大学内でセクハラや性暴力被害に遭ったら?損害賠償請求・刑事事件化(逮捕)などの対処法を弁護士が徹底解説!!

弁護士 若林翔
2021年09月23日更新

つい先日、大学教授による大学院生に対するセクハラ・性暴力についてのニュースが話題となりました。

単位をとるためや卒論・修論を書き上げるために、学生が教員からセクハラ被害を受ける事例が少なからず起きているようです。

本記事では、大学内セクハラの実態・実例を解説しつつ、被害にあった場合には、どのような対処法が取れるのか、加害者や大学に対して慰謝料等の損害賠償請求ができるか、強制わいせつ罪等で刑事責任を追及できるのか、解説します。

大学内セクハラの実態と実例

大学内で起きているセクシュアルハラスメント(「キャンパス・セクシュアル・ハラスメント」とも呼ばれる)は、大学に関係する様々な構成員・関係者の間で起こります。

たとえば、学生同士や、教職員と学生間だけでなく、教職員同士や、大学が委託した講座(マナー講座や英会話・公務員試験対策など)の関係者、部活や課外活動の監督やコーチ・インストラクター、実習先・インターンシップ・学会での他大学の研究者など、関係者をあげれば切りがありません。

そのうち、ここでは特に大学に特徴的なものとして、「教員と指導学生」の間のセクハラと、「学生同士」のセクハラを念頭に見ていきます。

また、性暴力事件は、加害行為や被害者の捉え方に幅があります。しかし、本記事では「大学内で被害にあった場合に何ができるか」を簡潔に説明するために、被害の態様や被害に遭った方の認識の有無・程度を問わず、一括して「大学内セクハラ」と呼びます。

個別にみると、相手が何をしてきたかによって、被害者の出来ることが変わります。話しづらいこともあるかと思いますが、「相手に何かしたい」と思った際には、お気軽に弁護士へご相談ください。

これまでも、京都大Y事件(1993年)や早稲田大スーパーフリー事件(2003年)、明治大学クライシス事件(2014)、早稲田大W事件(2018年)などが注目を浴び、それ以外にもマスメディアでは取り上げられない事件が頻発しています。

つい最近でも、上智大学国際教養学部教授が学部時代から指導する大学院生に性的関係を迫るなど不適切な行為をしていたことが発覚し、社会問題化しました。

論文指導をラブホで…美術評論界トップの上智大教授が肉体関係をもった教え子から訴えられていた

美術批評家連盟会長の〇〇上智大学国際教養学部教授(62歳)が、大学時代の教え子から性的関係を強いられたとして損害賠償請求訴訟を起こされていることがわかった。(中略)

かつて大学院は大学とは違い、指導教官(教授)が気に入った学生を自身の研究室に入学させて数年間指導することもあった。大学院生の研究者人生は、指導教員によって左右される。同月、〇〇氏の京都出張に同行することなり両者は初めて性的関係を持つことに。〇〇氏は当時も今も妻帯者である。

以後、性的関係は新宿歌舞伎町のラブホテル(ラブホ)などでたびたび生じ、Sさんは修士論文についてもラブホテルで〇〇氏から指導を受けた。これについて〇〇側は「たまたまそのような場所でも指導をしたことがあるというに過ぎません」と、Sさん側の弁護士(本件訴訟とは別の代理人)に回答している。

日刊ゲンダイDIGITAL 2021.9.20
https://news.nifty.com/article/item/neta/12136-1251652/

以上は、大学内セクハラの事例の一部で、類似の事例は数多くあるものと思われます。

なお、就活セクハラについては、以下の記事をご参照ください。

【2021年最新版】就活セクハラの実例・実態と対処法を弁護士が徹底解説!!

 

セクハラとは?

セクハラとは、Sexual harassment(セクシャル・ハラスメント)を省略した呼び方で、一般に、性的な言動によって相手に対し不利益や不快感を与えるものを意味します。

法律では、セクハラについて、男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)に規定がおかれています。

男女雇用機会均等法11条1項では、職場における性的な言動として、「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害される」と規定されています。

(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第十一条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

男女雇用機会均等法

ここでいう、「性的な言動」の解釈については、厚生労働省が「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」という指針を出しています。

これによると、「性的な言動」は、性的な事実関係を尋ねたり、性的な内容の情報を意図的に流布したりするなどの「性的な内容の発言」と、性的関係を強要すること、必要なく身体に触ること、猥褻な図画を頒布することなどの「性的な行動」を指すと考えられています。

この性的な言動を行う者には、労働者を雇用する事業主、上司、同僚に限らず、取引先等の他の事業主又はその雇用する労働者、顧客、患者又はその家族、学校における生徒等が当たります(令和2年改正)。このような列挙された立場の人からのセクハラについては、この法律や指針の対象となります。

大学内セクハラの対処法と法的責任追求

悲しいことに、現状では大学においてセクハラ被害にあう人が多くいます。それでは、セクハラ被害にあってしまった際には、どのような対処法があるのでしょうか?

