接待に残業代は出る?残業代を請求できる・できないケースを解説

接待に残業代は出る?残業代を請求できる・できないケースを解説
弁護士 若林翔
2024年07月22日更新

「取引先との接待をした時間は、労働時間にあたるのだろうか」

「会社から接待を命じられたのに、残業代が出ないのは納得できない」

「残業代が生じる接待にはどのようなものがあるの?」

日本のビジネスでは、接待により取引先との関係性を深めるのが昔ながらの慣習になっています。接待により取引先との契約に至るケースも少なくありませんので、接待はビジネスにおける重要な要素の一つといえるでしょう。

しかし、業務としての一面があるにもかかわらず、接待に対して残業代が支払われないケースが多いです。接待だからといって一律に残業代が支払われるわけではありませんが、以下のような接待に関しては、残業代を請求できる可能性があります。

・接待への参加を強制されているケース

・営業目的で接待に参加するケース

・接待中に業務が生じるケース

・接待内容の報告が義務付けられているケース

本記事では、

・接待と労働時間との関係

・残業代を請求できる接待とできない接待の具体例

・接待で残業代を請求する際に弁護士に相談するメリット

などについてわかりやすく解説します。

接待が労働時間に含まれるかどうかについては、法的判断が必要になりますので、自分では判断に迷うときはすぐに弁護士に相談するようにしましょう。

接待で残業代は出る?労働時間の考え方

接待で残業代は出る?労働時間の考え方

接待が労働時間にあたる場合には残業代を請求することができます。そこで、まずは労働時間の基本的な考え方を説明します。

そもそも労働時間とは

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。

使用者の指揮命令下に置かれているかどうかは、実態に即して客観的に判断されますので、就業規則や雇用契約で「接待は労働時間に該当しない」と定められていたとしても、それだけで労働時間性が否定されるものではありません。

客観的にみて使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務付けられ、またはこれを余儀なくされていた状況の有無などから、個別具体的に判断されることになります。

なお、労働時間と休憩時間のルールについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

労働時間と休憩のルールとは?法律の規定と違法な休憩の対処法

接待が労働時間にあたれば残業代請求ができる

接待が労働時間にあたる場合、会社には労働者が接待に参加した時間に応じて賃金(残業代)を支払わなければなりません。そのため、接待で残業代を請求できるかどうかは、接待が労働時間に含まれるかどうかが重要なポイントとなります。

接待だからといって直ちに労働時間性が否定されるわけではありませんが、常に労働時間に該当するというわけでもありません。そのため、どのようなケースが残業代請求可能な接待であるかを押さえておくことが大切です。

接待が労働時間にあたり残業代を請求できる4つのケース

接待が労働時間にあたり、残業代を請求できるケースとしては、以下の4つのケースが挙げられます。

接待が労働時間にあたり残業代を請求できる4つのケース

接待への参加を強制されているケース

会社から接待への参加を強制されているケースでは、使用者により接待を義務付けられ、または余儀なくされていたといえますので、労働時間にあたるといえます。

接待への参加が強制されているとは、明示的な指示がある場合だけでなく、黙示的な指示がある場合も含まれます。黙示的な指示があったといえる状況としては、以下のような場合が挙げられます。

・取引先との接待に参加するのが暗黙のルールになっていて、拒否する自由がない

・接待への参加を拒否すると人事考課において低い評価を付けられる

・接待に参加しないとパワハラや嫌がらせを受ける

・取引先との接待に参加できない社員には重要な仕事が与えられない

接待への参加を拒否できない状況であれば、会社からの黙示的な指示があったと評価されますので、残業代を請求できる可能性があります。

【立証に必要な証拠】

・接待を指示されたことがわかるもの(メール、LINE、チャットなど)

・会社に提出した接待内容の報告書

・接待に参加しないことを理由とする暴言を受けた状況の録音や録画

営業目的で接待に参加するケース

日本のビジネスシーンにおいては、取引先との契約を目的として接待を行うケースが多いです。このような営業目的での接待は、会社の業務としての性質が強いため、業務に不可欠な行為として、労働時間に含まれる可能性が高いです。

営業目的か懇親目的かは接待に参加する社員の主観にかかわる部分ですので、残業代請求の場面では会社と争いになる可能性があります。そのため、営業目的で接待に参加する場合には、会社に対して接待の報告書を提出するなどして、目的を明確にしておくことが大切です。

