「介護職の残業の実態はどうなっているのだろうか?」
「介護職の残業代が問題になる場面にはどのようなものがあるの?」
「会社から残業代の不払いがあったらどのように対処すべき?」
少子高齢化に伴い、高齢者の人数が増加していますので介護職の需要が増加しています。他方、「介護職は大変そう」、「介護職は給料が安い」などのネガティブなイメージから介護職員が不足しており、介護業界は人材不足に悩まされています。
このような状況だと介護職一人あたりの負担が増加することになりますので、必然的に残業をしなければなりません。
介護事業所から適正な残業代が支払われていればよいですが、実際には、さまざまな理由をつけて残業代の不払いを正当化する事業所もあるようです。
介護職として働く方は、介護事業所による違法な残業代不払いの手口をしっかりと理解した上で残業代請求を行っていくようにしましょう。
本記事では、
・介護職で残業が生じる5つの要因
・介護職で労働時間に含まれるか争いになりやすい4つの時間
・介護職の残業代が不払いになる違法な3つのケース
などについてわかりやすく解説します。
残業代請求にあたっては、弁護士のサポートが必要になりますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
目次
介護職の残業の実態
公益財団法人介護労働安定センターが公表している「令和5年度介護労働実態調査」によると、介護事業所に勤務する介護職の残業時間は、以下のようになっています。
このような統計からは、所定労働時間の範囲内で勤務する介護職が半数以上を占めていることがわかります。
また、介護職にはさまざまな職種がありますが、職種別にみた残業時間の統計は、以下のようになっています。
職種別でみると平均残業時間がもっとも長いのは、生活相談員の2.9時間でそれに続くのは、サービス提供責任者(2.3時間)、PT・OT・ST等(2.0時間)となっています。また、残業時間が15時間以上の割合は生活相談員が2.7%でもっとも多くなっています。このように介護職の中でも「生活相談員」は、残業の多い職種といえるでしょう。
介護職で残業が生じる5つの要因
介護職で残業が生じる要因としては、主に以下の5つが挙げられます。
介護記録の作成
介護業務は、利用者のケアが優先されますので、どうしても介護記録の作成が後回しにされがちです。利用者のケアで業務時間のほとんどを費やしてしまうと、業務時間外に介護記録の作成をしなければなりません。
介護記録は、交代する職員に利用者の状況や健康状態を引き継ぐための重要な記録になりますので、作成するのにもそれなりに時間を要することになります。そのため、業務時間中に介護記録を作成する余裕がない状況だと、残業をして作成しなければなりません。
会議やミーティングへの参加
介護事業所では、定期的に会議やミーティングを実施して、利用者の情報などを介護職員で共有するようにしています。通常の業務時間内に開催できればよいですが、デイサービスなど業務時間内に会議やミーティングを開催するのが難しい場合には、業務時間内に開催されることもあります。
このように会議やミーティングの時間によっては残業になることがあります。
利用者やその家族への対応
介護事業所の利用者のほとんどは高齢者ですので、体調の急変や転倒などによるトラブルが生じやすくなっています。このようなトラブルに対応しなければならないと、通常の業務を後回しにしなければならず、必然的に残業が発生します。
また、介護職は、利用者だけでなく家族からの相談にも対応しなければなりません。予定外の訪問などがあると対応に時間がかかり、残業をしなければならないこともあります。
研修や勉強会への参加
介護職は、スキルアップのために定期的に研修や勉強会に参加する人が多いです。研修や勉強会は、業務時間内に開催するのが困難であるため、業務時間外に開催されることになります。そのため、研修や勉強会に参加するには、必然的に残業となってしまいます。
イベントの準備
介護事業所では、利用者へのレクリエーションの一環として、夏祭り・敬老会・クリスマス会などのイベントを開催しています。
イベントの準備は、介護事業所に勤務する職員が行いますが、業務時間内は利用者のケアなどの対応が必要であるため、実際に作業をするのは業務時間外ということも珍しくありません。
