今回は、弊所の弁護士が受任した残業代請求についての事件の中から、「店長」という肩書を付されたご依頼者が、会社との合意の末、650万円の支払いを得た事例についてご紹介させていただき、併せて、店長と管理監督者、解決までのポイントなどを解説しようと思います。
店長の残業代請求方法等の詳細は、以下の記事をご参照ください。
目次
概要|スーパーマーケットで店長の残業実態
ご依頼者は京都府内のスーパーマーケットで店長を務めていた男性で、今回退社するまで約10年間、会社のために時間外労働もいとわずに働いていました。
ご依頼者は今回の残業代請求の対象となる2年の間、基本給として約30万円、役職手当として5万円、固定残業代として3万円、その他家族手当と交通費を支給するとされ、保険料等が控除されて、月々約32万円を受け取っていました。
一方、実際の労働時間としては、休日は月に4回で、月の労働時間は300時間~350時間という過酷なものでした。
そこで、残業代の支払を求め、労働事件を多数取り扱っている弊所にご相談いただきました。
弁護士による店長の残業代の計算・請求
ご依頼者の相談を受けた際、請求可能な残業代のうち1か月分が数日後に時効にかかることが判明しました。
弁護士は、ご依頼をいただくと直ちに相手方に内容証明郵便を送付し、会社に対して未払いの残業代を請求する意思を示しました。これにより、時効の進行を停止させることができ、2年分の残業代を請求できるようになりました。
なお、本事例の当時、残業代請求の時効期間は2年となっていましたが、現在では3年とされており(労働基準法115条、労働基準法附則143条)、3年前に発生した残業代までを請求することができます。
残業代の時効完成を阻止する方法及び残業代請求の時効期間について、詳しく知りたいという方は、以下の記事をご参照ください。
そして、弁護士は会社に就業規則や賃金規程、ご依頼者のタイムカードの写しを送ってもらい、これらの資料に基づいて法的な見地から残業代を算定しました。
すると、最大で約900万円の残業代請求が認められる可能性があるとの見解を得たため、その法的根拠を示し、応じない場合の法的措置も示唆しながら、相手方の会社にその支払いを求める内容証明郵便を送りました。
残業代の計算方法については、以下の記事もご参照ください。
すると、スーパーマーケットの経営会社の代理人から連絡があり、弁護士間での交渉が進みました。
その結果、一定の範囲で請求に応じられるとの返事をもらうことができました。そして、なるべく早期に解決したいという双方の意思は合致し、合意に向けた交渉が進みました。
結果|店長の残業代請求の交渉が650万円でまとまる
その結果、労働審判の中で和解が成立し、残業代の総額は900万円であると確認すること、会社は分割して650万円を支払うこと、会社が支払いを怠った場合には900万円の全額を支払うことなどを盛り込んだ合意書を締結することができました。
そして、ご依頼者は無事に650万円全額を受け取ることができました。
店長の残業代請求の解決のポイント
店長は管理監督者・管理職に該当するか
本事例では、ご依頼者に「店長」という肩書が付されており、月額5万円の管理職手当を受け取っていたところ、労働基準法上の「管理監督者」(労働基準法41条2号)に当たるため、残業代は支払わないとの反論も想定されていました。
労働基準法上、「管理監督者」については労働時間等の規制の適用がないものとされています。そのため、ご依頼者がこの「管理監督者」に当たると判断されれば、残業代請求が認められない可能性があります。
もっとも、「管理監督者」に当たるか否かについては、肩書のみならず、その職務内容や権限、待遇などを踏まえて判断することになります。
特に、以下のの3点が重要な考慮要素とされます。
①経営者と一体的な立場で仕事をしているか
②出社・退社や勤務時間について厳格な制限を受けていないか
③その地位にふさわしい待遇がなされているか
本事例でも、相手方は代理人弁護士をつけた上で、「管理監督者」であることを争わない姿勢を見せていたところ、ご依頼者が「管理監督者」に当たる可能性は低いと考え、紛争が長期化することによる弊害などを考慮した上で、この点について争うべきではないと判断したと予想されます。
なお、管理監督者に当たるか否かの詳しい判断方法について知りたいという方は、以下の記事をご参照ください。
ちなみに、本事例では上記のような事項について相手方が争わなかったため、合意により解決することができました。もっとも、通常の残業代請求事件では会社が以上のような点を争うことで、交渉のみでは解決をすることができないことも多くあります。このような場合には労働審判や訴訟といった手続の中で解決の方向性を探っていくことになります。
残業代請求と証拠
本事例では労働時間を示すタイムカードが残っていたことで、労働時間について大きな争いとなることはありませんでした。
残業代請求に当たっては、請求者側で残業時間を示す必要があるところ、タイムカード等の客観的証拠を残しておき、その管理状況を把握しておくことが重要になります。
なお、タイムカードのような直接的な資料が手元にない場合でも残業代請求が認められる場合があります。タイムカード以外に、どのような資料が残業代の証拠になるのかについては、以下の記事をご参照ください。
残業代請求と固定残業代
本事例では固定残業代として月額3万円が支払われていました。
もっとも、このような場合でも、固定残業代を定めた規定が無効なものである場合や、固定残業代に対応する時間を超えて働いたような場合には、さらに残業代請求が認められることがあります。
いかなる場合に追加の残業代請求が認められるかについては、以下の記事をご参照ください。
店長の残業代請求事例のまとめ
本事例では合意書の中で約束された650万円全額について、ご依頼者は滞りなく全額の支払いを受けることができました。
相手方が大きな会社などであれば、実際に約束通りに金銭の支払いを受けることは難しくありませんが、それほど大きくない会社や個人を相手とした場合、判決や合意を得たとしても実際に支払ってもらうことが容易ではないこともあります。
本事例では、合意書の中に支払いを怠った場合には、残りの残業代についても請求できるという文言を組み込むことができたことで、相手方の支払いの動機を確保することができました。その結果、ご依頼者は滞りなく全額の支払いを受けることができました。
また、店長という肩書を付されているような方であっても、適切な交渉を行うことで多額の残業代を支払ってもらえる場合もあります。
弊所弁護士は、残業代請求事件についての豊富な経験をもとに、金額はもちろんのこと、早期解決や支払いの確保など、ご依頼者の要望をしっかりと実現するため精力的に交渉をおこなっていきます。会社に対する残業代請求をしていきたいとお考えの方は、ぜひ一度、弊所にお問い合わせください。