「会社が残業代を支払ってくれないため、裁判手続きの利用を検討している」
「残業代請求の裁判はどのような流れで進んでいくのだろうか?」
「裁判で残業代請求をすべきケースとは?」
会社との交渉では未払い残業代の支払いに応じてくれない場合、最終的に裁判により未払い残業代を取り戻すことになります。
しかし、裁判というと「なんだか難しそう」、「時間や費用がかかりそう」など不安になる要素も多く、裁判で残業代請求をしたくてもなかなか行動を起こせない方も多いと思います。
裁判をするには残業代請求に強い弁護士に依頼して進めていく必要がありますが、まずは残業代請求の裁判とはどのようなものか、メリット・デメリットに何かをしっかりと理解しておくことで、裁判の不安も少しは解消されるでしょう。
本記事では、裁判で残業代請求をすべき以下の5つのケースなどについてわかりやすく解説します。
- 会社側との交渉が決裂したケース
- 残業代の消滅時効の完成が迫っているケース
- 十分な証拠があるケース
- 時間がかかっても金額面で妥協したくないケース
- 付加金の支払い命令が期待できるケース
裁判は、労働者個人で対応するのは困難ですので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
目次
残業代請求の裁判と労働審判の違い
未払い残業代があることが判明した場合、まずは会社との交渉により残業代の支払いを求めていきます。しかし、会社が残業代の支払いに応じてくれない場合には、話し合いを継続しても解決は困難ですので、法的手段により残業代の回収を図ることになります。その場合に利用できる手段としては、「裁判」と「労働審判」の2つがあります。
裁判は、未払い残業代の有無について裁判所の判断を求める手続きです。裁判での主張立証の結果、未払い残業代の存在が認められれば、裁判所の判決により残業代の支払いが命じられます。
他方、労働審判とは、裁判よりも迅速かつ柔軟な解決が可能な手続きで、基本的には当事者同士の話し合いでの解決が試みられ、それが難しい場合に労働審判という形で判断が下されます。
裁判と労働審判の違いを簡単にまとめると以下のようになります。
なお、残業代請求の労働審判の詳しい内容については、こちらの記事をご参照ください。
裁判で残業代請求をするメリットとデメリット
裁判で残業代請求をするのに不安があるという方は、以下のメリットとデメリットを踏まえて、裁判の利用を考えてみるとよいでしょう。
裁判で残業代請求をするメリット
裁判で残業代請求をするメリットとしては、以下の点が挙げられます。
【最終的な判断が期待できる】
未払い残業代の交渉では、会社側が支払いに応じてくれなければ解決はできません。また、労働審判だと会社側から異議申し立てがなされると労働審判の効力が失われてしまいますので、終局的な解決とはなりません。
裁判では、会社側が残業代を支払う意思がない場合であっても判決という形で判断が下されますので、一定の結論を出すことができます。また、判決に対しては、控訴・上告という不服申し立てができますが、それらが確定すれば終局的な解決となります。
【強制執行のための債務名義が獲得できる】
債務名義とは、公的機関が債権の存在と範囲を公的に証明した文書のことをいいます。強制執行の手続きを利用するためには、債務名義が必要になりますが、裁判所の確定判決はこの債務名義になります。
債務名義があれば、強制執行により会社の財産(預貯金、売掛金、不動産など)を差し押さえることで、強制的に未払い残業代を回収することが可能です。
【付加金を支払ってもらえる可能性がある】
付加金とは、賃金や残業代などの不払いがあった場合に、裁判所が会社に対する制裁として、未払金と同一額の支払いを命じる制度のことをいいます。示談交渉や労働審判では、付加金を支払ってもらうことはできませんが、裁判であれば、裁判所の裁量により付加金の支払いが命じられる可能性があります。
裁判で残業代請求をするデメリット
裁判で残業代請求をするデメリットとしては、以下の点が挙げられます。
【解決まで時間がかかる】
裁判は、原則として1か月から1か月半に1回のペースで期日が開催され、争点を成立するために複数回の期日が重ねられます。事案によって解決までにかかる期間は異なりますが、裁判の平均審理期間としては17.2か月もかかります。
労働審判の平均審理期間が90.3日であるのと比べると、解決までの期間が非常に長いことがわかります。
【労働審判に比べて費用がかかる】
