「広告代理店で働いているけど、残業が多い」
「繁忙期になると残業しなければ納期に間に合わない」
「残業をしてもサービス残業扱いで残業代を支払ってもらえない」
広告代理店は、残業が多い業種の一つとして知られています。実際にも大手広告代理店「電通」に勤務する女性社員が100時間を超える残業やパワハラなどを苦にして過労自殺をしたという事件がありました。
この事件では、長時間労働を原因とする過労死であるとして労災認定されるとともに、法人としての電通に対して、労働基準法違反を理由として罰金50万円が科されています。このように広告代理店という業種は、実態としても残業の多い業種だといえます。
このような長時間残業が常態化している職場では、残業代の未払いが発生している可能性がありますので、しっかりと請求していくことが大切です。
本記事では、
・広告代理店に残業が多い5つの理由
・広告代理店への残業代請求の5つのポイント
・広告代理店への残業代請求の方法
などについてわかりやすく解説します。
長時間の残業が続くと疲労やストレスが蓄積し、過労死のリスクが高まります。そのような事態になる前にまずは弁護士に相談することをおすすめします。
目次
広告代理店の残業の実態とは?
大手転職サイト「リクルート」がまとめた業界別の平均残業ランキングによると、残業の多い業種上位5つは、以下のようになっています。
また、企業に関する口コミ情報を提供するウェブサイト「オープンワーク」がまとめた業界別残業時間ランキングによると残業の多い業種上位5つは、以下のようになっています。
このようなデータからも広告代理店は残業の多い業種であることがわかります。
実際にも大手広告代理店に勤める女性社員が長時間残業やパワハラを苦にして過労自殺(過労死)したという事件もありましたので、長時間残業が常態化している業種といえるでしょう。
このような長時間残業が常態化している職場では、残業代の未払いが発生している可能性がありますので、後述する残業代請求のポイントを踏まえてしっかりと請求していくことが大切です。
広告代理店に残業が多い5つの理由
広告代理店に残業が多い理由としては、主に以下の5つの理由が考えられます。
繁忙期の業務量が多い
広告業界では、広告の出稿が急増する以下の時期は繁忙期といわれています。
- 年度末
- 新年度
- 年末年始
- クリスマス
- ボーナス商戦期
このような繁忙期になると業務量が急増するため、残業をして対応しなければ納期までに処理できないケースも多いです。会社によっては月100時間を超える残業になることも珍しくありません。
1人の社員が負担する業務量が多い
広告代理店では、繁忙期以外の時期でも残業が常態化しています。それは、1人の社員が負担する業務量が多いことが要因の1つとして挙げられます。
会社としては、より多くの広告出稿のサポートをすることで利益を上げていますので、1件でも多く契約を取ろうとして活動しています。企業からの契約が増えればそれだけ業務量も増加しますので、1人あたりの業務量も増え、残業をしなければ対応できない状態になってしまいます。
クライアントの要望に左右されやすい
広告代理店の利益は、クライアントからの報酬により成り立っています。そのため、クライアントの要望を最優先に対応しなければなりません。
クライアントによっては、急な修正依頼や納期の変更など無茶な要求をしてくるところもありますが、基本的にはこれらの要望にも柔軟に対応していく必要があります。通常の業務時間内ではすべての要望に応えることができないときは、残業や休日出勤をしてでも対応しなければならず、それに応じて残業時間も増えていきます。
飲み会や接待が多い
広告代理店の営業職は、クライアントとの関係性を深める目的で、頻繁に飲み会や接待を行っています。このような接待などはクライアントとの信頼関係を築くために重要な仕事で、クライアントから誘われると断りづらいこともあり、業務時間外であっても対応しなければならないケースが多いです。
広告業界が体育会系の体質である
広告業界の体質として、「残業は当たり前」という考えが根強く残っているのも残業が多い理由の1つです。体育会系の体質の会社では、「上司が残業をしているのに退社するのはあり得ない」、「上司の命令は絶対」などが理由で、長時間残業が常態化しています。
広告代理店への残業代請求の5つのポイント
長時間残業の多い広告代理店では、残業代が未払いになっている可能性があります。特に、以下の5つは未払い残業代が発生しやすいポイントになりますので、広告代理店で勤務している方は、しっかりと押さえておきましょう。
裁量労働制を理由とする残業代の不払い
裁量労働制とは、実際の労働時間ではなくあらかじめ定めた労働時間を働いたとみなす制度です。1日のみなし労働時間が8時間と設定されている場合、10時間の残業をしたとしても8時間分の賃金しか支払われません。そのため、裁量労働制が適用される労働者に対しては、残業代が支払われないことがあります。