イベント前の時期になると準備に追われて長時間の残業となることもあります。
介護職で労働時間に含まれるか争いになりやすい4つの時間
労働時間とは、使用者による指揮命令下に置かれている時間をいいます。事業所で働いている時間であれば労働時間にあたることは明確ですが、以下のような時間については、労働時間に含まれるかどうか争いになることがあります。
始業前の準備、終業後の引継ぎ時間
介護事業所では、24時間体制で利用者のケアを行っていますので、2交代制や3交代制などのシフトで勤務しています。そのため、次のスタッフに業務を交代するタイミングでは、介護記録の確認や引き継ぎの作業が発生しますが、そのような業務は始業前および終業後に行うのが一般的です。
しかし、介護記録の確認や引き継ぎの時間は、介護業務に不可欠な作業といえますので、当然労働時間に含まれます。介護事業所から引き継ぎ時間を労働時間から除外されている場合には、それも含めて残業代を請求することが可能です。
利用者の対応を義務付けられている休憩時間
休憩時間とは、労働から完全に解放されている時間をいい、休憩時間は労働時間には含まれません。
しかし、介護職員は、休憩時間中であっても利用者の対応を義務付けられていることもあります。実際に利用者対応が発生しなかったとしても、利用者からの要望があればすぐに対応できるように待機していなければならない状態だと、労働から完全に解放されているとはいえません。そのため、休憩時間中に一定の業務が義務付けられている場合には、労働時間にあたりますので、その時間も含めて残業代を請求することができます。
なお、労働時間と休憩時間のルールについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
利用者の送迎のための移動時間
介護職のうちデイサービスで働く方は、通所施設から利用者の自宅までの送迎を行わなければなりません。
事業所によっては、利用者を送迎車に載せて施設に向かう時間および施設から自宅に向かう時間については労働時間に含めていたとしても、利用者を送迎車に載せていない移動時間については労働時間から除外しているケースもあります。
しかし、利用者を自宅に送り届けたら業務終了になるわけではなく、施設まで戻ってこなければなりませんので、その移動時間も労働時間に含まれると考えられます。
そのため、送迎時間を労働時間から除外している場合、違法な扱いとなりますので、その時間の賃金を請求することが可能です。
夜勤・宿直の仮眠時間
介護事業所では、2交代制または3交代制がとられていますので、夜勤や宿直を担当する職員もいると思います。夜勤や宿直は、日勤とは異なり利用者の急変や呼び出しがあったときに対応すればよいため、具体的な業務が発生しないときは仮眠室での仮眠が許されているケースもあります。
介護事業所によっては、仮眠時間は実際に業務に従事していないため、労働時間から除外しているところもあります。しかし、仮眠中であっても利用者の急変や呼び出しがあれば対応しなければなりませんので、休憩時間ではなく労働時間といえます。
そのため、夜勤や宿直の仮眠時間についても、残業代を請求することが可能です。
なお、宿直と労働時間についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
介護職の残業代が不払いになる違法な3つのケース
介護職の残業代不払いが生じやすいケースとしては、主に以下の3つが挙げられます。
労働時間に含めるべき時間を除外する
介護事業所では、本来労働時間に含めるべき以下のような時間を除外していることがあります。
・始業前の準備、終業後の引継ぎ時間
・利用者の対応を義務付けられている休憩時間
・利用者の送迎のための移動時間
・夜勤・宿直の仮眠時間
しかし、これらはいずれも使用者による指揮命令下に置かれている時間と評価できるものになりますので、労働時間に含めて考えなければなりません。
労働時間に含まれる時間を除外している場合には、その時間に対する賃金が支払われていないことになりますので、介護事業所に対して賃金(残業代)を請求することができます。
固定残業代制を理由とする残業代の不払い
固定残業代制とは、あらかじめ一定時間分の残業代を基本給に含めて支払う制度です。残業の多い業種では、残業代計算の負担を軽減するために固定残業代制が導入されているところも多いです。
