歩合給でも残業代を請求できる!計算方法や残業代請求の流れを解説

歩合給でも残業代を請求できる!計算方法や残業代請求の流れを解説
弁護士 若林翔
2024年06月14日更新

「歩合給制でも残業代はもらえるのだろうか?」

「歩合給制だと残業代の計算が複雑でよくわからない」

「会社からフルコミッションへの移行をすすめられたが、問題ないのだろうか?」

歩合給制は、売上や成績などに応じて給与が変動する賃金制度ですので、主に成果主義型の働き方が見合う業種や職種において採用されています。

歩合給制だと成果を出せば出すほど給与が上がりますので、より多くの成果を出すために遅くまで残業して働いているという方もいるでしょう。

歩合給制であっても労働者である以上、労働基準法が適用されますので、残業をすれば残業代を請求することが可能です。

会社によっては、歩合給制を理由として残業代を支払わないところもありますので、正しい知識を身につけておくことが大切です。

・2種類ある歩合給制度の概要

・歩合給での残業代の計算方法

・歩合給制で働く労働者の残業代制請求の方法

などについてわかりやすく解説します。

歩合給の残業代計算は、非常に複雑になりますので、まずは弁護士に相談してみるとよいでしょう。

歩合給には2種類の制度がある

歩合給には、「固定給+歩合給(インセンティブ)」と「完全歩合給(フルコミッション)」という2種類の制度があります。以下では、それぞれの歩合給制の概要について説明します。

歩合給には2種類の制度がある

固定給+歩合給・インセンティブ

固定給に加えて成果に応じた歩合給が支払われる賃金制度のことを、一般にインセンティブ制といいます。

インセンティブ制では、固定給部分があるため、生活は安定しますが業績がよくても見返りは少なくなりますので、後述するフルコミッション制に比べて支給額が少なくなる可能性もあります。

完全歩合給・フルコミッション

固定給が一切なく歩合給のみが支払われる賃金制度のことを完全歩合給またはフルコミッション制といいます。

フルコミッション制では、1日何時間働いたとしてもそれが成果に繋がれなければ賃金は支払われないため、成果が全くでない月だと、給与が0円になることもあります。他方、能力の高い人であればフルコミッション制により高額な収入を得ることもできますので、人によっては魅力的な制度といえるかもしれません。

労働者に対して完全歩合給・フルコミッションを適用するのは違法!

歩合制は、成果主義型の賃金制度ですので、主に以下のような業種で採用されるケースが多いです。

・不動産や保険の営業

・webマーケティングやコンサルタント

・タクシーの運転手

・美容師

ただし、労働者に対して、完全歩合給のフルコミッション制を適用するのは違法です。なぜなら、労働者には労働基準法により出来高払いの保障給がありますので、それが支払われないフルコミッション制は労働基準法違反となるからです。

そのため、歩合給制が適用される労働者は、基本的には固定給部分を含むインセンティブ制ということになります。

フルコミッション制は、業務委託契約で働く自営業者やフリーランスの方が対象となる制度と覚えておくとよいでしょう。

なお、労働者と業務委託の判断基準についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

労働者性とは?労働者と業務委託の判断基準をチェックリストで確認

歩合給でも残業代を請求できる

歩合給制が採用されている場合でも、時間外労働、休日労働、深夜労働などの考え方は、一般的な月給制の労働者の場合と異なるところはありません。

歩合給制でも1日8時間、1週40時間を超えて働いた場合には、時間外労働に対する割増賃金が支払われますし、午後10時から翌午前5時までの深夜帯に働いたときは深夜労働に対する割増賃金が支払われます。また、法定休日に働いた場合には、休日労働に対する割増賃金が支払われます。

そのため、歩合給でも残業代請求は可能です。もし会社から「歩合給だから残業代が支払われない」などと説明されているようでしたら、そのような扱いは違法ですので、会社に対する残業代請求を検討していきましょう。

