塾講師の残業の実態と残業代請求が可能な6つのケースを解説

塾講師の残業の実態と残業代請求が可能な6つのケースを解説
弁護士 若林翔
2024年05月10日更新

「塾講師として働いているけれど、残業が多いと感じる」

「授業以外の準備の時間を残業代の対象外とされているけれど問題ないのか?」

「今後も塾講師の仕事を続けていくためにもきちんと残業代を払ってもらいたい」

塾講師は、生徒に対して勉強を教えるのが主な仕事になりますが、それ以外のも授業の準備、生徒からの質問への対応、会議や研修への参加などさまざまな業務があります。そのため、塾講師は残業の多い業種の一つといえます。

会社からきちんと残業代が支払われていればよいですが、さまざまな理由をつけて残業代が支払われていないケースも多いようです。

塾講師として働いている方は、会社側の違法な残業代不払いの手口を理解して上で、しっかりと残業代を請求していくようにしましょう。

本記事では、

・塾講師に残業が多いと言われる5つの理由

・塾講師が残業代請求可能な6つのケース

・塾講師が残業代請求をする際の注意点

などについてわかりやすく解説します。

グラディアトル法律事務所では、塾講師の未払い残業代として165万円を獲得した事例もありますので、残業代請求をお考えの塾講師の方は、まずは当事務所までご相談ください。

 

塾講師に残業が多いと言われる5つの理由

塾講師に残業が多いと言われる5つの理由

塾講師に残業が多いと言われるのは、主に以下の5つの理由があるからです。

授業準備やテストの採点に費やす時間が多い

塾講師は、生徒に勉強を教えるのが主な業務ですが、授業を行うためには、以下のような準備が必要になります。

・授業計画の策定
・テキストの作成
・テストの採点
・テストの回答と解説の作成
・授業で使用するプリント類の印刷

このような準備は、授業前または授業後に行わなければなりませんので、就業時間前の出勤や就業時間後の残業により対応することになります。充実した授業を行うためには、準備の時間も長くなりますので、必然的に長時間残業となってしまいます。

 

授業後に生徒からの相談や質問に対応しなければならない

塾講師は授業を終えればそれで業務終了となるわけではありません。授業後には、生徒からの相談や質問に対応するのも塾講師の仕事の一部です。

人気の塾講師になると授業後の生徒からの相談や質問時間も長くなりますので、残業をしてまで対応しなければならないこともあります。当然、相談や質問が長引けば、他の業務にも支障が出てしまいますので、長時間残業の原因の一つとなります。

 

保護者との面談が長引く

塾講師は、生徒の対応以外にも生徒の保護者との面談も行うことがあります。教育熱心な親ほど面談時間も長くなりますので、その分残業をして対応しなければならなくなります。

保護者との面談は、毎回あるわけではありませんが、進路相談の時期などは保護者との面談が立て込んで長時間の残業になることもあります。

 

会議や研修への参加が必要

学習塾を運営する会社によっては、生徒への指導方針の確認・改善や塾講師の能力向上のために、塾講師に対し、会議や研修への参加を義務付けているところもあります。

会議や研修は、通常の授業の時間以外の時間で行われますので、会議や研修の実施時間によっては、残業になるケースもあります。

 

テストや受験前には特別授業が実施される

テストや受験前になると学習塾では通常の授業とは別に、特別授業が実施されます。特に、大学受験や高校受験直前の12月~2月までの時期は、塾講師が1年でもっとも忙しい時期になります。

このような繁忙期になると、通常の業務時間内には業務を処理することができず、残業をしなければならない日が増え、長時間の残業になることもあります。

 

塾講師が残業代請求可能な6つのケース

塾講師が残業代請求可能な6つのケース

会社から「残業代は出ない」と言われたとしても、実際には違法な残業代不払いである可能性があります。特に、以下のようなケースに該当する場合には、残業代を請求できる可能性が高いでしょう。

 

【ケース1】授業以外の時間をサービス残業としているケース

塾講師が長時間残業を余儀なくされる大きな理由は、授業以外の業務時間が非常に長いことが挙げられます。学習塾を運営している会社によっては、授業以外の業務時間を労働時間とは扱わずサービス残業としているところもありますが、そのような扱いは違法です。

