建設業の残業代請求は証拠が重要!よくある違法な手口と計算方法

建設業の残業代請求は証拠が重要。違法な手口と残業代の計算方法
弁護士 若林翔
2024年04月30日更新

「建設業で働いているけれども残業がとても多い」

「会社からはいろいろな理由を付けて残業代が支払われない」

「建設業での残業代請求のポイントを知りたい」

建設業は、慢性的な人手不足や余裕のない工期などが原因で、長時間労働となりやすい業種です。残業をした時間に応じてきちんと残業代が支払われていればよいですが、実際には、さまざまな理由を付けて、適正な残業代が支払われていないことが多いです。建設業でも残業代請求は可能ですので、未払いの残業代がある場合には、会社に対してしっかりと請求していくようにしましょう。

本記事では、

  • 建設業における実労働時間と残業の実態
  • 建設業で残業が多いと言われる4つの理由
  • 建設業における残業不払いのよくある5つの手口

などについてわかりやすく解説します。

建設業における残業代請求の知識をしっかりと身につけて、残業代の時効前に早めに行動することをおすすめします。

 

建設業における実労働時間と残業の実態

厚生労働省が公表している「毎月勤労統計調査 令和5年分結果確報」によると、一般労働者を対象とした建設業の実労働時間と残業時間は、以下のようになっています。

建設業の実労働時間と残業時間

このような調査結果からもわかるように、他の業種に比べて建設業は、残業が多い業種であることがわかります。

建設業の残業が月14.4時間というと残業時間はそれほど長くないとの印象を受けるかもしれません。しかし、建設業では、統計結果に反映されていないサービス残業などが蔓延していますので、実際の残業時間は統計結果が示す数字よりも圧倒的に多いといえるでしょう。

 

建設業で残業が多いといわれる4つの理由

建設業で残業が多い4つの理由

建設業は、一般的に残業が多い業種と言われています。また、統計結果からみても残業が多い業種であることがわかりますが、建設業で残業が多いのは、主に以下のような理由があるからです。

 

慢性的な人手不足

建設業では、慢性的な人手不足に悩まされています。建設業が過酷な仕事であるイメージから、建設業を希望する人が減ってきており、建設業界に入社したとしてもすぐに辞めてしまう人も多いです。

そのため、建設業界全体で若手の労働者が減ってきており、中堅やベテランの労働者が建設業界を支えているという歪な構造となっています。このような慢性的な人手不足の影響により、労働者1人あたりの負担が増え、それに応じて残業時間も増えてしまいます。

 

工期に間に合わせる必要がある

建設業では、契約時に定められた工期がありますので、工期に間に合うように工事を進めていかなければなりません。しかし、屋外での作業が中心となる建設業では、天候に左右されやすいため、悪天候が続くと、その間は工事をストップしなければならず、よりタイトなスケジュールになってしまいます。

工事に遅れが生じている場合には、工期に間に合わせるために、残業を行わなければなりません。

 

建設業界の体質

建設業界では、体育会系の体質が根強く残っています。上司や先輩がサービス残業をしている状況で、自分だけ定時に帰ることはできず、残業をするのが当たり前の環境になっているところも多いでしょう。

また、長時間残業が常態化しているため、残業時間の削減に向けた取り組みにも消極的であるというのも建設業界に残業が多い要因の一つです。

 

残業時間の上限規制が適用外だった

大企業については2019年4月から、中小企業については2020年4月から残業時間の上限規制が適用されました。これにより、残業時間の上限は、月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。

しかし、建設業については残業時間の上限規制の適用が猶予されていたため、慢性的な長時間残業が続いていました。これも建設業に残業が多い原因の一つです。

ただし、建設業への残業時間の上限規制の適用猶予措置は、2024年3月末で終了し、2024年4月1日からは建設業にも残業時間の上限規制が適用されるようになりました。これにより、今後は建設業の残業時間も減少していくものと考えられます。

 

建設業でも残業代請求は可能!よくある会社側の違法な5つの手口

建設業でも残業代請求は可能。会社側の違法な5つの手口

建設業では長時間残業をしても、さまざまな理由で残業代が支払われていないことが多いです。しかし、以下のような違法な手口により残業代が不払いとなっている場合には、会社に対して未払い残業代を請求できる可能性があります。