歩合給での残業代の計算方法

歩合給での残業代の計算方法

歩合給制では、一般的な月給制とは異なる方法で残業代を計算することになります。以下では、歩合給での残業代の計算方法について説明します。

歩合給での残業代の計算方法

歩合給での残業代の計算は、以下の計算式により計算します。

残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間

この計算式自体は、通常の月給制のものと変わりありませんが、歩合給では、固定給部分と歩合給部分を分けて計算しなければなりません。

以下では、上記計算式に含まれる各要素についてみていきましょう。

1時間あたりの基礎賃金

【固定給部分】

固定給部分の1時間あたりの基礎賃金は、以下の計算式により計算します。

1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月の平均所定労働時間

1か月の平均所定労働時間=(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月

なお、上記の月給には以下の手当は含まれませんので注意が必要です。
残業代計算の際に除外しなければいけない項目

【歩合給部分】

歩合給部分の1時間あたりの基礎賃金は、以下の計算式により計算します。

1時間あたりの基礎賃金=歩合給の額÷総労働時間

割増賃金率

「割増賃金率」は、残業時間に応じて、以下のように定められています。

残業時間に対する割増賃金率

固定給部分には、時間外労働分の時間単価が含まれていませんので、時間単価に相当する部分も支払う必要があります。そのため、1時間あたりの賃金の125%が時間外労働の時間単価となります。

他方、歩合給部分には、時間外労働の時間単価に相当する部分が含まれていますので、1時間あたりの賃金の25%が時間外労働の時間単価となります。

残業時間

残業時間には、法定内残業と法定外残業の2種類があります。

法定内残業とは、所定労働時間を超えて法定労働時間の範囲内の残業をいい、割増賃金率の適用はありません。これに対して、法定外残業は、法定労働時間を超えた残業をいい、割増賃金率が適用されます。

残業時間がどちらに該当するかによって割増賃金率の適用の有無が異なるため、しっかりと区別することが大切です。

歩合給の残業代計算の具体例

固定給が30万円で、歩合給として営業成績の5%を支給するという条件で働く労働者がいたとします。その他の労働条件は以下のとおりとします。

・1年間の所定休日日数……125日

・1日の所定労働時間……8時間

ある月の営業成績が1000万円、総労働時間が200時間、残業時間が40時間だった場合、この労働者の残業代はいくらになるのでしょうか。

【固定給部分の計算】

1時間あたりの基礎賃金=30万円÷{(365日-125日)×8時間÷12か月}=1875円

残業代=1875円×125%×40時間9万3750円

【歩合給部分の計算】

1時間あたりの基礎賃金=(1000万円×5%)÷200時間2500円

残業代=2500円×25%×40時間2万5000円

【固定給部分と歩合給部分の合計】

9万3750円2万5000円=11万8750円

したがって、この労働者の残業代は、11万8750円となります。残業代の時効は3年ですので、過去3年分を遡って請求する場合には、

11万8750円×36か月427万5000円

を請求することができます。

なお、残業代計算方法の詳細は、以下の記事をご参照ください。

【残業代を計算したい人へ】60時間超・深夜手当・休日手当までわかる

歩合給制の労働者が未払い残業代を請求する流れ

歩合給制で働く労働者が会社に対して残業代請求をする場合、以下のような流れ・方法により請求します。

歩合給制の労働者が未払い残業代を請求する流れ

残業に関する証拠収集

歩合給制であっても残業代を請求するなら、残業に関する証拠が必須となります。

残業に関する証拠としては、残業代の未払いを立証するための証拠と残業時間を立証するための証拠の2つがあります。

【残業代の未払いを立証するための証拠】

・雇用契約書

・就業規則

・賃金規程

・給与明細

・賃金台帳

 

【残業時間を立証するための証拠】

・タイムカード

・勤怠管理システムのデータ

・業務日報

・業務上のメール、LINE、チャットなどの履歴

・オフィスの入退室記録

・パソコンのログイン、ログアウト履歴

・残業時間を記載した手書きのメモ

どのような証拠が必要になるかは、事案によって異なりますので、まずは弁護士に相談してみるとよいでしょう。

なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

タイムカードないけど残業代もらえる!あれば役に立つ証拠16選!

