外資系企業で残業代が未払いになる要因と残業代の請求方法を解説

外資系企業で残業代が未払いになる要因と残業代の請求方法を解説
弁護士 若林翔
2024年07月19日更新

「外資系企業でも残業代はもらえる?」

「外資系だと日本の労働基準法は適用されない?」

「年俸制で働いているから残業代は出ないって本当?」

外資系企業というと成果主義により、能力があればそれに応じて収入も高くなるため、高収入な業種の一つとして人気のある職業です。しかし、外資系企業では、日本の企業のように残業をすることが評価されない傾向にあるため、成果を上げるために無理して残業をすることも少なくありません。

また、外資系企業では、年俸制や管理職などを理由に残業代が支払われないこともあります。

しかし、外資系企業でよくある、管理職、年俸制、裁量労働制、固定残業代制、リモートワークを理由とする残業代の不払いの手口は、実は、違法な手口である可能性があります。

違法な残業代の不払いに該当すれば外資系企業であっても残業代を請求することができますので、まずは外資系企業による違法な残業代不払いの手口を理解しておきましょう。

本記事では、

・外資系企業の残業の実態

・外資系企業で残業代が未払いになる5つの要因

・外資系企業に残業代請求をするリスクと対処法

外資系企業に対する残業代請求は、日本の企業とは異なる特殊性やリスクが生じますので、残業代請求に強い弁護士に相談するのがおすすめです。

外資系企業の残業の実態

外資系企業では、ワークライフバランスを尊重する傾向にありますので、就業時間内にその日の仕事を終わらせるのが基本と考えられています。日本の企業であれば残業をする人は、「仕事熱心」、「会社に貢献している人」などプラスに評価されることが多いですが、外資系企業では、「時間配分ができていない」、「タスク管理が不十分である」などマイナスの評価を受けることが多いです。

そのため、日本の企業に比べると外資系企業は、残業が少ない企業が多いといえるかもしれません。しかし、人員不足や海外のクライアントとのミーティングなどが原因で残業が発生することもありますので、外資系企業でも残業の多い業種も存在します。

外資系企業という理由でひとくくりにするのではなく、残業の有無や多寡は企業によって異なるといえるでしょう。

外資系企業でも日本の労働基準法が適用される

外資系企業でも日本の労働基準法が適用される

外資系企業では日本と外国のどちらの法律が適用されるのでしょうか。以下では、準拠法と国際裁判管轄の問題について説明します。

準拠法|外資系企業でも日本の労働基準法が適用される

外資系企業というと本社が外国にあり、外国の企業との間で雇用契約を締結していることから、日本の労働基準法が適用されないのではないかと疑問に思う方もいるかもしれません。

しかし、外資系企業であっても日本で働く労働者に対しては、日本の労働基準法が適用されますので、労働基準法に基づき残業代を請求することができます。

紛争が生じたときにどの国の法律が適用されるのかという基準を「準拠法」といいます。準拠法の考え方については、「法の適用に関する通則法」(通則法)により、以下のように定められています。

・当事者の合意があるときはそれに従う

・当事者の合意がないときは当該法律行為に最も密接な関係がある地の法律が適用される

また、通則法では、労働契約の特則が定められており、契約上適用される法律が密接関連地法以外のものであったとしても、労働者から密接関連地法の適用を求められた場合、労働契約の成立および効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定が適用されます。

その際には、労務提供地の法律が密接関係地法と推定されます(通則法12条)。

労働基準法は、当事者の合意により排除することができない強行法規ですので、契約書で「本社のある本国法に従う」などと書かれていたとしても無効です。

そのため、外資系企業であっても、日本国内で働いている場合には、労務提供の密接関連地方である日本の労働基準法が適用されます。

国際裁判管轄|外資系企業への残業代請求は日本の裁判所で対応可能

国際的な紛争が生じたときにどの国の裁判所で裁判をするのかという問題を「国際裁判管轄」といいます。

労働者から事業主を訴える場合、以下のように国際裁判管轄が定められています。

・個別労働紛争に係る労働契約における労務提供の地が日本国内にあるときは日本の裁所(民事訴訟法3条の4第2項)

