「残業代請求をしたいけど、手元に証拠がない」
「どのような証拠があれば残業代請求ができるのだろうか?」
「残業代請求の証拠はどうやって集めればよいのだろうか?」
会社に対して残業代請求をしようと考えているものの、どのような証拠が必要で、どのように証拠を集めればよいか悩んでいるという方もいると思います。
残業代請求にあたっては、証拠が非常に重要で、証拠の有無によって勝ち負けが決まるといっても過言ではありません。そのため、会社に対して残業代請求をする前に、必要な証拠をしっかりと確保するようにしましょう。
本記事では、
・残業代請求で必要になる3つの証拠類型
・残業代請求の証拠にならないもの、証拠として弱いもの
・残業代請求の証拠の集め方
などについてわかりやすく解説します。
タイムカードがなくても残業代請求は可能ですので、諦める前にまずは弁護士に相談するようにしましょう。
目次
残業代請求では証拠が重要!
残業代請求において「証拠」は、非常に重要な要素になります。
裁判で争いになった場合、残業代が未払いであることは労働者の側で証明していかなければなりません。すなわち、証拠がなければ裁判で勝つことはできないということです。
また、会社との交渉で残業代の支払いを求める場合も証拠がなければ会社は支払いに応じてくれませんので、交渉でも証拠が不可欠となります。
このように残業代請求を成功させるには、証拠が必須となりますので、あらかじめ必要な証拠を確保しておくことが重要です。
もっとも、残業代請求証拠がない場合でも残業代請求が認められることもありますので、諦めないでください!
裁判例でも、残業代請求の客観証拠が全くない事例において、タイムカード等での勤怠管理をしなかった会社の責任を認めつつ、残業時間を認定した判例もあります(ゴムノイナキ事件|大阪高判平成17年12月1日)ので、証拠がない場合でも諦めず、まずは弁護士にご相談ください。
残業代請求で必要になる3つの証拠類型
残業代請求に必要になる証拠は、3つの類型に分けられます。
・労働契約内容に関する証拠
・給与の支払いに関する証拠
・残業時間に関する証拠
以下では、これら3つの類型に該当する具体的な証拠を説明します。
労働契約内容に関する証拠
労働者と会社との契約内容によっては、通常の労働時間制・月給制ではなく、以下のような特殊な労働時間制・給与体系がとられていることがあります。
・フレックスタイム制
・変形労働時間制
・裁量労働時間制
・固定残業代制
・年俸制
・歩合制
このような特殊な労働時間制・給与体系がとられている場合、残業代の有無や計算方法の考え方も通常とは異なってきますので、まずは労働契約内容がわかる証拠が必要になります。
労働者が集めるべき労働契約内容に関する証拠としては、以下のものが挙げられます。
・求人票
・労働契約書
・労働条件通知書
・就業規則
・給与規程
給与の支払いに関する証拠
会社に対して請求する残業代は、あくまでも未払いの残業代ですので、これまで会社から支払われた残業代については控除しなければなりません。また、残業代計算にあたっては、基本給や各種手当の金額を確認しなければなりません。
そのため、これらを明らかにするために会社から労働者に支払われた給与の支払いに関する証拠が必要になります。
労働者が集めるべき給与の支払いに関する証拠としては、以下のものが挙げられます。
・給与明細
・賃金台帳の写し
残業時間に関する証拠
残業代請求の3類型の証拠の中でもっとも重要なのが残業時間に関する証拠です。他の2類型の証拠は比較的入手しやすい証拠になりますが、残業時間に関する証拠は、正確な残業時間を記録したものが残されていないことも多く、入手するのに苦労することもあります。
また、残業時間をしたことおよびその時間を立証する方法には、さまざまな方法がありますので、それに応じて証拠の種類も多種多様なものがあります。そのため、具体的な状況に応じて、適切な証拠を確保することが重要です。
労働者が集めるべき残業時間に関する証拠としては、以下のものが挙げられます。
・タイムカード
・勤怠管理ソフトのデータ
・上司の承認印のある業務日報
・パソコンのログイン、ログアウト記録
・パソコンのスクリーンショット(時刻が映っているもの)
・業務に関連するメールの送信記録
・上司宛の退勤報告メール
・業務上使用した携帯電話の通話記録
・オフィスの入退室記録
・警備会社の警備記録
・交通系ICカードの記録
・帰宅時のタクシーの領収書
・タコグラフ
・家族への帰宅を伝えるLINEやメール
・残業時間を記録した手書きのメモ
