歯科衛生士の残業代未払いが発生する5つのケースとその対処法を解説

歯科衛生士の残業代が発生するケースとその対処法を弁護士が解説
弁護士 若林翔
2024年05月20日更新

「歯科衛生士として働いているけど、残業してもサービス残業扱いになっている」

「診療時間に左右されるため、時間内に処置が終わらないと残業になる」

「きちんと残業代を支払ってもらいたいけどどうしたらよいのか?」

歯科衛生士は、残業の多い職種ではありませんが、働いている歯科クリニックによっては、診療時間内に処置が終わらず、残業が発生するケースも多いです。

また、短時間の残業であってもそれが積み重なれば、残業代も無視できない金額になりますので、未払い残業代があるときはしっかりと請求していくことが大切です。

本記事では、

・歯科衛生士に残業が発生する4つのケース

・歯科衛生士の残業代未払いが発生する5つのケース

・歯科衛生士が残業代請求をする方法

などについてわかりやすく解説します。

未払い残業代が時効により消滅してしまう前に、早めに行動するようしましょう。

歯科衛生士に残業が発生する4つのケース

歯科衛生士に残業が発生する4つのケース

歯科衛生士に残業が発生するのは、主に以下の4つのケースが考えられます。

診療時間の延長

歯科クリニックでは、診療時間が決まっており、予約制を採用しているところが多いため、基本的には診療時間内に処置を終えることができます。

しかし、患者が予約時間に遅れて来院したり、処置に時間がかかってしまうと、診療時間を延長しなければならないこともあります。また、急患の受け入れをしている歯科クリニックでは、診療時間外でも対応を余儀なくされることがあります。

患者の処置が終わらなければ歯科衛生士も業務を終えることができませんので、診療時間が延長すれば、それに応じて終業時間も伸びてしまい残業となります。

器具の片づけ

歯科衛生士の仕事には、歯科診療で使用した器具の片づけが含まれていることがあります。歯科診療で使用した器具は、基本的にはその日のうちに洗浄し、片付けることになりますが、診療時間中は患者の対応をしなければなりません。そのため、患者の対応がすべて終わらなければ、器具の片づけを開始できませんので、診療時間が遅くなればなるほど残業になる可能性が高くなります。

院内の清掃

器具の片づけだけでなく、歯科クリニック内の清掃も歯科衛生士の仕事の一つです。掃除にかかる時間は、歯科クリニックの規模や人員にもよりますが、小規模な歯科クリニックでは、歯科衛生士1人の負担が大きくなるため、掃除に係る時間も長くなり残業をしなければならないことがあります。

研修や勉強会への参加

歯科衛生士は、最新の技術や知識を身につけるために、定期的に研修や勉強会に参加することがあります。研修や勉強会が開催されるのは、終業時間後や休日が多いため、残業や休日出勤により対応しなければなりません。

頻度はそれほど多くはありませんが、歯科衛生士が残業をする要因の一つになります。

 

歯科衛生士の残業代未払いが発生する5つのケース

歯科衛生士の残業代未払いが発生する5つのケース

歯科衛生士に残業代の未払いが発生するケースとしては、以下の5つが考えられます。

時間外労働をしたのにサービス残業扱いにされる

歯科衛生士は、診療時間の延長、器具の片づけ、院内の清掃などが原因で残業になることがありますが、残業時間に応じた残業代が支払われないことがあります。個人経営の歯科クリニックでは、労務管理に関する考え方が不十分であるために、このような事態が生じることがあります。

歯科衛生士本人も「短時間の残業だから仕方ない」と諦めてしまうことも多いですが、サービス残業を受け入れてしまうのは禁物です。残業をすれば残業代を請求できるというのは法律上認められた労働者の権利です。短時間であってもプライベートの時間を削ってまで残業をしているのですから、しっかりと残業代を請求していくようにしましょう。

研修や勉強会への参加を義務付けられているのに残業代が出ない

歯科衛生士に残業が生じる要因の一つに研修や勉強会への参加があります。使用者から指示されて研修や勉強会に参加した場合には、当然業務にあたりますので、その時間については残業代を請求することができます。

他方、会社の指示ではなく労働者が自主的に参加した研修や勉強会については、基本的には労働時間にはあたりませんので残業代を請求することはできません。しかし、以下のような事情がある場合には、使用者による黙示の指示があったといえますので、例外的に残業代を請求できる可能性があります。

・歯科衛生士の業務に不可欠な研修や勉強会だった

・研修や勉強会の内容を後日スタッフ間で共有するよう求められている

・研修や勉強会への参加率が昇給の査定などに影響する

・研修や勉強会に参加しないことを理由に嫌がらせを受ける

 

