新型コロナウイルスは、日本経済にも大きな影響を与えています。
株式会社帝国データバンクの「新型コロナウイルス関連倒産」動向調査によると、2021年8月6日現在、新型コロナウイルスの影響を受けた倒産件数は、全国で1865件(法的整理1720件、事業停止145件)になるとのことです。
また、厚生労働省によると、新型コロナウイルスの影響により、解雇や雇い止めなど職を失った人やその見込みがある人は、2021年7月30日までの累積で11万2540人になるとのことです(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」参照)。
このような社会情勢の中、人気ビジネス系YouTuberであり、会社経営者である「マコなり社長」が代表取締役を務める株式会社divが大量のリストラをしていると報じられました。
このリストラは有効なのでしょうか?
コロナウイルスによる経営悪化を理由としたリストラ・整理解雇が有効性はどのように判断されるのでしょうか?
整理解雇の4要件とともに解説をしていきます。
YouTubeでの解説動画も撮りましたので、まずは、こちらをご覧ください。
目次
マコなり社長のリストラについて
まず、マコなり社長の経営する株式会社divの大量リストラについて、その概要をみていきましょう。
株式会社divは、プログラミング等のビジネススクール運営する会社のようです。新型コロナウイルスの影響で、経営するビジネススクールが複数閉鎖されるなど、経営が悪化していたようです。
その後の時系列について、ここでは概要だけを紹介しますので、詳細は、『 Smart FLASH 』さんの記事「Mac100台ばらまくも実態はボロボロ…経営者YouTuber「マコなり社長」が行っていた大量リストラの波紋」を参照してください。
- 2020,8 一部社員に休業要請 給与3割カット
- 2021,3までに、休業者135人
- 同月、退職希望者募集 約600人中100人程度が応じる
- 4月下旬 退職勧奨
- 6月 130人のリストラ 解雇予告通知 1ヶ月後に解雇
- 合計300人程度が会社を去ることに?
- 7月 MacBook100台のプレゼント企画
では、マコなり社長の会社がおこなった大量のリストラは有効なのでしょうか?
整理解雇の4要件とともに見ていきましょう。
整理解雇とは?リストラとの違いは?
整理解雇とは、会社が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇のことをいいます。
解雇とは、使用者による労働契約の解約のことをいいます。
横領やセクハラなどの非違行為をした労働者を解雇する普通解雇とは異なり、使用者である会社側の経営上の理由による解雇です。
一方で、リストラは、restructuring(リストラクチャリング)の略語で、会社・組織の再構築といった意味合いを持ち、通常は、経営上の理由からの人員削減、解雇を意味する言葉として使われます。
すなわち、リストラといえば、整理解雇のことを言うと考えてもらって間違いではないかと思います。
リストラが一般用語で、整理解雇が法律用語という違いというくらいに考えてください。
整理解雇の4要件とは
解雇権濫用法理とは
そもそも、民法上は、雇用契約の解除(解雇や退職)は、自由にできると定められています(民法627条1項)。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
労働者からの退職については職業選択の自由の観点からこの原則が維持されていますが、会社からの解雇については、労働者保護の観点から、労働関係法規や判例法理により修正されています。
具体的には、会社からの解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利濫用として無効になるとされています(労働契約法16条)。
この規定は、判例上確立されていた解雇権濫用法理を明文化したものです。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
整理解雇の4要件とは
整理解雇の場面においては、解雇権の濫用にあたるかどうか、以下の整理解雇の4要件と呼ばれる4つの要素により判断されています。
(1)人員削減の必要性
(2)解雇回避努力の相当性
(3)人選の合理性
(4)手続の妥当性
この4要件を全て満たさない限りは、解雇権の濫用にあたると考えている裁判例(4要件説)もありますが、近年は、この4要件を総合考慮して、解雇権の濫用に該当するかを判断する裁判例(4要素説)が増えてきています。
(1)人員削減の必要性
整理解雇によって人員を削減する必要性があるかどうかという要件です。
不況などによる業績悪化により、会社の経営を維持していくためには、人員を削減する十分な必要がある場合に認められます。
財務状況の見通しが甘かったり、整理解雇後すぐに新規採用をしているような事案においては、この人員削減の必要性が否定されるでしょう。
他方で、新型コロナウイルスの影響で、大幅に売り上げが下がってしまったケースなどでは認められることが多いでしょう。
(2)解雇回避努力の相当性
整理解雇以外の経営改善のための努力を経営者がしていたか、その程度は相当かという要件です。
言い換えれば、人員削減の手段として整理解雇を選択する必要性があったかという要件であるともいえます。
具体的には、人件費以外の経費削減努力を行なったか、役員報酬の削減を行なったか、融資や助成金の申請等でなんとかならないか、出向や配置転換などにより解雇を避けられないか、希望退職者を募ることにより解雇を避けられないか、などの事情が考慮されます。