これらの証拠は、一つだけでは証拠として弱い場合でも複数の証拠を組み合わせることで残業時間を立証する強力な証拠になることもあります。そのため、できるだけ多くの証拠を集めておくようにしましょう。
会社からの反論次第で必要になる証拠
残業代請求に必要になる基本的な証拠は、上記の3類型の証拠になりますが、会社からの反論によっては、以下のような証拠も必要になる可能性があります。
固定残業代に関する証拠
労働者からの残業代請求に対して、会社から「固定残業代として支払い済みである」との反論が出ることがあります。
固定残業代とは、あらかじめ基本給に一定時間分のみなし残業代を含めて支払う制度のことをいいます。たとえば、みなし残業時間が30時間と定められている場合、30時間分の残業代はすでに支払い済みですので、残業代計算にあたっては、これを控除して計算しなければなりません。この場合、会社側において固定残業代に関する証拠が提出されますので、労働者側で積極的に証拠を集める必要はありません。
しかし、固定残業代制度の運用によっては、固定残業代が無効となり、固定残業代を控除せずにすべての残業代を請求できる可能性もあります。その場合、労働者としては、固定残業代制度が以下のような違法な運用になっていることを立証していく必要があります。
・固定残業代と通常の労働時間に対する賃金が明確に区別されていない
・固定残業代を超える残業代が発生しているにもかかわらず支払われていない
これらを立証するために必要になる証拠としては、以下のものが挙げられます。
・労働契約書
・労働条件通知書
・就業規則
・給与明細
・賃金規程
・タイムカードなどの残業時間に関する証拠
なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
管理監督者に関する証拠
労働者からの残業代請求に対して、会社から「管理監督者に該当するから残業代の支払いは不要である」との反論が出ることがあります。
管理監督者とは、経営者と一体的な立場にある労働者のことをいい、労働基準法で残業代の支払い対象の労働者から除外されています。しかし、一般的な管理職(課長、マネージャーなど)が直ちに管理監督者に該当するわけではありませんので、管理監督者に該当するかどうかは、肩書ではなく実態に即して判断する必要があります。
会社から管理監督者に関する反論があった場合、労働者側としても労働基準法上の管理監督者に該当しないことを反論していかなければなりませんので、それを裏付ける証拠が必要になります。
管理監督者性の判断要素ごとに必要になる証拠としては、以下のものが挙げられます。
なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事をご参照ください。
裁量労働制に関する証拠
労働者からの残業代請求に対して、会社から「裁量労働制が適用されるから残業代の支払いは不要である」との反論が出ることがあります。
裁量労働制とは、会社と労働者との間であらかじめ定めた時間を働いたものとみなす制度です。裁量労働制が適用される場合、みなし労働時間が法定労働時間の範囲内であれば、残業代の支払いは不要ですので、残業代請求は認められません。
しかし、専門業務型裁量労働制の場合、適用される業務が20業務に限定されており、所定の手続きが必要になります。そこで、労働者としては、以下のような証拠により裁量労働制の適用が違法であることを証明することで残業代請求が可能になります。
・就業規則
・労使協定
・業務内容がわかる証拠(労働契約書、労働条件通知書、業務日報など)
・労働時間がわかる証拠(タイムカードなど)
なお、裁量労働制と残業代請求についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
残業代請求の証拠にならないもの・証拠として弱いもの
以下のような証拠は、残業代請求の証拠にならないまたは証拠として弱いものになります。
記載内容を改ざんした証拠
より多くの残業代を請求したいからといって、以下のように証拠内容を改ざんするのは禁物です。
・タイムカードの退勤時刻を書き換える
・業務日報で実際にはしていない作業を書き加える
・退勤後に同僚にタイムカードを押してもらう
このような捏造された証拠は、証拠として認められないだけでなく、私文書偽造罪として刑事罰の対象になる可能性もありますので注意が必要です。
上司の承認印のない業務日報
業務日報は、残業時間に関する証拠の一つとなりますが、上司の承認印の有無によって証拠としての強弱が変わってきます。上司の承認印のある業務日報であれば記載内容について会社の承認があったとみなされますので、業務日報に記載された残業時間については信用性が高い数字となります。
