病院勤務でも残業代は出る!病院側の残業代不払いの手口を解説

病院勤務でも残業代は出る。病院側が残業代不払いにする手口
弁護士 若林翔
2024年05月17日更新

「病院で働いているけど、残業代が出ない」

「職業柄残業は仕方ないと思っているけど、残業代はきちんと払ってもらいたい」

「どのような場合に残業代を請求できるのか知りたい」

病院に勤務する医師、看護師などの医療関係者は、患者の命を預かる特殊な環境であるため長時間残業を強いられているケースが多いです。

きちんと残業代が支払われているのであればよいですが、さまざまな理由を付けて病院側から残業代を支払ってもらえないケースもあります。

病院で働く医療関係者の方も残業代を請求できますので、病院側の違法な残業代不払いの手口を理解して、しっかりと請求していくようにしましょう。

本記事では、

・病院勤務の人に残業が多い4つの理由

・病院側が残業代を支払わないよくある6つの違法な手口

・病院に対して残業代請求をする際の注意点

などについてわかりやすく解説します。

残業代請求には時効がありますので、未払い残業代のある方は、早めに行動することが大切です。

 

病院の残業代不払いの実態

病院側の残業代不払いの実態

病院に勤務する医療関係者は、残業の多い職業と言われています。また、長時間残業を強いられているにもかかわらず、適切な残業代が支払われていないケースも少なくありません。

以下では、病院に勤務する医療関係者への長時間残業や未払い残業代が問題となった実際の事案を紹介します。

 

【実態1】鳥取市の病院で2107万円の残業代の未払い

鳥取市にある鳥取市立病院は、勤務する看護師などに対して、残業代を支払っていなかったとして、労働基準監督署から是正勧告を受けました。病院側は、医師や看護師など298人に対して合計2107万円の残業代の支払いを行いました。

報道によると、医師が患者の治療方針を検討する会議の時間や看護師が患者のカルテを作成する時間などが勤務時間として扱われていなかったようです。

NHKニュース 2024年2月14日 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240214/k10014358331000.html 参照

 

【実態2】兵庫県の病院で1億5800万円の残業代の未払い

兵庫県三田市の三田市民病院は、勤務する医師、看護師、医療技術者に対して、残業代を支払っていなかったとして、労働基準監督署から指摘を受けました。これを受けて、病院側は職員288人に対して約9900万円の残業代の支払いをおこないましたが、調査の結果、新たに職員329人に対して1億5800万円の未払い残業代があることが判明しました。

報道によると、担当する患者の情報収集のために看護師らがその日の始業前に準備する「早出残業」や終業後に電子カルテに処置内容を記録する時間などが勤務時間として扱われていなかったようです。

神戸新聞 2023/11/18 https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202311/0017039349.shtml 参照

 

【実態3】鹿児島県の病院で274万円の残業代の未払い

鹿児島県の枕崎市民病院は、勤務する職員に対して、残業代を支払っていなかったとして、労働基準監督署から是正勧告を受けました。病院側は、消滅時効を考慮して過去3年分の残業代を支払うこととし、職員53人に対して合計274万円の残業代の支払いを行いました。

報道によると、月1回または2か月に1回程度開催された勤務時間外の会議が労働時間として扱われていなかったようです。

南日本新聞 2023/09/08 https://373news.com/_news/storyid/181479/ 参照

 

病院勤務の人に残業が多い4つの理由

病院勤務の人に残業代が多い4つの理由

病院勤務の人には残業が多いと言われていますが、それにはどのような理由があるのでしょうか。以下では、病院勤務の人に残業が多いと言われる4つの理由を紹介します。

 

医療専門職として残業は当たり前と考える慣習がある

医療専門職は、患者の命を預かるという特殊な仕事になります。そのため、「普通の仕事とは違うから残業は当たり前」と考える習慣がある職場が多く存在します。

そのような職場では、当然のように残業をさせられ、それに対して誰も異議を唱えないという状況も少なくありません。

 

診察・看護などの通常業務以外の仕事が多い

医療専門職の主な業務は、診察や看護などになりますが、実際にはそれ以外の業務も多く存在します。たとえば、始業前の掃除や引き継ぎなどの準備、終業後の電子カルテの入力や看護記録の作成などさまざまな業務を行っています。

診察や看護業務が長引くと、それ以外の業務は残業をして処理しなければならないというケースも少なくありません。

 

突発的な対応が必要になる

医療専門職は、患者の命を預かる仕事ですので、患者の容体が急変したり、急患が運び込まれたりすると、本来の業務時間を過ぎていても対応しなければならないことがあります。

仕事の性質上やむを得ない部分もありますが、これも長時間残業の要因の一つといえます。

 

業務時間外に院内研修や勉強会などがある

医療専門職は、専門的な技術や知識が求められるため、定期的に院内研修や勉強会などが開催されることがあります。このような院内研修や勉強会は、業務時間外に開催されるケースが多いため、参加をする場合には当然残業となります。

 

