店長でも残業代は出る!管理監督者の判断基準・チェックリスト付き

店長でも管理監督者でなければ残業代は出る。その判断基準とそのチェックリスト
弁護士 若林翔
2024年05月12日更新

「店長だから残業代は出ないと言われたけど本当なの?」

「店長になり残業代が出なくなったため、収入が減少した」

「長時間の残業をしているのに一切残業代が出ないのは納得できない」

会社から「店長になったから残業代は出ない」と言われた経験のある方も少なくないでしょう。労働基準法では、管理監督者に該当する労働者には残業代の支払いが不要とされているため、店長を管理監督者として扱い残業代を支払わないことがよくあります。

しかし、常に「店長=管理監督者」になるわけではありませんので、残業代を支払われていない店長の多くは、未払い残業代を請求できる可能性があります。

実際に当事務所が扱った事案でも、店長という肩書が与えられていましたが、最終的に和解により650万円の残業代を獲得した事案もあります。

本記事では、

・店長が残業代請求可能な「名ばかり管理職」にあたるかどうかの判断基準

・名ばかり管理職のチェックリスト

・店長が残業代を請求する手順

などについてわかりやすく解説します。

店長が名ばかり管理職に該当する場合には、一切残業代が支払われていないことになりますので、高額な残業代を請求できる可能性があります。残業代が時効により失われてしまう前に早めに行動するようにしましょう。

 

店長でも残業代が支払われる可能性あり!管理監督者とは?

店長でも残業代が支払われる判断基準の管理監督者とは

店長でも残業代が支払われる可能性があります。以下では、労働基準法上の「管理監督者」について説明します。

 

労働基準法上の管理監督者とは

労働基準法上の管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者と定義されています。

管理監督者は、一般の労働者のような厳格な労働時間の管理がなじまず、自らの裁量により労働時間をコントロールできることから、労働時間・休憩・休日に関する労働基準法上の規制は適用されません。

そのため、管理監督者には、残業時間の上限がなく、残業をしても残業代が支払われません。

 

管理監督者と名ばかり管理職

管理監督者と似て非なるものとして「名ばかり管理職」というものがあります。

名ばかり管理職とは、管理職としての肩書が与えられているものの、管理職に相応しい権限や待遇が与えられていない労働者のことをいいます。名ばかり管理職は、管理監督者には該当しませんので、一般の労働者と同様に残業時間の上限があり、残業をすれば残業代を支払わなければなりません。

会社によっては、「店長=管理監督者」という考えで、店長には残業代を支給しないという扱いをしているところもあります。しかし、店長だからといって常に管理監督者に該当するわけではありません。残業代が支払われていない店長の多くが、名ばかり管理職に該当する可能性がありますので、しっかりとチェックすることが重要です。

なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事もご参照ください。

「管理職の残業代は出ない」は間違い!違法なケースや請求方法を解説

 

店長が残業代請求可能な「名ばかり管理職」にあたるかどうかの判断基準

店長が残業代請求可能な「名ばかり管理職」にあたるかどうかの判断基準

店長が残業代請求可能な「名ばかり管理職」に該当するかどうかは、以下のような基準で判断します。

 

職務内容および責任・権限

管理監督者は、経営者と一体的な立場にあるといえるような重要な職務内容および責任・権限が与えられているかが判断要素の1つとなります。

具体的には、以下のような職務内容および責任・権限が与えられているかがポイントとなります。

・労働者に採用や解雇に関する権限

・部下の人事考課に関する権限

・店舗における労働時間管理に関する権限

たとえば、労働者の採用や解雇などは本部がすべて取り仕切っており、店長には一切権限が与えられていないような場合には、管理監督者性を否定する要素となります。また、本部で経営企画会議が行われているものの、店長には参加する権限がなく、本部の決定事項にただ従っているだけという場合も管理監督者性が否定されます。

 

勤務態様

管理監督者は、現実の勤務態様が労働時間の規制になじまないような立場にあることも判断要素の1つとなります。経営者に近い立場であるため、時間を選ばずに対応することが求められているからです。

勤務態様に関する具体的な判断のポイントを挙げると以下のようになります。

 

・早退・遅刻に関する取扱い・労働時間に関する裁量

・部下の勤務態様との相違

たとえば、遅刻や早退を理由に賃金控除がされる、勤務時間が決められており自分で働く時間や業務量をコントロールできないという場合には、管理監督者性を否定する要素となります。

 

賃金などの待遇

管理監督者は、残業代が支払われないことに見合うような優遇措置がとられていることも判断要素の1つとなります。

店長に対して役職手当が支払われていたとしても、十分な金額とはいえず、時給換算するとパートやアルバイトよりも賃金が低くなるという場合には管理監督者性を否定する要素となります。

管理監督者といえるためには、一般の労働者と比べて十分な待遇を受けているといえなければなりません。

 

