本日(2023年2月16日)、AVの編集前の撮りデータが流出したとして、澁谷果歩さんが、制作会社等に対して損害賠償請求訴訟を提起した。
アダルトビデオ業界の適正化・健全化が求められ、AV新法により、業界に対する規制が進んでいる。
しかし、AV業界では、たびたび、編集前の無修正のデータが流出してしまう事件がおこっている。
一度、インターネット上に流出してしまうと、その動画を消したとしても、ダウンロードした別人が再度アップロードをしてしまうなど、事実上、完全にネット上から消し去ることは極めて困難になってしまう。
そのため、事前に流出を防止することが必要だ。
流出を防止するためには、編集前の動画データの管理について、厳格な管理体制を整える必要がある。
今回の訴訟では、AVの制作会社、監督、編集会社、カメラマンを被告としている。
編集前の動画データの管理体制に不備があり、厳格な管理体制が整えられていなかった過失があったのではないか。
それが今回の流出の原因となっているのではないかとして、訴訟を提起した。
今回の訴訟の目的、澁谷さんの思いは、本件をきっかけに、AV業界において、編集前の動画データの管理について、厳格な管理体制が整えられるよう、適正化・健全化が進むことだ。
なお、AV新法の内容や詳細については、以下の記事を参照してほしい。
無修正AV流出で制作会社など提訴 出演女性「違法動画に関わりショック」
無修正のアダルトビデオの動画が流出し、名誉を傷付けられたなどとして出演した女性が制作会社などに損害賠償を求める裁判を起こし、「違法な動画に関わりショックだ」と訴えました。
訴状などによりますと、2018年までアダルトビデオに出演していたタレントの渋谷果歩さんは去年、自身が出演した2つの作品について局部にモザイク処理がなされていない無修正の状態でインターネット上に流出していることを知りました。
2つの作品はどちらも2016年に一日で撮影したものでした。
渋谷さんは16日、動画のデータ管理を怠ったことなどが流出の原因として、当日撮影を担当した監督やカメラマン、制作会社などに対し740万円の損害賠償を求めて裁判を起こしました。
渋谷さんは会見で「モザイクがない違法な動画に関わってしまったことはショックだった」「アダルトビデオはちゃんとした仕事だと投げかけている今だからこそ、起こってはいけないミスが起こった時に対応するビジネス感覚を持ってほしい」と訴えました。
制作会社は「訴状が届いておらず、内容が具体的に分からないためコメントは控える」としています。
テレ朝news(動画つき) https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000287931.html
アダルトビデオ映画に出演していたとしても、通常自己の性器はモザイク処理によって人目に触れることはない。
また、自己の性器は、その性質上、他人に最も知られたくない事項であり、これが個人のプライバシーに関わるものであることは明らかである。
実際、いわゆるデリヘル嬢であった者の裸体が撮影され、インターネット掲示板に掲示された事案において、プライバシー権侵害が認められている(東京地裁令和3年5月7日)。
そうすると、このような画像をインターネット上で誰もが閲覧することが可能な状態に置くことは、原告のプライバシー権を著しく侵害するものといえる。
モザイク処理のされていないアダルトビデオ映画は、徒に性欲を興奮または刺戟せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」であるため、わいせつ物であるものと解される(最判昭和26年5月10日刑集5巻6号1026頁)。
また、図画とは有体物に限られず、情報としてのデータも含まると解される(岡山地裁平成9年12月15日判時1641号158頁)。したがって、このような映像を不特定多数人が観覧しうる状態に置いた場合、わいせつ図画公然陳列罪が成立しうる(刑法175条1項)。
モザイク処理のされていない本件各作品の無修正版が存在し、一般の閲覧に供されていることにより、これを見る人をして、自ら違法な映画作品に出演したとの印象を抱かせ、原告の社会的評価が低下することは明らかである。
なお、無修正AVの違法性については、以下の記事を参照してほしい。
AVにおける編集前の無修正データについては、出演者にとって秘匿性の高いものであり、その性質上、絶対に流出することがないように厳格な管理をするべきデータであるといえる。
過去にAVの流出事件が起きていることからすれば、何らかの原因により無修正データが流出してしまう危険性があり、そのことは、被告である制作会社らにも予見可能であったといえる。
そうだとすれば、アダルトビデオ映画の制作に携わる者は、無修正動画の流出を防ぐために適当な措置を講じるべきである。
すなわち、流出被害防止のために、通常の場合よりも高度な措置を講じなくてはならない。
具体的には、かかる流出被害を防止するための措置として、本件作品の撮りデータの編集を行う際のコンピュータに外部からのアクセスを困難にするような措置が採られていたか、本件撮りデータを扱う際に、いつ誰が本件撮りデータを扱ったのか、記録される仕組みが構築されていたか、本件撮りデータを取り扱う際、これを行う場所を限定し、外部への持ち出しを困難とする措置がとられていたか、本件撮りデータの編集が不要になった時点で直ちに当該データを削除する措置を講じたか、本件各作品撮りデータ外部と取り扱う者を外部に委託した場合に委託先の選定の際にして、上記と同様の措置が講じられているか確実な資料の基づき調査したか等を検討し、これらの措置等がなされていない場合は、結果回避義務違反があったということができる。
今回原告となった澁谷さんは、AV業界の適正化・健全化、今後同一の被害にあってしまう人がいなくなるように、AVに携わる業者に対して、厳格なデータ管理ができる体制を整えてほしいという目的で、本件訴訟を提起している。
この訴訟をきっかけに、AV業界全体で、無修正データの管理体制を厳格にする取り組みを進めて、業界の適正化・健全化をすすめてほしい。