病院側が残業代を支払わないよくある6つの違法な手口

病院側が残業代を支払わないよくある6つの違法な手口

残業をすれば残業代を請求できるのは労働者としての当然の権利であり、それは病院で働く方にもあてはまります。しかし、病院側は、以下のような違法な手口により残業代を支払わないことがありますので注意が必要です。

 

特殊な職場であることを理由に残業代を支払わない

病院側から「医療専門職は人の命を救う特殊な仕事だから、残業をするのは当たり前」、「残業をしても残業代は出ない」などと説明されることがあります。

しかし、医療専門職の方も労働者であることには変わりありませんので、残業をすれば当然残業代を請求することができます。病院側の言い分は残業を支払わないための詭弁にすぎませんので、そのような言い分に従う必要はありません。

 

研修や勉強会を業務外として扱っている

病院で勤務する医師、看護師、医療技術者の方は、定期的に研修や勉強会に参加しています。医療専門職は、技術や知識が求められますので、常に最新の医療技術や知識を身につける必要があるため、このような研修などへの参加は必要不可欠なものといえます。

病院から参加を義務付けられていれば当然労働時間にあたりますので残業代を請求することができますが、明示的な指示がなかったとしても、以下のような事情がある場合には、黙示の指示があったとして、残業代を請求することが可能です。

 ・研修や勉強会が業務との関連性が強い

・研修や勉強会に参加しなければ業務に必要な知識や技術が身につかない

・研修や勉強会に参加後はレポートの提出が義務付けられている

・研修や勉強会に参加しないと、人事評価において不利に扱われる

 

夜勤中の仮眠時間・待機時間を休憩時間として扱っている

勤務シフトで夜勤のある医療関係者の方は、勤務途中で仮眠時間や待機時間が設けられていることがあります。病院からは、このような仮眠時間や待機時間を休憩時間として扱われることがありますが、具体的な状況によっては、そのような扱いは違法になる可能性があります。

休憩時間とは、労働から完全に解放されている時間をいいます。夜勤中の仮眠時間や待機時間は、患者からの呼び出しや急変があればすぐに対応できるよう準備をしておかなければなりませんので、完全に労働から解放されている時間とはいえません。そのため、仮眠時間や待機時間を休憩時間として扱われている方は、その時間も含めて残業代を請求することができます

なお、労働時間と休憩時間のルールについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

労働時間と休憩のルールとは?法律の規定と違法な休憩の対処法

 

固定残業代以外には一切残業代を支払わない

固定残業代とは、一定時間分の残業代をあらかじめ毎月の給料に含めて支払う制度のことをいいます。残業の多い医療関係者の方は、雇用条件として固定残業代が定められているケースも多いでしょう。

固定残業代では、一定時間分の残業代についてはすでに支払い済みですので、実際の残業時間が固定残業代制度で想定している残業時間の範囲内であれば、別途残業代を請求することはできません。

しかし、固定残業代制度を導入していれば一切残業代の支払いが不要になるというわけではありません。固定残業代制度で想定している残業時間を超えて残業をした場合には、固定残業代とは別途残業代の支払いをしなければなりません。

病院側から固定残業代以外に一切残業代が支払われていない場合には、未払い残業代がある可能性がありますので、しっかりとチェックすることが大切です。

なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

みなし残業代(固定残業代)に追加の残業代を請求できる6つのケース

 

裁量労働制を誤って適用している

裁量労働制とは、実際の労働時間ではなくあらかじめ定められたみなし労働時間分を働いたものとみなす制度のことをいいます。裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、いずれも適用対象となる業務が決められています。

医師、看護師、医療技術者などの医療専門職は、非常に専門的な業務に従事することから、裁量労働制を理由として残業代が支払われないケースがあります。しかし、医療専門職は、裁量労働制の適用対象外ですので、裁量労働制を理由に残業代を支払わないのは違法となります。

なお、裁量労働制と残業代請求についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

裁量労働制で残業代はどうなる?未払分を請求するための必携知識

 

年俸制を理由とする残業代の不払い

病院で働く医師は、通常の月給制ではなく年俸制という給与形態がとられているケースがあります。年俸制とは、1年単位で給与額を決定し、その金額を分割して毎月の給与として支払う制度のことをいいます。

このような年俸制が採用されている医師に対しては、病院側から「年俸制だから残業代は出ない」、「年俸には残業代も含まれているから、残業代は支払われない」などと説明されることがあります。

しかし、年俸制であっても残業代の支払いは必要ですので、年俸制を理由として残業代を支払わないのは違法です。また、年俸に残業代を含めて支払うという固定残業代制度を導入することも可能ですが、超過分の残業代については別途支払いをしなければなりません。固定残業代を理由に一切残業代を支払わないのは違法となります。

なお、年俸制でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

年俸制も残業代が支払われる!計算方法や支払い不要なケースを解説

 

管理職を理由とする残業代の不払い

医療関係者の方は、病院側から管理業務を任されたり、役職を与えられていることがあります。そのような方は、病院側から「管理職だから残業代は支払わない」と言われることがあります。

