「工場で働いているけど、残業が多い」
「働いているにもかかわらず、労働時間として扱われていない時間がある」
「時効になる前に未払い残業代を取り戻したい」
慢性的な人手不足などが原因で、工場での仕事は残業代が多くなりやすい業種の一つです。
また、24時間稼働している工場では、深夜労働も多くなるため、未払い残業代がある場合には、深夜残業の割増により高額になる傾向があります。
工場で働く人の中には、本来受け取れるはずの残業代をもらいそびれているケースもありますので、しっかりと請求していくことが大切です。
本記事では、
・工場に残業が多い4つの理由
・工場勤務の労働者の残業代が未払いとなる違法な手口
・工場で違法な残業代の不払いがあったときの対処法
などについてわかりやすく解説します。
大切な残業代を取り戻すためにも、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
目次
工場の残業の実態とは?平均的な残業時間は13.6時間
工場は、残業が多いと言われる業種の一つですが、実際の残業時間はどの程度なのでしょうか。
厚生労働省が公表している「毎月勤労統計調査 令和5年分結果確報」によると、製造業で働く一般労働者の残業時間は、14.4時間となっています。調査産業計の残業時間が13.8時間ですので、他の業種よりも製造業の残業は多いことがわかります。
残業時間の長さは、勤務する工場や勤務形態によって異なりますので、製造業の平均的な残業時間を大幅に上回る残業をしているという方もいるかもしれません。そのような場合には、残業代の未払いが生じている可能性もありますので、そのまま放置するのではなく、しっかりと請求していくことが大切です。
工場に残業が多い4つの理由
工場に残業が多いと言われるのには、主に以下のような理由があります。
慢性的な人手不足
経済産業省が公表しているデータによると、製造業の若年就業者数は、2002年から2012年ころまで減少基調が続き、以降はほぼ横ばいで推移してきています。2002年の若年就業者数は、384万人だったものが2022年には255万人と大幅に減少していることからもわかるように、製造業では慢性的な人手不足に悩まされています。
人手が足りていない工場では、必然的に1人あたりの負担が大きくなりますので、定時までに作業が終わらず残業をせざるを得ない状況になってしまいます。
繁忙期の増産への対応
工場では繁忙期になると生産量が増えますので、それに対応する必要があります、工場の製造ラインのスピードは一定ですので、作業効率を上げたとしても限界があり、納期に間に合わせるためには、残業をして対応しなければなりません。
納期に間に合わないと取引先の信用を失ってしまいますので、生産量の増加に対応するためには、長時間の残業を余儀なくされるケースもあります。
24時間稼働の工場での2交替制
24時間稼働の工場では、2交替制勤務または3交替制勤務がとられています。
2交替制勤務の工場では、単純計算すると労働者1人あたりの労働時間は12時間になりますので、必然的に残業が発生します。これに対して、3交替制勤務の工場では、1人あたりの労働時間は8時間ですので、原則として残業が発生しない勤務体系です。
24時間稼働の工場において2交替制勤務で働いている方は、交替の労働者が来るまでは勤務を続けなければならず、残業が生じやすい働き方といえます。
残業は当たり前との風潮
工場によっては、残業が当たり前という風潮が根強く残っており、残業ありきの働き方になっているところもあります。上司が残って残業をしていると帰りづらい雰囲気があるため、残業が慢性化する要因の一つになります。
工場勤務の労働者の残業代が未払いとなる違法な手口
残業の多い工場では、以下のような違法な手口により残業代の不払いが発生していることがありますので注意が必要です。
着替えや朝礼の時間を労働時間から除外する
工場で作業を行う際には、安全確保のために作業着への着替えが義務付けられているところが多いです。作業着への着替えが必要な職場では、始業前および終業後に着替えが必要になりますので、そのための更衣時間は、業務に必要な時間として労働時間に含まれます。会社から更衣時間を労働時間に含めてもらっていない方は、更衣時間を含めて残業代を請求することができます。
また、始業前に朝礼やミーティングが必要な職場でも更衣時間と同様に業務に不可欠な時間といえますので、残業代請求の対象となる労働時間に含まれます。
更衣時間や朝礼・ミーティング時間を労働時間から除外している工場も多いため、ご自身の労働時間の管理がどうなっているかを確認してみるとよいでしょう。
固定残業代を理由とする残業代の不払い
