残業代請求を強制執行で実現する方法と手続きの流れ・注意点を解説

残業代請求を強制執行で実現する方法と手続きの流れと注意点を解説
弁護士 若林翔
2024年07月04日更新

「残業代請求の裁判で勝ったのに、会社が残業代を支払ってくれない」

「強制執行で未払い残業代を回収するにはどのような手続きが必要になるの?」

「残業代請求の強制執行では、どのような財産を差し押さえればよいの?」

裁判に勝っても会社が任意に未払い残業代の支払い応じてくれないことがあります。そのような場合には、最終的に強制執行の申立てを行い、会社の財産から強制的に未払い残業代の回収を行うことになります。

強制執行は、非常に強力な手段ですが、強制執行を成功させるためには、いくつかのポイントを押さえて行動する必要があります。

また、強制執行の確率を高めるためには、残業代請求に強い弁護士に依頼するのも大事なポイントです。

本記事では、

・残業代請求における強制執行とは

・残業代請求の強制執行の種類と流れ

・残業代請求の強制執行を成功させるためのポイント

などについてわかりやすく解説します。

未払い残業代の請求には、弁護士のサポートが必要になりますので、交渉段階から弁護士に依頼しておくのがおすすめです。

残業代請求における強制執行とは?

残業代請求における強制執行とは?

会社が残業代を支払ってくれないときは、裁判所に訴訟を提起して争っていくことになります。裁判により労働者側の請求が認められれば、会社に対して未払い残業代の支払いを命じる判決が言い渡されますが、会社によっては判決が確定しても任意に残業代の支払いに応じてくれないケースがあります。

そのような場合には会社の財産を差し押さえて、そこから強制的に未払い残業代を回収することができます。これが残業代請求の強制執行です。

残業代請求で強制執行をすべき3つの状況

残業代請求で強制執行をすべき3つの状況

残業代請求で強制執行をすべき状況としては、以下の3つの状況が考えられます。

会社が任意に残業代の支払いに応じない場合

残業代請求で強制執行をすべき代表的な状況としては、会社が任意に残業代の支払いに応じてくれない場合です。裁判で支払いを命じられたにもかかわらず、任意に支払いに応じてくれない場合、労働者から催促しても支払いに応じてくれる可能性は低いでしょう。

そのような場合には、任意の支払いを期待するのではなく、強制執行を申し立てて、強制的に未払い残業代を回収すべきでしょう。

債務名義を取得した場合

債務名義とは、私法上の請求権の存在と範囲を公的に証明した文書をいます。どのようなものが債務名義になるのかは後述しますが、簡単に言えば、強制執行の手続きを利用する際に必要な書類の一つです。

債務名義を取得すれば強制執行が可能になりますので、ずるずると会社との交渉を続けるのではなく、強制執行の手続きに切り替えた方が早期解決が期待できるでしょう。強制執行の申立てをすれば、会社も焦って支払いに応じてくれる可能性もあります。

差し押さえるべき財産が明らかである場合

強制執行の申立てをする際には、債権者(労働者)の側で、債務者(会社)の財産を特定して申立てをしなければなりません。

差し押さえるべき会社の財産がすでに明らかであるという場合には、強制執行の手続きを利用するにあたって支障はありませんので、強制執行の手続きを進めていくべきでしょう。

残業代請求の強制執行に必要になる債務名義とは

残業代請求の強制執行に必要になる債務名義とは

残業代請求の強制執行に必要になる債務名義には、以下のものがあります。

確定判決、仮執行宣言付判決

確定判決とは、控訴や上告といった通常の不服申し立ての方法により争うことができなくなった判決をいいます。裁判所から判決が言い渡されると、判決を受け取った日の翌日から2週間以内であれば控訴または上告という不服申し立てができます。これらの不服申し立てをすることなく期限が経過すると判決は確定します。

仮執行宣言付判決とは、判決が確定する前であっても暫定的に執行可能な判決をいいます。判決の主文で「この判決は、仮に執行することができる」と記載されていれば、仮執行宣言付き判決になります。

和解調書

裁判では判決ではなく途中で話し合いによる和解で解決することもあります。裁判上の和解が成立すると、合意した内容は「和解調書」にまとめられ、確定判決と同一の効力を有することになります。

