「月60時間以上の残業に対する割増率が50%以上に引き上げられるって本当?」
「中小企業で働いているけど、月60時間以上の割増率は適用されるの?」
「残業代の計算が複雑でよくわからない」
2023年4月から中小企業に対しても、月60時間を超える残業に対する50%以上の割増賃金率が適用されます。それまでは、大企業のみが対象でしたが、中小企業にも適用されることになりましたので、長時間の残業をしている労働者の方は、もらえる残業代が増える可能性があります。
時間外労働、深夜労働、休日労働など残業時間に応じて異なる割増賃金率など残業代計算の基本をしっかりと理解しておくことが、未払い残業代の有無を把握するために重要です。
本記事では、
- 中小企業にも適用対象となった月60時間以上の残業の割増賃金率
- 月60時間以上の残業代の計算方法
- 月60時間以上の残業代を請求する際の注意点
などについてわかりやすく解説します。
月60時間以上の残業をしている方は、未払い残業代が発生している可能性もありますので、時効になる前にしっかりと請求していくようにしましょう。
目次
月60時間以上の残業代が中小企業でも50%に改正!
月の残業が60時間を超える場合、残業代の割増賃金率は50%以上となります。
月60時間を超える残業に対する50%以上の割増賃金率は、これまでは大企業のみに適用されており、中小企業は適用が猶予されていました。しかし、2023年4月1日からは、中小企業に対する猶予措置が終了し、中小企業に対しても、月60時間を超える残業に対しては、50%以上の割増賃金率が適用されることになります。
厚生労働省HP「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」より引用
これにより、月60時間以上の残業をしている中小企業の労働者の方は、従来よりも会社からもらえる残業代が増える可能性が高くなりますので、まずは未払い残業代の有無をしっかりと確認することが重要です。
月60時間以上の残業代の計算方法
残業代は、「1時間あたりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間」という計算式により算出します。では、月60時間を超える残業をしていた場合には、どのように残業代を計算することになるのでしょうか。以下では、月60時間を超える残業代の計算方法を説明します
1時間あたりの基礎賃金
1時間あたりの基礎賃金は、以下のような計算式によって算出します。
1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月の平均所定労働時間
会社から支払われる賃金は、「基本給+手当」といった構成が一般的です。残業代計算の基礎となる「月給」には、以下のような手当は含まれません。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住居手当
- 臨時に支払われた手当
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
また、1か月の平均所定労働時間は、以下のような計算式によって算出します。
1か月の平均所定労働時間=(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月
年間休日日数や1日の所定労働時間は、会社によって異なりますので、就業規則や雇用契約書などを確認するようにしましょう。
割増賃金率
長時間労働から労働者の健康を守るために、時間外労働、深夜労働、休日労働を抑制する目的からこれらの労働時間に対しては、通常の賃金に一定の割増率を乗じた金額を支払わなければならないとされています。
具体的な割増賃金率は、以下のようになっています。
これらの割増賃金率は、重複して適用されますので、深夜残業に対しては、「25%以上+25%以上=50%以上」の割増賃金率が、深夜休日労働に対しては、「25%以上+35%以上=60%以上」の割増賃金率が適用されます。
残業時間
残業とは、所定労働時間を超えた労働または法定労働時間を超えた労働をいいます。
所定労働時間を超え法定労働時間の範囲内の残業を「法定内残業」といい、時間外労働に対する割増賃金は適用されません。これに対して、法定労働時間を超えた残業を「法定外残業」といい、時間外労働に対する割増賃金が適用されます。
そのため、残業時間を計算する際には、法定内残業と法定外残業を区別することが重要です。また、法定外残業のなかでも、通常の法定外残業と月60時間を超える法定外残業では、適用される割増賃金率が異なりますので、これらもしっかりと区別しなければなりません。
残業代計算の具体例
- 給与……基本給29万円、営業手当1万円、通勤手当1万円
- 1年間の所定休日日数……125日
- 1日の所定労働時間……8時間
このような条件で働く労働者Aさんがある月に、70時間の残業をしたとします。この場合の残業代は、以下のように計算します。
【ステップ1:月給を計算】
Aさんの月給は、基本給+諸手当で31万円になりますが、通勤手当は残業代計算から除外されますので、30万円が残業代計算の対象となる月給です。
【ステップ2;:1か月の平均所定労働時間を計算】
Aさんの会社では、1年間の所定休日日数が125日、1日の所定労働時間が8時間ですので、1か月の平均所定労働時間は、以下のように計算します。
(365日-125日)×8時間÷12か月=160時間