内容証明郵便を送付

会社との交渉を始める前に、まずは会社に対して内容証明郵便を送付します。

内容証明郵便とは、いつ・誰が・誰に対して・どのような文書を送付したのかを後日証明することができる郵便です。

内容証明郵便を送付する大きな理由の一つが、時効の進行をストップさせるという点にあります。残業代の請求は、法律上の「催告」にあたりますので、催告時から6か月間は時効の完成を猶予することができます。会社側から時効により残業代が消滅したと主張されたとしても、内容証明郵便を利用して反論することが可能ですので、必ず内容証明郵便により残業代請求を行うようにしましょう。

なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事をご参照ください。

残業代の時効は3年!時効を阻止する方法と残業代請求の流れを解説

会社との交渉

会社との交渉では、未払い残業代の金額、支払時期、支払い方法などについて話し合いを進めていきます。お互いが合意に至れば、交渉成立となりますので、その際には合意書を作成して合意内容を残しておくようにしましょう。

労働審判の申立て

会社との交渉が決裂したときは、労働審判の申立てを行います。

労働審判は、原則3回以内の期日で終了することになっていますので迅速な解決が期待できます。また、労働審判の手続きでは、当事者同士の話し合いによる調停での解決が試みられますので、事案に即した柔軟な解決も期待できます。

調停による解決ができないときは、労働審判という形で裁判所が判断を行いますが、審判の内容に不服があるときは、異議申立てをすることができます。異議申立てがあると労働審判は、効力を失い、訴訟に移行することになります。

訴訟の提起

交渉の決裂または労働審判に対する異議申し立てがあった場合は、最終的に訴訟により解決を図ります。

訴訟手続きは、非常に専門的かつ複雑な手続きになりますので、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくようにしましょう。

歩合給の残業代請求が認められた判例

歩合給の残業代請求が認められた判例

以下では、歩合給の残業代請求が認められた判例を紹介します。

最高裁令和2年3月30日判決(国際自動車事件第二次最高裁判決)

【事案の概要】

Xは、タクシーによる一般旅客自動車運送事業などを営むY社に雇用され、タクシー乗務員として勤務していました。Y社では、賃金規則上の定めに従い、歩合給の計算をするにあたって売上高の一定割合に相当する金額から残業手当に相当する金額を控除する扱いをしていましたが、Xは、このような扱いが無効であると主張して、未払い残業代の支払いを求めた事案です。

【裁判所の判断】

裁判所は、過去の判例を踏襲して、以下のような判断基準を示しました。

  • 労働契約上の賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と法定割増賃金に当たる部分とを判別できることが必要である
  • 特定の手当を法定割増賃金として支払っているという場合に、上記の判別ができるというためには、時間外労働の対価の趣旨で支払われていることが必要である
  • 対価性の有無の判断は、契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮するほか、労基法37条の趣旨を踏まえ、賃金体系全体における当該手当の位置付けにも留意して検討しなければならない
  • そして、以下のような理由から本件では、労基法37条の定める割増賃金の支払いがなされたとはいえないと判断しました。
  • 本件割増金を労基法37条の割増賃金とすると、割増賃金を経費として全額をタクシー乗務員に負担させるに等しく労基法37条の趣旨に反する。また状況によっては、出来高払制の賃金部分の全てが割増賃金ということになり、労基法37条所定の割増賃金の本質から逸脱している
  • 本件割増金には通常の労働時間の賃金である歩合給として支払われるべき部分を相当程度含んでいる
  • 本件割増金のうち、どの部分が時間外労働に対する対価であるかが明らかでないため、通常の労働時間の賃金に当たる部分との判別ができない