法的な責任追及としては、刑事責任の追及と民事責任の追及(慰謝料等の損害賠償請求)という方法があります。

前者は加害者に対して逮捕・刑事処罰を求めるというもので、後者は加害者本人や大学に対して損害賠償請求をするというものです。

刑事・民事のいずれの責任追及をしていくにしても、セクハラの証拠が重要になってきます。

以下では、それぞれの法的責任追及について解説し、セクハラの証拠収集について解説をしていきます。

大学内セクハラの刑事責任追及

本人の意思に反して身体を触られたり、暴行や脅迫などにより性交渉を強いられたりした場合、これらの行為は、強制わいせつ罪(刑法176条)強制性交等罪(刑法177条)といった重い犯罪として処罰されることもあります。

被害者は、被害届告訴することにより、刑事上の責任を追及することができます。

実際に、最近の裁判例ではキスマークは「けが」に当たるとして、準強制性交等致傷罪が認められた事案もあります。

(強制わいせつ)
第百七十六条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

(強制性交等)
第百七十七条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

(準強制わいせつ及び準強制性交等)
第百七十八条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

刑法

大学内セクハラと加害者への損害賠償(民事責任追求)

学生に対するセクハラ行為は、教員によるものでも、学生によるものでも、民事上、不法行為(民法709条)に該当します。そのため、実際に生じた損害について不法行為に基づく損害賠償請求ができます。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

民法

内容としては、慰謝料・治療費などのほか、後遺障害による慰謝料や逸失利益が考えられます。逸失利益は非常に高額化するので、責任も非常に重くなります。

被害者は被害を受けたことで自己肯定感が低下し、ストレス・抑うつ症状・PTSDを発症することもあります。留年や休学をすると就職に影響し、休学あるいは退学になると人生そのものに影響します。

このような被害の影響によって生じた「大学内セクハラにあわなければ本来得られたはずの収入」を、逸失利益として加害者に請求することができます。

塾の事案ですが、セクハラで損害賠償に成功した解決事例について、以下の記事もご参照ください。

職場の上司にセクハラをされた女性が150万円を勝ち取った事例

大学内セクハラの大学への損害賠償請求

大学がセクハラ被害に対して何らの対処もしていなかった場合などには、大学に対しても債務不履行(民法415条)不法行為・使用者責任があったとして、慰謝料などの損害賠償請求をすることができます。

(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

(使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

民法

大学に在学している場合には、大学との間で在学契約を結んでいるので、学内諸規定に従って大学が負う安全配慮義務の違反について、債務不履行に基づく損害賠償請求ができます。

加害者が教職員の場合には、大学が学生を教育する役務を果たすために教授を雇用しているので、被害者は大学に対し加害者の行為の使用者責任(民法715条)として損害賠償請求ができるでしょう。

大学内セクハラの証拠を確保する!

セクハラが大勢の見ている場所で行われることはほとんどありません。

周りにほかの学生や教職員がいない状況であったり、個室での飲食だったりと人目につきにくい環境で行われることがほとんどです。

そのため、セクハラがあったことを証明することが非常に困難です。

そこで重要となってくるのが、「証拠」です。

たとえば、相手とのメールやSNS(LINEなど)でのやりとり、録音データなどがあげられます。その他にも、日記メモ親しい人とのメールやSNSのやりとり・投稿などもあります。

なお、どの記録が証拠として使えるかについては、法律的な視点からの検討も必要となります。ですので、被害を受けた場合には、やりとりを消さず、資料を持って法律事務所に相談に行かれることをお勧めします。

また、もしセクハラ被害を受けそうな場合には、損害賠償など考えていない場合であっても、今後のために、証拠を残しておく方が良い場合が多いです。

実際、何度もセクハラ被害に遭っていたにもかかわらず、証拠を残すことができておらず、いざ慰謝料を請求しようという段階で証拠がなく、慰謝料請求ができなかったといったケースもあります。

そのため、慰謝料請求などを考えていない場合であっても、セクハラ被害を受けている場合、法律事務所に相談に行かれることをお勧めします。

大学内セクハラの実例・実態と対処法まとめ

大学内でのセクハラ行為は、学生に対するものでも、教職員に対するものでも、個人の権利・自由を侵害する違法な行為であることには変わりありません。

大学によるサポートは、被害の状況や大学の制度設計によって大きく異なります。現状、残念ながら全ての大学が法的に適正な対応をするとも限りません。

しかし、大学内でまさに起きている被害を回避するためには、大学の協力が不可欠です。法律事務所やワンストップ支援センターなどの外部組織だけではなく、所属大学に設置されている「ハラスメント相談室」や「学生相談室」にも相談してみてください。

また、本記事で解説してきたように、損害賠償請求や刑事告訴などの法的措置ができることがあります。そのため、内容によっては相談しにくいことも多いかとは思いますが、信頼できる人や専門家である弁護士に相談することで、解決の糸口が掴めることができる場合もあります。

「こんなことで」とは思わずお気軽に相談していただければと思います。

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。 東京弁護士会所属(登録番号:50133) 男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。

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