AV新法と呼ばれるAV出演被害防止・救済法が成立し、施行されました。
AV出演強要など、望まないAVへの出演被害を防止することを目的として作られた法律です。
しかし、このAV新法は、AV女優やAV男優、AV制作会社などの当事者の意見を聞かず、急ピッチで作られたため、大きな問題点も含んでおり、当事者たちから批判が殺到しています。
セクシー女優の金苗希実さんのツイートは象徴的で、6万件もの「いいね」がついています。
7月決まってたAVの撮影が全部中止…
AV新法で女優が守られるどころか仕事が無くなって現役の女優たちが苦しむ構図って誰得なん。。— 金苗希実🥇🌱✨ C100土曜西く39a (@_non_nozomin_) June 19, 2022
AV男優のしみけんさんも、AV新法により新しいAV男優が生まれなくなったと新法の不都合な部分に言及をしています。
AV新法のおかげで
新しいAV男優は生まれなくなりました。
1ヶ月前契約なので、信用問題とぽっと出男優の取り下げリスクを考えると…
AV新法が改正されるまで、今のAV男優のみで作品を作っていく事になります。
それって…どうなの!?🥶
学生役が全員40代になっちゃうよ!!
— AV男爵しみけん (@avshimiken) June 28, 2022
セクシー女優の月島さくらさんは、キカタン女優たちの仕事が無くなって生活に困っている現状に言及しています。
昨日、事務所とも電話したのですが
新法の関係もあり
キカタンの子たちの仕事がほとんど無いそうです。
ほぼゼロだそうです。うちのような小さな事務所では影響が大きく、死人が出そうなレベルです。
私も収入が無く、苦しいです。
— 月島さくら✿ #適正AVを守る (@sakuratsukisima) July 13, 2022
このように、本来AV業界の人たちを守るために作られた法律が、逆にAV業界を苦しめる事態が生じています。
・これらの事態はどうして生じたのでしょうか?
・AV新法とは何か?
・どのような内容が規定されているのか?
・契約から撮影までの期間、撮影から公表までの期間はどのように規定されているのか?
・AV新法でAV関連会社はどのような義務を負うのか?
・AV新法で必要な契約書や説明文書はどうやって作ればいいのか?
・AV新法に違反すると逮捕される?罰則は?
・出演するAV女優や男優にはどんな権利があるのだろうか?
・AV新法の問題点って何なんだろう?
AV新法については、内容が難しく、ネット上には間違った情報も氾濫しています。
グラディアトル法律事務所では、AV業界を含むナイトビジネス業界の顧問弁護士をしており、すでにAV新法についても多数の相談が寄せられています。
この記事では、AV新法の内容について、できる限り分かりやすく解説をしていきます。
AV新法(AV出演被害防止・救済法)とは、AV出演強要問題などのAV出演に関連して被害にあうことがないように、全ての年齢・性別の人を守るための法律(AV新法1条参照)です。
出演者個人の人格の尊重、心身の健康、私生活上の平穏などを保護するため、性行為の強制を禁止し、契約、撮影、公表の各段階において、さまざまな規制をしています。
AV新法が成立することになったきっかけは、民法改正です。
民法が改正され、2022年4月1日から、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。
これにより、18歳の高校生もAVに出演できるようになったと勘違いした人たちがAV新法を推し進めた印象です。
民法では、未成年(昔は20歳未満、改正後は18歳未満)も契約をすることはできます。
ただし、親の同意がない契約は取り消すことができたのです。
ですので、実際には、民法改正により、18歳でAV出演契約をしたとしても、未成年を理由とする取り消しができなくなったというのが正確です。
いずれにしろ、成人年齢が18歳に引き下げられたことにより、18歳、19歳のAV出演契約を取り消すために未成年取り消しという手段が使えなくなりました。
これを問題視した人たちが、AV出演に関する法律を作ることにしたのです。
それが、AV新法です。
