「未払い残業代の遅延損害金とは何?」
「残業代請求では遅延損害金は、どのくらいもらえるの?」
「残業代の遅延損害金は、どのように計算するの?」
残業代が未払いになっている場合、残業代を請求できるのはもちろんのこと、残業代の遅延損害金も請求することができます。遅延損害金とは、残業代の支払いが遅れたことによるペナルティの一種で、支払いが遅れた日数に応じて加算されます。
遅延損害金の利率は、退職前が年3%であるのに対し、退職後は年14.6%と大幅に上がるなど退職前後で変わるなど、遅延損害金の計算・請求にあたってはいくつか注意すべきポイントがありますので、しっかりと押さえておきましょう。
本記事では、
・残業代請求における遅延損害金とは?
・残業代請求をするときの遅延損害金の利率と計算方法
・残業代請求で遅延損害金を請求する際の注意点
などについてわかりやすく解説します。
遅延損害金を含めた残業代請求をするには、専門家である弁護士のサポートが必要になりますので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
目次
残業代請求における遅延損害金とは?
残業代請求における遅延損害金とは、どのようなものなのでしょうか。以下では、遅延損害金の概要と残業代請求で遅延損害金を請求する3つの理由を説明します。
遅延損害金とは?
遅延損害金とは、金銭の支払い義務がある人が支払い期限までにお金の支払いをできなかった場合に発生する延滞金(損害賠償金)をいいます。残業代は、各月の給料日に支払わなければならないものですので、残業代が未払いになっている場合、支払期日に遅れたことによる遅延損害金が発生します。
遅延損害金は、労働者と会社の間で取り決めがなかったとしても、法律上当然に発生するものですので、未払い残業代がある場合には、法定の利率による遅延損害金を請求することができます。
残業代請求で遅延損害金を請求する3つの理由
残業代請求では、未払い残業代の請求に加えて遅延損害金の請求も行うのが一般的です。遅延損害金も含めて請求するのには、主に以下のような理由があります。
【未払い残業代に上乗せできる】
遅延損害金の請求は、法律上認められた権利ですので、遅延損害金を請求することで、本来の残業代に上乗せして会社から支払いを受けることができます。
少しでも多くの支払いを受けたいのであれば、未払い残業代だけでなく遅延損害金も含めて請求すべきでしょう。
【早期に解決できる】
遅延損害金は、支払いが遅れた日数に応じて加算されますので、残業代の未払い期間が長くなればなるほど遅延損が金の金額も大きくなってきます。
残業代を支払う会社側としては、少しでも支払う金額を抑えたいと考えます。交渉が長引くと遅延損害金の金額も増えてしまいますので、遅延損害金の金額を抑える目的で早期の支払いに応じてくれる可能性が高くなります。
【交渉を有利に進めることができる】
遅延損害金は、会社との交渉材料としても利用することができます。
すなわち、遅延損害金を免除する代わりに労働者側に有利な条件を認めてもらうなどの交渉が可能です。遅延損害金を請求していれば、このような柔軟な交渉も可能になりますので、残業代請求においては、必ず請求するようにしましょう。
残業代請求をするときの遅延損害金の利率
残業代請求をするときの遅延損害金の利率は、残業代請求が在職中か退職後かによって、以下のように変わってきます。
在職中に残業代請求をする場合|年3%
在職中に遅延損害金を請求する場合、特別な定めがなければ民法の法定利率が適用されますので、遅延損害金の利率は、年3%になります。
すなわち、未払い残業代の金額に年3%の利率を乗じた金額を遅延損害金として請求できることになります。
なお、以前は、在職中の遅延損害金は、年6%の商事法定利率が適用されていましたが、民法改正により年3%の利率が適用されるようになりました。
退職後に残業代請求をする場合|年14.6%
退職後に残業代請求をする場合、民法ではなく「賃金の支払の確保等に関する法律」が適用されますので、遅延損害金の利率は年14.6%になります。
すなわち、退職日の翌日から支払い済みまで未払い残業代の金額に年14.6%の利率を乗じた金額を遅延損害金として請求できることになります。
ただし、未払い残業代の支払いの遅延が以下のようなやむを得ない事由により生じた場合には、賃金の支払の確保等に関する法律に基づく利率は適用されません。
①天災地変
②事業主が破産手続開始の決定等を受けた
③法令の制約により賃金の支払に充てるべき資金の確保が困難である
④支払いが遅滞している賃金について、合理的な理由により、裁判所または労働委員会で争っている
⑤その他①~④に準ずる事由
残業代請求における遅延損害金の計算方法
残業代請求では、どのくらいの遅延損害金を請求できるのか気になるという方も多いと思います。以下では、残業代請求における遅延損害金の計算方法を紹介しますので、ご自身でも計算してみるとよいでしょう。
遅延損害金の計算式
遅延損害金の計算は、以下のような計算式によって計算します。
遅延損害金=未払い残業代の金額×遅延損害金の利率÷年間日数×遅延日数
遅延日数は、残業代の支払い期限の翌日から実際の支払日までの日数になります。
なお、残業代は、毎月の給料日に支払われるものになりますので、遅延損害金の計算においても各給料日ごとに計算する必要があります。
遅延損害金計算の具体例
【具体例①】
2024年4月30日に支払われるはずの残業代10万円が未払いになっているとします。この未払い残業代を在職中であるに請求する場合の遅延損害金は、以下のようになります。
10万円×3%÷365日×61日≒5014円
【具体例②】
2024年4月30日に支払われるはずの残業代10万円が未払いになっているとします。この未払い残業代を2024年6月30日に退職した労働者が2024年9月30日に請求する場合の遅延損害金は、以下のようになります。
