「デザイナーとして働いているけど残業がとても多くてつらい」
「裁量労働制が適用されるからデザイナーには残業代が出ないと言われたけど本当?」
「デザイナーが残業代を請求する方法を知りたい」
デザイナーといっても広告、ファッション、web、出版、インテリア、グラフィックなどさまざまな職種がありますが、すべてに共通するのは残業が多いということです。
厳しい納期の設定やクライアントに左右される仕事であるため、ある程度の残業は仕方ないといえますが、長時間の残業になると疲労の蓄積により体調不良を引き起こす原因にもなりかねません。
このような残業の多いデザイナーですが、きちんと残業代が支払われていない可能性がありますので注意が必要です。
特に、裁量労働制を理由に残業代の支払いを拒否されるケースも多いですが、本当に裁量労働制が適用されるケースであるのかはしっかりと確かめる必要があります。
本記事では、
・デザイナーに残業が多い6つの要因
・専門業務型裁量労働制だとデザイナーの残業代はでない?
・デザイナーへの残業代不払いが問題になる4つのケース
などについてわかりやすく解説します。
デザイナーの残業代請求の可否については法的観点からの検討が必要になりますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
目次
デザイナーの残業の実態
デザイナーの残業の実態はどうなっているのでしょうか。以下では、デザイナーの平均的な残業時間などを説明します。
デザイナーの平均的な残業時間は月21.6時間
大手転職サイト「doda」の調査による職種別の残業時間ランキングによると、デザイナーの1か月平均の残業代は、21.6時間という結果でした。
2023年の平均残業時間が21.9時間ですので、デザイナーの残業時間は、ほぼ平均的な数値といえるでしょう。
デザイナーの職種によって残業時間は大きく変わる
デザイナー全体の残業時間は、平均的な数値となっていますが、デザイナーといっても、広告、ファッション、web、出版、インテリア、グラフィックなどさまざまな職種があります。
特にwebデザイナーや広告代理店勤務のデザイナーに関しては、残業が多くなる傾向にあります。
このように、デザイナーといっても職種によって残業時間が大きく変わりますので注意が必要です。
デザイナーに残業が多い6つの要因
デザイナーは、残業が多い業種の一つと言われていますが、それには以下のような要因があるからです。
厳しい納期の設定
デザイナーの仕事は、基本的には納期は設定されていますので、あらかじめ決められた納期までにデザインを仕上げて納品しなければなりません。
余裕をもった納期が設定されていればいいのですが、実際にはクライアントの都合で短い納期が設定されていたり、仕事を詰め込みすぎてタイトなスケジュールになることも少なくありません。
このような状況になると納期に間にわせるために残業をしなければならなくなります。
クライアントに左右される
デザイナーの仕事は、クライアントの意向に左右されるという点も残業が多い要因の一つとなります。
納期までにデザインを仕上げて納品したとしても、クライアントから修正依頼があればそれに対応しなければならず、残業が必要になることもあります。
クライアントによっては、短い納期で無茶な要望をするケースもありますが、デザイナーは立場上、クライアントの意向に逆らえないため残業をしてでも対応しなければなりません。
クオリティを追求しすぎる
デザイナーを仕事にしている方の多くは、自分の作品に誇りを持っていますので、妥協することを嫌う傾向にあります。
少しでもクオリティの高い作品を作りたいと考えると、どうしても時間がかかってしまいます。
クオリティを追求しすぎるのもデザイナーによくある残業の要因の一つです。
経験やスキル不足
デザインのトレンドは、日々変化していきますので、デザイナーは最新のトレンドを反映させるために、知識やスキルのアップデートが欠かせません。
また、デザインツールや技術も日々進歩していますので、新たなツールや機能を使いこなしていく必要もあります。
このような知識やスキルが不足していると、デザイン業務の処理スピードにも遅れが生じてしまいます。デザイナー自身の経験やスキル不足といった要因も残業が多くなる要因の一つとなります。
下請の案件が多い
デザイナーが勤務する会社によっては、自社で受注した案件ではなく、広告代理店やWeb制作会社が受注した案件を下請として受注するケースもあります。
このような下請けの案件が多い会社では、1件当たりの単価が低くなりますので、利益を上げるためには量をこなさなければなりません。
そうなると必然的にデザイナー1人あたりの負担が大きくなってしまいますので、大量の業務を処理するために残業を強いられることになります。
残業が当たり前という風潮
デザイナー業界では、残業が当たり前という風潮があることも残業が多くなる要因の一つです。
このような風潮が定着している会社では、残業を前提に業務が組まれていることもあり、残業をしないという選択肢がそもそも存在しません。
専門業務型裁量労働制だとデザイナーの残業代はでない?