そのため、日本にある外資系企業に対して残業代請求をする場合には、日本の裁判所に管轄が認められることになります。

外資系企業で残業代が未払いになる5つの要因

外資系企業で残業代が未払いになる5つの要因

外資系企業では、以下のような5つの要因で残業代が未払いになることがあります。

管理職を理由とする残業代の不払い

外資系企業では、多くの労働者にディレクター、マネージャー、リーダーなどの役職を与え、管理職であることを理由に残業代を支払わないことがあります。

しかし、管理職であれば常に残業代の支払いが不要になるわけではなく、残業代の支払いが不要になるのは労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合に限られます。管理監督者とは、経営者と一体的な立場にある労働者のことをいい、一般的な管理職とは同義ではありません。

形式だけの肩書だけ与えられており、権限や裁量、対価などがそれに見合っていない場合には、名ばかり管理職に該当しますので、外資系企業に対して残業代を請求することができます

なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事をご参照ください。

「管理職の残業代は出ない」は間違い!違法なケースや請求方法を解説

年俸制を理由とする残業代の不払い

外資系企業では成果主義が採用されていますので、一般的な月給制ではなく年俸制がとられているところが多いです。そのような会社では、「年俸制だから残業代は出ない」と説明されることもあると思いますが、そのような説明は誤りです。

年俸制は、給与の額を1年単位で決定するという給与額の決め方に関する制度です。年俸制であっても残業時間に関するルールは、一般的な月給制と変わりませんので、1日8時間・1週40時間を超えて働けば、年俸制でも残業代は支払われます。

なお、年俸制でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

年俸制も残業代が支払われる!計算方法や支払い不要なケースを解説

裁量労働制を理由とする残業代の不払い

裁量労働制とは、実際の労働時間ではなく、会社と労働者との間であらかじめ定めた時間を働いたものとみなす制度をいいます。裁量労働制は、仕事を時間ではなく成果で評価する制度ですので、労働者の専門性が高い業務や裁量が大きい業務で導入されています。

外資系企業でも裁量労働制を理由に残業代が支払われないことがありますが、裁量労働制が適用される業務は、法令で20業務に限定されています。対象業務に該当し、正式な手続きを踏んでいるのであればよいですが、裁量労働制の要件を満たしていない場合には、残業代を請求することが可能です。

なお、裁量労働制と残業代請求についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

裁量労働制で残業代はどうなる?未払分を請求するための必携知識

 固定残業代を理由とする残業代の不払い

固定残業代とは、一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて支払う制度のことをいいます。たとえば、固定残業代として30時間分の残業代が支払われている場合、実際の残業時間が30時間までであれば、固定残業代とは別に残業代を支払う必要はありません。

しかし、実際の残業時間がみなし残業時間を超えている場合には、固定残業代を支払っていたとしても別途残業代の支払いが必要になります

固定残業代以外一切残業代が支払われないのは、違法である可能性がありますので、会社に対して残業代を請求することができます。

なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

みなし残業代(固定残業代)に追加の残業代を請求できる6つのケース

 リモートワークを理由とする残業代の不払い

外資系企業では、プロセスよりも成果を重視する企業が多いため、国内の企業に比べてリモートワークの導入率も高い傾向にあります。リモートワークでは、労働時間の把握が困難になるため、実際に残業をしていても会社が残業として認めてくれないこともあります。

しかし、リモートワークであっても残業をすれば残業代を請求できるのは労働者として当然の権利です。ただし、リモートワークでは、残業時間の立証が難しいケースが多いため、残業をしたという証拠をしっかりと残しておくようにしましょう。

外資系企業に対する残業代請求の方法

外資系企業に対する残業代請求の方法

外資系企業に対する残業代請求は、以下のような手順・方法によって行います。

 内容証明郵便の送付

残業代請求をする際には、まずは内容証明郵便を利用するのが一般的です。

内容証明郵便は、以下の事項を日本郵便株式会社が証明してくれる形式の郵便です。

・差し出した日付

・差出人の住所、氏名

・受取人の住所、氏名

・文書に書かれた内容

未払い残業代の支払いを強制する効力まではありませんが、特別な形式の郵便が届いたことで会社側にプレッシャーを与えることができますので、任意の支払いが期待できます。また、残業代の請求をすることは法律上の「催告」にあたり、時効の完成を6か月間猶予することができます。内容証明郵便を利用すれば、催告をしたという証拠を残すことができますので、時効の完成が迫っているという場合にも有効な手段となります。

なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

残業代の時効は3年!時効を阻止する方法と残業代請求の流れを解説

 会社との交渉

内容証明郵便が届いたら、会社との間で交渉を開始します。

残業代請求に関する交渉を成功させるためには、労働者側で未払い残業代の計算をした根拠を示すことが重要なポイントになります。会社側が言い逃れできないような証拠を提示できれば、任意の交渉で未払い残業代の問題が解決できる可能性もあります。

会社との交渉により合意に至ったときは、口約束だけで終わらせるのではなく、必ず合意書を作成するようにしましょう。

 労働審判

会社側との話し合いでは合意に至らなかったときは、裁判所に労働審判の申立てを行います。

労働審判とは、労働者と会社との間のトラブルを事案に即して迅速かつ適切に解決するための裁判所の手続きです。裁判になれば解決までに長い期間がかかる残業代の問題も、労働審判であれば原則として3回以内の期日で終了しますので、早期解決がきたいできます。

また、調停による話し合いがまとまらないときは労働審判が行われるといった2段階の手続きになっていますので、より実態に即した判断が期待できます。

ただし、労働審判の内容に不服がある場合には、2週間以内に異議申立てをすることで、労働審判の効力が失われ、通常の訴訟手続きに移行してしまいます。

なお、労働審判で残業代請求をする流れについては、以下の記事をご参照ください

労働審判で残業代請求をする流れ・費用・期間などをわかりやすく解説

 訴訟提起

会社との話し合いがまとまらず、労働審判で異議申し立てがなされた場合には、最終的に訴訟で解決を図ります。

訴訟になると労働者の側で証拠に基づき残業代が未払いになっていることを立証していかなければなりません。証拠がなければ残業代の支払いを認めてもらうのは困難である反面、十分な証拠があれば残業代の支払いを命じる判決を獲得できる可能性は高いといえます。

なお、判決確定後も未払い残業代の支払いに応じない企業に対しては、強制執行の申立てをすることで、強制的に未払い残業代を回収することができます。

なお、裁判で残業代請求をする流れについては、以下の記事をご参照ください。

裁判で残業代請求をすべき5つのケースと裁判の流れ・期間・費用

外資系企業に残業代請求をする際に必要になる証拠

外資系企業に残業代請求をする際に必要になる証拠

会社に対する残業代請求を成功させるためには、あらかじめ十分な証拠を集めておくことが重要です。十分な証拠があれば基本的には残業代請求で負けることはありませんので、しっかりと証拠を集めておくようにしましょう。

しかし、外資系企業では、タイムカードなどにより労働時間を管理していないこともあります。このような場合でもすぐに諦める必要はありません。残業をしていたことは、タイムカード以外にも以下のような証拠により立証することが可能です。

・業務日報の写し

・業務用メールの送受信履歴

・携帯電話やスマートフォンで出退勤時刻を撮影した写真

・PCのログ

・オフィスの入退室履歴

・労働時間を記載した手書きのメモ

どのような証拠があれば足りるのかは、具体的な事案によって異なりますので、判断に迷うときは、早めに弁護士に相談するのがおすすめです。

なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

タイムカードないけど残業代もらえる!あれば役に立つ証拠16選!

外資系企業に残業代請求をするリスクと対処法

外資系企業に残業代請求をするリスクと対処法

外資系企業に対する残業代請求は、国内の企業への残業代請求とは異なり、以下のようなリスクがありますので注意が必要です。

外資系企業に残業代請求をするリスク

外資系企業では、国内の企業と比べて雇用に対する安定性が低いといわれています。年功序列型の日本企業とは異なり、成果主義型の外資系企業では、期待された成果が得られない労働者の解雇は日常的に行われており、人材の入れ替わりが激しいのも外資系企業の特徴です。

もっとも、日本国内の外資系企業に対しては、労働基準法や労働契約法が適用されますので、解雇については厳格な規制が及んでいます。そのため、外国のように安易に解雇することはできません。ただし、退職勧奨については法規制が及ばないため、残業代請求をしてきた労働者に対して、退職勧奨が行われる可能性が高いです。

退職勧奨への対処法

会社から退職勧奨を受けた場合、以下のような対処法があります。

 【退職後に残業代請求をする】

会社から退職勧奨を受けると、働きづらくなり、会社から嫌がらせを受けるなどのリスクが生じます。このようなリスクを回避するのであれば、退職後に残業代請求をするとよいでしょう。

