風営法はかなり複雑で落とし穴が多く、性風俗店の経営は常に規制と隣り合わせです。
適切に届出等をし、適法な営業をどれだけ心がけていても、思いがけないことから営業の停止を余儀なくされたり、逮捕されたり、さらには刑罰を受けてしまうリスクがあります。
今回は、弊所で受任した刑事事件の中から、風営法違反の疑いをかけられて逮捕されたものの、逮捕後の適切な対応により、不起訴となることができた事例を紹介し、併せて解決までのポイントなどを解説しようと思います。
今回のご依頼者は東京都内でデリヘルを経営していた男性(Dさん)と、その友人でラブホテルを経営していた男性(Lさん)です。
Dさんは、適法に「無店舗型性風俗特殊営業」の届出をした上で、都内の歓楽街に事務所を置きデリヘルの営業をしていました。
一方、Lさんは、Dさんの事務所から200メートルほど離れた場所でラブホテルを経営していました。
DさんとLさんは数年前に知人の紹介で知り合い、以降親密な関係にありました。
DさんはLさんからラブホテルの開業資金を貸してほしいといわれた際、あまり気乗りはしませんでしたが、友人のよしみで貸すことにしました。以降、Lさんは定期的にDさんに借金の返済をする関係にもなりました。
また、Dさんは、Lさんがラブホテルを運営していることを知っており、その設備が綺麗で、値段が安いことを知っていました。そのため、Dさんは、デリヘルの利用客がサービスを受ける場所に悩んでおり、綺麗でありながらリーズナブルなホテルの利用を希望する場合には、Lさんのホテルを利用するように勧めることが多くありました。
また、Dさんの店のホームページ上に、「おすすめのホテル」として、事務所周辺の複数のホテルの地図等を掲載しており、その中にはLさんの経営するホテルも含まれていました。
一方、Lさんのラブホテルも、Dさんのデリヘルの客の利用を広く受け入れていましたが、もちろん、他のデリヘルの利用客や一般のカップルの利用も多く受け入れていました。
しかし、警察はDさんとLさんが親密な関係にあることや、経済的なつながりがあることから、Lさんのラブホテルは実質的にDさんのデリヘルの店舗であり、共謀して風営法違反の営業をしているのではないかと疑い、2人への捜査を開始しました。
その後、警察がDさんの事務所の捜索差押を行ったため、逮捕されるのではないかと考えたDさんは、風営法違反等の刑事事件を多く取り扱っている弊所に相談することにしました。
Dさんの相談を受けた弁護士は、想定される捜査の流れや、逮捕された場合の対応方針などについて話しました。
その後、予想通りDさんとLさんは逮捕されてしまいましたが、事前にご相談いただいていたこともあり、直ちに弁護士が接見に向かいました。
そして、DさんとLさんは、取調べに対し、警察が想定した筋書きで処理されてしまわぬよう、語るべきでない点について黙秘をし、不用意な署名を避けるなど、弁護士の事前のアドバイスに沿った適切な対応をしました。
弁護士は、DさんとLさんが逮捕に続く勾留をされないよう、意見書を提出して、勾留の要件を満たさないことを主張しました。
しかし、裁判官は検察官の勾留請求を認め、DさんとLさんは勾留されることとなりました。
もっとも、本件における最大の目標は不起訴の獲得であったため、弁護士はその後もDさん及びLさんとの接見を重ね、警察の取調べをふまえつつ、戦略を立てていきました。
そして、弁護士はその後も繰り返し申立てを行い、DさんとLさんの身体解放を求めるとともに、DさんとLさんが取り調べに適切に対処できるよう、アドバイスをしていきました。
また、Dさんの店が店舗型とはいえないことを示す客観的証拠を独自に収集し、過去の判例も参照した法的見解を付した意見書とともに検察官に提出しました。
その結果、DさんとLさんは身柄を解放され、晴れて不起訴となり、従来の営業を継続することができました。
そもそも、今回なぜDさんとLさんは逮捕されたのでしょうか。
既に自らデリヘル等を経営されている方にとっては、普段から気を付けていることであり、明白だと思うかもしれませんが、その他の関係者の方や、これからデリヘル等の経営を考えているというような方のために解説いたします。
そもそも、風営法上、性風俗店の営業形態は大きく2つに分けられます。店舗型風俗特殊営業と無店舗型風俗特殊営業です(その他、映像送信型などの特殊な類型があります。)。
簡単にいえば、特定の店舗内で性的サービスを提供するのが店舗型風俗特殊営業で、店舗を持たずにキャストを派遣して性的サービスを提供するのが無店舗型風俗特殊営業です。
前者には、いわゆるソープランドや店舗型のヘルス(箱ヘル)などが含まれ、後者には、いわゆるデリヘルなどが含まれます。
そして、現在、店舗型風俗特殊営業をすることができる地域は非常に限定されています。
例えば、東京都の場合、台東区千束四丁目(16番から32番まで及び41番から48番まで)の地域(「吉原」と呼ばれる地域の一部)のみが、その地域となっています。
そのため、現在の規制が開始される前から店舗型風俗特殊営業を続けている事業者(「既得権」を有している事業者)を除き、店舗型の風俗店を営業することは著しく困難になっています。
もし、この規制に反して禁止地域において店舗型風俗特殊営業をした場合、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金、もしくはその両方が科されることとなります。
また、店舗型風俗特殊営業については、営業可能な時間も限定されています。
一方、無店舗型風俗店にそのような営業地域の規制はなく、また、営業時間についても規制されません。