2022年4月1日の民法改正の直後にAV新法についての議論がスタートし、わずか1ヶ月半でAV新法案が成立しました。
法案成立までの間に意見交換した事業者側の団体はAV人権倫理機構のみで、公聴会は一度しか行われませんでした。
AV新法では、この法律の対象となるAVを、「性行為映像制作物」として定義しています。
「性行為映像制作物」とは、性行為(性交若しくは性交類似行為又は他人が人の露出された性器等(性器又は肛門をいう。)を触る行為若しくは人が自己若しくは他人の露出され た性器等を触る行為)に係る人の姿態を撮影した映像並びにこれに関連する映像及び音声によって構成され、社会通念上一体の内容を有するものとして制作された電磁的記録又はこれに係る記録媒体であって、その全体として専ら性欲を興奮させ又は刺激するもの(AV新法2条)をいいます。
簡単にいうと、性交(SEX)、性交類似行為(フェラなど)のように人の性欲刺激するエロい作品です。
法律上は、俗に言うAVに限定されていませんので、同人AVはもちろん、風俗店の宣伝動画などもAV新法の対象となりうるところです。
罰則規定以外のAV新法は、公布された2022年6月22日の翌日である6月23日以降に契約する契約から適用されます。
罰則規定は、公布の20日後から適用されます。
急きょ作られた法律であることを考慮して、以下の2項目に関しては、2年後の見直しが規定されています。
①公表期間の制限
②無効とする出演契約等の条項の範囲
個人的には、これに限らず、全ての条項をすぐに見直すべきだと思いますが。。。
冒頭でみたように、AV新法については、当事者であるAV女優やAV男優からさまざまな問題点、デメリットが指摘されていいます。
また、AV新法の廃止を求める反対意見・署名活動に多数の賛同が寄せられています。
では、このAV新法には、どのような問題点・反対意見があるのでしょうか?
AV新法についての議論が始まってから、わずか1ヶ月半の間に成立し、その間に、AV事業者や出演者などの当事者からの詳細な意見聴取が行われていません。
そのため、現場の意見が取り入れられていない法律になっており、不満や問題点が続出しています。
AV新法は、急ピッチで成立したため、AVメーカーやプロダクションといった制作公表者もどのように対応をすべきか具体的な対応方法がわからないままAV新法が施行されました。
対応方法が分からない製作側は、撮影を中止せざるを得なくなり、決まっていた撮影が中止になってしまいました。
これにより、受け取れるはずの報酬を受け取れなくなってしまったAV女優さん、男優さんが出てしまったのです。
AV新法では、撮影禁止期間・公表禁止期間といった厳しい期間制限があるため、これからAV出演契約をしようとする人については、作品が世に出るまで、5ヶ月以上の期間が空いてしまいます。その期間制限のため、撮影できる本数が減ることになり、収入の減少につながります。
また、AV新法は、数々の出演契約の無効・取消・解除事由が定められています。特に問題なののは、任意解除権です。
出演者は、公表後1年以内(経過期間中は2年以内)の間、理由なく契約を解除することができてしまいます。
業者側としては、解除されるリスクを減らすため、出演者の数を絞ることになりそうです。
そうなると出演できる人数が減り、結果的に収入の減少につながります。
AV新法では、撮影の1ヶ月以上前に出演契約を締結しておくことが必要です。
そのため、体調不良などで急遽出演することができなくなってしまったとしても、事前の契約をしていない人に代役をしてもらうことができません。
責任感の強い女優さんや男優さんであれば、交代ができないことから、体調不良を隠して出演してしまうということが起こる可能性があります。
AV新法は、数々の出演契約の無効・取消・解除事由が定められており、一定期間は自由に契約を任意解除することも可能です。
撮影後に、出演者の1人が契約を解除すると言えば、そのAVを世に出すことはできなくなってしまいます。
そうなると、業者側にとっては、信頼のできる人物以外の人に出演をさせることは大きなリスクです。
未経験者や信用が築かれていない経験の浅い女優・男優には仕事の依頼が来なくなってしまいます。