調停調書

会社が残業代を支払わないときは、労働審判の申立てをすることができます。労働審判では、まずは労働者と会社との話し合いによる調停手続きにより解決が試みられます。調停手続きでお互いの合意がまとまった場合には、調停成立となり、「調停調書」が作成されます。

この調停調書も確定判決と同一の効力を有する書面になります。

審判書

労働審判の手続きで、当事者同士の話し合いで解決できる見込みがない場合には、労働審判という形で結論が言い渡されます。その場合には「審判書」が債務名義になります。

ただし、労働審判に不服のある当事者は、労働審判を受け取った日の翌日から2週間以内に異議申し立てをすることができます。異議申し立てがあると労働審判の効力は失われますので、「審判書」に基づいて強制執行をすることはできません

執行認諾文言付き公正証書

債務者が直ちに強制執行に服する旨の文言が記載された公正証書は、「執行認諾文言付公正証書」として債務名義になります。

会社との交渉で残業代の支払いの合意に至ったときは、執行認諾文言付公正証書を作成しておくと安心です。

残業代請求の強制執行で差し押さえの対象となる財産

残業代請求の強制執行で差し押さえの対象となる財産

強制執行の手続きでは、債務者の財産を差し押さえて、そこから強制的に債権の回収を実現することになります。残業代請求の強制執行で差押えの対象になる会社の財産としては、以下ものが挙げられます。

現金

会社の保有する現金は、差し押さえ財産に含まれます。

個人の債務者だと66万円までの現金については差し押さえ禁止財産として、差し押さえることができませんが、債務者が法人の場合にはそのような制限はありません。そのため、会社の金庫やレジに入っている現金を差し押さえることで未払い残業代の回収を行うことができます。

預金債権

会社が銀行などの金融機関に預けている預金債権は、差し押さえ財産に含まれます。

ほぼすべての企業が銀行と取引がありますので、金融機関名と支店名さえわかれば預金債権の差し押さえを行うことができます。

売掛金債権

会社が取引先に対して売掛金債権を有する場合、それを差し押さえることで未払い残業代の回収を実現することができます。預金債権と同様に、売掛金債権は第三債務者(銀行、取引先)から直接金銭の取り立てができますので、換価手続きが不要というメリットもあります。

不動産

会社が不動産を所有している場合、不動産を差し押さえて、競売することで、その売却代金から未払い残業代を回収することができます。

ただし、会社の所有する不動産には、抵当権などの担保権が設定されていることが多いため、不動産を差し押さえたとしても、未払い残業代全額を回収するのは困難です。

機械類

会社に機械、什器、備品などがある場合には、動産執行の手続きにより機械類を差し押さえて、換価することで、その売却代金から未払い残業代を回収することができます。

ただし、機械類などの動産は、ほとんど値が付きませんので、高額で売却できる機械などがある場合を除いてあまり実効性はありません。

自動車

会社が社用車などを所有している場合には、自動車執行の手続きにより自動車を差し押さえて、競売することで、その売却代金から未払い残業代を回収することができます。

ただし、裁判所の自動車の査定は非常に低いため、新車または新車と同等の自動車でなければ費用倒れに終わる可能性もあります。

特許権、商標権、著作権

会社が特許権、商標権、著作権などの知的財産権を有する場合には、債権執行の手続きにより知的財産権を差し押さえて換価(譲渡命令・売却命令)することで、未払い残業代を回収することができます。

残業代請求の強制執行の種類と流れ

残業代請求の強制執行の種類と流れ

強制執行の手続きは、差押えの対象財産に応じて以下のような3つの手続きに分かれています。

債権執行の流れ

預貯金や売掛金などの債権を差し押さえるときは「債権執行」という手続きを利用します。債権執行は、以下のような流れで行います。

・債権差押命令の申立て

・債権差押命令の送達

・取り立て

動産執行の流れ

会社の所有する動産を差し押さえるときは「動産執行」という手続きを利用します。動産執行は、以下のような流れで行います。

・動産執行の申立て

・動産の差し押さえ

・差押動産の換価(売却)