他方、上司の承認印のない業務日報だと労働者が自由に作成することができてしまいますので、記載内容を会社側が了承していない可能性もあります。そのため、上司の承認印のない業務日報については、証拠としては弱いといえるでしょう。
社外からアクセス可能なアカウントからのメールの送信履歴
メールの送信履歴は、残業時間に関する証拠の一つとなります。社内のパソコンから私的なメールアドレスに宛てて「これから退勤します」などとメールをすることで、その時間まで残業していたことを立証することができます。
しかし、社内のパソコンのアカウントに社外からアクセスすることができる場合、残業をしていなくてもメールの送信は可能です。そのため、このような場合には、メールの送信履歴は、証拠にはならないでしょう。
継続的に記録していないメモ
残業時間を記録した労働者作成のメモは、残業時間に関する証拠の一つとなります。
しかし、労働者自身が作成するメモは、どのような内容でも作成することができてしまいますので、そもそも証拠としての価値は低いといえます。特に継続的に記録していないメモについては、改ざんや虚偽の疑いがあるため、証拠として認められない可能性もあります。
残業代請求の証拠に関する重要な裁判例
以下では、残業代請求をする際の証拠が争点となった重要な裁判例を紹介します。
ゴムノイナキ事件|大阪高裁平成17年12月1日判決
【事案の概要】
Xは、ゴム製品の販売を営むY社との間で雇用契約を締結し、生産管理と納期のデリバリーの業務を行っていました。
Y社ではタイムカードなどによる出退勤管理をしておらず、具体的な就業時間が明らかでなかったものの、Xは、妻が作成していた帰宅時間を記載したノートを根拠として、残業代請求を行いました。
【裁判所の判断】
裁判所は、Xの妻が帰宅時間を付けていたノートは、帰宅時間しか書かれておらず、正確性にも問題があるため、それを根拠として退社時刻を認定することはできないとしました。
しかし、タイムカードなどによる勤怠管理をしてなかったのは、会社の責任によるものであって、これを理由として従業員を不利益に扱うべきではなく、客観的な証拠がないことを理由に時間外労働の立証がまったくされていないとすべきではないと判断しました。
そのうえで、裁判所は、時間外労働時間を概括的に推認する方法を採用し、2年間で合計982時間の時間外労働時間があったと認定しました。
アイスペック・ビジネスブレイン事件|大阪高裁平成19年11月30日判決
【事案の概要】
Xは、元々会社の経営者でしたが、人材派遣会社のY社に自社の事業を譲渡し、Y社に事業部長として雇用されていました。
しかし、Xは、再び独立して会社経営を行いたいと考えるようになり、Y社での就業時間中も、独立準備行為を行うようになりました。Y社では、タイムカードにより従業員の勤務時間を管理していて、Xも同様にタイムカードを打刻していました。
Xは、Y社を退職後、タイムカードにより算定した在職中の未払い残業代の支払いを求めて訴えを提起しました。
【裁判所の判断】
裁判所は、Xが就業時間中に独立準備行為を行っており、タイムカードで打刻された時間中、Y社の業務に従事していたと推認することはできないとして、Xの残業代請求を棄却しました。
その理由は、主に以下の2点が挙げられます。
・Xのタイムカードには、手書き部分が多く、記載された時刻の一部が虚偽であることが立証された
・タイムカードが手書きではない部分も、Xが独立に向けた準備のために本来の業務とは無関係の作業を行っていたことが立証された
残業代請求の証拠の集め方
残業代請求に関する証拠が手元にないという場合、以下のような方法で証拠を集めることができます。
会社にバレないように証拠収集
会社を退職してしまった後だと、労働者自身で証拠を集めるのは困難になります。そのため、まだ会社に在職中であれば会社にバレないように証拠を集めるようにしましょう。
証拠を集めること自体は、違法な行為ではありませんので堂々と行っても問題ありませんが、会社にバレてしまうと会社との関係性が悪化するおそれがあるため、できるだけバレないように進める必要があります。
会社に対する開示請求
労働者自身で収集できる証拠の範囲にも限界がありますので、労働者では入手できない証拠やすでに会社を退職してしまったという場合には、会社に対して直接証拠開示請求をする必要があります。
ただし、会社には労働者からの証拠開示請求に応じる義務はありませんので、会社側に不利な証拠については、開示に応じてくれない可能性もあります。
証拠保全の申立て