残業代を30分単位で計算していて端数が切り捨てられている

残業代計算の基礎となる労働時間が15分単位や30分単位で計算されているため、残業をしているにもかかわらず、端数が切り捨てられてしまっている方もいるでしょう。

しかし、残業代は、1分単位で計算するのが原則となりますので、残業時間を15分単位や30分単位で計算し、端数を切り捨ててしまうのは違法な扱いとなります。このような扱いを受けている場合には、切り捨てられた残業時間も含めて、改めて1分単位で計算した残業代を請求することが可能です。

なお、残業時間の端数処理についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

残業代は何分単位で計算する?正しい計算方法と違法なケースを解説

固定残業代制度を導入しているため残業代が支払われない

固定残業代とは、一定時間分の残業代を毎月の給料に含めて支払う制度です。残業の少ない歯科衛生士には、固定残業代が導入されるケースは少ないですが、歯科クリニック側が残業代の計算事務を簡略化するために、固定残業代制度が利用されることがあります。

固定残業代制度が導入されている場合、実際の残業時間が想定されている残業時間までであれば、固定残業代以外に残業代は支払われませんが、想定されている残業時間を超過した場合には、別途残業代が支払われなければなりません。

固定残業代以外に一切残業代が支払われないのは、違法な運用である可能性がありますので注意が必要です。

なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケース
https://www.gladiator.jp/labor/claiming-fixed-overtime-pay/

変形労働時間制を導入しているため残業代が支払われない

変形労働時間制とは、簡単にいえば職場の繁忙期や閑散期に合わせて1日ごとに所定労働時間を設定できる制度です。変形労働時間制を適切に運用すれば、無駄のない働き方ができますので、使用者にも労働者にもメリットのある制度といえます。

しかし、変形労働時間制は、制度の仕組みがわかりにくいため、制度を正しく理解できていない使用者だと「変形労働時間制を導入しているから残業代は出ない」という認識で、誤った運用をしてしまうことがあります。

しかし、変形労働時間制であっても残業代の支払いが不要になるわけではありませんので、このような誤った運用がなされている場合には、正しく計算した残業代を請求することができます。

なお、変形労働時間制についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

変形労働時間制とは?残業代やメリット・デメリット・注意したい点

歯科衛生士が残業代請求をする方法

歯科衛生士が残業代請求をする方法

歯科衛生士が勤務する歯科クリニックに対して残業代を請求するには、以下のような方法で行います。

残業に関する証拠収集

未払い残業代を請求するには、まずは残業に関する証拠を集める必要があります。なぜなら、未払い残業代があることは労働者の側で立証していかなければならないからです。十分な証拠がない状態では、残業代の支払いを受けることは難しいため、事前にしっかりと準備することが重要です。

歯科クリニックでは、基本的にはタイムカードや勤怠管理システムで労働時間が管理されていますので、それらを証拠にすることができます。ただし、サービス残業を強いられているケースでは、タイムカードなどでは残業時間が反映されていませんので、以下のような証拠を集める必要があります。

 ・患者の予約履歴

・患者の会計記録

・研修や勉強会の案内文

・残業時間を記録したメモ

なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

タイムカードないけど残業代もらえる!あれば役に立つ証拠16選!

未払い残業代の計算

残業に関する証拠が入手できたら、次はそれに基づいて未払い残業代の金額を計算します。具体的には、残業代は、以下のような計算式により算出します。

・残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間

月給制で働く歯科衛生士の場合は、月給を1か月の平均所定労働時間で割って「1時間あたりの基礎賃金」を計算します。

また、割増率賃金率は、時間帯によって、以下のように決められています。

・時間外労働……25%以上

・深夜労働(午後10時から翌午前5時まで)……25%以上

・休日労働……35%以上

・月60時間を超える時間外労働……50%以上

残業代計算は、法的知識や経験がない方では正確に計算するのが困難ですので、専門家である弁護士に計算してもらうとよいでしょう。

なお、残業代計算方法の詳細は、以下の記事もご参照ください。

「残業代を計算したい人へ」60時間超・深夜手当・休日手当までわかる

 https://www.gladiator.jp/labor/overtime-pay-calculation/

内容証明郵便の送付

未払い残業代の計算ができたら、会社と交渉をしていくことになりますが、その前に会社に対して内容証明郵便を送付します。

内容証明郵便は、いつ・誰が・誰に対して・どのような内容の文書を送ったのかを証明できる郵便です。内容証明郵便自体には、未払い残業代の支払いを強制する効力はありませんが、残業代の時効の進行を一時的にストップすることが可能です。

残業代には、残業代の発生時期に応じて以下のような時効期間が定められています。

2020年3月31日以前に働いた分の残業代の時効……2年

2020年4月1日以降に働いた分の残業代の時効……3年

残業代の時効が成立してしまうと、残業代を請求できなくなってしまいますので、そのような事態を回避するために内容証明郵便が役に立ちます。

なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事もご参照ください。

残業代の時効は3年!時効を阻止する方法と残業代請求の流れを解説

 https://www.gladiator.jp/labor/overtime-pay-statute-of-limitations/

勤務先との交渉

内容証明郵便が届いたタイミングで勤務先の歯科クリニックの経営者との交渉を開始します。診療時間中は、患者の処置などで忙しいと思いますので、休憩時間や診療時間終了後に話をしてみるとよいでしょう。