AV新法の施行前から、FC2アダルト動画やpornhubなどのアダルトサイトにて、AVを販売したり投稿したりする同人AVの人気が高まっていました。
同人AV業界では、適正AVの業界と異なり、厳格な性病検査や契約書面の作成などはなされていないことが多く、問題点が多い状況です。
また、無修正のAV、アダルト動画が多数販売されるなどして、一斉摘発がなされるなど、複数の逮捕者が出ています。
適正AVの業界がAV新法で厳しい規制にさらされている状況下で、法を守らない違法同人AV業界に人が流れていき、違法動画が増えてしまうことが懸念されます。
同人AVの逮捕事例等については、以下の記事もご参照ください。
AV出演契約は、AV作品(性行為映像制作物)ごとに、契約を締結しなければなりません(AV新法4条1項)。
一度撮影した映像を再編集して二次利用し、過去作品と同一性がない映像になる場合には、再度のAV出演契約が必要です。
出演するAVが特定されていない契約は無効になります(AV新法10条1項)。
AV出演契約は、書面又は電磁的記録(電子契約書など)で締結しなければなりません(AV新法4条2項)。
電磁的記録については、PDFファイルなどを電子メールなどで送信して契約を締結することが想定されています。
クラウドサインなどの電子契約書でもよいでしょう。
AV出演契約書には、以下の10項目を記載する必要があります
・当事者の会社名・氏名・名称、特定するために必要な事項(AV新法4条3項柱書)
→特定するために必要な事項としては、住所や連絡先が必要です。
・AV出演契約を締結した日時・場所(AV新法4条3項柱書)
・出演者が性行為映像制作物に出演をすること(AV新法4条3項1号)
・撮影予定日時・場所(同2号)
・撮影の具体的内容(同3号)
→出演者がAVに出演するかどうか、契約をするかどうかの判断ができる程度に具体的な内容であることが必要です。
性行為(本番)があるのか、回数、生かゴムありか(避妊具の有無)、他のプレイの内容、特殊な性癖に基づく場合はその内容など。
・性行為等の相手方を特定するために必要な事項(同4号)
→相手の男優・女優など、出演する候補者、キャスティングを事前に明らかにしておく必要があります。
・公表の具体的な方法・期間(同5号)
→販売する媒体(DVD等)、方法(インターネット配信、テレビ放送等)、視聴可能となる条件(有料配信のみ等)などを明示する必要があります。また、公表期間はいつからいつまで公表されるのかを明示する必要があります。出演者の生活状況の変化などを考慮して決めることが求められます。
・公表をする者を特定するための必要な事項(同6号)
→差し止め請求をする場合の相手方になり得る人を事前に伝えておく必要があります。契約当事者以外に、動画配信サイトなどのプラットフォーマーやオンライン販売会社、DVDの店舗販売やレンタルをする会社がある場合には、この会社を記載する必要があります。
・報酬額と支払時期(同7号)
・公表する場所・ウェブサイト(同8号・内閣府令2条)
AV出演契約書等は、締結後、すみやかに、当事者に交付をしなければなりません(AV新法6条)。
交付がない場合には、撮影の期間制限により撮影はできません(AV新法7条1項)。
また、出演者は出演契約の取り消しができます(AV新法11条)。
この契約書面等の交付義務に違反した場合は罰則(AV新法21条2号)があり、逮捕される可能性があります。
AV出演契約の締結の場面では、出演契約書の内容に加えて、さらに詳細な説明義務があります。
説明義務は、AV新法の規定や出演する女優・男優の権利などの事項について、書面(説明書面等)を交付して説明をする義務です(AV新法5条1項)。
この説明義務は、出演者がその内容を正確かつ容易に理解できるように、丁寧かつ分かりやすく説明する必要があります(AV新法5条2項)。
また、説明の際には、出演者に、その内容を誤認させるうような説明をしてはならないと定められています(AV新法5条3項)。
説明書面等には、以下の14項目の内容を記載する必要があります。
【AV新法5条1項1号の記載事由】