不動産執行の流れ

会社が所有する不動産を差し押さえるときは「不動産執行」という手続きを利用します。不動産執行は、以下のような流れで行います。

・不動産強制競売の申立て

・開始決定・差押

・売却の準備

・売却の実施

・配当

なお、債権執行、動産執行、不動産執行の詳しい流れについては、以下の記事をご参照ください。

「債権回収には差し押さえが有効!差し押さえの対象財産や流れを解説」

残業代請求の強制執行を成功させるためのポイント

残業代請求の強制執行を成功させるためのポイント

残業代請求の強制執行を成功させるためにも、以下のポイントを押さえておきましょう。

会社側の財産を特定する必要がある

強制執行の手続きを利用するためには、債権者の側で債務者の財産を特定して申立てをしなければなりません。強制執行の申立てをすれば、裁判所が職権で債務者の財産を調査してくれるわけではありませんので注意が必要です。

もっとも、個人の債務者とは異なり、会社が債務者になるケースでは、取引のある金融機関や取引先などの把握も容易ですので、会社側の財産の特定にはそれほど苦労しないといえます。

仮差押えによる保全処分を検討する

仮差押えとは、債務者の財産を仮に差押えることで、債務者による自由な処分を禁止することができる手続きです。

強制執行をするためには、債務名義を取得する必要がありますが、裁判になれば判決確定まで1年以上の期間を要することも珍しくありません。債務名義を取得して差し押さえをしようとする段階で、会社の財産がすでに処分されてしまうと、差押えの対象財産がなく強制執行が困難になる可能性があります。

そのため、このような事態を回避するためにも訴訟提起前に仮差押えの申立てを行い、会社の財産を保全しておくことも検討しなければなりません。

なお、仮差押えの流れや注意点の詳細については、以下の記事をご参照ください。

「債権回収には仮差押えが有効!仮差押えの流れや注意点を解説」

会社が倒産すると全額の回収は困難

未払い残業代を強制執行により回収しようとしても、その時点で会社が倒産してしまうと、回収はほぼ困難となります。そのため、未払い残業代請求をする場合には、早めに弁護士に相談して、迅速に手続きを進めていく必要があります。不慣れな労働者が対応するよりも、専門家である弁護士に任せた方が、解決までの期間を大幅に短縮できるでしょう。

なお、会社が倒産してしまったとしても、未払賃金立替払制度を利用することで、未払い賃金の総額の80%の支払いを受けることが可能です。

残業代請求の強制執行を弁護士に依頼するメリット

残業代請求の強制執行を弁護士に依頼するメリット

残業代請求の強制執行をお考えの方は、以下のようなメリットがありますので、弁護士に依頼するのがおすすめです。

債務名義の取得に必要な手続きを任せられる

強制執行をするためには、まずは債務名義を取得する必要があります。

残業代請求の事案では、労働審判や訴訟により債務名義を取得することができますが、このような法的手続きを労働者個人で進めるのは非常に困難といえます。法的手続きで債務名義を取得するには、専門家である弁護士のサポートが必要になりますので、弁護士への依頼を検討するようにしましょう。

<グラディアトル法律事務所の場合>

グラディアトル法律事務所では、残業代請求に関する豊富な実績と経験がありますので、労働審判や訴訟といった法的手続きが必要な事案でも迅速かつ適切に対応することができます。残業代請求のトラブルは、残業代問題に強い弁護士に依頼することがポイントとなりますので、まずは当事務所までご相談ください。

会社の財産を特定し、強制執行を可能にできる

残業代請求の強制執行を行うためには、債務名義を取得するだけなく、会社の財産を特定する必要もあります。労働者個人で会社の財産を特定できないという場合でも、弁護士が調査することで会社の財産を特定することが可能です。

<グラディアトル法律事務所の場合>

グラディアトル法律事務所では、債権回収についても豊富な経験がありますので、以下のような手段を駆使して、会社の財産を特定することができます。

・債務名義取得後の金融機関への全店照会

・財産開示手続

・第三者からの情報開示手続

会社の財産がわからないからといって、すぐに諦めてしまうのではなく、まずは当事務所までご相談ください。

まとめ

会社が任意に残業代を支払ってくれない場合でも、最終的に強制執行の手続きにより未払い残業代の回収を実現することができます。しかし、強制執行の手続きを利用するには、債務名義を取得するための労働審判や裁判の手続きが必要であったり、会社の財産を特定しなければならないなど非常に複雑な手続きが必要です。

そのためには、専門的な知識と経験が不可欠となりますので、まずは実績豊富なグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。

 

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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