 

雇用ではなく業務委託であることを理由とする残業代の不払い

建設現場で働く労働者は、「職人」として扱われることが多いです。そのため、会社からは、労働者(雇用契約)ではなく個人事業主(業務委託契約)として扱われ、残業代が支払わないケースもあります。

個人事業主に対しては、労働基準法は適用されませんので、どれだけ長時間残業をしたとしても、会社から残業代が支払われることはありません。しかし、労働者と個人事業主のいずれに該当するかは、契約の形式ではなく実態に即して判断することになります。そのため、以下のような事情がある場合には、契約の形式が業務委託契約であったとしても、会社に対して残業代を請求することができます

  • 仕事の依頼や業務指示に対する諾否の自由がない
  • 勤務場所や勤務時間が拘束されている
  • 早退や欠勤により報酬が控除される
  • 業務に必要な機械や器具が会社負担で用意されている

 

現場監督を「管理監督者」として扱う

建設現場の全体を管理する役割を担う立場の人を「現場監督」や「施工管理」と呼ぶことがあります。現場監督や施工管理は、建設業界でも特に残業時間が長くなる傾向にありますが、会社からは、「管理監督者」を理由として残業代が支払われないケースがあります。

管理監督者とは、経営者と一体的な地位にあることを理由として、労働基準法上の労働時間、休日、休憩に関する規定が適用されない人のことをいいます。現場監督が管理監督者に該当するのであれば、残業代が支払われなかったとしても法律上問題はありません。

しかし、管理監督者に該当するかどうかは、「現場監督」や「施工管理」などの名称ではなく、経営者と一体的な地位にあるかどうかという実態に即して判断することになります。そのため、以下のような事情がある場合には、労働基準法上の管理監督者には該当せず、残業代を請求できる可能性があります。

  • 部下の人事権を与えられていない
  • 勤務時間が明確に決められており、遅刻や早退を理由に給料がカットされる
  • 待遇が一般的な労働者と大差ない
  • 経営会議などには参加できず、会社に指示に従って業務を行っている

なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事もご参照ください。

「管理職の残業代は出ない」は間違い!違法なケースや請求方法を解説

 

固定残業代以外に一切残業代を支払わない

固定残業代とは、実際の残業時間にかかわらず、あらかじめ定められた一定時間分の残業代が支払われる制度をいいます。会社から固定残業代が支払われていることを理由として、一切残業代が支払われないケースも多いです。

しかし、固定残業代が支払われていたとしても、あらかじめ定められた一定時間を超えて残業をした場合には、別途残業代を請求することができます。長時間の残業をしているにもかかわらず、固定残業代以外の残業代が支払われていない場合には、固定残業代制度の違法な運用がなされている可能性がありますので、契約内容をしっかりと確認することが大切です。

なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。

みなし残業代(固定残業代)に追加の残業代を請求できる6つのケース

 

見習い期間中を理由とする残業代の不払い

建設業の現場では、親方や師匠の仕事を見ながら覚えていくことが多いです。一人で仕事を任せてもらえるまでの見習い期間は、会社から残業代が支払われないことがあります。

しかし、見習い期間中であったとしても、労働基準法が適用される労働者である以上、残業をすれば残業代を支払わなければなりません。見習い期間中だからといって残業代を支払わないのは、違法となりますので、未払い残業代を請求することができます。

 

移動時間や始業開始前の作業時間を労働時間から除外する

建設業では、以下のような時間が労働時間から除外されることがあります。

  • 会社から建設現場に向かう際の移動時間
  • 現場に到着後、作業開始までの準備時間
  • 建設現場から会社に戻る際の移動時間

しかし、このような移動時間や作業時間も使用者による指揮命令下に置かれた時間と評価することができますので、労働時間に該当する可能性があります。そのため、会社から除外されたこれらの時間を含めて、残業代を請求することができます。

 

建設業において残業代請求に有効な証拠とは?