・1ヶ月の撮影禁止期間(熟慮期間 AV新法7条1項・4項)
→契約書面・説明書面等交付したのち1ヶ月の熟慮期間の間は撮影(カメラテスト等も含む)をしてはならない。
・契約した内容でも性行為等の撮影を拒絶でき、損害賠償責任を負わないこと(7条2項)
・公表者には、出演者の健康・安全・衛生の保護、拒絶の任意性が確保できるような措置をとる義務があること(7条3項)
・出演者は公表される映像を確認できること(8条)
・4ヶ月の公表禁止期間(熟慮期間 9条)
・無効事由の内容(10条1項、2項)
→出演するAVを特定しない契約など契約が無効となる事由を説明しなければならない。無効事由の詳細は後述します。
・取消事由の内容(11条)
→契約書面の交付義務違反などが取消事由になることを説明しなければならない。取消事由の詳細は後述します。
・法定解除事由の内容(12条・14条)
→撮影禁止期間や公表禁止期間違反などが契約解除事由になることを説明しなければならない。解除事由の詳細は後述します。
・任意解除権・撤回権の内容(13条・14条)
→公表後の1年間(経過措置2年間)の任意解除権があることなどを説明しなければならない。任意解除権の詳細は後述します。
・差止請求権の内容(15条)
・プラバイダ責任制限法の特則の内容(16条)
【AV新法5条1項2号の記載事由】
・取消権・解除権の5年間の行使期間(5条1項2号)
【AV新法5条1項3号の記載事由】
・出演者に特定される可能性があること(5条1項3号)
【AV新法5条1項4号の記載事由】
・相談窓口の名称と連絡先(5条1項4号)
【AV新法5条1項5号の記載事由】
・性病検査の実施状況(内閣府令3条1号)
・出演者の理解できる言語への翻訳(内閣府令3条2号)
これらの事項のうち、出演者の判断に影響の大きい事項や出演者保護のために重要な事項について、文字を大きくしたり、赤字にしたり、赤枠で囲むなど、目立つようにして見やすくすることが望ましいとされています。
出演者の判断に影響の大きい事項としては、公表期間や性行為に係る姿態の具体的内容、顔の映像等により出演者が特定される可能性があることなどが想定されています。
また、出演者保護のために重要な事項については、撮影・公表の期間制限や相談窓口、損害賠償責任を負うことなく任意解除ができることやその行使期間など特に出演者の保護に資する事項が想定されています。
説明書面等は、締結後、すみやかに、当事者に交付をしなければなりません(AV新法6条)。
14項目の記載事項の記載された説明書面の交付がない場合には、撮影の期間制限により撮影はできません(AV新法7条1項)。
また、出演者は出演契約の取り消しができます(AV新法11条)。
この説明書面等の交付義務に違反した場合は罰則(AV新法21条1号)があり、逮捕される可能性があります。
AV新法での契約書面や説明書面は、法律が定める法定事項を漏れなく記載する必要があります。
法定事項が記載されていない契約書面・説明書面を交付した場合には、刑事罰があり、逮捕される可能性があります。
複雑な書面ですので、ご自身での作成が難しいようであれば、AV新法について詳しい弁護士に作成を依頼することをおすすめいたします。
グラディアトル法律事務所では、現在、AV関連会社等から依頼を受けて、契約書・説明書面の作成業務を行なっております。
当事務所の弁護士等も、以下のチェックリストを利用して、契約書や説明書面の作成・チェックを行なっております。
ご自身で書面を作成する際にも、チェックリストを利用して、自社の作成した書面に漏れや抜けがないか、確認してみてください。
また、PDFファイルをアップロードしましたので、ダウンロードや印刷してご使用ください。
リンク:AV新法契約書面・説明書面記載事項チェックリスト(グラディアトル法律事務所作成)
【①撮影禁止期間・熟慮期間】
AVの撮影は、出演者が契約書面等、説明書面等の交付を受けた日から1ヶ月間は撮影ができません(AV新法7条1項)。
撮影は、契約書面等と説明書面等の両方を出演者が受け取った日から1ヶ月以降後からでないと撮影ができません。
この1ヶ月の撮影禁止期間を短縮する旨の合意をしたとしても無効になります。
