、6月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。
例外的に1分単位以外の端数処理が認められるケース
残業代は、1分単位で計算するのが原則になりますが、以下のようなケースでは、1分単位以外の端数処理が認められます。
労働者にとって有利に処理するケース
労働基準法により残業代を1分単位で計算するよう求めているのは、労働者に対して不利益が及ばないように保護することが目的です。そのため、労働者にとって有利に労働時間の端数を処理するのであれば、1分単位以外の端数処理も認められます。
たとえば、15分単位で残業時間を計算している会社において、15分に満たない場合でも15分に切り上げて計算するのであれば、労働者に不利益は生じません。
1か月単位の労働時間の端数処理を行うケース
すべての労働者について1分単位での残業代計算が必要だとすると、会社としては非常に煩雑な処理をしなければならず、事務処理上の負担が大きくなります。そのため、行政通達では、時間外労働・休日労働・深夜労働について1か月単位の労働時間の端数処理を行う際には、例外的に1分単位以外の端数処理を認めています。具体的には、1か月の時間外労働・休日労働・深夜労働の各合計時間数に、1時間未満の端数があるときには、30分未満を切り捨て、30分以上を切り上げて処理することが可能です。
このような端数処理をした例としては、以下のものが挙げられます。
- 1か月の時間外労働が10時間25分→25分を切り捨てて10時間にする
- 1か月の深夜労働が10時間35分→35分を切り上げて11時間にする
ただし、このような端数処理が認められるのは、1か月あたりの時間外労働・休日労働・深夜労働の合計に対して行う場合にのみ認められます。1日あたりの時間外労働・休日労働・深夜労働の時間に端数が生じたとしても、このような端数処理を行うことはできません。
残業代の端数処理が問題になった実際の事例
以下では、残業代の端数処理が問題になった2つの事例を紹介します。
すかいらーく|5分単位→1分単位に変更
全国でファミリーレストラン「ガスト」や「バーミヤン」などを展開する外食大手のすかいらーくホールディングスでは、パートやアルバイトの残業代を5分単位で計算し、5分に満たない部分については切り捨てるという運用をしていました。
しかし、2022年7月から1分単位の勤怠管理に切り替えることになったため、過去に労働時間の切り捨ての対象となっていた労働者に対して、未払い賃金の支払いを行うと発表しました。報道によるとその金額は、過去2年分で合計16~17億円になるとのことです。
セブンイレブン|15分単位→1分単位に変更
国内コンビニ最大手の株式会社セブン‐イレブン・ジャパンでは、独自の勤怠管理システムにより、15分単位で労働時間の切り捨てを行っていました。同社の勤怠管理システム「ストアコンピュータ」では出退勤時にバーコードをかざすと、1分単位で正確な時刻が表示されますが、記録上は15分未満を切り捨てて記録されるようになっていたようです。
株式会社セブン‐イレブン・ジャパンでは、労働時間の違法な端数処理が明らかになり、労働基準監督署による行政指導を受けることになりました。その結果、これまでの15分単位から1分単位に労働時間の端数処理を変更したとのことです。
残業代を1分単位で計算してもらえないときの対処法
働いている職場で残業代が1分単位で計算されていないという場合には、以下のような対処法が考えられます。
違法な端数処理がなされている証拠を集める
残業代を1分単位で再計算して、会社に請求するためには、そもそも何分単位で残業代が計算されているかを把握しなければなりません。そこで、まずは違法な端数処理がなされている証拠を集めるようにしましょう。
違法な端数処理に関する証拠としては、以下のものが考えられます。
- 就業規則、雇用契約書
- 給与明細
- タイムカードや勤怠管理記録のデータ
就業規則や雇用契約書に残業時間の端数処理の運用が記載されているようであれば、それが証拠になります。基本的には1分単位での計算が必要になりますので、15分単位や30分単位での切り捨て計算が規定されているのであれば、違法であるといいやすいでしょう。また、タイムカードや勤怠管理記録のデータでは、1分単位で残業時間が計算されているにもかかわらず、給与明細では、15分単位や30分単位で残業時間が記載されている場合にも、違法な端数処理がなされている証拠となります。
未払い残業代請求には、それを裏付ける証拠が重要になりますので、しっかりと証拠を集めてから会社に対して請求を行うようにしましょう。
会社と交渉する