しかし、裁量労働制が適用される業種は限定されていますので、誰に対して適用できる制度ではありません。裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、広告代理店で働く労働者が該当し得る業種としては、以下のものが挙げられます。
- 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
- 広報を担当する部署における業務のうち、効果的な広報手法等について調査及び分析を行い、広報を企画・考案する業務
これらに該当しない場合には、違法な裁量労働制の適用となりますので、会社に対して残業代を請求することができます。
なお、裁量労働制と残業代請求についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
固定残業代制を理由とする残業代の不払い
固定残業代制とは、あらかじめ一定時間の残業をしたものとみなして、固定額の残業代を支払う制度です。たとえば、20時間分の固定残業代が支払われている場合、実際の残業時間が10時間しかなかったとしても、20時間分の固定残業代をもらうことができます。
このような固定残業代制が採用されている会社では、「固定残業代を支払っているから残業代は出ない」と説明されることがあります。
しかし、固定残業代制を採用していたとしても、みなし残業時間を超えた場合には、固定残業代とは別に残業代の支払いをしなければなりません。上記のような理由で残業代が支払われていない場合には、固定残業代制の違法な運用といえますので、会社に対して残業代を請求することができます。
なお、みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
管理職を理由とする残業代の不払い
「部長」や「マネージャー」などの肩書がある方は、会社から「管理職だから残業代は出ない」と説明されることがあります。
しかし、管理職だからといって直ちに残業代が出ないというわけではありません。労働基準法では、経営者と一体的な立場にある人のことを「管理監督者」と定め、管理監督者に該当する労働者に対しては、残業代の支払いを不要としています。管理監督者に該当するかどうかは、労働者に与えられた肩書ではなく、権限や職務内容、待遇などの実態に即して判断する必要がありますので、「管理職=管理監督者」になるわけではありません。
管理監督者としての実態がないにもかかわらず、管理監督者として扱われている場合、「名ばかり管理職」として残業代を請求できる可能性があります。
なお、管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事もご参照ください。
残業の指示がないことを理由とする残業代の不払い
実際に残業をしていたにもかかわらず、会社からは「残業の指示をしていない」ことを理由として残業代が支払われないことがあります。
しかし、明示的な残業の指示がなかったとしても、黙示の残業の指示があったと評価できる場合には、会社に対して残業代を請求することができます。黙示の残業指示があったといえるケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 所定労働時間内では処理することができないような業務内容であった
- 残業をしなければ納期に間に合わないことが客観的に明らかであった
- 残業をしていることを上司も把握していたのに、それを黙認していた
接待時間に対する残業代の不払い
広告代理店の営業職は、業務時間外に接待に参加することが多いです。取引先との親睦を深め、信頼関係を構築するための手段として利用される接待ですが、残業代の支払い対象となるかどうかは、ケースバイケースといえます。
たとえば、接待が任意参加であったり、懇親目的だった場合には、業務との関連性が希薄ですので基本的には労働時間とは認められません。しかし、以下のような場合には、接待に参加した時間について残業代を請求できる可能性があります。
- 会社から接待への参加を強制されている
- 営業目的での接待
- 接待の司会進行役や記録係を命じられるなど接待中に業務を行っている
広告代理店への残業代請求の方法
広告代理店に対して未払い残業代の請求をする場合には、以下のような方法で行います。
残業に関する証拠を集める
広告代理店に対して残業代請求をするなら、まずは残業に関する証拠を集める必要があります。未払い残業代の金額は、労働者の側で立証しなければなりませんので、証拠がなければ裁判になっても残業代の支払いを認めてもらうことはできません。
