「アパレル業界で働いているけれども、繁忙期になると残業が多い」
「アパレル販売員は営業時間外の業務も多く、定時に帰れない」
「会社からきちんと残業代が払われているのだろうか?」
アパレル業界では、特定の時期に仕事量が増え、忙しくなることがあります。具体的には、新商品の販売時期、セールの開催時期、季節の変わり目で商品の入れ替えが行われる時期などが繁忙期として挙げられます。このような繁忙期は、残業が多くなりがちですので、適切な残業代が支払われているかどうかを、きちんとチェックする必要があります。
本記事では、
- アパレル業界における残業の実態
- アパレル業界で残業が発生する5つのケース
- アパレル業界で未払い残業代が発生する可能性のある3つのケース
などについてわかりやすく解説します。
アパレル業界特有の残業の問題もありますので、本記事を参考に正確な知識を身につけておきましょう。
目次
アパレル業界は残業が少ない!アパレル業界における残業の実態
アパレル業界の残業に関して、みなさんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。
大手転職サイト「リクルートエージェント」による業界別平均残業ランキングによると、残業の少ない業界の上位は、以下のようになっています。
アパレル業界の月の平均残業時間は7.5時間と最も残業時間の短い業界に位置しています。この統計結果だけをみれば、アパレル業界は残業時間の短い業界だといえるでしょう。
しかし、アパレル業界は、閑散期と繁忙期の差が激しく、閑散期であれば残業なしで帰れたとしても、繁忙期になると長時間の残業を強いられることも珍しくありません。そのため、アパレル業界で働く人も、時期によっては未払い残業代が発生している可能性がありますので、しっかりと対応する必要があります。
アパレル業界で残業が発生する5つのケース
アパレル業界で残業が発生するケースとしては、以下の5つのケースが考えられます。
接客が長引く
アパレル販売員は、顧客との接客が主な業務内容となります。顧客に対する商品説明、コーディネートの提案などを行いますので、顧客一人に対応する時間が長くなることもあります。
特に、閉店時間ギリギリに来店した顧客がいる場合には、営業時間が過ぎてしまっても対応せざるを得ませんので、残業が必要になります。
シーズンごとのディスプレイの変更や商品の入替え
アパレル業界は、季節ごとに商品の大幅な入れ替えが必要になります。ディスプレイの変更や新商品の配置、旧商品の移動など大量の作業を行わなければならず、通常の業務時間内に終えるのは困難です。
残業が少ないアパレル業界でもこのような時期には、残業をして対応しなければなりません。
セールの準備や対応
アパレル業界では、年に数回程度、商品の値下げを行うセールを実施することが多いです。顧客もセール時期を狙って安く商品を購入しようと考えていますので、セール期間中は、普段よりも来客数が増え、対応しなければならない業務が増えます。
また、セールの実施にあたっては、POPの入れ替え、値札の変更、レイアウトの変更などの業務が必要になります。これらの業務を通常の営業時間内に行うことは難しいため、営業終了後に残業をして対応しなければなりません。
棚卸作業
アパレル業界では、売れ筋商品のチェックや正確な在庫数の把握のために、季節ごとや四半期ごとに棚卸を行うことがあります。商品数の多い店舗では、棚卸作業だけでも膨大な時間を要するため、通常の業務時間内に終わらなければ、残業をして対応しなければなりません。
品出しや商品整理
アパレル販売員は、営業時間中は接客業務が中心となりますが、営業時間後は品出しや商品整理の対応が必要になります。当日に販売して売れてしまった商品の補充をしたり、乱れた商品をたたみなおしたりしなければなりませんので、十分な人員が確保できなければ、一人あたりの負担が増え、残業となることもあります。
アパレル業界で未払い残業代が発生する可能性のある3つのケース
残業をすれば残業時間に応じた残業代を請求することができるのは、労働者として当然の権利です。しかし、アパレル業界では、アパレル業界特有の残業時間に関する問題があります。特に以下のようなケースに該当する方は、未払い残業代が発生している可能性がありますので注意が必要です。
開店準備や閉店後の片づけが労働時間に含まれていないケース
アパレル業界では、営業時間中の接客業務以外にも開店前の店舗内の清掃、商品の整理や閉店後の片づけ、レジ締めなどの業務も発生します。