裁判を利用するためには、裁判所に手数料として収入印紙を納めなければなりません。手数料の金額は、請求する金額によって変わってきますが、労働審判を利用する場合の手数料と比べると2倍の金額がかかります。
労働審判と比べると金銭的な負担が大きい点がデメリットとして挙げられます。
【証拠がなければ請求が認められない】
示談交渉や労働審判の調停手続きであれば、証拠が乏しかったとしても当事者の合意があれば解決することができます。しかし、裁判では、証拠がなければ残業代の支払いを命じてもらうことができません。
残業代が未払いであることは労働者側で主張立証していかなければなりませんので、証拠収集や主張立証の負担が大きい点がデメリットとして挙げられます。
裁判で残業代請求をすべき5つのケース
上記のようなメリットとデメリットを踏まえると、裁判で残業代請求をすべきケースとしては、以下の5つが挙げられます。
会社側との交渉が決裂したケース
会社側との交渉が決裂した場合、そのまま話し合いを継続しても合意できる可能性は極めて低いです。また、労働審判の手続きは、会社側から異議申し立てがあると労働審判の効力が失われ訴訟手続きに移行してしまいますので、会社側との意見の対立が大きいケースでは、労働審判は不向きといえます。
このように会社との交渉が決裂し、意見の対立が大きいケースでは、裁判で残業代請求をする必要があります。
残業代の消滅時効の完成が迫っているケース
残業代には、消滅時効がありますので、残業代が発生したまま放置していると、時効により権利が消滅してしまう可能性があります。
内容証明郵便を利用して残業代の請求をすれば、6か月間時効の完成を猶予することができますが、あくまでも一時的な措置になります。その期間内に会社との間で合意ができなければ、残業代は時効により消滅してしまいます。
訴訟を提起すれば、訴訟期間中は時効の完成が猶予され、判決により権利が確定すると時効期間が更新されて、その後10年間は時効が完成しません。
そのため、残業代の消滅時効の完成が迫っているというケースでは、裁判を利用すべきといえます。
十分な証拠があるケース
残業代請求は、十分な証拠がそろっていれば基本的には負けることはありません。裁判になれば証拠の有無によって結論が決まりますので、十分な証拠があれば残業代の支払いを命じる判決が出る可能性が極めて高いでしょう。
そのため、会社が任意に残業代の支払いに応じないときは、裁判をした方がより満足のいく内容で解決できる可能性があります。
なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
時間がかかっても金額面で妥協したくないケース
裁判は、示談交渉や労働審判に比べると時間のかかる手続きといえます。しかし、時間はかかるものの法律に基づく厳密な審理が行われますので、十分な証拠があれば、より希望に近い金額での解決が期待できます。
早期解決を希望する場合には不向きですが、時間がかかっても金額面で妥協したくないという人には裁判が向いているでしょう。
付加金の支払い命令が期待できるケース
残業代の未払いがある場合、裁判所は、未払い残業代とは別に未払い残業代と同一額の付加金の支払いを命じることができます。付加金は、裁判でしか認められませんので、交渉や労働審判では付加金の支払いが認められることはありません。
未払い残業代の金額が高額になればなるほど付加金の金額も高額になりますので、より多くの金銭の支払いを求めるのであれば裁判を行うべきでしょう。
残業代請求の裁判の流れ
残業代請求の裁判は、以下のような流れで行われます。
訴訟の提起
残業代請求の裁判を行うためには、管轄の裁判所に訴状を提出して訴訟提起を行います。
訴訟提起にあたっては、訴状の他にも請求や主張を裏付ける証拠の提出や申立手数料(収入印紙)・予納郵券(郵便切手)の提出も必要です。
訴状を提出する裁判所は、請求金額によって異なり、請求金額が140万円を超える場合は地方裁判所に、140万円以下の場合は簡易裁判所になります。
第1回口頭弁論期日
訴訟提起が受理されると、第1回口頭弁論期日が指定されます。裁判所は、被告に対して訴状の副本などの送達を行い、被告は訴状に対する反論などを記載した答弁書を提出します。
第1回口頭弁論期日では、原告および被告が裁判所に出頭し、訴状と答弁書の陳述が行われます。ただし、第1回口頭弁論期日に限り、被告は、答弁書を提出していれば裁判所に出頭しなくても答弁書を陳述したものとして扱われます。
第1回口頭弁論期日で解決することはほぼありませんので、次回以降の続行期日が指定され、第1回口頭弁論期日は終了となります。