固定残業代とは、あらかじめ一定のみなし残業時間を設定し、それに応じた固定の残業代を支払う制度です。たとえば、みなし残業時間が20時間と設定されている場合、実際の残業時間が10時間しかなかったとしても20時間分の固定残業代をもらうことができます。
このような固定残業代が採用されている工場では、固定残業代以外一切残業代が支払われないことがありますが、そのような扱いは違法です。固定残業代を採用していても、みなし残業時間を超えた場合には、固定残業代とは別途残業代を支払わなければなりません。
なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
管理職を理由とする残業代の不払い
工場長、作業長、製造ライン長などの肩書が与えられている労働者は、管理職であることを理由に残業代が支払われないことがあります。しかし、管理職だからといって直ちに残業代の支払いが不要になるわけではありません。
労働基準法では、経営者と一体的な立場にある労働者のことを「管理監督者」と定め、管理監督者に対しては残業代の支払いは不要としています。ただし、管理監督者に該当するかは、労働者の肩書という形式面ではなく、権限や職務内容、待遇といった実態に即して判断されます。
そのため、工場長などの肩書が与えられていたとしても、労働時間が管理されていたり、十分な手当てをもらっていないなど一般の労働者と変わらない働き方だと、管理監督者にはあたりませんので残業代を請求することができます。
なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事もご参照ください。
変形労働時間制を理由とする残業代の不払い
変形労働時間制とは、業務の繁閑に合わせて労働時間を調整することができる制度です。
通常の労働時間制では、1日8時間・1週40時間という法定労働時間が定められていますが、変形労働制では、1か月単位または1年単位で労働時間を設定することができます。そのため、1日の労働時間が8時間を超えたとしても変形労働時間制で定めた労働時間の範囲内であれば残業代は発生しません。
ただし、変形労働時間制を採用すれば残業代の支払いが不要になるというわけではありません。変形労働時間制で定められた所定労働時間を超えて働いた場合には、残業代の支払いが必要になります。変形労働時間制では、残業の考え方が非常に複雑ですので、残業代が発生しているかどうか判断できないという方は、弁護士に相談することをおすすめします。
なお、変形労働時間制についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
深夜残業の割増賃金の不払い
24時間稼働の工場で働く方は、勤務シフトによっては深夜労働になることもあります。深夜労働とは、午後10時から翌午前5時までの労働をいい、25%以上の割増率により計算した割増賃金が支払われます。
また、深夜の時間帯に残業をした場合には、深夜残業となりますので、時間外労働と深夜労働の割増率が適用され、50%以上の割増率により計算した割増賃金が支払われます。
このように工場勤務では深夜残業により、通常よりも多くの残業代をもらえる可能性がありますので、適正な割増賃金が支払われていない場合は、しっかりと請求していくことが大切です。
なお、深夜労働と残業代についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
工場で違法な残業代の不払いがあったときの対処法
工場で違法な残業代の不払いがあった場合には、以下のように対処する必要があります。
残業代の未払いを立証するための証拠を集める
残業代の不払いがあったときは、会社に対して残業代を請求することができますが、そのためには残業代が未払いであることを証拠により立証していく必要があります。証拠がない状態で請求しても、会社から残業代の支払いを受けるのは難しいといえますので、事前に十分な証拠を集めておくことが重要です。
工場勤務の人が残業代請求をする際に有効となる証拠には、以下のようなものがあります。
- タイムカード
- 勤怠管理システムのデータ
- 工場の入退室記録
- パソコンのログイン、ログアウト履歴
- メールの送信履歴
- 業務日報
なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
時効になる前に未払い残業代を請求する
残業代には、時効がありますので、残業代が発生してから一定期間が経過する時効により残業代を請求できなくなってしまいます。具体的な、残業代の時効期間は、残業代の発生時期に応じて以下のように定められています。