在職中の遅延損害金部分:10万円×3%÷365日×61日≒501円
退職後の遅延損害金部分:10万円×14.6%÷356日×92=3680円
合計:501円+3680円=4181円
遅延損害金と付加金の違い
付加金とは、会社が労働者に対して賃金などの不払いがある場合に、裁判所が裁量によってその金額と同一額を限度に金銭の支払いを命じることができる制度です。会社に対するペナルティとして課されるお金であるという点では、付加金と遅延損害金は共通します。
しかし、付加金は、裁判所の支払い命令があって初めて発生するお金ですので、残業代の未払いがあれば当然に発生する遅延損害金とは異なります。また、労働者側に付加金を請求する権利はなく、交渉や労働審判では付加金の支払いを求めることはできません。
遅延損害金と付加金を比べると、付加金の方が圧倒的に金額は大きいですが、あくまでも裁判所の裁量によって支払いが命じられるお金になりますので、裁判になっても必ず認められるとは限りません。
残業代請求で遅延損害金を請求する方法
遅延損害金は、遅延損害金単体で請求するのではなく、未払い残業代と一緒に請求していくことになります。以下では、残業代請求で遅延損害金を請求する方法を説明します。
会社との交渉で請求する
未払い残業代がある場合には、まずは会社との交渉で請求していきます。
未払い残業代には時効がありますので、会社との交渉前に、内容証明郵便を送付して時効の進行を一時的にストップする必要があります。内容証明郵便を利用して残業代請求をすれば、法律上の「催告」にあたりますので、6か月間時効の完成を猶予することができます。
会社との交渉では、未払い残業代に加えて、支払い済みまでの遅延損害金の支払いを求めていきます。請求段階では遅延損害金の金額は確定していませんので、「遅延損害金も請求する」という程度で足ります。
労働審判で請求する
会社との交渉が決裂したときは、労働審判を利用して未払い残業代および遅延損害金の請求を行います。
労働審判は、原則として3回以内の期日で終了することになっていますので、訴訟に比べて迅速な解決が期待できる手続きです。まずは、当事者同士の話し合いによる調停での解決が試みられ、それが難しい場合には、裁判所が労働審判により一定の結論を下すことになります。
なお、労働審判で残業代請求をする流れについては、以下の記事をご参照ください
裁判で請求する
労働審判に対して異議申し立てがあると、労働審判の効力は失われ、訴訟手続きに移行します。また、交渉が決裂した時点で労働審判を利用せずに訴訟を提起することで未払い残業代と遅延損害金の請求をすることができます。
裁判では、労働者の側で未払い残業代の存在およびその内容を立証していかなければなりません。裁判での主張立証の結果、労働者側の言い分が認められれば、会社側に残業代と遅延損害金の支払いを命じる判決が言い渡されます。
なお、裁判で残業代請求をする流れについては、以下の記事をご参照ください。
残業代請求で遅延損害金を請求する際の注意点
残業代請求で遅延損害金を請求する際には、以下の点に注意が必要です。
遅延損害金にも時効がある
残業代と同様に遅延損害金にも時効がありますので、権利を行使することなく一定期間が経過すると、遅延損害金を請求する権利も消滅してしまいます。
遅延損害金の時効は、残業代と同じく、以下のように定められています。
・2020年4月1日以降に発生した遅延損害金……3年
・2020年3月31日以前に発生した遅延損害金……2年
そのため、未払い残業代の存在が明らかになったときは、早めに請求するようにしましょう。
なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
遅延損害金を免除して解決するケースも多い
労働者には、遅延損害金を請求する権利がありますが、実務では、和解により解決する場合には、遅延損害金を免除するケースがほとんどです。そのため、和解により解決する場合には、遅延損害金を支払ってもらうことは難しいと考えておいた方がよいでしょう。
和解には、会社との交渉による解決、労働審判の調停による解決、裁判上の和解による解決などがありますが、いずれも遅延損害金が付くことはありません。
このように遅延損害金を請求しても免除されるのでは、請求した意味がないと考える方もいるかもしれません。しかし、遅延損害金を請求することで会社側にプレッシャーを与えることができますので、一定の効果が期待できます。また、訴訟では遅延損害金を請求していなければ、判決になったときに遅延損害金が認められませんので、やはり請求しておくべきでしょう。
遅延損害金を含めて残業代請求するなら弁護士に相談を
未払い残業代がある場合には遅延損害金も請求することができますが、あくまでもメインは残業代の請求になります。残業代の請求を成功させるには、残業代請求に強い弁護士のサポートを受けながら証拠収集や会社との交渉、労働審判・訴訟手続きなど進めていく必要があります。
グラディアトル法律事務所では、これまでに多数の未払い残業代のトラブルを解決に導いた実績がありますので、個人では対応が難しい手続きでも適切に対応することができます。残業代や遅延損害金には時効がありますので、未払い残業代の請求をお考えの方は、早めに当事務所までご相談ください。
まとめ
残業代請求をする際には、遅延損害金を請求することができます。遅延損害金を請求することで早期解決や有利な解決が期待できますので、残業代請求にあたっては遅延損害金を必ず請求するようにしましょう。
もっとも、遅延損害金の利率や計算方法は、非常に複雑ですので、労働者個人で対応するのは困難を伴います。そのため、遅延損害金を含む残業代請求については、残業代トラブルに強いグラディアトル法律事務所にお任せください。