違法な端数処理に関する証拠が集まり、それに基づいて計算した結果、未払い残業代があることが判明した場合には、会社に対して請求していくことになります。
その際には、まずは内容証明郵便を利用して、会社に対して未払い残業代を請求する内容の通知書を送付するのが一般的です。内容証明郵便は、いつ・誰に対して・どのような文書を送付したのかを証明できる形式の郵便ですので、会社に対して、残業代を請求したという証拠を残すことができます。これにより残業代の時効期間の進行を一時的にストップすることが可能です。
内容証明郵便が会社に届いたら、違法な端数処理がなされている証拠を提示しながら、未払い残業代の支払いを求めていきます。話し合いの結果、未払い残業代を支払う旨の合意が成立した場合には、必ず合意書を作成しておくようにしましょう。
労働基準監督署に相談する
労働基準監督署とは、企業が労働基準法などの法令違反をしないよう指導・監督する行政機関です。1分単位で残業代の計算をしていない会社は、労働基準法24条および37条に違反することになりますので、労働基準監督署に相談をすれば、調査のために動いてくれる可能性があります。
労働基準監督署による調査の結果、残業時間の違法な端数処理がなされていることが判明すれば、指導・勧告により違法状態が改善されることが期待できます。ただし、労働基準監督署による指導・勧告には強制力がありませんので、必ず会社が態度を改めてくれるとは限りません。
弁護士に相談する
残業代は何分単位で計算すればよいかなど、残業代に関する悩みやトラブルは弁護士に相談することで解決できる可能性があります。
労働基準監督署は、十分な証拠がなければ動いてくれず、指導・勧告がなされるまでには長い期間がかかることもあります。しかし、残業代には時効がありますので、長期間状況が改善されないと、過去の未払い残業代が時効により消滅してしまうおそれもあります。
弁護士であれば、手元に十分な証拠がない事案であっても証拠収集をサポートすることで、必要な証拠と集めることができます。また、会社との交渉で代理人になることができるのは弁護士に限られますので、ご自身で対応するのが難しいと感じるなら、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。
違法な残業代の端数処理がされているときはグラディアトル法律事務所に相談を
残業代が1分単位で計算されていないときは、違法な端数処理がなされている可能性があります。このような疑いがあるときは、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。
残業代の端数処理の問題点を明らかにできる
残業代の計算は、原則として1分単位で行わなければなりませんが、例外的に1分単位以外の端数処理が認められるケースもあります。会社による端数処理が正しいかどうかは、専門家でなければ正確に判断できませんので、まずは弁護士にご相談ください。
当事務所では、未払い残業代の問題を豊富に取り扱っていますので、残業代の端数処理の問題についても、迅速かつ的確に判断することが可能です。
未払いの残業代があるときには会社に請求できる
正しい端数処理で再計算することにより未払い残業代があることが判明したときは、会社に対して、未払い残業代を請求することができます。
しかし、労働者個人で会社と交渉をしても、まともに取り合ってくれないケースも少なくありません。このようなケースでは、弁護士が交渉を行うことで、会社も真摯に対応してくれる可能性が高くなります。
当事務所には、労働問題に詳しい弁護士が多数在籍していますので、会社との交渉に関しても毅然とした態度で臨むことにより、労働者としての正当な権利の実現をサポートします。
未払い残業代問題を解決に導いた豊富な実績がある
未払い残業代の問題を依頼する弁護士は、弁護士であれば誰でもよいというわけではありません。弁護士には、それぞれ得意とする分野がありますので、より満足いく結果を希望するのであれば、労働問題に詳しい弁護士に対応を任せるのがおすすめです。
当事務所では、未払い残業代の問題をはじめとする労働問題を解決に導いた豊富な実績があります。労働問題に詳しい弁護士をお探しの方は、まずは当事務所までご相談ください。
6 まとめ
残業代の計算は、原則として1分単位で行わなければなりません。例外的に1分単位以外の端数処理が認められるケースもありますが、多くの企業では、違法な端数処理がなされている可能性が高いです。
端数処理により切り捨てられた労働時間も合計すれば相当な時間になることもあります。そのため、違法な端数処理がなされている可能性がある場合には、労働問題に詳しいグラディアトル法律事務所までご相談ください。