「本当は、もっと残業代が支給されるべきなんじゃないか?」
このような疑問を抱いているなら、できるだけ早く、正確な残業代を自分で計算してみることをおすすめします。
じつは、残業代は単に時給換算分を加算するだけでなく、さまざまな割増しがあることをご存じでしょうか。
働いた時間分の残業代を請求することはもちろん、深夜や休日、60時間以上の超過残業など、法律に基づいて、きちんと報酬を得ることは、働く人の当然の権利です。
この記事では、残業代が正しく計算されているのか、自分で確認するための情報をお届けします。
企業担当者向けではなく、一般の方々を対象としていますので、専門用語は使わず、わかりやすく簡単にレクチャーしています。
また、フレックスタイム制や裁量労働制など、変則的な計算もカバーしました。
本記事を通じて正しい知識を身につけ、ご自身の権利を守る一歩を踏み出しましょう。
目次
残業代を計算する前の基礎知識
まず、残業代を計算する前に、最低限必要となる基本知識から確認していきましょう。
残業代とは何か
そもそも「残業」とは何かといえば、法律用語では「時間外労働」がそれにあたります。
たとえば、会社の所定勤務時間が午前10時〜午後18時だったとしましょう。18時を超えて労働した場合に、この時間外労働に対して、別途支払われる賃金が「残業代」です。
また、労働基準法では法定労働時間として「1日8時間・1週40時間まで」と定められています。
Q1. 一般に時間外労働といいますが、労働基準法ではどのような場合を言うのですか?
A1.労働基準法では、労働時間は原則1日8時間、1週40時間までと定められています。この法定労働時間を超えて労働をさせた場合が、労働基準法の(法定)時間外労働です。これが割増賃金の対象になります。
どのような雇用契約であれ、上記の法定時間外労働は、基本的に残業代支給の対象となります。
残業代の計算式
ここで、残業代の計算式を、確認しておきましょう。
残業代を計算するためには、
(1)残業時間
(2)1時間あたりの賃金
(3)割増率
の3つの情報が必要となります。以下に続きます。
月給制の場合の「1時間あたりの賃金」とは?
月給で給与を受け取っている場合、「1時間あたりの賃金」を算出する必要があります。
1時間あたりの賃金の計算式は、以下のとおりです。
1時間あたりの賃金=月給 ÷ 1年間における1か月平均所定労働時間
ここで重要となるのが、「“月給” とは何か」です。
残業代計算の基礎となる月給から、除外されるもの(含まないもの)は、以下の7つです。
(1)家族手当
(2)通勤手当
(3)別居手当
(4)子女教育手当
(5)住宅手当
(6)臨時に支払われた賃金
(7)1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
たとえば、通勤手当(定期代などの通勤交通費)や住宅手当、賞与・ボーナスは、月給に含みません。
逆に、上記の7つに該当しない賃金は、月給に含めて計算します。
後ほど、例題をもとにした具体的な計算例をご紹介しますので、まずは上記の概要をインプットしましょう。
3種類の割増賃金
次に必要な情報が「割増率」です。
仮に、前項で算出した1時間あたりの賃金が、「1,500円」だったとします。割増賃金の条件を満たしている場合、1,500円に割増率分が上乗せされるのです。
法律で定められた割増賃金は、「時間外」「休日」「深夜」の3種類あります。
たとえば、「法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき」は、割増率25%以上です。
1,500円(1時間あたりの賃金) × 1.25(割増率)=1,875円
…という計算となり、残業分の時給は1,875円に割増しされます。
補足:2023年4月より中小企業も月60時間超分は割増適用
補足として、割増賃金の「時間外労働が1か月60時間を超えたとき」は、かつて大企業のみの適用でした。
現在は、2023年4月1日の労働基準法改正により、中小企業であっても、50%の割増賃金が適用されます。
この改正は、過重労働による健康リスクを抑制し、労働者の権利を守ることを目的としています。
1時間当たりの賃金が1,500円の場合、月60時間を超える残業には以下の計算により割増賃金が発生します。
1,500円(1時間あたりの賃金) × 1.5(割増率)=2,250円