固定残業代制が導入されている場合、一定時間分の残業代はすでに支払い済みですので、みなし残業時間までの残業であれば追加で残業代を請求することはできません。しかし、みなし残業時間を超えて残業をした場合には、固定残業代が支払われていたとしても、別途残業代を請求することができます。
介護事業所がみなし残業時間を超えても一切残業代の支払いに応じてくれない場合は、違法な残業代不払いとなりますので、残業代請求が可能です。
なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
管理職を理由とする残業代の不払い
介護事業所では、管理職にあたるスタッフに以下のような肩書を付けていることがあります。
・施設長
・管理者
・エリアマネージャー
・介護マネージャー
・センター長
このような管理職としての肩書があるスタッフに対しては、管理職を理由として残業代を支払わないケースがあります。
労働基準法では、管理監督者については残業代の支払いが不要とされていますが、管理監督者と管理職は言葉は似ていても同じ意味ではありません。管理職としての肩書が与えられているスタッフであっても、経営者と一体的な立場にあると評価できなければ管理監督者にはあたりません。
形式だけの管理監督者であれば、一般的な労働者と同様に会社に対して残業代を請求することができます。
なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事をご参照ください。
介護職の残業代請求に必要な証拠
介護職が介護事業所に対して残業代請求をする際には、残業をしたことを裏付ける証拠が必須となります。証拠がない状態で残業代請求をしても、介護事業所から残業代の支払いを受けるのは難しく、裁判になったとしても負ける可能性が高いでしょう。
そのため、残業代請求をする前提として、あらかじめ十分な証拠を確保しておくことが重要です。
介護職が残業したことを立証するために必要になる主な証拠としては、以下のものが挙げられます。
・タイムカード
・勤怠管理システムのデータ
・出勤簿
・介護日誌
・申し送り表
・メールの送信履歴
・パソコンのログ履歴
・残業時間をまとめた手書きのメモ
どのような証拠が必要になるかは、実際の状況によって異なりますので、自分では判断に迷うときは、専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。
なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
介護職の残業代請求が認められた事例・裁判例
以下では、介護職の残業代請求が認められた当事務所の事例および裁判例を紹介します。
介護職の残業代として約115万円が認められた当事務所の事例
【事案の概要】
ご依頼者さまは、障碍者施設で介護士として働いていた女性です。月の労働時間は200時間を超え、月によっては300時間を超えるときもありました。ご自身で法人の理事長と未払い残業代請求の交渉をしたものの、理事長からは「15万円で手を打ってほしい」と言われてしまいました。
到底納得できる条件ではなかったため、専門家の力を借りて正当な対価を受け取りたいという理由で労働事件を多数扱う当事務所にご依頼いただくことになりました。
【結果】
弁護士は、未払い賃金の金額を計算し、相手方との交渉を開始したところ、相手方からは、以下のような反論があり、残業代の支払いを拒絶されてしまいました。
・労働基準法上の管理監督者に該当するため残業代は発生しない
・変形労働制を採用しているため残業代は発生しない
担当弁護士は、相手方が譲歩しないため、交渉での解決は困難であると考え、訴訟を提起することにしました。その結果、訴訟上の和解が成立し、相手方から約115万円の支払いを受けることができました。
【弁護士からのコメント】
本事例では、当初提示された15万円から115万円にまで大幅に金額を増やすことができました。
会社は、さまざまな理由を付けて残業代の支払いを拒んできますが、法的に正当性のない主張であることも少なくありません。会社の主張が正当なものであるかどうかを判断するには労働問題に強い弁護士のサポートが不可欠となりますので、ぜひ一度当事務所にお問い合わせください。
