風俗トラブルについての判例(東京地判令和4年6月8日)を紹介する。
この判例は、メンズエステで本番強要被害にあったセラピストが、本番強要客に対して損害賠償請求の訴訟を提起して、慰謝料300万円と弁護士費用分の30万円の損害賠償請求が認められた判例だ。
この判例では、被告である本番強要客が裁判に出廷しておらず、適切な反論がなされていなかった点には注意が必要だ。もっとも、裁判所として、メンズエステの本番強要事案において、300万円の慰謝料は妥当な金額だと認定をしている点は重要な要素だろう。
舞台になったのは、東京都杉並区のメンズエステ店だ。
セラピストを指名し、サービスを受けていたメンズエステ店の客が、セラピストが拒否しているにもかかわらず、サービス中に本番強要をした。
判例の事実認定が詳細なので、以下、判例を引用する。
原告:メンズエステのセラピスト
被告:メンズエステの本番客
原告が施術を開始してしばらくすると、被告は原告の胸を触ってきたり、ショーツに手を入れようとす る行為を行ってきた。
原告は、「だーめ!こらっ!やめて!」と明確に拒否してこれを制止したところ、 被告に力づくに押し倒された。原告は「嫌!やめて!施術中断しますよ!」と言ったが、被告はそのまま 原告の胸を揉み、舐めるなどの行為を続けた。
その後、原告は膣に指を挿入され舐められたため、逃げよ うと思い背を向けると、被告は後ろから覆い被さり、原告のブラジャー取りながら、「入れないから大丈 夫」などと言い、男性器を膣に擦り付け前後に動かしつつキスを迫ってきた。原告が顔を背けたところ、 被告の力が一度緩んだためこの隙に再度逃げ出そうとしたが捕まり、膣に指を挿入され「イキそう?」な どと言われながら激しく膣内を弄ばれた。
その後膣にコンドームを装着しないまま男性器を挿入され、3 0秒~60秒ほどピストンをされた。ピストン運動を止めた被告が原告の顔を覗き込んできたため、原告 はその隙に原告を押し退け廊下に逃げ扉を閉めた。
被告は扉を開けようとするので、原告はそれを全身で 押さえ込み阻止していたところ、被告は開けるのを諦め、ドア越しに「帰りますシャワー浴びさせて下さ い」と何度か言ってきたため扉を開け、シャワーを浴びさせて帰ってもらった。
なお、同年10月6日、原告は性病にり患する不安があったため、医療法人社団予防会新宿サテライト クリニックにおいて性病検査を受けている。
東京地判令和4年6月8日より引用
判決は、以下の事実を認定し、本番強要(同意のない本番・不同意性交)を認めた。
・セラピストである原告が明確に拒否の意思を示した。
・メンズエステ店は風俗店ではない。
・メンズエステ店のHPで本番を含む性的サービスを禁止している。
・来店時の誓約書でも本番を含む性的サービスを禁止している。
そして、被告である本番客の本番強要行為は、故意又は過失によって原告であるメンズエステのセラピストの性的自由を侵害する違法な行為であり、不法行為を構成するとした。
また、本番強要被害を受けたメンズエステ店のセラピストの精神的苦痛に対する慰謝料額として、300万円は妥当な金額であるとして、300万円の慰謝料を認定した。
弁護士費用として、慰謝料額300万円の1割である30万円を認めた。
合計330万円の損害賠償を認めた。
デリヘルやメンズエステ店など、風俗店での本番強要は、不同意性交等罪に該当する。
不同意性交等罪は、5年以上の拘禁刑(懲役)が規定されている重罪だ。
強姦罪や強制性交等罪から改正され、暴行や脅迫が無くても成立するため、風俗での本番強要が逮捕されやすくなった。
不同意性交等罪の構成要件(成立要件)は以下の二つだ。
①被害者の同意なく
②性交等をする
被害者の同意なくの要件については、具体的には、同意しない意思を形成、表明又は全うすることが困難な状態にさせること、あるいは相手がそのような状態にあることに乗じていることが必要とされる。
強姦罪や強制性交等罪では、被害者が抵抗することが著しく困難な程度の暴行や脅迫が必要であったが、不同意性交等罪ではこのような強度の暴行や脅迫がない場合でも、単に拒否をしている場合や同意する時間的余裕がないような場合にも犯罪が成立するとして、その成立範囲を広げている。
また、準強姦罪や準強制性交等罪のように、抵抗することができない状態での性行為についても、不同意性交等罪にまとめて規定している。強姦罪・準強姦罪、強制性交等罪・準強制性交等罪をまとめて不同意性交等罪にしたのだ。