月間残業時間が60時間を超える方は、この制度をよく理解しておきましょう。
会社には残業代を支払う法的義務がある
以上が、残業代計算の基本的な知識です。
これまで、安易な気持ちでサービス残業をしてきた方も、実際に計算してみると、
「会社に、都合よく使われているかもしれない」
と不安になるのではないでしょうか。
残業代の支払いは、法律で明確に定められた、使用者(企業)の義務です。
きちんと支払いされていない場合、コンプライアンス意識の低いブラック企業といわざるを得ません。
次のセクションでは、具体例を用いながら、実際の残業代の計算をご紹介します。参考にしながら、本来ご自身が受け取るべき残業代を、計算してみてください。
実際の残業代の計算例
次に、実際の残業代を計算していきましょう。
以下の書類が手元にあるとスムーズに計算できます。お手元にご準備のうえ、読み進めてください。
【準備しておくとスムーズな書類】
・基本給や各種手当が記載されている「給与明細」
・所定労働時間や年間所定休日が記載されている「就業規則」
1時間あたりの賃金を計算する
まず、1時間あたりの賃金を計算します。
前述のとおり、
月給(基本給 + 各種手当※一部除外) ÷ 1年間における1か月平均所定労働時間
にて算出します。
「1年間における1か月平均所定労働時間」は、以下の計算式で算出します。
年間出勤日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12か月
割増賃金の該当がない場合には、上記の1時間あたりの賃金に残業時間を掛け合わせれば、残業代を算出できます。
たとえば、1か月に20時間の残業をした場合、以下のとおりです。
20時間(残業時間) × 1,500円(1時間あたりの賃金)=1か月の残業代:30,000円
時間外労働の割増率を計算する
割増賃金の該当がある場合には、該当分の残業時間を細かく分けて、それぞれ算出する必要があります。
例として、上記は[所定労働時間が午前9時から午後5時(休憩1時間)までの場合]の例です。
「所定労働時間」と「法定労働時間」が混乱しやすいので、整理しておきましょう。
ーーーーーーーーーー
・所定労働時間:企業が独自に定める就労時間。働く人と会社との間の雇用契約で決めます。一般企業では1日8時間であることが多いですが、6〜7時間と短く設定しているケースもあります。
・法定労働時間:労働基準法によって定められた労働時間の上限。「1日8時間・週40時間」と決まっています。
ーーーーーーーーーー
会社との雇用契約で決めた所定労働時間を超えて残業すると残業代が発生します。
さらに、法律によって定められた法定労働時間を超えて残業すると、割増賃金が発生する、という仕組みになっています。
上記の[所定労働時間が午前9時から午後5時(休憩1時間)までの場合]の計算例では、「所定労働時間外」「法定労働時間外」「深夜」の3つの異なる賃金が適用されています。
ーーーーーーーーーー
・法定時間内残業(17:00〜18:00):1時間あたりの賃金 × 1.00 × 1時間
・法定時間外残業(18:00〜22:00):1時間あたりの賃金 × 1.25 × 4時間
・法定時間外残業+深夜(22:00〜 5:00):1時間あたりの賃金 × 1.50(1.25 + 0.25)× 7時間
ーーーーーーーーーー
法定休日労働の割増率を計算する
次に、法定休日に労働した場合を見てみましょう。
法定休日とは、労働基準法で定められた休日で、「1週に1日以上」と決まっています。
法定休日に労働した場合には、割増率が「35%以上」となります。
さらに、休日労働で深夜(夜22時〜朝5時)にも働くと、深夜手当の割増率25%が加算され、「35% + 25% = 60% 以上の割増賃金」となります。
特殊なケースの残業代計算のポイント
続いて、特殊なケースの残業代計算について、見ていきましょう。以下のケースを解説します。
- (1)フレックスタイム制
- (2) みなし残業代の定額支給
- (3)裁量労働制
- (4)管理職(管理監督者)
フレックスタイム制
1つめのケースは「フレックスタイム制」です。
フレックスタイム制は、1日の労働時間の長さは固定的に定められていませんが、「清算期間における総労働時間」が定められています。
フレックスタイム制で働いている方は、就業規則などで確認しましょう。