【ステップ3:1時間あたりの基礎賃金を計算】
ステップ1およびステップ2を踏まえて、1時間あたりの基礎賃金を計算します。
30万円÷160時間=1875円
【ステップ4:具体的な残業代を計算】
Aさんはある月に70時間の残業をしていますので、月60時間までの部分と月60時間を超える部分を分けて、残業代を計算します。
1875円×125%×60時間=14万625円
1875円×150%×10時間=2万8125円
これらを合計すると、Aさんのある月の残業代は、16万8750円になります。残業代請求の時効は3年ですので、一切残業代が支払われていないとすると16万8750円×36か月=607万5000円もの残業代を請求できることになります。
残業代計算方法の詳細は、以下の記事もご参照ください。
月60時間以上の残業と深夜・休日残業の関係性
月60時間以上の残業に加えて、深夜・休日労働もしている場合には、それらの関係性をしっかりと押さえておく必要があります。
厚生労働省HP「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」より引用
月60時間以上+深夜|75%以上の残業代
月60時間を超える時間外労働を行い、かつその時間外労働が深夜の時間帯(午後10時から翌午前5時まで)に行われた場合、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率と深夜労働に対する割増賃金率が重複して適用されます。
すなわち、このケースの割増賃金率は75%以上となります。
月60時間以上の算定には法定休日は入らない
法定休日とは、法律上労働者に必ず与えなければならない休日をいいます。労働基準法では、1週間に少なくとも1回、4週で4回以上の休日を与えなければならないと定められています。このような法定休日に労働をした場合には、35%以上の割増賃金率が適用されます。
ただし、月60時間を超える時間外労働を行い、かつその時間外労働が法定休日に行われたとしても、両者の割増賃金率は重複して適用されることはありません。この場合には、法定休日の割増賃金率が適用され、法定休日に行った労働時間は、月60時間の時間外労働の算定には含まれませんので注意が必要です。
月60時間以上の残業代は有給休暇に代替できる
月60時間を超える残業に対する割増賃金については、有給休暇を与えることで代替することも認められています。
割増賃金の代わりに代替休暇を付与する制度とは?
月60時間を超えた残業に対しては、50%以上の割増賃金の支払いが必要になりますが、法改正による引き上げ分の割増賃金(25%→50%)の支払いに代えて、有給休暇(代替休暇)を付与することも認められています。
このような代替休暇の制度を導入するためには、以下のような内容を定めた労使協定の締結が必要になります。
- 代替休暇の時間数の具体的な算定方法
- 代替休暇の単位
- 代替休暇を与えることができる期間
- 代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払い日
ただし、代替休暇を取得するかどうかは、労働者に委ねられていますので、会社側が代替休暇の取得を強制することはできません。
代替休暇の計算方法
月60時間を超える残業に対する割増賃金に代えて付与される代替休暇の時間数は、以下の計算式により算出します。
代替休暇の時間数=(1か月の法定時間外労働時間数-60時間)×換算率
換算率=代替休暇を取得しなかった場合の割増賃金率-代替休暇を取得した場合の割増賃金率
「代替休暇を取得しなかった場合の割増賃金率」と「代替休暇を取得した場合の割増賃金率」は、労使協定によって定めますが、以下の割合以上でなければなりません。
・代替休暇を取得しなかった場合の割増賃金率……1.5以上
・代替休暇を取得した場合の割増賃金率……1.25以上
月60時間以上の残業は違法になる可能性がある
月60時間以上の残業をしているという場合には、以下の点から違法な残業である可能性があります。
残業時間の上限規制に違反する可能性
労働基準法では、1日8時間・1週40時間が法定労働時間と定められており、法定労働時間を超えて働かせるためには、36協定の締結・届出が必要になります。そして、36協定の締結・届出があったとしても、月45時間・年360時間が残業の上限となりますので、これを超えて働かせると原則として違法な残業になります。
ただし、臨時的な特別の事情があるときは、特別条項付きの36協定を締結することで、上限を超えて残業をさせられることもあります。その場合でも、残業時間は以下の範囲内でなければなりません。
・時間外労働時間が720時間以内
・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
・時間外労働と休日労働の合計が「2か月平均」、「3か月平均」、「4か月平均」、「5か月平均」、「6か月平均」ですべて1か月あたり80時間以内
・月45時間を超える時間外労働は、年6か月が限度
月60時間以上の残業が毎月続いている場合には、特別条項付きの36協定を締結していたとしても、違法な残業となります。
残業代未払いの可能性
月60時間以上の残業になると、残業代も高額になります。会社側としては、労働者に支払う残業代を少しでも低く抑えるために、サービス残業扱いにして適正な残業代を支払っていない可能性もあります。
