「月に数回宿直勤務があるが、残業代を請求できるのだろうか?」
「通常の賃金よりも少ない宿直手当しか支払われていない」
「待機時間や仮眠時間にも対応が義務付けられているけれども、残業代は出る?」
会社によっては、夜間に勤務先に泊まり込みで勤務する「宿直」が行われるところもあります。宿直も仕事ですので、会社からは宿直手当が支払われていると思いますが、通常の業務とは異なるなどの理由で、わずかな金額しか支払われないことも多いです。
しかし、宿直が断続的労働に該当しなければ、通常の労働時間と同様に賃金の支払いが必要になりますし、具体的な業務内容によっては、残業代の支払いも必要になることがあります。どのようなケースであれば残業代請求が可能なのかをしっかりと押さえておきましょう。
本記事では、
・労働時間と休憩時間の基本的な考え方
・宿直で残業代の支払いが不要となる断続的労働とは?
・宿直で残業代請求の対象となり得る3つの時間
などについてわかりやすく解説します。
宿直勤務があるという方は、会社に対して残業代を請求できる可能性もありますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
目次
宿直とは?当直・日直との違い
宿直とは、夜間に勤務先で宿泊を伴う勤務をすることをいいます。夜勤とは異なり、通常の業務は行わず、緊急事態が発生したときに備えて待機することが主な業務内容です。
日直とは、休日の日中に勤務先で通常の業務以外の対応をすることをいい、宿直と日直では、働く時間が夜間であるか日中であるかという違いがあるに過ぎません。いずれも待機要員として、電話対応や定期巡回などを行います。
当直とは、勤務時間外に当番制・交替制で働く勤務形態をいいます。当直には、夜間の「宿直」と日中の「日直」が含まれています。
宿直は労働時間にあたる?労働時間と休憩時間の基本的な考え方
宿直は、通常の業務が行われず、待機要員として職場で過ごすことになりますので、そもそも「労働時間」にあたるのかが問題になります。そこで、まずは、労働基準法上の労働時間と休憩時間に関する基本的なルールを説明します。
労働時間とは
労働時間とは、使用者による指揮命令下に置かれている時間をいいます。
実際の勤務時間が労働基準法上の労働時間に該当するかどうかは、雇用契約や就業規則の定めではなく、客観的に使用者の指揮命令下に置かれているかどうかにより判断されます。
そのため、会社側が宿直を労働時間として認めていなかったとしても、実際の勤務時間が使用者の指揮命令下に置かれていると評価できれば、その時間に対する残業代(賃金)を請求することができます。
休憩時間とは
休憩時間とは、休息のために労働から完全に解放されることを保障された時間をいいます。労働基準法では、労働時間に応じて以下のような休憩を与えることが義務付けられています。
・労働時間が6時間を超える場合……少なくとも45分
・労働時間が8時間を超える場合……少なくとも1時間
労働時間と同様に休憩時間も雇用契約や就業規則の定めではなく、客観的にみて労働から完全に解放されている時間といえるかどうかによって判断されます。
宿直では、待機時間や仮眠時間が含まれますが、それらの時間が労働時間にあたるかどうかは、上記の観点から客観的に判断していくことになります。
なお、労働時間と休憩時間のルールについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
宿直でも残業代請求は可能!断続的労働のルールを解説
当直が「断続的労働」に該当する場合には、残業代を請求することができません。以下では、断続的労働の基本的なルールと考え方を説明します。
断続的労働とは?
断続的労働とは、休憩が少なく手待ち時間が多い業務をいいます。
労働基準監督署の許可を受けた宿直勤務については、労働基準法上の労働時間・休憩・休日の規制は適用されませんので、法定労働時間を超えて働いたとしても割増賃金の支払いはありません。そのため、宿直勤務に対して残業代請求を行うためには、まずは宿直が「断続的労働」に該当するかが重要なポイントなります。
断続的労働の許可基準
宿直が断続的労働といえるためには、以下の条件を満たす必要があります。
【勤務態様】
勤務態様が常態としてほとんど労働する必要のない勤務である必要があります。具体的には、定期巡回、緊急の電話対応、非常事態に備えた待機などを目的とする勤務に限られます。
【宿直手当】
宿直勤務1回の宿直手当の最低額は、事業場において宿直の勤務に就くことを予定されている同種の労働者に対して支払われる賃金の1人1日平均額の3分の1を下回らないものである必要があります。
【宿直の回数】
宿直の回数は、原則として週1回が限度となります。
【その他】
宿直勤務については、職場内に相当の睡眠設備が設置されていることが条件となります。
断続的労働の許可がなければ残業代を請求できる
断続的労働に該当しない宿直であれば、一般の労働者と同様に労働基準法が適用されます。
すなわち、1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超えて働いた場合、時間外労働に該当しますので、25%以上の割増率による割増賃金を請求することができます。また、宿直は、深夜時間帯(午後10時から翌午前5時まで)の勤務になりますので、深夜労働として、25%以上の割増率による割増賃金の請求も可能です。