介護職の残業代請求が認められた裁判例
介護職の残業代請求が認められた裁判例としては、以下のようなものがあります。
【介護職の夜勤における待機時間の残業代が認められた裁判例|大阪地裁令和5年12月25日判決】
【事案の概要】
Xは、医療法人であるYとの間で雇用契約を締結し、介護老人保健施設において介護職員として勤務していました。Yの就業規則では、1か月単位の変形労働時間制が採用されており、職員の勤務時間は、1か月を平均して1週40時間以内とされていました。また、夜勤時には、3時間の休憩時間をとることとされていました。
Xは、Yから残業代が支払われていないとして、未払い残業代の支払いを求めて訴えを提起しました。
【裁判所の判断】
裁判では、①夜勤時の休憩時間が労働時間に含まれるか、②変形労働制の効力が争点となりました。
①夜勤時の休憩時間が労働時間に含まれるか
裁判所は、以下のような理由から夜勤時の休憩時間も労働からの解放が保障されていたとはいえず、労働時間に含まれると判断しました。
・夜勤時の介護職員の間で誰がどの時間帯に休憩をとるかが定められていなかった
・待機時間中に相勤者がナースコールなどに対応するとは限らないため、Xは常にこれに対応する必要があった
・ナースコール等の回数は、夜勤ごとに相当の回数に及んでおり、実質的に対応の必要性が乏しかったとみることもできない
②変形労働時間制の効力
裁判所は、Yが実際に作成した勤務割表の労働時間に対応する各日・各週の労働時間の特定がなされているとは認められず、本件変形労働時間制は、労働基準法32条の2第1項所定の要件を欠くものとして無効と判断しました。
その結果、約175万円の未払い残業代と約137万円の付加金の支払いが命じられました。
【タイムカードの打刻時間と労働時間が争点となった裁判例|大阪地裁平成22年7月15日判決】
【事案の概要】
Xらは、医療法人であるYとの間で雇用契約を締結し、病院または介護老人保健施設において勤務していました。
Xらは、出勤時のタイムカード打刻時から所定始業時間までの時間および所定終業時間から退勤時の打刻時までの時間に業務を行ったにもかかわらず、賃金の支払いがなされていないとして、未払い賃金の支払いを求めて訴えを提起しました。
【裁判所の判断】
Yからは、タイムカード以外にも所属長による個人別勤務状況表や勤務時間確認書が作成されており、タイムカードの打刻は出退勤の事実を記録するものに過ぎないとし、タイムカードでは実労働時間の把握はできないと反論しました。
しかし、裁判所は、Yがタイムカード以外の客観的な証拠を提出できないことから、タイムカードの出勤打刻時から所定始業時間までの時間および所定終業時間から退勤打刻までの時間について、それぞれ時間外労働として割増賃金の支払い対象になるとしました。
介護職の残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください
介護職員の残業代に関しては、労働時間に含まれるかどうか、固定残業代制の有効性、管理監督者性などが争点となりますので、法的知識がなければ、介護事業所の言い分に対して適切に反論することができません。
残業をした場合に残業代を請求するというのは労働者として当然の権利ですので、適切な残業代が支払われていない疑いがあるときはすぐに弁護士に相談するようにしましょう。
グラディアトル法律事務所では、残業代請求に関する豊富な実績と経験があります。実際の事例としても当事務所の弁護士が介入したことで介護職員の残業代請求を大幅に増額できた事案もあります。未払い残業代の問題は、残業代請求に強い弁護士に相談するのが重要ですので、残業代請求をお考えの介護職員の方は、経験と実績が豊富な当事務所までまずはお問い合わせください。
まとめ
介護事業所では、人材不足などが原因で介護職員一人当たりの負担が増加し、残業を強いられているケースも少なくありません。適切な残業代が支払われていない場合には、介護事業所に対して残業代請求をすることができますので、時効により権利が消滅してしまう前に早めに弁護士に相談するようにしましょう。
介護施設に対して残業代請求をお考えの方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。