塾講師も労働者ですので、残業をすれば残業時間に応じた残業代を請求する権利があります。サービス残業を強いられている塾講師の方は、しっかりと残業代を請求するようにしましょう。

 

【ケース2】休憩時間中も生徒の相談や質問に対応しているケース

生徒からの相談や質問時間が長引くと、休憩時間を割いて対応しなければならないことがあります。

しかし、休憩時間とは、労働から完全に開放されている時間をいいますので、休憩時間中に業務を行っている場合には、その時間は労働時間として扱われます。そのため、休憩時間中も生徒の相談や質問に対応しているケースでは、その時間も含めて残業代を請求することができます。

会社から「休憩時間までに終わらせなかったのが悪い」などと言われることがあるかもしれませんが、そのような理屈は残業代を支払わなくてもよい理由にはなりません。

 

【ケース3】アルバイトや非常勤講師の給与がコマ給になっているケース

塾講師のアルバイトや非常勤講師は、「コマ給」という給与形態が採用されているケースが多いです。コマ給とは、1授業(1コマ)の報酬を定め、「担当したコマ数×1コマの単価」

を賃金として支払う給与形態です。

1コマあたりの単価は、比較的高額ですので、授業時間だけで考えた場合には、十分な給与といえるかもしれません。しかし、塾講師の業務は、授業だけでなく授業以外のさまざまな業務もこなさなければなりません。そのため、時給換算した場合には、最低賃金を下回る可能性もあります。

また、コマ給では、授業以外の労働時間に対する賃金が含まれていませんので、サービス残業の温床になりやすい給与形態だといえるでしょう。

なお、アルバイトの残業代についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

アルバイトでも残業代は支払われる!残業代計算や未払いへの対処法

【ケース4】塾長の地位を理由にして残業代が支払われていないケース

塾長という地位が与えられている塾講師は、会社から「管理職だから残業代は発生しない」と言われることがあります。

労働基準法では、経営者と一体的な地位にある労働者のことを「管理監督者」と定め、残業代の支払いを不要としています。管理職と管理監督者は、似たような言葉ですがまったく同じ意味の言葉ではありません。労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは、「塾長」という肩書ではなく、経営者と一体的な地位にあるかどうかという実態に即して判断することになります。

そのため、以下のような事情がある場合には、管理監督者性は否定され、残業代を請求できる可能性があります。

・経営会議などに参加したことがない
・塾講師の採用、解雇、シフトの決定などの権限が与えられていない
・会社から労働時間を管理されていて、遅刻・早退をすると減給される
・他の塾講師の給与と比較しても特別に好待遇というわけではない

なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事もご参照ください。

「管理職の残業代は出ない」は間違い!違法なケースや請求方法を解説

 

【ケース5】固定残業代しか支払われていないケース

固定残業代とは、一定時間分の残業代をあらかじめ給料に含めて支払う制度のことをいいます。残業の多い塾講師は、固定残業代制度が導入されていることもありますが、固定残業代が支払われているからといって、一切残業代の支払いが不要になるわけではありません。

固定残業代制度は、一定時間分の残業代についてはあらかじめ支払われていますが、それを超える残業をした場合には、別途残業代が支払われなければなりません。たとえば、固定残業代が20時間分と設定されている塾講師では、月の残業時間が20時間を超える場合、超えた部分について、固定残業代とは別に残業代を請求することができます。

なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

みなし残業代(固定残業代)に追加の残業代を請求できる6つのケース

 

【ケース6】業務委託契約を理由として残業代が支払われないケース

会社から「業務委託契約だから残業代は出ない」と言われている塾講師の方もいるかもしれません。

たしかに、残業代が発生するのは雇用契約を締結した労働者ですので、業務委託である場合には、残業代は発生しません。しかし、雇用か業務委託かは、契約の名称ではなく実態に即して判断しますので、具体的な状況によっては残業代を請求できる労働者に該当する可能性があります。