【立証に必要な証拠】

・会社に提出した接待の報告書

接待中に業務が生じるケース

接待というと取引先との飲食を楽しむイメージがあるかもしれません。しかし、完全なプライベートの飲食とは異なり、実際の接待では取引先の機嫌を損ねないように気をつかったり、成約に向けてプレゼンなどをする必要もあります。このように、接待中に業務が生じる場合には、その時間は労働時間と評価することができます。

たとえば、以下のような事情がある場合には、接待であっても残業代を請求できる可能性があります。

・接待に司会進行役を命じられる

・接待中の記録係を命じられる

・接待中に資料を渡して、内容の説明を行う

・宴会の準備や片付けを命じられる

・運転手として接待参加者の送迎を行う

【立証に必要な証拠】

・接待のために作成した資料、進行表

・会社から送迎を命じられたメール、LINE、チャット

・接待の準備や片づけが必要な場所であることがわかる資料(接待場所のHPの案内)

接待内容の報告が義務付けられているケース

会社から接待内容の報告を義務付けられている場合には、接待は会社による管理を受けていると評価できますので、当該接待は労働時間に含まれる可能性が高いです。

この場合は、会社に提出した報告書などを証拠として、接待の残業代を請求することができます。

【立証に必要な証拠】

・会社に提出した接待の報告書

接待が労働時間にあたらず残業代を請求できない2つのケース

 接待が労働時間にあたらず残業代を請求できないケースとしては、以下の2つのケースが挙げられます。

接待が労働時間にあたらず残業代を請求できない2つのケース

接待への参加が任意とされているケース

接待への参加が会社から義務付けられておらず、労働者が任意に参加した接待については、使用者による指揮命令下に置かれた時間とは評価できませんので、労働時間にはあたりません。

取引先の担当者との関係性を深めるために、個人的に飲み会を開催したり、休日にゴルフに行くこともあるかもしれません。しかし、このような接待は、業務との関連性が希薄であるため、接待をしたとしても残業代を請求するのは困難といえます。

懇親目的で接待に参加するケース

取引先との接待というと完全なプライベートではなく、業務としての一面があることも否定できません。しかし、接待の目的が営業目的ではなく、懇親目的であった場合には、会社から接待を指示されたとはいえませんので、労働時間にはあたりません。

接待中に仕事の話になり、結果として成約に至ったとしても、参加が強制されていない懇親目的の接待では残業代の請求は困難といえるでしょう。

接待の残業代に関する裁判例

接待の残業代に関する裁判例 

以下では、接待の残業代に関する裁判例を紹介します。

東京地裁令和元年12月4日判決|(忘年会の残業代を認めた)

【事案の概要】

Xは、一般廃棄物、産業廃棄物処分運搬等を主な事業内容とするY社に雇用され、運転手として勤務していました。Xは、無事故班慰労会や全社忘年会への参加を義務付けられていました。

そこで、Xは、慰労会・忘年会への参加が労働時間にあたるとして、Y社に対して、残業代の請求を行いました。

【裁判所の判断】

裁判所は、被告会社で年2回開催される無事故班慰労会および年1回の全社忘年会については、Xに参加が義務付けられていたことから、労働時間として認定し、Yに対して残業代の支払いを命じました。

東京高裁令和2年9月3日判決|(打ち上げの残業代を否定)

【事案の概要】

Xは、Y社が運営する劇団で劇団員として活動していました。最初の5年間は無給でしたが、後に月6万円が支給されるようになりましたが、稽古や準備で1日の活動は12時間を超えることもあり、1か月間休みがないことも珍しくありませんでした。

そこで、劇団員は、労働者にあたることを前提に、未払い賃金の支払いを求めて訴えを提起したのが本件事案です。

本事案では、労働者性を判断する要素の一つとして、公演打ち上げが業務の一環といえるかどうかが争点となりました。

【裁判所の判断】

裁判所は、Xの労働者性は肯定しましたが、公演打ち上げは、以下のような理由で、賃金

支払い義務を発生させるような業務であったとはいえないとしました。

・公演打ち上げは、外部のキャストをもてなす目的で行われていた

・公演打ち上げは強制ではなく欠席も可能であった

・会費はYの経費から支出され、劇団員も無料で飲食可能であった

労災場面での接待|高松高裁令和2年4月9日判決

【事案の概要】

この事案は、くも膜下出血で死亡した労働者の遺族が提起した労災不支給決定に対する取消訴訟になります。

くも膜下出血の業務起因性を判断するにあたって、被災労働者の時間外労働時間数のうち、被災労働者が参加していた飲み会が労働時間としてカウントされるのかが争点となりました。 