残業代請求をお考えの店長は要確認!名ばかり管理職のチェックリスト

会社から「店長」という肩書を与えられている人は、まずは、以下のチェックリストを確認してみてください。チェックリストに複数当てはまる人は、名ばかり管理職の可能性が高いため、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。

店長が名ばかりの管理職に該当するかの判断要素・チェックリスト

※赤字で記載した判断要素に該当する場合には、名ばかり管理職に該当する可能性が特に高い要素です。

なお、チェックリストに該当しないからといってただちに管理監督者と認められるわけではありません。

 

店長が残業代を請求する手順

店長が残業代請求をするには、以下のような手順で行います。

店長が残業代を請求する手順

【手順1】管理監督者に該当しないことを確認する

店長が管理監督者である場合には、残業代を請求することができませんので、まずは管理監督者に該当しないことを確認しなければなりません。

さきほどのチェックリストを参考にして、複数項目当てはまる場合には、名ばかり管理職である可能性が高いため、残業代請求が可能です。

 

【手順2】会社と交渉をする

管理監督者に該当しないことが確認できたら、会社との交渉により未払い残業代の支払いを求めていきます。

しかし、会社としては、「店長=管理監督者」という考えで残業代を支払っていなかったため、店長から突然残業代請求をされても直ちに応じてくれるとは限りません。会社と交渉する際には、店長が管理監督者にあたらないことを会社に理解してもらえるよう法的根拠に基づいて説明することが大切です。

店長個人での対応が難しい場合には、弁護士に交渉を依頼するのもおすすめです。

 

【手順3】労働審判の申立てをする

会社との交渉では解決できないときは、裁判所に労働審判の申立てを行います。

労働審判は、原則として3回以内の期日で終了することになっていますので、裁判に比べて迅速な解決が期待できる手続きです。また、労働審判の手続きでは、調停による話し合いの解決が試みられますので、お互いの譲歩による柔軟な解決も期待できます。

訴訟提起前に必ず利用しなければならないというわけではありませんが、話し合いによる解決の余地がある場合には、積極的に利用してみてもよいでしょう。

 

【手順4】訴訟の提起をする

交渉が決裂し、労働審判にも異議申立てがあった場合には、最終的に裁判により決着をつけることになります。

裁判手続きは、個人で対応するのは困難ですので、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていきましょう。

 

店長の残業代請求が認められた当事務所の事例および裁判例の紹介

店長の残業代請求が認められた当事務所の事例および裁判例の紹介

以下では、店長の残業代請求が認められた当事務所の事例と裁判例を紹介します。

 

和解により650万円の残業代を獲得した当事務所の事例

【事案の概要】

ご依頼者は、京都府内のスーパーマーケットで店長として勤務していた男性です。実際の労働条件としては、以下のような内容でした。

  • 基本給30万円
  • 役職手当5万円
  • 固定残業代3万円

また、実際の労働時間としては、休日は月に4回で、月の労働時間は300時間~350時間という非常に過酷なものでした。

そこで、残業代の支払を求め、労働事件を多数取り扱っている当事務所に相談に来られました。

 

【結果】

ご依頼者からの相談内容を踏まえると、時効により消滅する可能性のある残業代があることが判明したため、弁護士は、直ちに内容証明郵便を送り、時効の進行をストップさせた上で、会社側に残業代の有無を確認するための資料の送付を求めました。

会社から送付された資料を精査したところ、最大で約900万円の未払い残業代を請求できる可能性があることが判明したため、その法的根拠を示しながら、会社側との交渉を開始しました。

会社側も弁護士に依頼したため、双方の弁護士同士で交渉を続けたところ、早期解決を希望するという双方の考えが一致したため、その後の労働審判で和解により解決することとなりました。具体的な和解内容は、残業代の総額が900万円であることを確認し、会社側が分割して650万円を支払うこと、会社が支払いを怠った場合は900万円全額を支払うといった内容です。

その後、ご依頼者は、会社側から650万円全額の支払いを受けることができました。

 

【弁護士からのコメント】

本事例では、ご依頼者に「店長」という肩書が付されていたため、労働基準法上の「管理監督者」(労働基準法41条2号)に該当するかが争点になり得る事案でした。

もっとも、「管理監督者」に当たるか否かについては、肩書のみならず、その職務内容や権限、待遇などを踏まえて判断することになります。

本事例では、肩書は「店長」であっても実際の職務内容や権限、待遇などが管理監督者とはいえず、会社側の代理人弁護士も積極的に争わなかったため、和解による早期解決ができました。会社から店長という肩書を与えられていたとしても、あきらめずに争うことで残業代が認められる可能性があります。

会社に対する残業代請求をしていきたいとお考えの方は、ぜひ一度、当事務所までお問い合わせください。

 

レストランの店長の残業代請求が認められた事例|大阪地裁昭和61年7月30日判決(レストランビュッフェ事件)