専門業務型裁量労働制が適用される残業代は、原則として残業代を請求することができません。
以下では、専門業務型裁量労働制の概要と例外的に残業代を請求できるケースについて説明します。
専門業務型裁量労働制とは
専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などを労働者の裁量に委ねる必要がある業務について、実際の労働時間とは関係なくあらかじめ定められた時間を労働時間とみなす制度です。
専門業務型裁量労働制の対象となる業務は、厚生労働省令および厚生労働大臣が告示する20の業務に限って認められます。
対象業務には「衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案業務」が含まれていますので、デザイナーも専門業務型裁量労働制の適用対象業務となります。
ただし、専門業務型裁量労働制の対象業務に該当すれば自動的に同制度が適用されるわけではなく、所定の手続きを踏む必要があります。
専門業務型裁量労働制が適用されるデザイナーでも残業代が請求できる5つのケース
専門業務型裁量労働制の適用対象となるデザイナーであっても、以下のようなケースについては残業代請求が可能です。
【労使協定の締結・届出がない】
専門業務型裁量労働制を導入するためには、対象となる業務やみなし労働時間などを労使協定により決定しなければなりません。
労使協定は、事業場ごとに過半数労働組合または過半数代表者の同意を得て、書面により締結し、労働基準監督署長に届け出なければなりません。
このような手続きが行われていない場合には、会社に対して残業代を請求することができます。
【労働者本人の同意を得ていない】
専門業務型裁量労働制を導入するためには、労働者本人の同意を得る必要があります。
同意を拒否したとしても、それを理由に不利益な取り扱いをすることは禁止されていますので、専門業務型裁量労働制の導入に納得できないときは、同意しないこともできます。
なお、労働者本人の同意は、法改正により2024年4月1日から新たに導入された要件になります。
これまでと同様に労働者の同意を得ずに手続きを進めてしまう会社もあると思いますので注意が必要です。
【労働者の働き方に裁量がない】
専門業務型裁量労働制は、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などを労働者の裁量に委ねる必要がある業務について適用される制度です。
対象業務に形式的に該当するとしても、その実態が働き方に裁量がないものであった場合には、専門業務型裁量労働制を適用することはできません。
デザイナーであっても会社から業務遂行の手段や方法が明確に指示されており、労働時間も管理されているという場合には、働き方に裁量がありませんので、残業代を請求できる可能性があります。
【みなし労働時間が実態とかけ離れている】
専門業務型裁量労働制では、実際の労働時間ではなくあらかじめ定めたみなし労働時間が労働時間となります。
そのため、みなし労働時間を法定労働時間の範囲内で定めていれば、残業代は発生しません。
しかし、みなし労働時間が実際の労働時間とあまりにもかけ離れたものである場合には、専門業務型裁量労働制の適用は違法となります。
この場合は、実際の労働時間に基づいて未払い残業代を請求することができます。
【みなし労働時間が法定労働時間を超えている】
専門業務型裁量労働制が適用されるケースであっても、みなし労働時間が法定労働時間を超えている場合には、残業代を請求することができます。
デザイナーへの残業代不払いが問題になる3つのケース
専門業務型裁量労働制以外にも、以下のようなケースでデザイナーへの残業代不払いが問題になります。
固定残業代制を理由とする残業代の不払い
固定残業代制とは、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払う制度のことをいいます。
残業の多い業種であるデザイナーは、固定残業代制が導入されているところも多いと思います。
固定残業代制は、みなし残業時間に対する残業代はすでに支払い済みとなりますが、
みなし残業時間を超えて残業をした場合には、固定残業代とは別に残業代を請求することができます。
会社から固定残業代以外一切残業代が支払われていないケースだと固定残業代制の違法な運用がなされている疑いがありますので、弁護士に相談してみるとよいでしょう。
なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
管理職を理由とする残業代の不払い
デザイナーで働く方の中には会社から「課長」や「リーダー」などの肩書が与えられている方もいると思います。
このような肩書が与えられている方は、会社から「管理職だから残業代は出ない」と言われることがあります。
労働基準法では管理監督者に該当する労働者に対しては残業代の支払いが不要とされていますが、管理監督者と管理職は同義ではありません。
管理職としての肩書が与えられていたとしても、実態が通常の労働者と変わらない働き方や待遇なら管理監督者にはあたらず、残業代を請求できる可能性があります。
なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事をご参照ください。
残業をしても労働時間として扱わない
残業が当たり前という職場では、定時でタイムカードを打刻させ、それ以降はサービス残業として扱うケースも少なくありません。
残業をすれば残業代を請求できるというのは労働者として当然の権利ですので、会社がサービス残業扱いにして残業代を支払ってくれなかったとしても、残業代を請求することができます。
ただし、残業時間は労働者が証明しなければなりませんので、タイムカードに正確な残業時間が反映されていない場合にはその他の証拠により立証していかなければなりません。
デザイナーが残業代請求をする方法
デザイナーが残業代を請求する場合、以下のような流れで行います。
内容証明郵便の送付
会社との交渉を開始する前にまずは内容証明郵便を利用して、残業代請求の通知書を送付します。
内容証明郵便には、未払い残業代の支払いを強制する効力はありませんが、いつ会社に対して残業代請求をしたのかという証拠を残すことができます。
会社に対して残業代請求をすることで、時効の完成を6か月間猶予することができますので、内容証明郵便の送付は、時効の完成を阻止するための有効な手段となります。
なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
会社との交渉
内容証明郵便で残業代請求に対する会社側の回答期限を設けた場合、期限までに会社からの回答があればそれを踏まえて今後の対応を検討していきます。
会社側が未払い残業代の存在を認めている場合には、残業代の金額、支払方法、支払時期などを話し合っていくことになります。
会社側は少しでも支払う残業代を減らすために、さまざまな理屈で残業代の減額を求めてきますので、労働者としては会社側の主張の正当性を見極めたうえで慎重に対応する必要があります。
自分だけで対応するのが難しいと感じるときは、早めに弁護士に相談するとよいでしょう。
労働審判の申立て
会社との交渉では解決が難しいときは、裁判所に労働審判の申立てをします。
労働審判では、まずは会社と労働者との話し合い(調停)による解決が試みられ、調停が成立する見込みがない場合に労働審判という形で判断がなされます。
原則として3回以内の期日で終了する手続きですので、裁判よりも迅速な解決が期待できます。
いきなり裁判を起こすこともできますが、話し合いの余地が残されているのであれば労働審判の利用を検討してみるとよいでしょう。
なお、労働審判で残業代請求をする流れについては、以下の記事をご参照ください。
訴訟の提起
会社との話し合いによる解決が困難な場合は、最終的に裁判所に訴訟を提起する必要があります。
訴訟では、労働者と会社の双方からの主張立証を踏まえて、裁判所が判決という形で未払い残業代の問題についての判断を行います。
訴訟手続きは、非常に専門的かつ複雑な手続きになっていますので、一般の方では対応が困難といえます。
そのため、訴訟の対応は弁護士に任せた方がよいでしょう。
なお、裁判で残業代請求をする流れについては、以下の記事をご参照ください。
デザイナーが残業代を請求するために必要な証拠
デザイナーが残業代を請求するためには、証拠が必須となります。
残業代請求にあたっては労働者側で残業をしたことおよびその時間を立証しなければなりませんので、証拠がなければ残業代の支払いを認めてもらうことはできません。
そのため、まずは残業代請求に必要な証拠をしっかりと確保しておくことが大切です。
タイムカードにより労働時間が適切に管理されている会社であれば、タイムカードにより残業時間を立証することができます。