続行期日
続行期日では、原告と被告の双方から主張立証を繰り返し、争点を明確にしていきます。主張や反論がある場合には、準備書面という書面に記載して裁判所に提出する必要があります。
続行期日は、1か月から1か月半に1回のペースで開催され、お互いの主張立証が尽くされるまで複数回期日が重ねられますので、最終的な判決に至るまでには1年以上の期間がかかることも珍しくありません。
和解勧試
当事者の主張立証がある程度尽くされた段階で、裁判所から和解案が提示されることがあります。裁判というと「判決」による解決をイメージされる方が多いですが、裁判手続きでも当事者間の合意による和解での解決制度があります。
裁判所から提示された和解案を検討し、双方が和解に合意すれば和解成立により裁判手続きは終了となります。
証拠調べ期日
和解が成立しない場合には、その後も期日が重ねられ、主張立証が尽くされた時点で証拠調べ期日が開催されます。証拠調べ期日とは、当事者や証人に対する尋問を行う手続きです。テレビドラマなどで行われる「証人尋問」をイメージしてもらえばよいでしょう。
法廷の証言台に立った証人や当事者に対して、原告と被告が交互に質問をし、それに対して回答するという流れになります。労働者本人も当事者尋問として法廷に立つことがありますので、しっかりと準備してから望まなければなりません。
判決
証拠調べ手続きを終え、主張立証が尽くされたと判断されれば、弁論終結となり、最終的に裁判所が判決を下します。
判決に不服がある当事者は、判決送達の日から2週間以内に控訴をすることができます。
残業代請求の裁判にかかる期間|平均審理期間は17.2か月
裁判所が公表している「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」では、労働関係訴訟に関する概況がまとめられています。それによると、未払い残業代請求を含む労働関係訴訟の平均審理期間は、17.2か月となっています。また、審理期間別の既済件数と事件割合は、以下のようになっています。
この統計からもわかるように、約6割以上の事件が訴訟提起から解決まで1年以上の期間を要していますので、非常に時間がかかる手続きであることがわかります。
裁判での残業代請求金額の平均額・解決金額
厚生労働省が公表している「労働審判事件等における解決金額等に関する調査に係る主な統計表」によると、裁判での残業代の請求金額・解決金額の平均は、以下のようになっています。
【残業代の請求金額】
これによると、裁判での残業代の請求金額の平均値は332万3515円、中央値は200万532円となっています。
この統計には残業代以外にも含まれていますが、裁判での残業代の請求金額の平均値は613万4219円、中央値は300万円となっています。
裁判の残業代請求では98.2%が弁護士つき
裁判所が公表している「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」によると、労働関係訴訟における訴訟代理人の選任状況は、以下のようになっています。
訴訟は非常に複雑かつ専門的な手続きになりますので、訴訟代理人(弁護士)を選任している事件は、全体の98.2%にも及び、ほとんどの事件で訴訟代理人がついていることがわかります。
残業代請求の裁判でかかる費用
裁判を利用して残業代請求をする場合に気になるのが、どのくらいの費用がかかるのかという点です。残業代請求の裁判でかかる費用としては、裁判所に支払う裁判費用と弁護士を依頼した場合にかかる「弁護士費用」がありますので、以下では、それぞれの相場について説明します。
裁判費用
裁判手続きを利用する際に、裁判所に支払う必要のある費用としては、以下のものがあります。
【手数料(印紙代)】
裁判手続きを利用する際には、手数料を収入印紙で納める必要があります。手数料の金額は、裁判で請求する未払い残業代の金額によって異なります。たとえば、100万円の残業代を請求する場合の手数料は1万円になります。
請求額に応じた手数料の詳しい金額については、こちらの裁判所のウェブサイトをご確認ください。
【予納郵券(郵便切手代)】
訴訟提起の際には、上記の手数料とともに予納郵券を納める必要があります。予納郵券とは、裁判所が書面などの郵送に使う郵便切手代をいい、原告が負担しなければなりません。
予納郵券の金額は、訴訟提起をする裁判所によって異なりますので、管轄の裁判所に確認してみるとよいでしょう。
弁護士費用