会社側が証拠開示請求に応じてくれない場合、証拠が処分されたり、改ざんされるおそれがありますので、裁判所への証拠保全の申立てを検討しましょう。
証拠保全とは、訴訟提起前に裁判で必要になる証拠を確保することができる手続きです。労働者からの証拠開示請求に応じてくれない会社であっても、裁判所からの命令であれば応じてくれる可能性が高いといえます。
文書提出命令の申立て
裁判所に訴訟を提起した後に証拠収集する方法として「文書提出命令」という制度があります。
文書提出命令とは、当事者からの申立てにより、裁判所が文書提出義務を負う相手に対して、文書の提出を命じる手続きです。裁判所が会社に対してタイムカードなどの提出を命じた場合、一定の例外事由に該当しない限りは、会社は文書の提出を拒むことができません。
会社が文書の提出に応じない場合でも、その事実に関する労働者の主張を認めるという効果がありますので、労働者にとって不利になることはありません。
残業代請求を弁護士に相談するメリット
以下のようなメリットがありますので、残業代請求に関してお困りの方は、弁護士に相談するのがおすすめです。
残業代請求の証拠収集をサポートしてもらえる
残業代請求にあたっては、証拠が非常に重要な要素となります。
必要になる証拠は、具体的な状況に応じて変わりますので、知識や経験の乏しい労働者個人では、どのような証拠が必要になるのか、手元の証拠だけで足りるのか判断するのが難しいといえます。
弁護士であれば、状況に応じた証拠の取捨選択ができますので、適切な証拠を確保することにより残業代請求を成功させる可能性が高くなるでしょう。自分で証拠の判断ができないという方は、まずは弁護士に相談するようにしましょう。
未払い残業代の金額を計算してもらえる
会社に対して未払い残業代を請求するには、その前提として未払い残業代の金額を計算する必要があります。
しかし、未払い残業代の計算は、非常に複雑な計算となっていますので、知識や経験に乏しい労働者個人では正確に計算するのは困難といえます。弁護士であれば、残業代の計算方法を熟知していますので、迅速かつ正確に未払い残業代の金額を計算することが可能です。
残業代計算を間違えると本来もらえるはずの残業代よりも少ない金額しかもらえないこともありますので、そのような不利益を避けるためにも、残業代計算は弁護士に任せるべきでしょう。
会社との交渉や労働審判・訴訟の対応を任せられる
会社に対して残業代請求をする場合、まずは、会社との交渉を行います。また、会社との交渉が決裂した場合は、裁判所に労働審判の申立てまたは訴訟の提起をしなければなりません。
交渉であれば自分でもできると考えるかもしれませんが、労働者個人での残業代請求では、会社側が真剣に取り合ってくれず、無視されたり、適当な言い訳をされて残業代を支払ってもらえないケースも少なくありません。
弁護士が労働者に代わって会社と交渉をすることで、会社も真摯に対応せざるを得なくなりますので、交渉で解決できる可能性が高くなるといえます。また、万が一交渉で解決できない場合でも、弁護士が引き続き労働審判や訴訟の対応をしてくれますので、解決まで安心して任せることができます。
残業代請求を弁護士に依頼するメリット等についての詳細は、以下の記事もご参照ください。
残業代請求や証拠収集はグラディアトル法律事務所にお任せください
残業代請求や証拠収集を弁護士に相談・依頼することで上記のようなメリットが得られますが、相談・依頼をする弁護士は誰でもよいというわけではありません。
弁護士によって取り扱う分野には偏りがあり、得意とする分野も弁護士によって異なってきます。残業代請求に関する悩みを相談するのであれば、残業代請求に強い弁護士に相談するのが重要なポイントになります。
グラディアトル法律事務所では、残業代請求に関する豊富な解決実績と経験があり、残業代請求に強い弁護士が多数在籍しています。残業代請求に必要となる証拠収集も得意としていますので、証拠収集でお困りの方は、当事務所にお任せください。
当事務所では、残業代請求に関するご相談については、初回相談料無料で対応していますので、まずはお気軽にご相談にお越しください。
まとめ
残業代請求にあたっては、証拠が勝ち負けに直結するほどの重要な要素となります。十分な証拠を確保することができれば、残業代請求で負ける可能性は低いといえますので、しっかりと証拠を集めておくことが大切です。
もっとも、残業代請求に必要になる証拠は、具体的な状況に応じて異なりますので、適切な証拠を確保するには、専門家である弁護士のサポートが不可欠となります。残業代請求に関する証拠収集でお困りの方は、残業代請求に強いグラディアトル法律事務所までご相談ください。