たとえば、以下のような事情がある場合には、残業代を請求できる可能性が高いでしょう。

・会社から具体的な授業内容や方針の指示を受けている
・会社により労働時間が管理されている
・会社から提供されたテキストや教材を使用している
・自分が休んでも他の塾講師が代わりに授業を担当している

 

塾講師が残業代を請求する際に必要になる証拠

塾講師が残業代を請求するためには、塾講師の側で残業をしたことを立証しなければなりません。十分な証拠がない状態で会社に対して残業代請求をしても、まともに取り合ってもえません。また、裁判では証拠に基づいて事実認定を行いますので、証拠がなければ有利な判決を獲得することはできません。

このように残業代請求にあたっては証拠が非常に重要となります。

タイムカードにより労働時間が管理されていれば、残業時間の立証は容易です。しかし、塾講師の場合、コマ給という給与形態がとられていることが多いため、授業以外の労働時間が適切に管理されていません。このような場合には、以下のような証拠により、残業を立証できる可能性があります。

・校舎のセキュリティ記録

・授業のシフト表

・会議や研修のスケジュールを記載したメールや文書

・業務に使用しているパソコンのログイン、ログアウト履歴

・業務連絡をしたメールやLINEの履歴

・始業、終業時刻を記載したメモ

 

なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

タイムカードないけど残業代もらえる!あれば役に立つ証拠16選!

 

塾講師が残業代請求する際の注意点

塾講師が残業代請求する際の注意点

塾講師が残業代請求をする際には、以下の点に注意が必要です。

 

残業代請求には時効がある

未払い残業代があることが判明しても、会社に在籍中は会社との関係が悪化することをおそれて残業代請求をあきらめてしまう方も少なくありません。しかし、残業代請求には、時効という期間制限がありますので、未払い残業代がある状態で放置していると、一定期間の経過により残業代を請求する権利が失われてしまいます。

そのため、会社に対して残業代を請求する場合は、時効になる前に早めに行動することが大切です。

具体的な残業代の時効は、残業代の発生時期に応じて、以下のように定められています。

2020年3月31日以前に働いた分の残業代の時効……2年

2020年4月1日以降に働いた分の残業代の時効……3年

なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事もご参照ください。

残業代の時効は3年!時効を阻止する方法と残業代請求の流れを解説

 

時間外・休日・深夜労働には割増賃金が発生する

残業をすれば残業代を請求できるのは当然ですが、残業する時間帯によっては、さらに割増賃金を請求することができます。労働基準法では、時間帯ごとに以下のような割増賃金率が定められています。

・法定時間外労働(1日8時間・1週40時間を超えた労働)……25%以上

・深夜労働(午後10時から翌午前5時までの労働)……25%以上

・休日労働(法定休日における労働)……35%以上 

・月60時間を超える時間外労働……50%以上

残業代計算をする際には、割増賃金率の適用される法定外残業と適用のない法定内残業をしっかりと区別することが大切です。また、割増賃金率は、重複して適用されますので、「法定時間外労働+深夜労働」、「休日労働+深夜」などの割増賃金率の適用を忘れずに行うようにしましょう。

なお、残業代計算方法の詳細は、以下の記事もご参照ください。

【残業代を計算したい人へ】60時間超・深夜手当・休日手当までわかる

 

塾講師の未払い残業代請求に関する実際の事例および裁判例

塾講師の未払い請求書が認められた裁判例

以下では、当事務所の弁護士が塾講師の未払い残業代問題を解決した実際の事例と塾講師の管理監督者性が問題となった裁判例を紹介します。

 

訴訟上の和解により165万円を獲得した当事務所の事例

【事案の概要】

ご依頼者は、大阪府内の学習塾で講師として働いていた30代の男性で、塾経営会社の取締役として登記がされていました。

ご依頼者は以下のような条件で、約4年間勤務していました。

・週6日勤務

・勤務時間は13時30分~22時30分(休憩時間の定めはないが、1時間程度の休憩あり)

・週2回の会社の会議がある日は、本社に出社して2~3時間の会議に参加してから通常の勤務に移動(会議内容は会社の経営方針や授業の内容について一方的に話を聞くもので、ご依頼者が意見を述べられるような会議ではない)