・2020年3月31日以前に発生した残業代……時効期間は2年
・2020年4月1日以降に発生した残業代……時効期間は3年
そのため、未払い残業代の存在に気付いたときは、すぐに行動することが重要です。残業代の時効が迫っているときは、内容証明郵便を利用して会社に残業代を請求することで、一時的に時効の進行をストップすることができますので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事もご参照ください。
交渉が決裂したら労働審判や裁判を行う
未払い残業代の請求は、まずは会社との交渉により解決を図ります。しかし、会社によっては、未払い残業代の存在自体を否定するなどしてそもそも話し合いに応じてくれないこともあります。
そのような場合は、話し合いを続けても解決は困難ですので、すぐに労働審判や裁判の手続きに切り替えるようにしましょう。労働審判と裁判のどちらを利用するかについては、会社の態度や証拠の有無など具体的な状況によって異なりますので、専門家である弁護士に相談して判断してもらうとよいでしょう。
工場勤務の労働者による残業代請求が認められた裁判例
以下では、工場勤務の労働者による残業代請求が認められた裁判例を紹介します。
長崎地裁大村支部令和元年9月26日判決
この事案は、麺類の製造工場で勤務していた原告が被告会社に対して、未払い残業代の請求をした事案です。
裁判では、被告会社側から職務手当の支払いが固定残業代の支払いにあたる旨の主張が出ましたが、裁判所は、職務手当が固定残業代部分と能力に対する対価部分を区別しておらず、何時間分の残業代に相当するものであるかも明確でないなどの理由から、固定残業代には該当しないと判断しました。その結果、会社側には、約273万円の残業代と約157万円の付加金の支払いが命じられました。
スナック菓子工場で勤務する労働者の残業代請求が認められた裁判例|京都地裁平成28年5月27日判決
この事案は、スナック菓子の製造を行う工場で勤務していた原告が被告会社に対して、未払い残業代の請求をした事案です。
裁判では、被告により労働時間から除外されていた
- 作業着への着替え時間
- 手洗い、靴底クリーナー、アルコール消毒、エアシャワー、粘着ローラーを行って工場に入る時間
- 工場から退出する時間
について、使用者による指揮命令下に置かれた時間であるとして労働時間にあたると判断しました。
また、原告が深夜時間帯に労働をしても割増賃金の支払いがなされていなかったことも違法と判断し、深夜割増賃金の支払いが認められました。
その結果、会社側には約30万円の残業代の支払いが命じられました。
工場で働く人の残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください
工場で働く人の残業代請求は、実績豊富なグラディアトル法律事務所にお任せください。
証拠収集や残業代計算をサポート
残業代請求をする際には、残業に関する証拠収集や残業代計算が必要になりますが、一般の方では、どのような証拠が必要になるか判断できず、正確に残業代を計算することも困難です。
当事務所では残業代の問題の豊富な実績と経験がありますので、製造業特有の証拠を熟知しています。そのため、タイムカードがないような事案であっても残業代請求に必要となる証拠を適切に収集することが可能です。また、複雑な残業代計算も迅速かつ正確に行うことができますので、計算に手間取って時効になってしまう心配もありません。
労働者の代理人として会社との交渉や労働審判・裁判に対応
労働者個人で会社と交渉をしても、まともに取り合ってくれないケースが多いです。
しかし、弁護士が労働者の代理人として会社と交渉をすれば、会社も適当にあしらうことができず、真摯に対応せざるを得ない状況となります。これにより交渉による早期解決が期待できます。
また、会社が話し合いに応じない場合でも労働審判や裁判の手続きにより解決を図ることができます。労働者個人では難しい裁判手続きも弁護士であれば、適切に進めていくことが可能です。
まとめ
慢性的な人材不足に悩む工場では、一人あたりの業務負担が大きくなり、残業が発生してしまいます。特に繁忙期では、残業をしなければ納期に間に合いませんので、長時間の残業になることも珍しくありません。
このような長時間残業が行われている工場では、未払い残業代が発生している可能性がありますので、早めに弁護士に相談をして、未払い残業代の有無を判断してもらうようにしましょう。
残業代請求をお考えの工場勤務の労働者の方は、残業代に関するトラブルの実績と経験豊富なグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。