残業代に関する証拠としては、タイムカードや勤怠管理システムのデータなどが代表的な証拠になりますが、それ以外も以下のようなものが証拠になります。
- 業務日報
- パソコンのログイン、ログアウト履歴
- 業務用のメールやチャットの履歴
- オフィスの入退室記録
- 交通系ICカードの履歴
- タクシーの領収書
- 残業時間を記載したメモ
なお、残業代請求に有効な証拠についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
未払い残業代の計算をする
証拠が集まったら、以下のような計算式に基づいて未払い残業代を計算します。
残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間
1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月の平均所定労働時間
1か月の平均所定労働時間=(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月
上記の月給には以下のような手当は含まれません。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住居手当
- 臨時に支払われた手当
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
また、「割増賃金率」は、残業時間に応じて、以下のように定められています。
残業代の計算は、非常に複雑ですので、正確に計算するためにも専門家である弁護士に任せるのが安心です。
なお、残業代計算方法の詳細は、以下の記事もご参照ください。
内容証明郵便を送付する
内容証明郵便を利用して、未払い残業代の支払いを求める書面を会社に送付します。
内容証明郵便は、いつ・誰が・誰に対して・どのような内容の文書を送ったのかを証明できる郵便です。内容証明郵便には、未払い残業代の支払いを強制する効力はありませんが、残業代請求の事案では、残業代の時効の進行を一時的にストップしたという重要な証拠になります。
会社との交渉が長引くと過去の残業代が時効になってしまう可能性もありますので、交渉を始める前に内容証明郵便を送っておくのが安心です。
なお、残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事もご参照ください。
会社との交渉をする
内容証明郵便が会社に届いたことが確認できたら、会社との交渉を開始します。
会社側が未払い残業代の存在を認めてくれれば、後は未払い残業代の金額などと詰めていけばよいためスムーズに話し合いを進めることができます。しかし、会社側が未払い残業代の存在自体を否定している場合には、話し合いによる解決は難しいといえますので、後述する労働審判や訴訟手続きの利用を検討する必要があります。
労働審判の申立てをする
労働審判とは、労働者と使用者との間の労働問題を実情に即して、迅速かつ実効的に解決できる裁判所の紛争解決手続きです。
原則として3回以内の期日ですべて終了することになっていますので、裁判よりも迅速な解決が期待でき、まずは調停による解決が試みられますので柔軟な解決が可能な手続きとなっています。調停が不成立となれば最終的に労働審判という形で結論が下されますが、それに不服がある場合には、異議申立てをすることで労働審判の効力は失われ、通常訴訟に移行します。
訴訟を提起する
会社との話し合いや労働審判で解決できないときは、裁判所に訴訟を提起する必要があります。訴訟手続きは、非常に複雑かつ専門的な手続きですので、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくことをおすすめします。
広告代理店への残業代請求が認められた当事務所の事例と裁判例
以下では、広告代理店への残業代請求が認められた当事務所の事例と裁判例を紹介します。
広告代理店から請求額の9割の約270万円の支払いを受けた事例
【事案の概要】
依頼者は、広告代理店に勤務する30代の女性です。
勤務先の広告代理店は、終電まで働くことは日常茶飯事で、イベント前後は深夜や休日出勤もありました。なんとか1年間は、歯を食いしばって働いたものの、適応障害となり休職し、その後退職することになりました。
依頼者は、勤務中まったく残業代の支払いを受けていなかったため、残業代が請求できないかと思い、ちょうどLINE相談を受け付けている当事務所を見つけ、お問い合わせいただきました。
【結果】
依頼者の勤務先の会社では、労務管理が杜撰でタイムカードも存在していませんでしたが、業務用のメールを利用して頻繁にやり取りをしていたとのことでしたので、当事務所の弁護士がメールデータに基づき未払い残業代を計算し、会社に対して内容証明郵便を送付しました。