裁判手続きを弁護士に依頼した場合、裁判所に裁判費用とは別に、弁護士費用が発生します。弁護士に依頼した場合にかかる費用としては、主に以下の項目があります。
【相談料】
弁護士に未払い残業代のトラブルを相談するときには、相談料がかかります。相談料の相場としては、1時間あたり1万1000円(税込)となっています。
なお、グラディアトル法律事務所では、未払い残業代のトラブルに関する法律相談については、初回無料で対応しています。
【着手金】
着手金とは、弁護士に未払い残業代請求の事案を依頼した場合に発生する費用です。着手金は、残業代請求の成功・不成功にかかわらず発生するお金になります。
着手金の計算方法には、いくつかのパターンがあり、弁護士事務所ごとに異なっています。1つ目は、以下のように請求する未払い残業代の金額に応じて、計算する方法です。
2つ目は、未払い残業代の金額にかかわらず、着手金を定額で計算する方法です。この方法では、20~30万円程度が着手金の相場になります。
なお、当事務所では、タイムカードなどの証拠の有無により着手金の金額は変動しますが、着手金0円から対応しています。
報酬金
報酬金とは、弁護士に依頼した事件が終了した後に、具体的な成果に応じて発生する費用です。会社から残業代をまったく回収できなかった場合には、報酬金は発生しません。
報酬金の計算方法も着手金と同様に弁護士事務所ごとにさまざまです。以下の表のように、会社から回収した未払い残業代の金額に応じて計算する方法もありますが、回収した金額の20~30%という形で計算する方法もあります。
なお、当事務所の報酬金は、以下のようになっています。
成功報酬(訴訟) 22%+33万円
※成功報酬については、会社から支払われる金額を上限とします。
※労働審判・訴訟の場合は、別途日当がかかります。
実費
実費とは、弁護士が事件処理にあたって実際に支出した費用のことをいいます。実費には、主に以下のようなものが含まれます。
・印紙代
・郵便切手代
・コピー代
・交通費
裁判で残業代請求をするならグラディアトル法律事務所に相談を
裁判で残業代請求をお考えの方は、グラディアトル法律事務所までご相談ください。
初回相談料無料・着手金0円から対応
裁判で残業代請求をするには、弁護士のサポートが不可欠になります。しかし、弁護士に依頼したくても経済的な余裕がなくて弁護士への依頼を躊躇してしまうという方も少なくありません。十分な証拠があるにもかかわらず、弁護士に依頼できないために残業代を請求できなくなるのは非常にもったいないといえるでしょう。
グラディアトル法律事務所では、そのような経済的な余裕のない方でも安心してご利用いただけるよう、初回相談料無料・着手金0円から対応しています。まずは相談だけでも結構ですので、お気軽に当事務所までご相談ください。
豊富な実績・経験に基づき会社側の反論に対して適切に対応できる
残業代請求の裁判では、会社側から以下のような反論が予想されます。
・固定残業代制度により残業代は支払い済み
・管理監督者にあたるから残業代の支払い義務はない
・労働基準法上の労働時間にあたらないため残業代の支払い義務はない
・残業の指示を出していないから残業代は支払えない
このような反論に対して対応するためには、残業代請求に関する豊富な知識や経験、過去の裁判例などの正確な理解が不可欠となります。グラディアトル法律事務所では、これまでさまざまな未払い残業代のトラブルを解決に導いた実績と経験がありますので、会社側からの反論に対しても適切に対応することが可能です。
時間や労力を軽減できる
残業代請求の裁判は、基本的にはすべて弁護士が対応しますので、労働者本人が裁判所に出頭しなければならないのは、証人尋問・当事者尋問を行う場合に限られます。
弁護士に依頼することで、時間や労力を大幅に軽減することができますので、負担なく残業代請求の手続きを進めることが可能です。裁判になると解決まで1年以上の期間がかかるケースも多いため、少しでも負担を軽減するためにも残業代のトラブルは当事務所にお任せください。
まとめ
残業代請求の裁判は、解決までに時間がかかるというデメリットがあります。しかし、十分な証拠がそろっているケースであれば、負ける可能性は低いため時間はかかっても時間はかかっても金額面で妥協したくないという方は、裁判の利用を検討してみるとよいでしょう。
ただし、裁判では専門家である弁護士のサポートがなければ対応は難しいといえますので、残業代請求の裁判をお考えの方は、経験と実績の豊富なグラディアトル法律事務所までご相談ください。