【事案の概要】

Xは、ファミリーレストランを経営するY社のA店舗において店長として勤務していました。Y社は、Xがコック、ウェイターなど従業員6~7人程度を統括し、ウェイターの採用にも一部関与し、材料の仕入れ・売上金の管理などを任されていたことなどを理由として管理監督者として扱い残業代を支払っていませんでした。

そこで、Xは、管理監督者に該当しないとして、Y社に対して未払い残業代の請求を行いました。

 

【裁判所の判断】

裁判所は、以下のような理由を挙げて、Xの管理監督者性を否定しました。

  • Xは店長としての職務以外にも、コック、ウェイター、レジ係、掃除などの職務全般をこなしていた
  • 店長が採用したウェイターの労働条件は、最終的に経営者が決定していた
  • 店長の労働時間は店舗の営業時間に拘束されており、出退勤の自由はなかった
  • タイムレコーダーで出退勤時間を管理されていた
  • 店長手当として2、3万円しかもらっていなかった

 

ファーストフード店の店長の残業代請求が認められた事例|東京地裁平成20年1月28日判決(日本マクドナルド事件)

【事案の概要】

原告は、ファーストフードチェーン店を経営するY社において店長として勤務していました。Y社では、店長以上の職位の労働者を管理監督者として扱っており、残業をしても残業代が支払われていませんでした。

Xは、店長職は管理監督者には該当しないとして、Yに対して未払い残業代の請求を行いました。

 

【裁判所の判断】

裁判所は、以下のような理由を挙げて、Xの管理監督者性を否定しました。

店長は、店舗の人員について採用や勤務シフトの決定など店舗経営において重要な職務有しているものの、企業全体の経営には関与していない

店長は、労働時間を自由に決定できる裁量があったものの、実態は月100時間を超える残業があるなど長時間労働を強いられており、実質的に労働時間を自由に決定できない状況でだった

・店長の年収は、労働時間の長さを考えると十分な優遇とはいえない

 

名ばかり管理職の店長が残業代請求をする際の注意点

名ばかり管理職の店長が残業代請求をする際の注意点

管理監督者に該当しない店長は、会社に対して残業代を請求することができますが、その際には、以下の点に注意する必要があります。

 

残業代請求に必要な証拠を集める

会社に対して残業代請求をするには、店長自身で残業をしたことを証拠により立証していかなければなりません。

タイムカードで労働時間が管理されていれば残業時間の立証は容易ですが、店長は、タイムカードなどで労働時間の管理をされていないことが多いため、それ以外の証拠から残業を立証していく必要があります。

その際に有効な証拠としては、以下のようなものが挙げられます。

・業務に関するメールやLINEの履歴・退勤時に店舗内で撮影した写真

・パソコンのログイン、ログアウト履歴

・パソコンのスクリーンショット

・タクシーの領収書

・勤務時間を記録したメモ

なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

タイムカードないけど残業代もらえる!あれば役に立つ証拠16選!

 

時効になる前に残業代を請求する

残業代請求には、時効があるという点に注意が必要です。時効期間が経過してしまうと、店長が名ばかり管理職であったとしても残業代を請求することができなくなります。そのため、未払い残業代の請求を考えている方は、早めに行動することが大切です。

なお、残業代の時効期間は、残業代の発生時期に応じて以下のように定められています。

・2020年3月31日以前に発生した残業代……時効期間は2年

・2020年4月1日以降に発生した残業代……時効期間は3年

会社との交渉中に残業代の時効が成立してしまうのを避けるためにも、会社との交渉前に内容証明郵便を利用して残業代請求を行うようにしましょう。これにより、6か月間は時効の完成を猶予できますので、その間に交渉や労働審判・訴訟の手続きを進めることが可能です。

残業代の時効は3年!時効を阻止する方法と残業代請求の流れを解説

 

残業代請求をお考えの店長はグラディアトル法律事務所にご相談ください

残業代請求を件をしている店長はグラディアトルへ

「店長=管理監督者」ではありませんので、経営者に近い権限や責任がない、出退勤の自由がない、十分な待遇を受けていないという場合には、名ばかり管理職として残業代を請求できる可能性があります。会社から店長扱いされている人の多くは、管理監督者の要素を満たしておらず、違法な状態で働かされています。ご自身の状況をしっかりと把握するためにも、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。

当事務所には、残業代請求に関する経験豊富な弁護士が多数在籍していますので、店長の残業代に関する問題に関しても迅速かつ適切に解決に導くことが可能です。店長は、長時間の残業を強いられており、残業代も高額になる傾向がありますので、大切な残業代が時効によって失われてしまう前に、早めに相談するようにしましょう。

 

まとめ

会社から「店長だから残業代は出ない」と言われ、残業代請求を諦めている店長の方も多いと思います。しかし、本記事で紹介したチェックリストで複数項目該当する方は、会社に対して未払い残業代の請求ができる可能性があります。

管理監督者に該当するかどうかを正確に判断するためには、弁護士に相談する必要がありますので、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。

 

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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