その後、会社との交渉を重ねた結果、請求額の9割で和解したい旨の申し出がありました。依頼者からの早期解決の希望も踏まえて、和解を成立させることとし、請求額の9割である約270万円が支払われました。
当事務所への依頼から2か月でのスピード解決を実現できた事案です。
【弁護士のコメント】
残業代請求にあたっては、証拠が必要になりますが、本事案のようにタイムカードがない会社でもそれ以外の証拠により残業代を立証できる可能性があります。
タイムカードがないからといって諦めるのではなく、まずは当事務所までご相談ください。
広告代理店への残業代請求が認められた裁判例
広告代理店への残業代請求が認められた裁判例としては、以下のものが挙げられます。
【専門業務型裁量労働制の適用を否定した裁判例|東京地裁平成30年10月16日判決】
【事案の概要】
原告は、風俗情報ポータルサイトを開設する被告会社の制作部デザイン課に所属し、ウェブ・バナー広告などの制作業務に従事していました。
被告会社では、同業務に従事する労働者に対し、専門業務型裁量労働制を適用し、みなし労働時間として9時間が定められていました。
原告は、専門業務型裁量労働制が適用される業務ではないと主張し、みなし労働時間を上回る残業代が未払いであるとして、会社に対して未払い残業代などの支払いを求めた事案です。
【裁判所の判断】
専門業務型裁量労働制の適用対象業務であるかは、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段および時間配分の決定などに関し、使用者が具体的な指示をすることが困難かどうかにより判断することを要するとした上で、本件では、以下のような事情が認定されました。
・原告は、被告会社に入社以前にウェブ・デザインに関する専門的知見や職歴がなかった
・営業や編集担当社員から顧客の要望に基づく大まかなイメージなどの指示が出されていた
・納期は新規作成のケースでも5営業日程度で、原告は1日あたり10件程度のウェブ・バナー広告を制作していた
・営業担当社員が顧客から完成許可を得ることで納品完了となる扱いがされていた
これらの事情から、原告の本件業務遂行にあたっての裁量は限定的で、専門業務型裁量労働制を適用する余地はないと判断されました。
その結果、会社に対しては、約143万円の未払い残業代の支払いが命じられています。
【黙示の残業命令があったと認めた裁判例|長崎地裁平成30年12月7日判決】
【事案の概要】
原告は、広告の企画・製作を目的とする被告会社においてデザイナーとして勤務していました。原告は、被告会社から時間外労働に対する残業代が支払われていないとして、未払い残業代などの支払いを求める訴えを提起しました。
被告会社からは、残業は許可制がとられていたのであるから、無許可の残業は残業代の支払い対象外であるとの反論がなれたため、原告の主張する時間が労働時間にあたるかどうかが争点になりました。
【裁判所の判断】
裁判所は、被告会社から許可を得ずに行った残業があっても、以下のような理由で黙示の残業命令があったと認めました。
・当日中に処理すべきものとした仕事は、残業をしてでも処理することが前提だった
・業務上で必要な残業を行うこと自体は認められていた
・残業を断ると作業スケジュールが切迫するため時間外の打ち合わせであっても引き受けざるを得なかった
その結果、未払い残業代として約236万円、付加金としてやく98万円の支払いが命じられました。
広告代理店への残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください
広告代理店は、長時間残業が常態化している業種として知られており、残業代の未払いも多く発生しています。残業代を請求するのは労働者として当然の権利ですが、労働者個人から残業代を請求したとしても、会社側はまともに取り合ってくれない可能性があります。
このような場合には、グラディアトル法律事務所にお任せください。当事務所は、さまざまな業種の未払い残業代の問題を解決してきた実績と経験がありますので、広告代理店の未払い残業代の問題についても適切に解決に導くことができます。
弁護士に依頼することにより、労働者自身で会社との交渉をする必要がなくなり、労働審判や訴訟などの手続きもすべて任せることができるなど大きなメリットがあります。残業代を取り返す可能性を少しでも高めるためにも、残業代問題に詳しい当事務所までまずはお気軽にご相談ください。
まとめ
広告代理店では、繁忙期の業務が多い、クライアントの意向に左右される、業界全体が体育会系の体質であるなどの理由から長時間残業が常態化しています。残業代請求には、3年という時効がありますので、未払い残業代がある場合には、早めに行動することが大切です。
会社に対して未払い残業代の請求をお考えの方は、グラディアトル法律事務所までご相談ください。