使用者には、残業時間に応じた残業代を支払う義務がありますので、適正な残業代を支払わないことは、労働基準法違反となります。残業代を支払ってもらうのは労働者として当然の権利ですので、未払い残業代がある場合には、会社に対して、請求していくようにしましょう。
月60時間以上の残業代の未払いを会社に請求する際の注意点
月60時間以上の残業をして、残業代が未払いになっている場合には、会社に対して未払い残業代を請求していくことになります。その際は、以下の点に注意が必要です。
残業代には時効がある
残業代請求には、時効という期間制限がありますので、期間内に権利を行使しなければ時効により権利が失われてしまいます。
具体的な時効期間は、残業代の発生時期に応じて以下のように定められています。
・2020年4月1日以降に発生した残業代……3年
・2020年3月31日以前に発生した残業代……2年
時効期間が迫っているという場合には、内容証明郵便を利用して未払い残業代の請求をすることにより、6か月間時効の完成を猶予することができます。一時的に時効期間の進行をストップすることができますので、あと少しで時効になってしまう残業代があるという場合には、利用してみるとよいでしょう。
残業代請求の時効と時効を阻止する方法についての詳細は、以下の記事もご参照ください。
名ばかり管理職なら残業代を請求できる
労働基準法上の管理監督者に対しては、労働時間、休憩、休日に関する法規制が適用されませんので、残業代の支払いは不要です。しかし、管理監督者に該当するかどうかは、肩書だけではなく、以下のような要素に基づいて実質的に判断します。
・職務内容および責任・権限
・勤務態様
・賃金などの待遇
会社から「管理職だから残業代は払えない」と言われていたとしても、管理監督者の要件を満たさない「名ばかり管理職」であった場合には、会社に対して残業代を請求することができます。名ばかり管理職であった場合には、それまで一切残業代が支払われていないことになりますので、会社に対して請求できる残業代も高額になる傾向があります。
管理職の残業代・管理監督者該当性の詳細は、以下の記事もご参照ください。
固定残業代が支払われていても別途残業代を請求できる
固定残業代とは、実際の残業時間にかかわらず一定時間分の残業代を給与に含めて支払う制度です。固定残業代が支払われている場合には、一定時間分の残業代はすでに支払われていますので、残業時間が固定残業として評価されている残業時間までであれば、別途残業代を請求することはできません。
しかし、固定残業代が支払われていれば一切残業代を請求できないというわけではありません。残業時間が固定残業代として評価されている残業時間を超えている場合には、固定残業代とは別に残業代を請求することが可能です。
みなし残業代(固定残業代)制度でも残業代請求ができるケースについての詳細は、以下の記事をご参照ください。
未払い残業代請求はグラディアトル法律事務所にお任せください
会社に対する未払い残業代請求をお考えの方は、グラディアトル法律事務所までご相談ください。
迅速かつ適切に残業代の有無を判断できる
月60時間以上の残業をしている場合、適用される割増賃金率もさまざまですので、残業代の計算が非常に複雑になります。残業代計算を間違えてしまうと、本来もらえるはずの残業代がもらえなくなってしまうなどの不利益を受けてしまいますので、残業代計算は専門家である弁護士に任せるのが安心です。
グラディアトル法律事務所では、残業代請求に関する豊富な実績がありますので、複雑な計算が必要となる月60時間以上の残業代であっても、迅速かつ適切に計算を行い、残業代の有無を判断することができます。
経験豊富な弁護士が会社との交渉を行う
未払い残業代があることが判明した場合、まずは会社との交渉により未払い残業代の支払いを求めていきます。しかし、労働者個人で会社と交渉をしたとしても、まともに取り合ってくれないなどの理由で、満足いく結果を得られる可能性は低いです。
弁護士に依頼すれば、弁護士が労働者の代わりに会社との交渉を行うことができます。それにより、精神的負担を軽減することができ、有利な条件で解決できる可能性も高くなります。グラディアトル法律事務所では、残業代請求の事案に関する会社側の手口や主張を熟知していますので、法的観点から適切な反論を行うことで、任意の交渉で解決できる可能性を高めることができます。
労働審判や裁判になっても安心して任せられる
会社との交渉で解決できない場合は、労働審判の申立てや訴訟提起などの手続きが必要になります。これらの法的手続きに発展した場合、労働者個人で対応するのは非常に困難となりますので、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくようにしましょう。
グラディアトル法律事務所では、労働審判や未払い残業代請求訴訟の解決実績も豊富ですので、交渉から裁判手続きまでしっかりとサポートすることができます。
まとめ
月60時間を超える残業があった場合には、中小企業で働く労働者に対しても、50%以上の割増賃金率が適用されます。中小企業への月60時間以上の残業に対する割増賃金率の引き上げは、2023年4月1日から適用されていますので、同じような残業をしているのに残業代が増えた気がしないという方は、未払い残業代がある可能性があります。
会社に対する残業代請求にあたっては、弁護士によるサポートが必要になりますので、まずはグラディアトル法律事務所までお気軽にご相談ください。