固定残業代の上限は45時間?固定残業代の仕組みと注意点を解説

固定残業代の上限は45時間

固定残業代の上限は45時間

「固定残業代が45時間を超えているが、法律上問題ないのだろうか?」

「毎月45時間も残業をするのはきつい」

「固定残業代とは別に残業代を請求できるのだろうか?」

固定残業代は、あらかじめ一定時間分の残業代を給料に含む制度で、労働者側にも会社側にもメリットあるため、多くの会社で採用されていると思います。

しかし、残業時間には上限規制がありますので、45時間を超える固定残業代が設定されている場合には、違法となる可能性もあります。

また、固定残業代が支払われていたとしても、別途残業代を請求できるケースもあります。

 

本記事では

  • 月45時間を超える固定残業代の問題点
  • 月45時間を超える固定残業代が違法・無効になる6つのケース
  • 月45時間の固定残業代制度で未払いの残業代があった場合の対処法

 

などについて、わかりやすく解説します。

月45時間を超える固定残業代は何が問題なの?

45時間を超える残業は何が問題なのか

月45時間を固定残業代には、どのような問題点があるのでしょうか。

月45時間を超える残業は違法な長時間労働にあたる可能性がある

詳しい内容は後述しますが、残業時間には月45時間までという上限が設けられています。

そのため、月45時間を超える固定残業代が設定されている場合には、残業時間の上限である月45時間の残業が想定されているとも考えられ、違法な長時間労働をしている可能性があります。

月45時間を超える残業が続くと過労死のリスクが高まる

残業は、労働者の心身に大きな負担を生じさせます。月45時間を超える残業が続くと、疲労が蓄積し、脳・心臓疾患のリスクを高める原因となります。

厚生労働省が公表している基準でも「週40時間を超える時間外・休日労働がおおむね月45時間を超えて長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まる」とされています。そのため、月45時間を超える固定残業代が設定されている場合には、過労死のリスクが高くなるという問題があります。

 

固定残業代の上限は45時間?

固定残業の上限は45時間

残業時間は、月45時間が上限とされていますが、固定残業代にも上限はあるのでしょうか。

固定残業代を上限45時間までと定める法律はない

固定残業代の上限を45時間までと定める法律はありません。また、固定残業代の上限を定める法律もありません。

そのため、固定残業代を45時間以上の長時間に定めることも可能ではあります。

しかし、実際の残業時間には上限が定められているため、その上限を超える固定残業代が定められている場合には、上限を超える違法な残業が想定されていると判断される一つの要素にはなります。

残業時間の法律による上限は原則として月45時間まで

時間外労働(残業)の上限規制のイメージ
働き方改革関連法のあらまし」厚生労働省HPより引用

 

労働基準法上、残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間までとされています。

2018年の働き方改革関連法によって労働基準法が改正され、残業時間の上限が明文化されました。

(時間外及び休日の労働)
第三十六条
④ 前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。

労働基準法36条4項 e-gov 参照

このルールに違反した場合には、使用者に対して、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。

そもそも、労働基準法では、1日8時間・1週40時間を法定労働時間と定めています。

基本的には、法定労働時間を超えて労働者を働かせることはできませんが、36協定を締結して、それを労働基準監督署に届け出ることで、法定労働時間を超えて残業を命じることが可能になります。

ただし、会社は、労働者に対して無制限に残業を命じることはできず、その上限が原則として月45時間・年360時間までとされているのです。

例外的に月45時間を超える残業が認められるケース

臨時的な特別な事情があり、かつ、特別条項付きの36協定を締結・届出することにより、例外的に月45時間・年360時間を超えて残業を命じることができます

ただし、この場合でも以下のルールを守る必要があります。

・時間外労働が年720時間以内

・時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満

・時間外労働と休⽇労働の合計について、2か月~6か月の各月平均がすべて、1か月あたり80時間以内

・時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6か⽉まで

 