労働基準法では、経営者と一体的な立場にある労働者を「管理監督者」と定め、労働時間・休憩・休日に関する労働基準法の規定が適用外とされています。そのため、医療関係者が管理監督者に該当する場合には、残業代の支払いは不要となります。

管理職と管理監督者は、名称が似ているため、管理職としての肩書が与えられている労働者を管理監督者として扱うケースが多いです。しかし、管理監督者は、肩書という形式面ではなく、経営者と一体的な立場にあるかどうかという実態に即して判断しなければなりません。

そのため、病院側から役職が与えられていたとしても、以下のような事情がある場合には、残業代を請求できる可能性があります。

・スタッフの採用、解雇などの権限が与えられていない

・労働時間が病院側に管理されている

・遅刻や早退をすると給料から控除される

・管理職でないスタッフの待遇と比較しても特別好待遇というわけではない

なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事もご参照ください。

「管理職の残業代は出ない」は間違い!違法なケースや請求方法を解説

 

病院で働く人の残業代計算方法

病院で働く人の残業代の計算方法

病院で働く人の残業代は、以下のような計算式により算出します。

・残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間

・1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月の平均所定労働時間

・1か月の平均所定労働時間=(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月

上記の月給には以下のような手当は含まれません。

  • ・家族手当
  • ・通勤手当
  • ・別居手当
  • ・子女教育手当
  • ・住居手当
  • ・臨時に支払われた手当
  • ・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

また、「割増賃金率」は、残業時間に応じて、以下のように定められています。

・時間外労働……25%以上

・深夜労働(午後10時から翌午前5時まで)……25%以上

・休日労働……35%以上

・月60時間を超える時間外労働……50%以上

上記の残業代の計算方法は、一般的な月給制の労働者の計算方法です。固定残業代や年俸制など特殊な給与形態である場合には、残業代計算はさらに複雑になりますので、正確に残業代を計算するには専門家である弁護士に任せるのが安心です。

なお、残業代計算方法の詳細は、以下の記事もご参照ください。

【残業代を計算したい人へ】60時間超・深夜手当・休日手当までわかる

 

病院に対して残業代請求をする際の注意点

 

病院に対して残業代請求をする際には、以下の点に注意が必要です。

 

残業代請求には時効がある

病院に対する残業代請求をお考えの方は、早めに行動することが大切です。なぜなら、残業代請求には時効という期間制限がありますので、一定期間が経過してしまうと、残業代を請求する権利が失われてしまうからです。

具体的な残業代の時効期間は、残業代の発生時期に応じて、以下のように定められています。

・2020年3月31日以前に発生した残業代……時効期間は2年

・2020年4月1日以降に発生した残業代……時効期間は3年

残業代の時効が迫っているという場合には、内容証明郵便を利用して残業代を請求することで、一時的に時効の進行をストップさせることができます。自分で対応が難しい場合には、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事もご参照ください。

残業代の時効は3年!時効を阻止する方法と残業代請求の流れを解説

 

証拠がなければ残業代請求は困難

残業代請求にあたって重要になるのが残業をしたことを裏付ける証拠の存在です。証拠がなければ残業代を計算することができませんし、裁判では証拠に基づいて事実認定がなされますので証拠がなければ有利な判決を得ることはできません。

そのため、病院側に残業代を請求する前提として、残業に関する証拠を集めることが重要です。タイムカードや勤怠管理システムにより労働時間が管理されているのであれば、それらを証拠として利用することができます。しかし、サービス残業を強いられているようなケースでは、タイムカードなどには記録されていないため、以下のような証拠により立証していく必要があります。

・電子カルテなどの記録
・研修や勉強会の案内資料
・病院のセキュリティの設定、解除記録
・残業の指示を受けたメールやLINEの履歴
・タクシーで帰宅した際の領収書
・残業時間を記録したメモ

なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

タイムカードないけど残業代もらえる!あれば役に立つ証拠16選!

 

病院に対する残業代請求はグラディアトル法律事務所に相談を

病院に対する残業代請求はグラディアトルに相談を

病院で働く方は長時間の残業を強いられているにもかかわらず、適切な残業代が支払われていないケースが多いです。病院側の違法な残業代不払いの手口に対抗するには、法的知識や経験が不可欠となりますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

グラディアトル法律事務所では、さまざまな業種の方の未払い残業代問題を解決に導いた豊富な実績と経験がありますので、医療関係者の方の残業代の問題についても適切に解決に導くことができます。病院側を相手に個人で残業代を請求していくのは、精神的にも大きな負担になりますし、まともに取り合ってくれない可能性もあります。ご自身で対応が難しいと感じるときは、当事務所までお気軽にご相談ください。

 

まとめ

医療関係者は、収入も高く、残業時間も長いため、未払い残業代がある場合にはその金額も高額になる傾向があります。未払い残業代は、過去3年分まで遡って請求することができますので、事案によっては数百万円単位の残業代が認められることもあります。

大切な時間を削って残業をしていますので、その対価である残業代をしっかりと請求していくことが大切です。病院への残業代請求をお考えの方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。



弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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