デリヘルやメンズエステ等の風俗トラブルでの本番強要との関係でいえば、同意しない意思を形成、表明又は全うするいとまの不存在(不意打ちなど)な状況での本番行為が不同意性交等罪に該当することが重要だ。
素股中にキャストが同意する間もなく不意打ち的に本番強要をした場合にも、不同意性交等罪が成立する。
不同意性交等罪の「性交等」は、性交(セックス)の他、肛門性交(アナル)、口腔性交(フェラ)、膣や肛門に体の一部や物を挿入する行為(手マンやバイブ挿入)が含まれる。
強姦罪では、処罰対象は性交に限定されていた。
強制性交等罪では、これに加えて、肛門性交と口腔性交が追加され、それまでは強制わいせつ罪にしかならなかった行為が強制性交等罪で処罰されるようになった。
不同意性交等罪では、さらに加えて、膣や肛門に体の一部や物を挿入する行為も強制わいせつ罪(不同意わいせつ罪)から格上げされて不同意性交等罪で処罰されるようになった。
性的サービスが許されていないメンズエステ店では、本番強要でなくても、同意なく、膣や肛門に指などの体の一部や物を挿入する行為(手マンやバイブ挿入)も不同意性交等罪に該当することになる。
風俗トラブルと本番強要の逮捕や不同意性交等罪についての詳細は、以下の記事も参照して欲しい。
デリヘルやメンズエステ店など、風俗店での本番強要は、不同意性交等罪に該当する違法行為だ。
そして、違法行為で権利が侵害された場合には、民法上、不法行為として、慰謝料などの損害賠償請求ができる。
今回紹介した判例では、メンズエステ店という性的サービスが認められていな店で、原告であるセラピストが拒否する意思を示す中で本番強要をしている事案において、300万円の慰謝料請求を認めている。
本番強要被害にあった風俗やメンズエステのキャスト・セラピストさんからすれば、しっかりとした金額を請求できる根拠になるだろう。
本番強要をしてしまった客としては、事情によっては、300万円という高額な金額の支払が必要になることを知って欲しい。もっとも、慰謝料を支払わず、示談ができなければ、逮捕リスクもあるので、風俗等での本番を甘く見ないことが重要だ。
なお、グラディアトル法律事務所での風俗トラブルでの示談金額は、以下のとおりなので、こちらも参考にして欲しい。
風俗トラブルと慰謝料・損害賠償・示談金については、以下の記事も参照して欲しい。
デリヘル等での本番強要の被害に悩む風俗店経営者やキャストの方々も多いだろう。
しかも、本番をした客が「無理やり押さえつけたりはしていない」「抵抗されなかったから同意があると思った」などと言ってくることも多く、そのような場合には、強姦罪や強制性交等罪では暴行の立証が難しく、逮捕・刑事事件化が難しい部分があった。
しかし、今回の不同意性交等罪の新設により、本番客は逮捕されやすくなった。
不同意性交等罪は、被害者である風俗嬢が同意するいとまがない状態(不意打ち)で挿入されれば成立するからだ。
本番強要の被害にあってしまったら、すぐに110番通報をして、刑事事件化することができる。
また、弁護士を通じて、損害賠償請求をすることもできる。
本番強要被害に泣き寝入りすることなく、しっかりと対応をしてほしい。
本番強要被害では、早期かつ適切な対応が重要だ。
時間が経ってしまうと証拠の確保が難しくなってしまうこともあるからだ。
示談金を要求する際も、注意をしないと恐喝罪で逆に逮捕されてしまうリスクもある。
被害届の提出や刑事告訴により逮捕を求める、損害賠償請求をするなど、早期かつ適切な対応をするために、ぜひ、弁護士に相談してほしい。
本番強要被害を予防し、日常的に生じる様々な問題を解決するために、風俗業界に強い顧問弁護士をつけておくことも重要だ。
デリヘル等の風俗での本番行為についても、不同意性交等罪の新設により、逮捕されやすくなった。
新しい犯罪ができた場合には、警察も逮捕・摘発に積極的になる傾向もあり、実際に逮捕事例も増加することが予想される。
逮捕されてしまうと、逮捕・勾留と最大で23日間警察署の留置施設に身体拘束されてしまう。
実名報道されて会社や家族に風俗で本番をしたことがバレてしまうリスクもある。
起訴されてしまえば、有罪率が高く、不同意性交等罪は罪が重いため、実刑(刑務所に入る)こと可能性も低くない。
逮捕を避けるためには、早期に示談を成立させることが一番重要だ。
早期かつ適切に示談をするために、風俗で本番トラブルにあってしまったら、すぐに、弁護士に相談してほしい。
リンク:風俗トラブル逮捕事例(盗撮・本番強要)と逮捕されないための対処法!