フレックスタイム制における所定労働時間は、清算期間を単位として定められています。
清算期間の総労働時間を超えた分が、所定労働時間外の労働として、残業代の請求対象となります。
法定休日分(週に1日以上の休日)を超えて働いた場合は、休日手当(割増率35%以上)の対象となります。法定労働時間外(割増率25%以上)も同様です。
注意が必要なのは、深夜労働です。
フレックスタイム制でも、夜22時〜朝5時に働くと、深夜手当(割増率25%)の対象となります。
ただし、出勤退勤の時間が強制されていないため、「所定労働時間や法定労働時間を超えていないが、深夜には働いている」という状況が生じ得ます。
その場合には、深夜手当の25%のみが支払われます。
みなし残業代の定額支給
2つめのケースは「みなし残業代の定額支給」です。
よくある勘違いとして、
「私の会社は、みなし残業代が出ているので、残業代が出ない」
という方が多いのですが、それは誤解です。
みなし残業代(固定残業代)として、毎月定額の残業手当が支払われている場合でも、実際の残業時間に応じた残業代や割増賃金が支給されます。
本来支払われるべき残業代が、定額支給のみなし残業代を上回れば、その差額分の残業代が加算されるということです。
たとえば、みなし残業代を毎月40時間分、受け取っているとして、実際の残業時間が以下だったとします。
・4月:残業0時間
・5月:残業50時間
会社が、5月の残業超過分(50時間 – 40時間 = 10時間)の残業代を支払わない場合、これは違法となります。
また、4月に残業0時間にもかかわらず、40時間分のみなし残業代を受け取っている分について、返還する義務はありません。
さらに、みなし残業代(固定残業代)自体が無効となり、多額の残業代が請求できるケースも少なくありません。
詳しくは以下の記事で解説していますので、ご確認ください。
裁量労働制
3つめのケースは「裁量労働制」です。
裁量労働制とは、労働時間が働く人の裁量に委ねられる制度のことです。あらかじめ「みなし労働時間」を定めて、実際の労働時間にかかわらず、みなし労働時間を労働時間としてみなします。
「実労働時間 – 所定労働時間 = 残業時間」という概念はないため、この観点での残業代はありません。
しかし、裁量労働制の場合であっても、法定時間労働時間を超える分、および休日労働・深夜労働については、割増賃金が適用となります。
以下は、東京労働局の裁量労働制に関する資料からの抜粋です。
出典:東京労働局「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために」
なお、労働者保護の観点から、裁量労働制の対象となる業務や導入の手続きは、法律で細かく定められています。また、導入の際には労働者本人の同意が必要です。
ご自身が同意したうえで、裁量労働制で働いている場合、上記のような書面で説明を受けているはずですので、条件を確認してみましょう。
裁量労働制について詳しくは、以下の記事もご覧ください。
管理職(管理監督者)
4つめのケースは「管理職(管理監督者)」です。
法的には、「管理監督者の地位にある従業員に対しては、時間外手当・休日手当を支払う必要はない」とされています。
〈管理監督者(労働基準法41条2号)とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるものの意〉
となります(出典:厚生労働省「管理監督者に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性」)。
経営者に残業代を支払う必要がないように、経営者と一体的な立場にある管理監督者には、残業代を支払う必要がない、というのが基本的な考え方です。
ただし、一般的な「管理職」と、労働基準法における「管理監督者」は同一ではありません。
慣習的に管理職とみなされる役職や肩書きを持っていても、経営者と一体的な立場といえない場合、残業代は一般の従業員と同じ条件で支給されます。
また、管理監督者の場合であっても、夜22時〜朝5時の深夜労働については、深夜手当(割増率25%以上)が支払われる必要があります。
管理監督者か否かを判断する詳細や、残業代との兼ね合いについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
未払いの残業代は請求できる