会社を退職したとしても、残業代を請求する権利が失われることはありませんので、会社との関係性の悪化を気にすることなく残業代を請求することができます。

ただし、残業代請求には3年という時効がありますので、退職後に残業代請求をするなら、早めに行動することが大切です。

また、退職後は残業代に関する証拠収集が困難になりますので、退職前から証拠を集めておくようにしましょう。

 【退職勧奨を拒否する】

退職勧奨は、解雇のような強制力はなく、退職を促すという効果しかありません。退職勧奨に応じるかどうかは、労働者の自由な意思に委ねられています。

そのため、外資系企業を退職するつもりがないという場合には、退職勧奨を拒否するというのも一つの方法です。退職勧奨後、執拗な嫌がらせを受けることがあれば、それを理由として損害賠償請求なども可能ですので、会社から嫌がらせをされたという証拠を集めておくとよいでしょう。

 【退職条件を上乗せして退職に応じる】

退職勧奨をされた会社では働きづらいという場合には、退職勧奨に応じて退職するというのも一つの選択肢になります。その際には、会社の求めに応じてすぐに退職するのではなく、退職条件の上乗せ交渉を行うようにしましょう。

会社としても残業代請求をしたことを理由に解雇することができないのは理解していますので、不当解雇を争われるよりも多少退職条件を上乗せして任意に退職に応じてくれた方がメリットがあるといえる判断でしょう。

退職を条件として未払い残業代の交渉をすることで、有利な条件で支払いに応じてもらえる可能性もありますのでぜひ試してみてください。

外資系企業への残業代請求に関する裁判例|東京地裁平成17年10月19日判決

外資系企業への残業代請求に関する裁判例|東京地裁平成17年10月19日判決

【事案の概要】

Xは、外資系証券会社のY社のプロフェッショナル社員として、年俸制で勤務していました。Y社の就業規則では社員の所定労働時間は、平日午前9時から午後5時30分までとされていましたが、実際には上記所定労働時間のほかに午前7時20分から午前9時まで働いていたため、約800万円の超過勤務手当の支払いを求めて訴えを提起しました。

【裁判所の判断】

裁判所は、以下のような理由からXによる残業代の請求を棄却しました。

・Xは超過勤務手当名目で給与の支給を受けていないことを認識しながら何ら異議を述べていない

・オファーレターには所定労働時間を超えて労働した場合に報酬が支払われるとの記載はない

・Xの給与は高額であり、基本給だけでも月額約183万円も支払われている

・Y社のような外資系インベストメントバンクでは、Xのようなプロフェッショナル社員に対して所定時間外労働に対する対価も含んだものとして極めて高額の報酬が支払われ、別途超過勤務手当名目で支払われないのが一般的である

本件では、基本給と残業代が明確に区別されていませんでしたが、残業代が基本給に含まれていると判断し、残業代請求を認めませんでした。

ただし、本件は、給与が高額で、特別な職種のケースですので、一般化して通常の年俸制にあてはめるのは難しいでしょう。

外資系企業への残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

外資系企業への残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

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 グラディアトル法律事務所には残業代請求に強い弁護士が多数在籍

残業代請求を弁護士に依頼する場合、弁護士であれば誰でもよいというわけではありません。弁護士によって得意分野に偏りがありますので、残業代請求を成功させるためには、残業代請求に強い弁護士に依頼する必要があります。

グラディアトル法律事務所では、これまで多数の残業代請求事案を解決に導いた豊富な経験と実績がありますので、外資系企業に対する残業代請求も得意としています。外資系企業には、国内企業とは異なる特殊性がありますので、それらを理解した上で残業代請求をするには、知識と経験豊富な弁護士のサポートが不可欠です。

外資系企業に対する残業代請求をお考えの方は、まずは当事務所までご相談ください。 

初回法律相談無料、着手金0円から対応可能

グラディアトル法律事務所では、未払い残業代の問題でお困りの方が気軽に相談にお越しいただけるように、初回相談料無料で対応しています。相談をしたからといって必ず依頼しなければならないわけではありませんので、まずはお気軽にご相談にお越しください。

また、当事務所では、実際に弁護士に依頼する場合の経済的負担も軽減できるように、着手金0円から対応しています。弁護士費用は、最終的に回収した残業代の中からお支払いいただくことができますので、安心してご相談ください。

まとめ

外資系企業でも、日本の労働基準法が適用されますので、残業をすれば残業代を請求することができます。未払い残業代がある場合には、時効により残業代を請求する権利が失われてしまう前に、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

外資系企業への残業代請求は、残業代のトラブルに強いグラディアトル法律事務所にお任せください。














弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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