建設業で残業代請求に有効な証拠

会社に対して残業代請求をするためには、労働者の側で証拠により残業を立証していかなければなりません。残業代請求は、証拠の有無によって結論が左右されるといっても過言ではありませんので、事前に十分な証拠を集めておくことが重要です。

しかし、建設業では、現場への直行または現場からの直帰が多いため、タイムカードにより勤怠管理がなされていないケースが多いです。そこで、建設業では、以下のような証拠により残業を立証していく必要があります。

  • 業務日誌や作業日報
  • メールやチャットの送受信履歴
  • パソコンのログ記録
  • 交通ICカードの乗降車記録
  • 現場の往復に使用した社用車のETC記録
  • スマートフォンのGPS記録
  • 作業終了時に撮影した写真
  • 始業、終業時刻を記載した手書きのメモ

なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

タイムカードないけど残業代もらえる!あれば役に立つ証拠16選!

 

建設業で働く労働者の残業代の計算方法

建設業で働く人の残業代の計算方法

建設業で働く労働者の残業代は、次のような計算式により計算します。

残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間

以下では、残業代の計算式に含まれる各項目の詳細について説明します。

 

1時間あたりの基礎賃金

月給制で働く労働者は、以下のような計算式に基づいて、1時間あたりの基礎賃金を計算します。

1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月の平均所定労働時間

1か月の平均所定労働時間=(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月

なお、1時間あたりの基礎賃金を計算する際の「月給」には、以下のような手当は含まれません。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住居手当
  • 臨時に支払われた手当
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

 

割増賃金率

残業時間の種類に応じて、以下のような割増賃金率が適用されます。

  • 時間外労働……25%以上
  • 深夜労働(午後10時から翌午前5時まで)……25%以上
  • 休日労働……35%以上
  • 月60時間を超える時間外労働……50%以上

これらの割増賃金率は、重複して適用されますので、深夜残業に対しては、50%以上、深夜休日労働に対しては、60%以上の割増賃金率になります。

 

残業時間

残業時間の計算においては、法定内残業と法定外残業を区別しなければなりません。

法定内残業とは、所定労働時間を超えて法定労働時間の範囲内の残業をいい、法定外残業とは、法定労働時間を超えた残業をいいます。

時間外労働に対する割増賃金率が適用されるのは、法定外残業ですので、両者をしっかりと区別することが大切です。

 

残業代計算の具体例

建設業で働くある男性の残業代計算

  • 月給……30万円
  • 1年間の所定休日日数……125日
  • 1日の所定労働時間……8時間
  • ある月の残業時間……50時間(深夜、休日労働を含まない)

上記の労働条件で働くBさんの残業代は、以下のように計算します。

1時間あたりの基礎賃金=30万円÷{(365日-125日)×8時間÷12か月}=1875円

残業代=1875円×125%×50時間=11万7188円

すなわち、Bさんの月50時間分の残業代は、11万7188円ということになります。残業代請求の時効は3年ですので、過去3年分遡って請求する場合には、

11万7188円×36か月=421万8768円

を請求することができます。

なお、残業代計算方法の詳細は、以下の記事もご参照ください。

【残業代を計算したい人へ】60時間超・深夜手当・休日手当までわかる

 

建設業における残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください

建設業における残業代請求はグラディアトル法律事務所へ

建設業で働く方が残業代請求をするためには、まずは残業に関する証拠を集めなければなりません。しかし、現場作業の多い建設業では、一般的な会社員のようなタイムカードによる勤怠管理がされていないことが多く、残業時間の立証が困難なケースも少なくありません。

残業時間を立証できなければ、会社に対して残業代請求を行うのは困難ですので、まずはグラディアトル法律事務所までご相談ください。当事務所では、残業代に関するトラブルを解決に導いた豊富な実績と経験がありますので、残業時間の立証が困難な建設業であっても、さまざまな証拠に基づいて残業時間を立証することが可能です。

残業代請求に関する相談は、初回無料で対応していますので、お気軽にご相談ください。

 

まとめ

建設業は、他の業種に比べて残業の多い業種と言われています。また、勤怠管理も適切に行われていないケースも多いため、未払い残業代があったとしても、その立証が難しいケースも少なくありません。

建設業で働く人が会社に対して、未払い残業代を請求するためには、専門家である弁護士のサポートが必要になりますので、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。



弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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