最高裁令和5年3月10日判決

【事案の概要】

Xは、運送会社Y社に雇用され、トラック運転手として勤務していました。

Y社ではもともと日々の業務内容等に応じて月ごとの賃金総額が決められ、その賃金総額から基本給と基本歩合給を差し引いた金額が時間外手当となるという給与体系になっていました(旧給与体系)。

しかし、労基署からの指導を受けたことをきっかけに、給与体系を以下のように変更することになりました(新給与体系)。

支払われる給与は、①基本給、②基本歩合給、③勤続手当、④残業手当、深夜割増手当、休日割増手当、⑤調整手当の5つ。なお、便宜上、各項目を以下のように呼ぶこととします。

  • ①+②+③:「基本給等」
  • ④:「本件残業代」
  • ④+⑤:「本件割増賃金」

しかし、Xに支払われる月ごとの賃金総額は、新給与体系に変更後も日々の業務内容に応じて決められていたため、新給与体系の下でも、Xの総労働時間や実際に支払われた賃金総額は、旧給与体系のときとほとんど変わりませんでした。

Xは、新給与体系では労基法37条の割増賃金が支払われたとはいえないと主張し、未払い残業代の支払いを求めて訴えを提起しました。

【裁判所の判断】

裁判所は、以下のような理由から、本件ではY社による残業代の支払いでは労基法37条の割増賃金の支払いがなされたとはいえないと判断しました。

・新給与体系は、その実質において、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される賃金総額を超えて労働基準法37条の割増賃金が生じないようにすべく、旧給与体系の下においては通常の労働時間の賃金に当たる基本歩合給として支払われていた賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であるというべきである。そうすると、本件割増賃金は、その一部に時間外労働等に対する対価として支払われているものを含むとしても、通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分をも相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。

・本件割増賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかが明確になっているといった事情もうかがわれない以上、本件割増賃金につき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないことになるから、Y社のXに対する本件割増賃金の支払により、同条の割増賃金が支払われたものということはできない。

歩合給で残業代が払われていないときはグラディアトル法律事務所に相談を

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歩合給制を理由として残業代が支払われていない場合には、グラディアトル法律事務所までご相談ください。

複雑な残業代計算を任せることができる

歩合給制での残業代計算は、固定給部分と歩合給部分とを分けて計算しなければならないなど、通常の残業代計算よりも複雑な手順が必要になります。正確な知識や経験がなければ、正しく残業代を計算することはできませんので、個人で対応するのではなく専門家である弁護士に任せるのが安心です。

グラディアトル法律事務所では、残業代請求にする豊富な知識と経験を有する弁護士およびスタッフが多数在籍していますので、複雑な計算が必要になる歩合給制の残業代計算も迅速かつ正確に行うことが可能です。

会社との対応を任せることができる

労働者個人で未払い残業代の請求をしても、会社側はまともに取り合ってくれないことがあります。また、労働者側にとって不利な条件での和解を迫ってくることもあります。

そのため、会社との交渉を適切に進めていくためには、残業代請求に関する知識と経験を有する弁護士のサポートが不可欠です。

弁護士であれば、証拠に基づいて未払い残業代が発生していることを説明し、支払いに応じるよう求めることができますので、弁護士から理路整然と説得されれば会社側も真摯に対応せざるを得なくなります。グラディアトル法律事務所の弁護士は、会社側からの反論や手口を熟知していますので、適切に交渉を進めることが可能です。

まとめ

歩合給制の賃金体系であっても残業代を請求できますが、会社からは「歩合給だから残業代はでない」などと説明されることがあります。このような違法な扱いをされている場合には、労働者個人で残業代請求を実現するのは困難ですので、まずは弁護士に相談するようにしましょう。

歩合給制で働いていて会社に対して残業代請求お考えの方は、グラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。



弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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