【裁判所の判断】

裁判所は、業務に伴う懇親会は、通常は、業務終了後の会食ないし慰労の場であることからすれば、基本的には使用者の指揮命令下に置かれたものとはいい難く、社会通念上、当該懇親会が業務の遂行上必要なものと客観的に認められ、かつ、それへの出席や参加が事実上強制されているような場合にのみ使用者の指揮監督下に置かれたものと評価できるとしました。そして、以下のような理由から、本件飲み会(接待・懇親会)の労働時間性を肯定しました。

・直接的な参加強制はなかったものの、欠席するのは事実上困難であった

・懇親会は、慰労・懇親の趣旨も含まれるものの、本社の幹部社員と業務に関する意見交換の意味合いもあった

・懇親会は、業務の円滑な遂行上も必要であったと認められる

残業代請求が可能な接待であるか判断に迷うときは弁護士に相談を

残業代請求が可能な接待であるか判断に迷うときは弁護士に相談を 

実際の接待が残業代請求の可能な接待にあたるかどうかの判断に迷うときは、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

接待の労働時間該当性を正確に判断できる

接待が労働時間に該当するかどうかは、使用者の指揮命令下に置かれている時間といえるかどうかによって判断することになります。このような判断は、法的知識や経験が不可欠になりますので、一般の労働者では正確に判断するのが困難といえます。

弁護士であれば、接待の労働時間該当性を正確に判断することができますので、ご自身で判断に迷うときは、弁護士に相談してアドバイスしてもらうようにしましょう。

【グラディアトル法律事務所の場合】

グラディアトル法律事務所では、残業代請求に関する豊富な実績と経験がありますので、接待の労働時間該当性が問題になる事案でも正確に判断することが可能です。残業代請求のトラブルは、残業代問題に強い弁護士に依頼することが重要になりますので、まずは当事務所までご相談ください。

証拠収集や残業代計算のサポートができる

接待が労働時間に該当する場合には、会社に対して残業代請求をしていくことになりますが、その前提として、証拠収集や残業代計算が必要になります。しっかりと準備を整えてからでなければ、未払い残業代請求を実現することは困難です。未払い残業代を回収できる可能性を少しでも高めるためにも、弁護士のサポートを受けながら必要な準備を進めていくようにしましょう。

【グラディアトル法律事務所の場合】

グラディアトル法律事務所では、残業代請求に関する経験豊富な弁護士が証拠収集や残業代計算のサポートをしますので、労働者個人では対応が困難な事案でも迅速かつ適切に対応することが可能です。

5-3 会社との交渉や労働審判・訴訟対応を任せることができる

労働者個人が会社を相手に未払い残業代の支払いを認めさせるのは非常に困難といえます。立場の弱い労働者では交渉の場面でも請求を無視されてしまったり、不利な条件での示談を強要されるリスクがあります。

そのため、自分だけで対応するのが難しいと感じたときは、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。弁護士であれば、会社との交渉や労働審判・訴訟などの法的対応も任せることができますので、不安なく手続きを進めることができます。

【グラディアトル法律事務所の場合】

グラディアトル法律事務所では、残業代を支払わない会社側の違法な手口を熟知していますので、会社側からの反論に対して、法的観点から適切に再反論を行うことができます。交渉だけでなく、労働審判・訴訟に関しても豊富な実績と経験がありますので、まずは当事務所までご相談ください。

まとめ

接待であっても、会社から強制されていたり、営業目的であったりすると使用者による指揮命令下に置かれている時間と評価され、残業代を請求できる可能性があります。しかし、実際の接待の時間が労働時間に該当するかどうかは、法的判断が必要になりますので、ご自身で判断するのではなく、まずは専門家である弁護士に相談するようにしましょう。

接待の時間についての残業代請求をお考えの方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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