宿直で残業代請求の対象となり得る3つの時間
当直が断続的労働に該当しない場合は、会社に対して残業代を請求することができます。しかし、宿直勤務は、通常の業務とは異なる内容であるため労働時間に含まれるかどうかで争いになるケースも少なくありません。
以下では、宿直で労働時間にあたるかどうか争いになりやすい3つの時間を説明します。
待機時間
宿直勤務は、基本的には通常の業務は行われず、緊急事態が発生したときに備えて待機することが主な業務内容になります。そのため、勤務時間の大部分は、実際に作業をしていない待機時間で占められています。
しかし、待機時間であっても、使用者による指揮命令下に置かれている時間と評価できれば、労働時間に含まれますので、会社に対して残業代を請求することができます。宿直の待機時間は、完全に自由な時間というわけではなく、電話対応や定期巡回などの業務を義務付けられていますので、労働時間に含まれるといえるでしょう。
仮眠時間
宿直勤務は、具体的な業務がない時間帯は職場の仮眠室での仮眠が許されているケースが多いです。仮眠時間は、実際に作業をしていないため、会社側から仮眠時間は労働時間にあたらないと主張されることがあります。
しかし、宿直勤務の仮眠時間は、労働から完全に解放された時間ではなく、仮眠中に電話があれば対応しなければなりません。また、宿直は、緊急事態に備えて待機することが主な業務ですので、仮眠中でも緊急事態が発生したときはすぐに対応できる状態で準備していなければなりません。
そのため、宿直勤務の仮眠時間も基本的には労働時間に含まれるケースが多いでしょう。
医療行為などを行った時間
宿直勤務は、民間企業の労働者だけではなく、病院に勤務する医師なども行うことがあります。医師の宿直勤務は、救急搬送されてきた患者の対応や入院中に急変した患者への対応をしなければなりません。実際に医療行為などを行った時間については、使用者の指揮命令下で業務を行っていますので、当然労働時間に含まれます。
また、実際に医療行為をすることがなかったとしても、緊急時に備えて待機していなければなりませんので、そのような待機時間も労働時間に含まれます。
宿直の残業代請求が認められた事例および裁判例
以下では、宿直の残業代請求が認められた事例および裁判例を紹介します。
宿直の看護師の残業代500万円を獲得した当事務所の事例
【事案の概要】
ご依頼者は相手方の会社に入社してから26年間、知的障碍者のグループホームにおいて介護士として働いていました。実際の勤務内容としては、16時から21時まで勤務したのち、21時から6時までの「休憩時間」を経て、6時から9時まで働くというものでした。
しかし、契約上は休憩時間という名目でしたが、外出が禁止されており、休憩時間中でも見回りが義務付けられていたり、入所者からの呼び出しがあれば対応しなければなりませんでした。
そこで、ご依頼者は会社に拘束されていた「休憩時間」等についての残業代を含む未払賃金を受け取ることができないかと考え、労働事件を多数取り扱っている弊所にご相談いただきました。
【結果】
担当弁護士は、ご依頼者の「休憩時間」が労働基準法上の労働時間に該当すると考え、その想定の下、会社から送られてきた資料に基づき2年分の未払賃金額を算出しました。そして、ご依頼者の休憩時間が労働時間に該当することについての法的な説明を加えつつ、法的に認められ得る最大範囲の金額として約1800万円を請求しました。
そして、担当弁護士は会社の代理人弁護士と連絡をとり、会社側の言い分やご依頼者の意思を確認しながら交渉を進めていきました。
その結果、会社と合意書を締結することができ、ご依頼者は会社から約500万円の支払いを受けることができました。
【弁護士からのコメント】
今回の事例では、弁護士を介した交渉の末、ご依頼者は500万円を手にすることができました。このように、「休憩時間」と名付けられている時間についても、会社に拘束されている時間であれば、賃金を請求できる可能性があります。そして、「休憩時間」とされる時間が労働時間に該当するか否かについては法律的な判断が必要であるところ、法律の専門家の助けを得ることがとても重要です。
弊所弁護士は、労働事件についての多数の経験に基づき、法律についての広い知識を活用して、ご依頼者の利益の実現に向けて精力的に活動していきます。未払賃金の請求をしていきたいとお考えの方はぜひ一度、弊所にお問い合わせください。
宿直の残業代請求が認められた裁判例
【ビル管理会社の従業員の残業代が認められた判例|最高裁平成14年2月28日判決(事案の概要)】
原告は、ビル管理業務を目的とする被告会社の従業員として、ビル内の巡回監視業務を行っていました。月に数回24時間勤務を行っており、勤務時間中に休憩時間と仮眠時間を与えられていましたが、被告会社は、その時間を労働時間として扱っていませんでした。
そのような扱いに不満を抱いた原告は、仮眠時間も労働時間にあたるとして、訴えを提起しました。
【裁判所の判断】
裁判所は、仮眠時間の労働時間制について、以下のように判断しました。
・労働者が実作業に従事していない仮眠時間であっても、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているものであって、労働基準法32条の労働時間に当たる。
