「住み込み管理人として働いているけれども、残業代が出ない」
「住み込みの場合、業務時間外でも対応しなければならないことがある」
「住み込みは断続的労働にあたると説明されたものの、よく理解できていない」
住み込み管理人として働いていると、プライベート時間と労働時間とが曖昧になり、仕事をしているにもかかわらず、残業代が支払われないというケースが多くなります。
住み込みという業務の性質上、プライベートの時間と労働時間を厳格に区別できないため、残業代に関するトラブルが発生することも少なくありません。
また、会社から断続的労働を理由に残業代が支払われていないケースでは、実は断続的労働の要件を満たしていないこともあります。
このように住み込み管理人の残業代の問題は、非常に専門的な要素を含みますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
本記事では、
・労働時間と休憩時間の基本的な考え方
・住み込み管理人への残業代の支払いが不要となる断続的労働とは?
・住み込み管理人が残業代請求可能な3つの時間
などについてわかりやすく解説します。
住み込み管理人でも残業代請求は可能ですので、諦めずに争っていくことが大切です。
目次
住み込みは労働時間にあたる?労働時間と休憩時間の基本的な考え方
住み込みは、どこまでが労働時間なのかが曖昧になりやすい業務といえます。そこで、まずは、労働時間と休憩時間の基本的な考え方についてみていきましょう。
労働時間とは
労働時間とは、使用者による指揮命令下に置かれている時間と定義されています。
すなわち、労働時間は、雇用契約や就業規則に記載されている時間ではなく、客観的に使用者の指揮命令下に置かれているかどうかで判断されます。
そのため、会社側が労働時間として認めなかったとしても、客観的にみてと使用者の指揮命令下に置かれていると評価できれば労働時間に該当し、その時間に対する残業代(賃金)を請求することができます。
休憩時間とは
休憩時間とは、労働者が休息のために労働から完全に解放されることを保障された時間をいいます。労働基準法では、労働時間に応じて以下の休憩を与えることが義務付けられています。
・労働時間が6時間を超える場合……少なくとも45分
・労働時間が8時間を超える場合……少なくとも1時間
労働時間と同様に休憩時間も雇用契約や就業規則に記載されている時間ではなく、客観的にみて労働から完全に解放されている時間といえるかどうかによって判断されます。
住み込みが「労働時間」と「休憩時間」のどちらにあたるかは、上記の視点から客観的に判断していくことになります。
なお、労働時間と休憩時間のルールについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
住み込み管理人も残業代請求可能!断続的労働とは?
住み込み管理人が「断続的労働」に該当しなければ、会社に対して残業代を請求することができます。以下では、断続的労働とは何かについて説明します。
断続的労働とは
断続的労働とは、休憩が少なく手待ち時間が多い業務をいい、以下のすべての要件を満たす労働者は、「断続的労働に従事する者」にあたります。
・ほとんど労働する必要がない業務であること
・精神的緊張がないこと
・勤務場所が危険でなく、その環境が有害でないこと
・巡視の回数が1勤務6回以下で、1回あたりの巡視が1時間以内かつ合計が4時間以内であること
・1回の勤務の拘束時間が12時間以内であること(夜間勤務中に継続して4時間以上の睡眠時間が与えられる場合は16時間以内)
・次の勤務との間に10時間以上の休息が確保されていること
このような要件を満たす場合、労働基準監督署の許可を受けることを条件に残業代の支払いが不要になります。
断続的労働に該当しなければ残業代を請求できる
断続的労働に該当しない住み込み管理人であれば、一般の労働者と同様に労働基準法が適用されます。
1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超えて働いた場合、時間外労働にあたりますので、25%以上の割増率により増額した残業代を請求することができます。また、住み込み管理人は、午後10時から翌午前5時までの深夜時間帯に働くことも多いため、深夜労働として、25%以上の割増率により増額した深夜手当の請求をすることも可能です。
断続的労働のチェックリスト
断続的労働の要件はすでに説明したとおりですが、それだけではどのような場合に断続的労働に該当するのかわからないという方も多いと思います。そこで、断続的労働に関する簡単なチェックリストを作成しましたので、まずはこちらで確認してみましょう。
上記のチェックリストのうち1つでも当てはまる場合には、断続的労働には該当せず、残業代を請求できる可能性があります。該当項目があるという方は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
住み込み管理人が残業代請求可能な3つの時間
住み込み管理人が断続的労働に該当しない場合は、会社に対して残業代を請求することができます。しかし、住み込み管理人は、労働時間とプライベートが曖昧になりがちですので、残業代請求が可能な労働時間であるかが争いになりやすいといえます。
そこで、以下では、住み込み管理人の残業代請求で争いになりやすい3つの時間を説明します。
待機時間
待機時間とは、実際に作業に従事していない時間のことをいいます。待機時間のことを「手待ち時間」と呼ぶこともあります。住み込み管理人は、常に作業をしているわけではなく、実作業と実作業との間に待機時間が生じることがあります。