・模試や塾の行事がある場合は日曜も出勤

・報酬月額28万9000円(名目は基本報酬、取締役報酬、固定残業代)(固定分の残業を超えた場合は追加残業代が出る)

ご依頼者はその年度終わりで会社を退職しましたが、残業代に相当する金銭はほとんど受け取ることができていない状態でした。

そこで、残業代の支払を求め、労働事件を多数取り扱っている当事務所に相談に来られました。

 

【結果】

弁護士がご依頼者から具体的な勤務状況を聞き取ったところ、「取締役」ではなく「労働者」としての実態が認められることが判明したため、会社に対して残業代の請求を行いました。

しかし、会社側は「取締役だから残業代は発生しない」の一点張りで、譲歩する気配がなかったことから、訴訟を提起して未払い残業代を請求することになりました。

訴訟では、

①ご依頼者が「労働者」にあたるか

②「労働者」にあたるとして、業務活動時間が「労働時間」にあたるか

が争点となりました。

弁護士は、ご依頼者の実際の働き方や報酬の支払われ方などから労働者性を主張立証していったところ、訴訟の中で和解が成立し、最終的にご依頼者は、会社から165万円の支払いを受けることができました。

 

【弁護士からのコメント】

形式上取締役の名称が付与されていたからといって、必ずしも労働基準法上の保護を受けられないというものではありません。

弊所弁護士は、ご依頼者が実際の労働に応じた正当な対価を受け取ることができるよう、精力的に活動していきます。残業代請求をしていきたいとお考えの塾講師の方は、ぜひ一度、当事務所までお問い合わせください。

 

塾講師(校長)の管理監督者性を否定した裁判例|横浜地裁平成21年7月23日判決

【事案の概要】

X1およびX2は、小学生・中学生・高校生を対象とする受験予備校を経営するY社において、塾講師として勤務していました。しかし、X1は校長、X2は校長代理としての地位が与えられていたため、Y社からは残業代が支払われていませんでした。

そこで、X1およびX2は、管理監督者にはあたらないとして、会社に対して未払い残業代の支払いを求める訴えを提起しました。

 

【裁判所の判断】

裁判所は、管理監督者に該当するかどうかは、

・雇用主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を有するか

・自己の出退勤について、自ら決定し得る権限を有するか

・管理職手当などの特別手当が支給され、待遇において時間外手当および休日手当が支給されないことを十分に補っているか

などを実態に即して判断すべきとした上で、以下のような理由からX1およびX2の管理監督者性を否定しました。

・校長会議および責任職会議に出席していたものの、役員会議で決定された経営方針などを伝達されるだけであった

他の職員と同様に出退勤時間が定められ、勤務記録表により出退勤時間を管理されていた

・年収がX1は400万円台前半から半ばまで、X2は約400万円にとどまっており、校長に匹敵する年収を得ていた塾講師もいた

 

塾講師の残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

塾講師の残業代請求はグラディアトルへ

塾講師は、コマ給制という給与形態、授業以外の業務時間が残業として認められない、校長が管理監督者として扱われるなど塾講師特有の残業代に関する問題があります。このような塾講師の残業代に関する問題を解決するには、塾講師の残業代問題に詳しい弁護士に相談することが大切です。

グラディアトル法律事務所では、過去に塾講師の残業代として、訴訟上の和解により165万円を獲得した事例があるなど、豊富な実績と経験があります。残業代を支払わない会社側の違法な手口も熟知していますので、塾講師の残業代の問題を適切に解決に導くことが可能です。

そのため、会社に対して残業代請求をお考えの塾講師の方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

 

まとめ

塾講師が残業代を請求するにあたっては、残業に関する証拠収集、残業代計算、会社との交渉、労働審判・訴訟の手続きなどを行わなければなりません。不慣れな方では、これらの手続きを適切に進めていくのは困難ですので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

グラディアトル法律事務所では、塾講師の残業代請求に関して経験豊富な弁護士が多数在籍しています。残業代請求に関する一連の手続きをすべて弁護士に任せることができますので、ご自身の負担を大幅に軽減することができます。塾講師の残業代の問題は、グラディアトル法律事務所にお任せください。



弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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