また、臨時的な特別な事情は、会社と労働者が業務内容に則して協議をして具体的に定める必要があります。

「業務の都合上必要な場合」や「業務上止むを得ない場合」などの規定の仕方では、具体的ではなく、認められないとされています。

臨時的な特別な事情の具体例としては、以下のようなものがあります

・大規模なシステム障害に対応する場合

・決算付きにおける経理業務の増加に対応する場合 など

固定残業代の上限は45時間が目安

固定残業代は、実際の残業時間にかかわらず、固定の残業代を支払う制度です。

そのため、固定残業代が45時間を超えて設定されていたとしても、実際の残業時間が45時間以内であれば、違法とはなりません

しかし、45時間を超える固定残業代が設定されている場合には、潜在的に45時間を超える残業が命じられる可能性もありますので、そのような場合には違法となる可能性があります。

また、後述するように固定残業代制度が違法・無効になるかどうかの一つの基準として、固定残業代の時間が45時間を超えているかどうかが重要な基準となります。

そのため、固定残業代の上限は、45時間が一応の目安と考えておくとよいでしょう。

 

月45時間を超える固定残業代が違法・無効になる6つのケース

月45時間を超える固定残業代が違法・無効になる6つのケース

月45時間を超える固定残業代が違法・無効になるケースとしては、以下の6つのケースが考えられます。

基本給と固定残業代が明確に区別されていない

固定残業代制度を導入する場合、基本給と固定残業代が明確に区別され、基本給と固定残業代部分とを判別できる状態でなければなりません。なぜなら、固定残業代として設定されている残業時間を超えて残業をした場合、別途残業代の請求が可能ですが、どの部分が固定残業代であるかがわからなければ、残業代を請求する際に必要となる基礎賃金の計算ができなくなってしまうからです。

たとえば、以下のような契約だと固定残業代は、違法・無効になる可能性があります。

  • 基本給35万円(固定残業代として月45時間分を含む)
  • 基本給35万円(固定残業代含む)

超過部分について別途残業代が支払われていない

固定残業代が導入されていたとしても、あらかじめ設定されている残業時間を超過した場合には、別途超過分の残業代の支払いをしなければなりません。たとえば、固定残業代として月45時間が設定されている会社で、ある月に50時間の残業をした場合、固定残業代とは別に、5時間分の残業代を請求することができます。

このような超過分の残業代の支払いがなされていない場合には、固定残業代自体が無効と判断される可能性もあります。

36協定の締結・届出をしていない

労働者が法定労働時間を超えて残業を行うためには、36協定の締結・届出が必要になります。このような36協定の締結・届出をすることなく、労働者に残業をさせることは、労働基準法違反となります。そのため、36協定の締結・届出をすることなく、固定残業代制度を導入すると違法・無効と判断される可能性があります。

就業規則や雇用契約で固定残業代の定めがない

固定残業代制度を導入するには、労働契約上の根拠が必要になります。

就業規則や雇用契約などで、固定残業代に関する定めがない場合には、固定残業代制度が違法・無効と判断される可能性があります。

最低賃金を下回っている

最低賃金とは、使用者が労働者に対して、最低限支払わなければならない賃金の金額をいいます。

固定残業代制度が導入されている会社では、一見すると最低賃金を上回る賃金が支払われているように感じます。しかし、最低賃金の計算では、基本給から固定残業代を除いて計算することになりますので、月45時間を超える残業代が設定されている場合には、最低賃金を下回る違法な扱いになっている可能性もあります。

たとえば、

月給25万円の人の時給計算

  • 月給25万円(内訳:基本給18万円、固定残業代7万円)
  • 1日の所定労働時間8時間
  • 年間所定労働日数255日

という条件で働いていた場合の1時間あたりの賃金額は、

18万円÷(255日×8時間÷12か月)≒1058.8円となります。

これは、東京都の最低賃金(令和5年10月1日時点)である1113円を下回りますので、違法となります。

残業時間の上限規制に違反している

すでに説明したとおり、残業時間には月45時間・年360時間という上限が設けられています。実際の残業時間が上限規制に違反している場合には、固定残業代も違法となる可能性があります。

 

月45時間の固定残業代制度で未払いの残業代があった場合の対処法

固定残業制度で未払いの残業代があった場合の対処法

月45時間の固定残業代制度が採用されていたとしても、月45時間を超える残業をした場合には、別途残業代を請求することができます。固定残業代以外の残業代が支払われていない場合には、以下のような対処法を検討しましょう。