このような待機時間が労働時間に該当するかどうかは、使用者の指揮命令下に置かれているかどうかにより判断します。すなわち、実際に作業をしていたかどうかではなく待機時間に労働者が労働から離れることを保障されていたかどうかが判断のポイントになります。
住み込み管理人は、待機時間中であってもマンション住民やビルの利用者からの要請があればすぐに作業に従事しなければなりませんので、完全な自由時間というわけではありません。そのため、住み込み管理人の待機時間は、残業代請求が可能な労働時間に該当するケースが多いといえるでしょう。
仮眠時間
仮眠時間とは、夜勤や宿直などの間に仮眠室などで仮眠することができる時間をいいます。仮眠時間は、実際に作業をしておらず、睡眠をとっている時間になりますので、会社からは労働時間にはあたらないと主張されることが多いです。
しかし、仮眠時間が労働時間に該当するかどうかも、実際に作業しているかどうかではなく、使用者の指揮命令下に置かれている時間といえるかどうかにより判断します。仮眠時間中であっても緊急対応で起こされることがあったり、呼び出しがあれば対応することが義務付けられている場合には、完全に労働から解放されているとはいえませんので、労働時間と評価される可能性が高いです。
住み込み管理人の仮眠時間がこのような時間に該当する場合には、会社に対して残業代を請求できる可能性があるといえます。
休憩時間
休憩時間とは、労働から完全に解放された時間をいいます。
住み込み管理人は、職場と生活空間が一体になっていますので、休憩時間と労働時間の区別が曖昧になりやすい業務といえます。休憩時間中は、業務対応から解放され自由に外出ができる状態であれば、労働時間にはあたりませんが、管理人室への常駐が義務付けられ、電話対応などを義務付けられていた場合には、労働時間にあたります。
住み込み管理人の残業代の計算方法
住み込み管理人の残業代は、以下のような計算式に基づいて計算します。
1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間
月給制の住み込み管理人の場合、1時間あたりの基礎賃金は、月給を基準として以下のように計算します。
1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月の平均所定労働時間
1か月の平均所定労働時間=(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月
上記の月給には以下のような手当は含まれませんので注意が必要です。
また、「割増賃金率」は、残業時間に応じて、以下のように定められています。
このように残業代の計算は、非常に複雑な計算となりますので、正確に残業代を計算するには専門家である弁護士に任せるのが安心です。
なお、残業代計算方法の詳細は、以下の記事もご参照ください。
住み込み管理人が未払い残業代を請求する手順
住み込み管理人が未払い残業代請求をするなら、以下の手順で行います。
残業に関する証拠収集
住み込み管理人が残業代を請求する場合、住み込み管理人側で未払い残業代があることを立証しなければなりません。そのためには、証拠が不可欠となります。残業代請求に必要になる一般的な証拠としては、以下のものが挙げられます。
【残業代が未払いであることを立証する証拠】
- 雇用契約書
- 就業規則
- 賃金規程
- 給与明細
【残業時間を立証する証拠】
- タイムカード
- シフト表
- 業務日報
なお、住み込み管理人は、待機時間や仮眠時間の労働時間該当性が争いになることが多いです。勤務マニュアルなどに待機時間や仮眠時間の応対義務に関する定めがある場合には、労働時間として認められやすくなりますので、それらも残業代請求の証拠として有効です。
なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
内容証明郵便の送付
会社に対して残業代請求をする場合、まずは内容証明郵便を利用して未払い残業代の支払いを求める書面を送付します。内容証明郵便とは、いつ・誰が・誰に対して・どのような文書を送付したのかを証明できる郵便です。
内容証明郵便自体には支払いを強制する効力はありませんが、特別な形式の郵便が届いたことで労働者側の本気度を会社側に伝えることができ、交渉に応じてくれる可能性が高くなります。
また、残業代請求をしたということは、法律上の「催告」にあたりますので、6か月間時効の完成を猶予することができます。内容証明郵便を利用すれば、催告をしたという証拠を残すこともできます。
なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
会社との交渉
会社に内容証明郵便が届いたら、会社との交渉を開始します。会社が未払い残業代の存在を認めれば、金額や支払い方法・支払時期などの詳細な条件を詰めていくことになります。しかし、会社が未払い残業代の存在を認めない場合は、労働者側が残業代計算の根拠とした証拠を提示しながら粘り強く交渉を続けていく必要があります。
労働審判・裁判
会社との交渉では、残業代の支払いに応じてもらえないときは、労働審判の申立てまたは訴訟の提起をする必要があります。
労働審判は、裁判官1名と労働審判員2名で組織される労働審判委員会が会社と労働者との間の労働問題を解決する制度です。まずは当事者同士の話し合いによる解決(調停)が試みられ、話し合いよる解決が難しい場合に労働審判により判断が下されます。
裁判に比べて迅速かつ柔軟な解決が期待できますので、訴訟提起前に労働審判の利用を検討してみるとよいでしょう。