しかし、実際にはタイムカードの時間と実労働時間にズレがあったり、裁量労働制を理由に労働時間の管理が行われていないケースも少なくありません。
このような場合でも以下のような証拠により残業を立証できる可能性がありますので、諦めずに証拠収集を行っていきましょう。
・業務日報・パソコンのログ履歴
・業務用のメールの送信履歴
・オフィスの入退室記録
・交通系ICカードの利用履歴
・残業時間と記載した手書きのメモ
なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
デザイナーの残業代請求が認められた裁判例
以下では、デザイナーの残業代請求が認められた裁判例を紹介します。
専門業務型裁量労働制の適用を否定した裁判例|京都地裁平成29年4月27日判決
【事案の概要】
Xは、日本画の画材を使用した絵画制作、彫刻などの彩色や修復などを請け負うY社と雇用契約を締結し、デザイン業務に従事していました。
Yからは専門業務型裁量労働制を理由に残業代の支払いがなされていなかったため、これに不満を抱いたXらは、専門業務型裁量労働制の適用はないとして残業代の支払いを求めて訴えを提起しました。
【裁判所の判断】
裁判では、①専門業務型裁量労働制の適用の有無、②Xが管理監督者に該当するかどうかが争点となりました。
①専門業務型裁量労働制の適用の有無
裁判所は、以下のような理由からXらに対する専門業務型裁量労働制の適用を否定しました。
・労使協定の締結にあたって、当該事業所に属する従業員の過半数の意思に基づいて労働者代表が適法に選出されたとはいえない・就業規則の周知が行われていたという証拠がない
②Xが管理監督者に該当するかどうか
裁判所は、以下のような理由からXの管理監督者性を否定し、会社に対して残業代の支払いを命じました。
・役職手当は月額4万円にとどまり管理監督者に対する対価としては不十分・労働時間の管理についても課長職に昇進する前後で変化がない
・Xが従業員の休暇取得や出張などの諾否の権限を有していたとはいえない
グラフィックデザイナーの残業代が認められた裁判例|大阪地裁令和元年9月17日判決
【事案の概要】
Xは、企業の広告宣伝、商業デザインの企画・制作などを行うY社と雇用契約を締結し、グラフィックデザイン業務に従事していました。
Xは、Y社では「出勤退社メール」により労働時間の管理が行われていたと主張し、それに基づいて計算した未払い残業代の支払いを求めて訴えを提起しました。
【裁判所の判断】
裁判所は、以下のような理由からXの労働時間を「出勤退社メール」により認定するのが相当であると判断しました。
・Y社が社員らに対して、「出勤退社メール」を会社に来たときと帰るときに送信するように指示していた
・Xの隣席で勤務していた同僚もXの出勤時間および退勤時間は「出勤退社メール」のとおりで間違いない旨証言している
デザイナーの残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください
デザイナーは、専門業務型裁量労働制の適用対象業務とされていますので、専門業務型裁量労働制を理由として残業代が支払われていないケースも少なくありません。
しかし、専門業務型裁量労働制の適用対象業務だからといって常に残業代の不払いが正当化されるわけではありません。
専門業務型裁量労働制の適用対象であったとしても、具体的な状況によっては会社に対して残業代を請求できる可能性があります。
残業代請求の可否を判断するためには、法的知識と経験が不可欠となりますので、会社から残業代が支払われていないデザイナーの方は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
グラディアトル法律事務所では、デザイナーの方をはじめとしてさまざまな業種についての残業代請求事案を取り扱っています。
業種ごとの特殊性や慣習などを踏まえて対応することができるのは、豊富な経験と実績を有する当事務所の強みですので、残業代請求に関するお悩みには、当事務所までご相談ください。
まとめ
デザイナーは、残業の多い業種の一つです。会社としては、少しでも残業代の支払いを減らしたいと考えますので、残業時間の長いデザイナーの方は、適切な残業代が支払われていない可能性があります。
法的に請求可能な残業代が存在しているかどうかは専門家による判断が必要となりますので、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。