これらの業務に対応する時間も当然労働時間に含まれますが、会社によっては、開店前および閉店後の作業時間を労働時間に含めていないケースもあります。営業時間は接客業務が中心で、他の業務に手が回らないような場合には、営業時間終了後に雑務を処理しなければなりませんので、長時間のサービス残業を余儀なくされている方も少なくありません。
会社から「開店準備や閉店後の片づけには残業代は出ない」と言われていたとしても、そのような扱いは違法ですので、残業代を請求することができます。
閉店後のミーティングが労働時間に含まれていないケース
アパレル業界では、閉店後にスタッフミーティングを実施して、その日の売上げや商品の売れ行き、接客での反省点などを話し合うことがあります。
従業員同士で任意の開催されるミーティングであれば、残業代の支払いが必要な労働時間には含まれませんが、以下のようなケースでは、ミーティングの時間も含めて残業代を請求することができます。
- ミーティングへの参加を強制されている
- ミーティングに参加しなければ嫌がらせを受ける
- ミーティングに参加しないと勤務評定で不利益を受ける
- ミーティングへの参加を前提としてシフトが組まれている
自宅で新商品の情報整理を命じられているケース
アパレル業界では、常に最新のトレンドを追い求める必要があり、商品の入れ替えも頻繁に行われます。そのため、アパレル業界で働く人は、最新のファッショントレンドや商品情報を頭に入れておく必要があります。
ファッション雑誌を購入して自主的に勉強をすることは、アパレル販売員として必要なことかもしれませんが、あくまでも自主的に行われている限りは、残業代の支払い対象となる労働時間にはあたりません。
しかし、会社から新商品の情報整理を命じられ、自宅で情報整理の作業を行っているような場合には、使用者による指揮命令下に置かれた時間と評価できますので、その時間を含めて残業代を請求することができます。
アパレルの店長にも残業代が出る可能性あり!
アパレルの店長は、会社から管理職であることを理由に残業代が支払われていないケースが多いです。しかし、アパレルの店長にも残業代が支払われる可能性がありますので、しっかりと押さえておきましょう。
アパレルの店長は「管理監督者」にあたる?
労働基準法では、経営者と一体的な立場にある労働者のことを「管理監督者」と定め、労働基準法上の労働時間、休日、休憩に関する規定の適用がありません。そのため、アパレルの店長が管理監督者に該当する場合には、残業代の支払いが不要となります。
しかし、「店長=管理職」という認識で残業代を支払っていない会社が多いですが、管理職だからといって直ちに労働基準法上の管理監督者に該当するわけではありません。管理監督者に該当するかどうかは、肩書ではなく実態に即して判断しなければなりません。
実務上、アパレル業界における雇われ店長の多くは、労働基準法上の管理監督者に該当しませんので、これまでの未払い残業代を請求できる可能性があります。
管理監督者に該当するかどうかの判断要素
労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは、以下の要素を踏まえて判断します。
【経営者と一体的立場にあるといえるだけの職務内容・責任を有している】
管理監督者といえるためには、経営者と一体的な立場にあり、労働時間などの規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容、責任・権限を有している必要があります。
店長という肩書が与えられていたとしても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、上司の決裁を仰がなければ判断ができないような立場では、管理監督者とはいえません。管理監督者といえるためには、採用、解雇、人事考課、労働時間の管理などの権限を有している必要があるでしょう。
【労働時間を自らの裁量で管理している】
アパレルの店長が一般の労働者と同様に厳格に労働時間を管理されており、遅刻・欠勤などの際に賃金が控除されているような場合には、管理監督者とはいえません。
管理監督者といえるためには、労働時間を自らの裁量で管理していなければなりません。
【管理監督者としての地位に相応しい待遇を受けている】
管理監督者といえるためには、給与、賞与そその他の待遇において優遇されていなければなりません。
一般の従業員の賃金と比べて、管理監督者の賃金の方が低くなるような場合には、管理監督者性が否定される方向に働く事情となります。
なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事もご参照ください。
アパレル業界で働く人が未払い残業代を請求する流れ
アパレル業界で働く人が会社に対して残業代請求をする場合には、以下のような流れで請求していきます。
残業に関する証拠収集
残業代を請求するにあたって重要になるのが、残業時間に関する証拠を集めることです。
証拠がない状態で会社に残業代を請求したとしても、基本的には応じてくれません。また、裁判を起こしたとしても、証拠がなければ残業代の支払いを命じてもらうことはできません。
そのため、残業代を請求しようと思ったら、まずは残業時間に関する証拠を集めるようにしましょう。一般的は、タイムカードや勤怠管理データなどが残業時間を立証する証拠となりますが、アパレル業界では、以下のようなものも残業時間の証拠として利用することができます。
- レジの記録
- 店舗の監視カメラ映像
- 警備会社のセキュリティ記録
- パソコンのログイン、ログアウト履歴
残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
未払い残業代の計算
残業時間に関する証拠が集まったら、次は未払い残業代の計算を行います。
残業代をすると割増賃金が支払われ、残業時間に応じて、以下のような割増賃金率が定められています。
- 時間外労働……25%以上
- 深夜労働(午後10時から翌午前5時まで)……25%以上
- 休日労働……35%以上
- 月60時間を超える時間外労働……50%以上
残業代計算にあたっては、残業時間ごとに割増賃金率を適用しなければならないなど複雑な計算となりますので、正確に残業代を計算するためにも、残業代計算は専門家である弁護士に任せるのが安心です。
なお、残業代計算方法の詳細は、以下の記事もご参照ください。
内容証明郵便の送付
会社への残業代請求は、まずは内容証明郵便を送付する方法で行います。
内容証明郵便は、いつ・誰が・誰に対して・どのような内容の文書を送付したかを証明できる形式の郵便です。内容証明郵便自体には、未払い残業代の支払いを強制する効力はありませんが、労働者側の本気度を伝えることができますので、任意の交渉による解決が期待できます。
また、残業代請求権には時効がありますので、内容証明郵便を送ることで時効の完成を一時的に猶予することができるという効果もあります。
なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事もご参照ください。
会社との交渉
内容証明郵便が会社に届いた後は、会社との交渉により、未払い残業代の支払いを求めていきます。その際には、未払い残業代計算の根拠となる証拠を提示することで、スムーズに交渉を進められる可能性があります。
会社との交渉で合意に至った場合には、口頭での合意だけで終わらせるのではなく、必ず合意書を作成するようにしましょう。これにより後日合意内容をめぐるトラブルが生じるのを回避することができます。
労働審判・裁判
会社との話し合いで解決できない場合には、裁判所に労働審判の申立てや訴訟提起などの対応が必要になります。
このような裁判所を利用した法的手続きになると、一般の方では対応が難しいため、専門家である弁護士に依頼して手続きを進めてもらうのがおすすめです。
アパレル業界の残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください
アパレル業界は、統計上の数字だけ見れば残業の少ない業界といえます。しかし、実際には、閑散期と繁忙期の差が激しく、繁忙期には長時間の残業を強いられることも少なくありません。また、アパレル業界特有の残業時間に関する問題もありますので、未払い残業代の有無を判断するには、専門家である弁護士への相談が不可欠といえます。
グラディアトル法律事務所では、アパレル業界をはじめとしてさまざまな業界における残業代の問題を解決してきた実績があります。アパレル業界特有の問題についても適切に対応することができますので、アパレル会社への残業代請求をお考えの方は、まずは当事務所までご相談ください。
まとめ
アパレル業界では、営業時間外の業務など残業代の対象となる時間であるにもかかわらず、適切な残業代が支払われていないケースも少なくありません。アパレル販売員は、自社商品を自費で購入しなければならないなど金銭的な負担も大きいため、未払い残業代がある場合には、しっかりと請求してくことが大切です。
アパレル業界の残業代に関する問題は、労働問題の解決実績豊富なグラディアトル法律事務所にお任せください。