なお、残業代請求の労働審判と裁判の詳しい内容は、以下の記事をご参照ください。
「裁判で残業代請求をすべき5つのケースと裁判の流れ・期間・費用」
https://www.gladiator.jp/labor/court-overtime-pay-claims/
「労働審判で残業代請求をする流れ・費用・期間などをわかりやすく解説」
https://www.gladiator.jp/labor/labor-tribunal-overtime-pay-claims/
住み込み管理人の残業代請求が認められた裁判例
以下では、住み込み管理人の残業代請求が認められた裁判例を紹介します。
最高裁平成19年10月19日判決
【事案の概要】
Xは、マンションの管理員として雇用され、夫婦でマンションに住み込みで働いていました。
Xの所定労働時間は午前9時から午後6時まで、休憩時間は正午から午後1時までの1時間とされていました。
もっとも、Xには、平日および土日の所定労働時間外に以下の業務が発生していました。
・管理人室の照明の点灯と消灯
・ごみ置き場の扉の開閉
・冷暖房の運転開始と運転停止
・住民の宅配便の受け渡し
ただし、月曜日から金曜日までの平日については、所定労働時間外の午前7時から午前9時までの時間、及び、午後6時から午後10時までの時間に、管理員室の照明の点灯と消灯、ごみ置場の扉の開閉、冷暖房の運転開始と運転停止などの業務を行うよう会社から指示されていました。
これらの時間について会社から残業代の支払いがなかったことから、Xは、時間外労働および休日労働に対する割増賃金の支払いを求めて訴えを提起しました。
【裁判所の判断】
裁判所は、以下のような理由で、住み込み管理人Xの不活動時間について、一部を除き労働時間にあたると判断しました。
・不活動時間において、業務が義務付けられている場合は、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働基準法上の労働時間にあたる
・Xの平日および土曜日の時間外労働については、住民が管理員による対応を期待し、従業員としても、住民からの要望に随時対応できるようにするために、事実上待機せざるを得ない状態に置かれていたといえるため労働時間にあたる
・日曜日および祝日については、管理員室の照明の点灯と消灯、ごみ置場の扉の開閉以外には業務を義務付けられておらず、待機が命じられた状態でもなかったため、従業員は労働からの解放が保障されていたといえることから労働時間にはあたらない
・病院への通院、犬の運動に要した時間については、管理員の業務とは関係のない私的な行為であり、管理員の業務の遂行に伴う行為とはいえないため、労働時間にはあたらない
福岡地裁小倉支部令和3年8月24日判決
【事案の概要】
Xらは、障害者就労支援施設などを運営するY社に雇用され、Y社の運営するグループホームに住み込みで働いていました。
Xらは平日の就労支援施設における業務を終えた後、グループホームに泊まり込みで利用者の対応業務を行い、就労支援施設に出勤しない土日祝日は、1日中グループホームの利用者の対応や食事準備をしていました。
これらの業務時間外の時間については、残業代の支払いがなされていなかったことから、Xらは労働時間が24時間365日であったと主張し、未払い残業代の支払いを求めて訴えを提起しました。
なお、X1の請求額は約1112万円、X2の請求額は約2357万円でした。
【裁判所の判断】
裁判所は、以下のような理由からXらの不活動時間についておおむね労働時間と認めました。
・Xらが利用者の対応を行っていた時間は、会社の指揮命令下に置かれていたといえるため労働時間にあたる
・Xらの請求には、利用者の対応をしていない不活動時間も含まれているものの、利用者から対応を求められるタイミングは、あらかじめ明らかになっているものではなく、不活動時間においても、必要があれば利用者対応をすることが予定されているといえるから、労働契約上の役務の提供が義務付けられているとして、Y社の指揮命令下に置かれていたというべきであり、労働時間にあたる
この裁判では、食事の時間や風呂の時間など一部労働時間性が否定されましたが、ほぼ大部分の請求が認められ、X1について約945万円、X2については約1637万円の支払いが命じられました。住み込みで働く労働者は、拘束時間が長くなるため、労働時間と認められれば非常に高額な残業代を支払ってもらうことができます。
住み込み管理人の残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください
不活動時間が労働時間として認められれば、非常に高額な残業代を請求することができます。そのため、住み込み管理人の残業代請求では、不活動時間が労働時間と認められるかが重要なポイントになります。
住み込み管理人という特殊な職業の方の残業代請求は、その職業に関する知識や経験がなければ適切に解決することはできません。弁護士であれば誰でも対応できるというわけはありませんので、住み込み管理人の残業代請求は、実績と経験豊富なグラディアトル法律事務所にお任せください。豊富な経験と実績に基づいて、残業代の問題を適切に解決に導くことができます。
まとめ
住み込み管理人は、実際に作業をしていない不活動時間が多く、それが労働時間に該当するかが争点になります。このような住み込み管理人特有の問題を解決するためには、専門的な知識や経験が不可欠となりますので、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。