経営者との間で未払い残業代の支払いに関する合意が成立した場合には、口約束だけで終わらせるのではなく、必ず合意書などの書面を作成しておくことが重要です。

労働審判の申立て

勤務先との交渉がうまくいかないときは、労働審判の申立てをすることも有効な手段です。

労働審判とは、労働者と使用者との間の労働問題を迅速かつ柔軟に解決することができる裁判所の紛争解決手段です。労働審判は、原則として3回以内の期日で終了しますので、裁判よりも迅速な解決が期待できる手続きです。いきなり裁判を起こすこともできますが、話し合いの余地が少しでも残されているのであれば、労働審判を利用した方が早期解決が期待できるでしょう。

訴訟提起

勤務先との交渉や労働審判でも解決できないときは、最終的に裁判所に訴訟を提起する必要があります。訴訟になれば、歯科衛生士の方が個人で対応するのは困難ですので、弁護士のサポートを受けながら進めていくようにしましょう。

 

歯科衛生士の残業代請求が認められた裁判例|東京地裁令和3年10月1日判決

歯科衛生士の残業代が認められた裁判例

【事案の概要】

原告は、被告法人が経営する歯科医院において受付兼歯科助手として勤務していました。原告が勤務する歯科医院の休診時間は、午後1時30分から午後3時までの1時間30分となっており、原告らは1時間30分の休診時間のうち休憩時間を1時間とることとされていました。

しかし、実際には、休憩時間中も業務を行っていたため、Xは、休憩時間とされている時間も労働時間にあたる旨主張して、被告法人に未払い残業代の請求を行いました。

【裁判所の判断】

裁判所は、労働者が労働契約上の労務の提供を義務付けられていると評価できる場合には労働からの解放を保障されているとはいえないから、使用者の指揮命令下に置かれたものと客観的に評価できるとしたうえで、以下のような事情から休憩時間1時間のうち30分は労働時間にあたると判断しました。

・原告が本件クリニックにおける受付担当で、予約管理業務の主要な担い手だった

・休診時間中の電話対応や予約管理は原告が担当することが多かったものと推認できる

・2週間に1回程度休診時間中に30分から1時間程度のミーティングが開催されていた

その結果、裁判所は、被告に対して、未払い残業代として約142万円、付加金として約104万円の支払いを命じました。

歯科衛生士の残業代の問題はグラディアトル法律事務所にご相談を

歯科衛生士の残業代問題はグラディアトル法律事務所へ

残業代請求をお考えの歯科衛生士の方は、グラディアトル法律事務所までご相談ください。

面倒な証拠収集や残業代計算をサポートできる

歯科医院に対して、残業代請求をする前提として、残業に関する証拠収集や残業代計算が必要になります。

不慣れな方では、どのような証拠が必要になるかがわからず、十分な証拠を集めることができなかったり、正確に残業代計算ができないこともあります。しかし、弁護士であれば、個別具体的な事案に応じて必要となる証拠を選別することができ、迅速かつ正確に未払い残業代の金額を明らかにすることができます。

歯科医院との交渉を任せることができる

未払い残業代の請求をする際には、まずは歯科医院との交渉を行う必要があります。

しかし、歯科衛生士個人から未払い残業代を請求したとしても、歯科医院の経営者はまともに取り合ってくれないことがあります。このような場合には、歯科医院との交渉を弁護士に依頼するのがおすすめです。

弁護士が交渉の窓口となることで、歯科医院の経営者も真剣に対応せざるを得なくなりますので、交渉により解決できる可能性が高くなります。また、弁護士に依頼をすれば、残業代に関する交渉はすべて弁護士が行いますので、交渉による負担が大幅に軽減されるでしょう。

労働審判や訴訟に発展したときも対応可能

歯科医院の経営者との話し合いで解決できないときは、労働審判や訴訟に発展することもあります。一般の方では、このような法的手続きが必要になっても、対応方法がわからず泣き寝入りしてしまうことも多いですが、弁護士に依頼をしていれば、交渉から引き続き労働審判や訴訟にも対応してもらうことができます。

グラディアトル法律事務所では、未払い残業代のトラブルに関する豊富な解決実績と経験がありますので、未払い残業代の問題をお困りの方は、まずは当事務所までご相談ください。

 

まとめ

歯科衛生士の労働時間は、歯科医院の診療時間に左右されますので、患者の処置が長引いたりすると、残業をしなければならないことがあります。1日あたりの残業時間は短かったとしても、それが積みあがっていくと高額な未払い残業代が発生することもあります。

残業代請求には時効がありますので、サービス残業を強いられているという歯科衛生士の方は、お早めにグラディアトル法律事務所までご相談ください。

 

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

お悩み別相談方法

相談内容詳細

よく読まれるキーワード