残業代を計算してみた結果、
「かなりの未払い残業代がある」
と、気付いた方もいるでしょう。
未払いの残業代は請求できますので、泣き寝入りせずに行動を起こしましょう。実際の事例を以下でご紹介します。
未払いの残業代で300万円を勝ち取った事例
実際の事例として、神奈川県在住の男性が勤務していた食料品加工会社から2年分の未払い賃金(残業代と深夜割増)を求める労働審判を申立て、300万円を勝ち取ったケースがあります。
詳しくはこちら:未払いの残業代で300万円を勝ち取った事例【神奈川県】
この男性は20年以上勤務し、おもに早朝シフト(明け方3時〜5時に出社)で働いていました。長いときで1日に12時間働いており、法定労働時間を超える残業代と、深夜割増を請求できる状況でした。
未払いの残業代を請求するに至ったのは、転職がきっかけです。
残業代請求の流れとしては、まず無料相談から始まり、タイムカードや給与明細などの証拠資料をもとに、担当弁護士が残業代の計算と請求手続きを行いました。
交渉・労働審判手続きに進み、実際には1日で和解が成立しました。
相手方からは条件の良い和解案が提示され、依頼者も満足して早期解決を望んだ結果、300万円にて和解となったのです。
自分で勤怠時間の証拠を残すことが重要
上記のケースでは、勤怠管理がタイムカードで行われていたため、残業時間の算出に根拠がありました。
タイムカードでの勤怠管理がされていない職場や、サービス残業分については、自分で勤怠時間の証拠を残すことが、非常に重要となります。
本来、使用者(企業)側には、労働安全衛生法に基づき、従業員の労働時間を客観的な記録で把握する法的義務があります。それがなされていない場合、以下のような手法で自衛しましょう。
・出勤時・退勤時にオフィスの時計などをスマートフォンで撮影する。
・業務日誌を毎日書き、出勤時間・退勤時間を記録する。
・メールやチャットなど送信履歴を残せるツールを使って仕事をする。
・パソコンの起動時間のログを取る。
残業代請求の時効は5年(経過措置として3年)
もうひとつの重要なポイントとして、「未払い賃金が請求できる時効は5年」です。
「時効は2年」と記憶している方もいるかもしれませんが、2020年に改正民法施行に伴う労働基準法改正がありました。
賃金請求権の消滅時効期間は「5年」(旧法では2年)に延長されています。ただし、当分の間は経過措置として3年で運用されています。
出典:厚生労働省「未払賃金が請求できる期間などが延長されています」
先ほどの神奈川県の男性依頼者の事案では、時効が旧法の適用で2年だったため、2年分の未払い賃金の請求となりました。現行法では、それ以前までさかのぼることが可能です。
残業代請求の時効についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
早めに弁護士へ相談を
法改正によって時効が延長されたとはいえ、タイムリミットはあります。できるだけ早く、弁護士へ相談して可能な行動を検討する必要があります。
残業代の請求は、時間の経過とともに困難になっていきます。証拠の収集が難しくなったり、会社側の対応が硬化したりする恐れがあるからです。だからこそ、早めに行動を起こすことが重要なのです。
まずは無料相談を利用して、残業代の請求が可能なのか、どれくらいの金額を勝ち取れる可能性があるのか、専門家と一緒に現状把握することをおすすめします。
よろしければ、こちらの「労働問題についてのお問い合わせ」ページ より、お気軽にご連絡ください。
まとめ
本記事では「残業代の計算」をテーマに解説しました。要点をまとめておきましょう。
残業代の計算式は、以下のとおりです。
残業代=残業時間 × 1時間あたりの賃金 × 割増率
割増賃金は、以下の3種類です。
特殊なケースの残業代計算のポイントとして、以下を解説しました。
- (1)フレックスタイム制
- (2)みなし残業代の定額支給
- (3)裁量労働制
- (4)管理職(管理監督者)
未払いの残業代を請求する場合は、以下にご留意ください。
- (1)自分で勤怠時間の証拠を残すことが重要
- (2)未払い賃金の時効は5年(経過措置3年)
残業代を計算した結果、未払いがある場合には、労働問題に強い弁護士に相談しましょう。
グラディアトル法律事務所では、数多くの残業代に関する事案を経験しておりますので、ご相談だけでもお気軽にご利用ください。