未払い残業代の証拠収集

未払いの残業代を請求するにあたっては、事前に未払い残業代の証拠を集めておかなければなりません。なぜなら、会社との交渉や裁判では、労働者の側で未払いの残業代があることを立証しなければならないからです。

未払いの残業代の証拠として利用できるものとしては、以下の証拠が挙げられます。

  • タイムカード
  • 勤怠管理ソフトなどの記録データ
  • 業務日報
  • タコグラフ(運送業の場合)
  • 入退室記録

なお、基本給と固定残業代が明確に区別されていない場合には、固定残業代が無効になる可能性もあります。このようなケースでは、以下のような証拠も必要です。

  • 給与明細
  • 就業規則
  • 賃金規程

未払い残業代の計算

残業代に関する証拠が入手できたら、証拠に基づいて未払いの残業代を計算します。

残業代の計算は、以下のような計算式によって行います。

残業代=1時間あたりの賃金(月給÷1か月の平均所定労働時間)×残業時間×割増率

この計算式だけ見れば、簡単に計算できるようにも思えますが、実際には、非常に複雑な計算になります。そのため、正確に未払い残業代を計算するためには、専門的知識と経験が必要になりますので、専門家である弁護士に任せるべきでしょう。

なお、固定残業代制度が導入されている場合には、実際に計算した残業代から固定残業代を控除する必要があります。

会社に未払い残業代を請求

会社に対して未払い残業代を請求する場合、まずは内容証明郵便を送付するのが一般的です。これは、残業代の時効の完成を阻止することが目的です。

会社に内容証明郵便が届いたタイミングで、会社との交渉をスタートして、未払い残業代の支払を求めていきます。未払い残業代の請求は、在職中に請求することもできますが、会社との関係が悪化するのが心配だという方は、退職のタイミングで未払い残業代請求をすることも可能です。

労働審判・訴訟

会社との任意の交渉で解決できない場合には、労働審判や訴訟などの法的手続きを利用します。どちらを利用するかは、労働者が自由に選択できますが、少しでも話し合いの余地があるなら、まずは労働審判を利用してみるとよいでしょう。なぜなら、労働審判の方が訴訟よりも解決までの時間が短く、事案に即した柔軟な解決が可能だからです。

 

月45時間の固定残業代が違法である疑いがあるときは弁護士に相談を

残業代請求は弁護士に相談を

月45時間の固定残業代が違法である疑いがあるときは、早めに弁護士にご相談ください。

固定残業代の違法性について判断できる

固定残業代制度は、労働者と会社の双方にメリットのある便利な制度ですので、それ自体は違法ではありません。しかし、固定残業代制度の運用方法によっては、違法と判断されるケースもあります。

固定残業代が違法であるかどうかは、具体的な状況を踏まえて法的観点から判断する必要がありますので、一般の方では判断が難しいことが多いです。月45時間を超えるような固定残業代が設定されている場合には、違法の疑いがありますので、まずは弁護士に相談して判断してもらうとよいでしょう。

未払いの残業代がある場合、労働者に代わって交渉してくれる

会社との交渉は、労働者個人でも行うことができます。しかし、労働者個人が会社を相手に交渉をする場合、交渉力に圧倒的な格差があるため、納得のいく交渉を行うのが難しくなることもあります。また、会社によっては、まともに取り合ってくれず交渉すらできないということもあります。

このような場合には、弁護士に依頼して、交渉を進めていくのがおすすめです。弁護士に依頼すれば、弁護士が労働者の代わりに交渉してくれますので、交渉の負担は大幅に軽減するでしょう。また、会社と対等な立場で交渉を進めることができますので、任意の交渉で解決できる可能性も高くなります。

 

まとめ

残業時間の上限は、月45時間と定められていますので、月45時間を超える固定残業代が設定されている場合には、何らかの違法性が認められる可能性があります。

また、固定残業代が支払われていたとしても、あらかじめ定められた残業時間を超過した場合には、別途残業代を請求することが可能です。その際には、弁護士のアドバイスやサポートが必要になりますので、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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