(3)人選の合理性
リストラ・整理解雇の対象者の選定が客観的かつ合理的かどうかという要件です。
整理解雇をすることがやむを得ないとしても、誰を対象にするか、客観的かつ合理的な基準に基づいて判断していることが必要です。
客観的で合理的な基準の例としては、欠勤日数、遅刻回数、懲戒歴、勤務成績、勤続年数などの業務上の貢献度に関する基準が挙げられます。
(4)手続の妥当性
整理解雇を行うまでのプロセス・手続きが妥当であることが必要だという要件です。
具体的には、整理解雇の必要性や時期、規模、方法、などについて、労働組合や労働者に対して納得を得るための説明をして、協議をすべきであると考えられています。
内定取消と整理解雇の4要件
経営悪化を理由とする採用内定取り消しについても、この整理解雇の4要件に照らして判断がなされています(東京地判平成9年10月30日参照)。
東京地判H9.10.31 インフォミックス事件
採用内定者は、現実には就労していないものの、当該労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれているのであるから、企業が経営の悪化等を理由に留保解約権の行使(採用内定取消)をする場合には、いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する①人員削減の必要性、②人員削減の手段として整理解雇することの必要性、③被解雇者選定の合理性、④手続の妥当性という四要素を総合考慮のうえ、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきである。
コロナを理由とする採用内定取消の有効性については、以下の記事もご参照下さい。
コロナによる整理解雇を無効とした判例
新型コロナウイルスによる業績悪化を理由とした整理解雇を無効とした裁判例として、福岡地判令和3年3月9日と仙台地判令和2年8月21日があります。
福岡地判令和3年3月9日 バス会社の事例
この判例は、コロナが原因で売り上げが激減したバス会社が整理解雇をしたところ、従業員である労働者から解雇は無効であることを理由とする労働者たる地位の確認と給与の請求の仮処分が起こされた事案です。
この事件におけるバス会社は、コロナが原因で、2500万円〜3000万円ほどあった月商が減っていき、2021年5月には売上0円となってしまいました。
債務者であるバス会社は、セーフティネットの借入を申請して5000万円の融資を受けるとともに、バスリース会社と交渉してリース代金の支払猶予を受けたほか、同年2月分以降の役員報酬を50%カットするなどの金策を行いました。
観光バスの運行を生業にしていたバス会社は、新たに、夜間高速バス事業をはじめるため、運転手を6名ほど募集しました。
運転手15名のうち、3名だけが立候補しました。
その後、業績悪化を理由に、運転手3名の人員削減を行うこととし、高速バスの運転手として稼働することを希望しなかった者の中から、過去に問題を起こしたことがあるか、退職届を出したことがあるかなどの観点から、債権者ほか2名を解雇することを決めました。
この事例において、裁判所は、以下のように判断しました。
(1)人員削減の必要性はある
しかし、
(3)高速バスに応じなかったことにつき、人選の合理性がない
(4)リストラ規模、選定対象の具体的な説明、対象者からの意見聴取なし→手続の妥当性なし
本件解雇は、客観的な合理性を欠き、社会通念上相当とはいえないから、無効。
前記認定事実及び疎明資料(乙5)によれば,債務者は,新型コロナウイルス感染拡大によって,令和2年2月中旬以降,貸切バスの運行事業が全くできなくなり,同年3月中旬にはすべての運転手に休業要請を行う事態に陥ったこと,同年3月の売上は約399万円,同年4月の売上は約87万円であったこと,従業員の社会保険料の負担は月額150万円を超えていたこと,令和2年3月当時,雇用調整助成金がいついくら支給されるかも不透明な状況にあったこと等を考慮すると,その後,高速バス事業のために運転手2名を新たに雇用したことを考慮しても,債務者において人員削減の必要性があったことは一応認められる。
しかしながら,債務者は,令和2年3月17日のミーティングにおいて,人員削減の必要性に言及したものの,人員削減の規模や人選基準等は説明せず,希望退職者を募ることもないまま,翌日の幹部会で解雇対象者の人選を行い,解雇対象者から意見聴取を行うこともなく,直ちに解雇予告をしたことは拙速といわざるを得ず,本件解雇の手続は相当性を欠くというべきである。
また,債権者が解雇の対象に選ばれたのは,高速バスの運転手として働く意思を表明しなかったことが理由とされているところ,債務者は,上記ミーティングにおいて,高速バス事業を開始することを告知し,運転手らに協力を求めたものの,高速バスによる事業計画を乗務員に示し,乗務の必要性を十分に説明したとは認められないうえ,高速バスを運転するか否かの意向確認は突然であって,観光バスと高速バスとでは運転手の勤務形態が大きく異なり家族の生活にも影響することを考慮すると,当該ミーティングの場で挙手しなかったことをもって直ちに高速バスの運転手として稼働する意思は一切ないものと即断し,解雇の対象とするのは人選の方法として合理的なものとは認め難い。
そうすると,本件解雇は,客観的な合理性を欠き,社会通念上相当とはいえないから,無効といわざるを得ない。
福岡地判令和3年3月9日
仙台地判令和2年8月21日 タクシー会社の事例