ちなみに、風営法の規制対象となるタイプのラブホテルを営業できる地域も限定されていますが、店舗型特殊営業をすることができる地域よりは、少し広くなっています。
例えば、東京都の場合、「吉原」に加え、新宿区のうち、歌舞伎町一丁目(2番から29番まで)、新宿二丁目(6番、11番、12番及び16番から19番まで)及び新宿三丁目(2番から13番まで)の地域、豊島区西池袋一丁目(18番から44番まで)の地域も加えられています。
店舗型の風俗店に上記のような規制があり、「既得権」を有する法人の支配権を譲り受けることも容易ではないことなどから、現在では無店舗型のデリヘルを開業する事業者が多くなっています。
そして、デリヘルを営業する者が、適法に営業しているラブホテルと提携して、店舗型風俗店の営業禁止地域で性的サービスを提供してしまったような場合には、実質的に店舗型の風俗店の営業をしているとみなされ、上記の規制に基づいて処罰されることになります。
今回のDさんとLさんは、2人で共謀の上、禁止地域において実質的に店舗型の風俗店の営業をしたと疑われたため逮捕されたのです。
では、DさんとLさんは、なぜ不起訴となることができたのでしょうか。
それを理解するためには、どのような場合に、デリヘルの営業が実質的に店舗型であるとして営業場所等の規制を受けてしまうのかの判断方法を知る必要があります。
派遣型の風俗店が実質的に店舗型ではないかと争われた事例として、東京高裁の裁判例(東京高判平成17年6月30日)があります。
この裁判例では、派遣型マッサージ店とレンタルルーム(ラブホテル)との関係について、
・位置関係・構造、出入り口付近の外観の共通性
・広告の態様
・利用料金の取り決め(優遇措置)、支払方法
・女性キャストの待機場所
・客の受付や案内の仕組み
・レンタルルーム(ラブホテル)の利用状況
などの点を総合的に考慮し、実質的に店舗型と同様の営業をしていたといえるかによって規制対象となり得るかを判断するとしました。
そして、この事例におけるマッサージ店とレンタルルームを実質的に同一店舗とみて、店舗型風俗店についての規制を適用し、両店の代表者を処罰しました。
では、本事例はどうだったのでしょうか。
まず、Dさんの事務所はLさんのホテルと200メートル離れた場所にあり、両店舗の外観に共通性はありませんでした。そのため、両店舗が構造上一体であるとはいえず、また、一般人から営業上一体をなすものと認識されるようなものでもありませんでした。
次に、広告の態様について、Dさんの店のホームページ上には「おすすめのホテル」として、Lさんの経営するホテルが記載されていましたが、あくまで複数紹介するホテルの一つとして記載されているにすぎず、それだけで両者の特別なつながりを示すものではありませんでした。
また、確かにDさんとLさんの間には個人的な金の貸し借りがありました。
しかし、Dさんの店の利用者がLさんのホテルを使用する際も、客がLさんのホテルに直接部屋の使用料を支払うことになっており、その他、Dさんの会社とLさんの会社の間に金銭的なやりとりは無く、Lさんのホテルを使用させること、使用させてもらうことなどについて、双方から何らかの対価を支払うことはありませんでした。
さらに、Dさんの店が予約を受ける際も、Lさんのホテルを積極的に勧めることはなく、「安くて綺麗なところが良い」などと言われた際に紹介するにとどまっていました。
また、実際にLさんのホテルは近隣のホテルに比べて安く、綺麗な内装をしていたため、経営者同士が示し合わせて不当に推薦しているとはいえませんでした。
加えて、Lさんのホテルの売上に占めるDさんの店の利用者からの収益の割合はそれなりに高いものではありましたが、他の利用者からの収益も多く、実質的にDさんの店の利用者によって経営を成り立たせているというわけではありませんでした。
また、Dさんの事務所から、客の代わりにLさんのホテルに予約の問い合わせをすることもありましたが、断られる場合も多く、LさんがDさんのために特別に部屋を用意しているという関係ではありませんでした。
本事例では、以上のような事情を実際の店舗の画像や記録書類、インターネット上の記録などから示していきました。
検察官はそれらの事情を総合的に考慮して、DさんとLさんが共謀して、実質的に店舗型の風俗店を営業していると立証するのは難しいと判断し、起訴を断念したと考えられます。
本事例では、DさんとLさんは無事に不起訴となることができました。
DさんとLさんが不起訴になることができた要因としては、逮捕される以前から風営法の規制を意識し、適法に経営するように心がけていたことや、事務所の捜索が入った時点で速やかに弁護士に連絡し、適切な対応をとることができた点などがあると考えられます。
DさんやLさんのように、気をつけながら適法に性風俗店等の運営をしていたとしても、警察や検察に疑いをかけられ、逮捕されてしまうリスクはあります。そして、今回のように不起訴を勝ち取る余地があるような場合でも、適切な弁護活動によって警察や検察の描いたストーリーを覆すことができなければ、起訴され有罪となってしまう可能性は少なからずあります。
弊所は風俗店等の顧問を多く務め、関連のトラブルの解決実績も数多くあります。弊所弁護士はその豊富な経験を活かし、的確なアドバイスや精力的な刑事弁護活動を行っていきます。
弁護士のアドバイスを受けて逮捕等のリスクを低減しつつ適法に事業の経営をしていきたいとお考えの方や、刑事事件化されそうで困っているという方は、ぜひ一度弊所にご連絡ください。