・ビル管理会社の従業員が従事する泊り勤務の間に設定されている連続7時間ないし9時間の仮眠時間は、従業員が労働契約に基づき仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられており、そのような対応をすることが皆無に等しいなど実質的に上記義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しないなど判示の事実関係の下においては、実作業に従事していない時間も含め全体として従業員が使用者の指揮命令下に置かれているものであり、労働基準法32条の労働時間に当たる。
【産婦人科に勤務する医師の残業代が認められた裁判例|奈良地裁平成21年4月22日判決】
【事案の概要】
Yが設置する県立病院の産婦人科に勤務する医師Xが宿日直勤務および宅直勤務は時間外・休日労働であるとして、Yに対して割増賃金等の支払いを求めた事案です。
病院は、Xに対して、本来の勤務以外に交代で宿日直勤務を命じていました。また、Xは宿日直勤務以外に自主的に「宅直」当番を定め、宿日直の医師だけでは対応が困難な場合に、宅直医師が病院に来て、宿日直医師に協力し診療を行っていました。
【裁判所の判断】
裁判では、①宿日直勤務が「断続的労働」にあたるか、②宿日直勤務および宅直勤務が労働時間に該当するかが争点となりました。これに対して、裁判所は、以下のように判断しています。
①宿日直勤務が断続的労働にあたるか
裁判所は、以下のようなXの勤務実態を踏まえて、宿日直勤務は状態としてほとんど労働する必要がない勤務とはいえず、断続的労働にはあたらないと判断しました。
・宿日直時間に分娩への対応という本来の業務を行っているが、分娩の性質上、宿日直時間内にこれが行われることは当然に予想され、その回数も少なくない
・宿日直勤務時間中の約4分の1の時間は、通常業務に従事していたと推認される
②宿日直勤務および宅直勤務が労働時間に該当するか
裁判所は、宿日直勤務については、病院から命じられており、場所的拘束を受け、呼び出しに応じた業務遂行が義務付けられているなどの理由から労働時間にあたると判断しました。
しかし、宅直勤務については、自主的な取り決めに過ぎず、病院が命じたものではなく、待機場所が定められていないなどの理由から労働時間にはあたらないと判断しました。
宿直の残業代請求を弁護士に相談するメリット
宿直の残業代請求を弁護士に相談すると以下のようなメリットがあります。
宿直が断続的労働に該当するか判断できる
宿直勤務で残業代を請求できるかどうかは、宿直が「断続的労働」に該当するかが重要なポイントとなります。会社が断続的労働として労働基準監督署の許可を得ていたとしても、実態として断続的労働の要件を満たさなければ、残業代を請求できる可能性があります。
断続的労働の要件該当性の判断は、知識や経験がない方では困難ですので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば実際の勤務状況を踏まえて、断続的労働に該当するかどうかを適切に判断することができます。
残業代請求可能な労働時間であるか判断できる
宿直が断続的労働に該当しなかった場合には、会社に対して残業代請求が可能になります。しかし、宿直勤務には待機時間や仮眠時間など労働時間に含まれるかどうか争いになる時間も含まれていますので、残業代請求の可否は、個別具体的に検討していかなければなりません。
労働時間に含まれるかどうかは、使用者の指揮命令下に置かれているかどうかという実態に即した判断になりますので、弁護士でなければ正確な判断が難しい事項といえます。そのため、宿直についての残業代請求をお考えの方は、まずは弁護士に相談するようにしましょう。
労働者に代わって交渉や労働審判・裁判に対応できる
宿直の残業代請求が可能な事案であったとしても、会社との交渉や労働審判・裁判などの法的手続きを労働者個人で対応するのは大きな負担となります。
弁護士に依頼すれば、これらの対応をすべて弁護士に任せることができますので、残業代請求にかかる負担を大幅に軽減することができます。一人で対応するのが負担に感じるときは、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
宿直の残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください
宿直の残業代請求は、裁判でも争いになることが多い事案ですので、適切に対応するには、残業代請求に関する知識や経験、過去の判例の正確な理解などが不可欠になります。
グラディアトル法律事務所では、残業代請求に関する豊富な実績と経験がありますので、宿直の残業代が問題となる事案であっても適切に対応することが可能です。経験豊富な弁護士が未払い残業代を取り戻すために全力でサポートいたしますので、まずは当事務所までご相談ください。
当事務所では、残業代請求に関する相談は、初回相談料無料で対応しています。まずは相談だけでも結構ですので、お早めにご相談にお越しください。
まとめ
会社から「宿直には残業代が出ない」と説明されているかもしれませんが、宿直であっても断続的労働に該当せず、使用者の指揮命令下に置かれているといえる場合には、会社に対して残業代を請求することができます。
残業代請求が可能な事案であるかどうかを判断するには、専門家である弁護士のアドバイスやサポートが必要になりますので、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。