この判例は、前述の福岡地判と同様に、整理解雇の無効が争われた事案で、コロナにより売り上げが減少し、令和2年3月には、374万円の支出超過となっており、同年4月30日における資産状況は総額約3133万円もの債務超過となっていた事例です。
この判例の労働者は、有期雇用の労働者でした。
そのため、期間の定めのない労働者の解雇権濫用法理である労働契約法16条ではなく、同法17条における「やむを得ない事由」の解釈の中で、整理解雇の4要件が検討されています。
(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
具体的には、「やむを得ない事由」(労働契約法17条1項)の判断に当たっては、本件解雇が整理解雇でもあることからする、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人員選択の合理性、④手続きの相当性の各要素を総合的に考慮して判断すべきであるとしました。
その上で、裁判所は、以下のように判断しました。
(1)人員削減の必要性
総額約3133万円もの債務超過状況にあり、人員削減の必要性はある。
しかし、給与手当や宣伝広告費や雑費等は削減の余地があること、負債について元代表者からの負債については直ちに支払う必要がないこと、金融機関からの融資も考えられることから、直ちに整理解雇を行わなければ倒産が必至であるほどに緊急かつ高度の必要性であったとは言えない。
(2)解雇回避努力の相当性
雇用調整助成金の申請や臨時休車措置の活用はしていないことから、解雇回避措置の相当性は相当に低い。
(3)人選の合理性
①夜勤のみしか乗車できない者,②営業所の地元の□□地区の営業に慣れていない者,③顧客からのクレームが多い者を整理解雇の際の人員選択の基準としたが、債権者らがこれらに該当するという疎明がなく、人員選択の合理性の程度も低い。
(4)手続の妥当性
団体交渉の場での口頭での説明、解雇予告通知書による説明はされているものの、説明が十分ではなく、本件解雇の手続の相当性も低い。
以上の整理解雇の4要件の判断に加えて、本件解雇が有期労働契約の契約期間中の整理解雇であることを総合的に考慮すると、本件解雇は労働契約法17条1項のやむを得ない事由を欠いて無効である。
以上のとおり,本件解雇は,①債務者に人員削減の必要性があり,その必要性が相応に緊急かつ高度のものであったことは疎明があるが,直ちに整理解雇を行わなければ倒産が必至であるほどに緊急かつ高度の必要性であったことの疎明はなく,②債務者が一部従業員の休業等の一定の解雇回避措置をとったことは疎明があるが,雇用調整助成金や臨時休車措置等を利用した解雇回避措置が可能であったにもかかわらずこれを利用していない点において解雇回避措置の相当性は相当に低く,③人員選択の合理性及び④手続の相当性も低い。これらの事情,特に雇用調整助成金の利用が可能であったにもかかわらずこれを利用していないという解雇回避措置の相当性が相当に低いことに加え,本件解雇が有期労働契約の契約期間中の整理解雇であることを総合的に考慮すると,本件解雇は労働契約法17条1項のやむを得ない事由を欠いて無効である。
仙台地判令和2年8月21日
マコなり社長のリストラは有効な整理解雇か?
以上で見てきたように、裁判例では、リストラ・整理解雇については、4要件を満たすかどうかについて、かなり厳しく詳細に検討がなされています。
マコなり社長の会社では、どうなるのでしょうか?
まず、(1)人員削減の必要性については、コロナで収益減ということである程度の必要性が認められそうです。
次に、(2)解雇回避努力の相当性においては、マコなり社長は、希望退職者を募っていることから、一定程度の努力をしていると考えられるでしょう。
他方で、最新のMacBookAirのプレゼント企画をしていることや、YouTubeを高頻度で更新していることについては、このことが会社の収益にどの程度貢献をしているのかを検討すべきであると考えます。広告宣伝効果が高く、これにより会社の売り上げが上がっているようであれば、解雇回避のための努力と評価し得るでしょう。一方で、これが別会社やマコなり社長個人の収益に計上されているような場合には、解雇回避努力を低下させる要素として考慮されるでしょう。
この他、コロナ関係の助成金・補助金・融資などを最大限利用しているかどうかも重要な判断基準になると考えられます。
(3)人選の合理性、(4)手続の妥当性については、報道では触れられていませんでしたので、具体的な事情はわかりませんが、客観的かつ合理的な基準に基づく人選と、解雇対象者に対する誠意ある丁寧な説明がなされていたかどうかがポイントになります。
コロナによる経営悪化と整理解雇のまとめ
新型コロナウイルスの影響により、企業経営に大きな影響が出ています。
売り上げが激減し、倒産している会社も多く、またリストラ・整理解雇をせざるを得ない状況になってしまった会社も多いです。
コロナによる業績悪化を理由に整理解雇が有効と認められるためには、整理解雇の4要件を満たし、解雇権の濫用には該当しないと判断される必要があります。
特に、コロナについては、国や都道府県が数多くの助成金・補助金や好条件の融資などの対策を打ち出していることから、これらの制度をしっかりと使ったかどうかが、解雇回避努力の相当性についての考慮要素として重視されているようです。
実際の判断では、これらの複数の要素について、証拠から事実を認定し、評価をするといった少し複雑なプロセスを経て判断がなされています。
整理解雇の問題で悩むことがあれば、一度、弁護士に相談してみてください。