この撮影には、カメラテストやパッケージ撮影などの、AV自体と密接に関わるものも含まれます(7条4項)
【②公表禁止期間・熟慮期間】
AVは、全ての撮影が終了してから4ヶ月間は公表ができません(AV新法9条)。
撮影の終了には、編集までは含まれません。
この4ヶ月の公表禁止期間を短縮する旨の合意をしたとしても無効になります。
【③撮影拒否権】
出演者は、AV出演契約を締結したとしても、撮影時に性行為にかかる姿体の撮影を拒絶することができます(AV新法5条2項)。
出演者が撮影を拒否したことにより、制作会社や公表にかかる販売会社に損害が生じたとしても、出演者は損害賠償責任を負いません。
【④健康等・任意性配慮義務】
AV撮影にあたっては、出演者の健康・安全・衛生に配慮し、出演者が任意に撮影をし、自由に撮影を拒絶できるように配慮しなければなりません(AV新法5条3項)。
健康・安全・衛生については、性病への配慮や、望まぬ妊娠への配慮(避妊)も含まれます。
また、任意性の確保については、性行為等のみならず、出演者を特定できるようなインタビューや出演者のプライバシー権についても出演者が拒否できるように配慮する必要があります。
【⑤映像確認機会の付与】
AVの制作公表者は、公表前に、公表するAVを出演者が確認する機会を与えなければなりません(AV新法8条)。
この規制は、出演者が想定していない映像が公表されることを防ぐための規制ですので、出演者が映像を確認した上で、公表を拒否することができます。
映像の確認の機会を与えたというためには、確認できる十分な時間を与えることが必要です。
AV新法では、AV出演契約について、契約の無効事由、取消事由、解除事由など、さまざまな規制をしております。
厳密にいえば、法律上は、無効・取消・解除は異なる部分もありますが、ここでは、どれも契約の効力を無かったことにできるものだと考えていただければと思います。
【①個別にAVを特定しない出演契約】
AV出演契約締結上の3つの義務のところで説明しましたが、AV出演契約はAVごとに個別に契約をしなければなりません。
個別AVごとに、AVを特定することなく締結されたAV出演契約は無効となります(AV新法10条1項)。
【②損害賠償額の予定・違約金条項】
AV出演者に損害賠償をさせる旨の損害賠償額の予定・違約金条項は無効になります(AV新法10条2項1号)。
例えば、「撮影当日にバックれた場合には罰金100万円」といった条項は無効になります。
【③制作公表者の損害賠償責任を制限する条項】
AV制作公表者(業者側)の損害賠償責任を免除したり、制限したりする条項は無効になります(AV新法10条2項2号、3号)。
損害賠償について、業者側に有利な条項は無効ということです。
この損害賠償責任には、債務不履行責任(2号)と不法行為責任(3号)があります。
【④出演者の権利を制限し義務を加重する条項】
AV出演者の権利を制限したり、義務を加重する条項は無効となります。
出演者に不利な条項は無効ということです。
契約書面や説明書面の交付義務に違反した場合、契約内容等について誤認させる説明をした場合には、出演者は、AV出演契約を取り消すことができます(AV新法11条)。
【①契約書面の交付義務違反(AV新法11条・6条)】
【②説明義務違反・説明書面の交付義務違反(AV新法11条・5条1項)】
【③誤認させる説明(AV新法11条・5条3項)】
民法では、契約を解除する場合には、催告(民法541条)が必要ですが、以下の事由がある場合には、出演者は無催告でAV出演契約を解除できます(AV新法12条)。
出演者は、AV出演契約を解除した場合には、公表の差止請求ができます(AV新法13条)。
制作公表者は、出演者に対して損害賠償請求はできません(AV新法12条2項)。他方で、出演者から制作公表者に対する損害賠償請求は可能です。
解除された場合には、双方が、原状回復義務を負う(AV新法14条)ため、出演者が受領したAV出演報酬(ギャラ)は返還する必要があります。
【①撮影禁止期間違反(AV新法12条1項1号・7条1項)】
【②撮影の安全性・任意性確保義務違反(AV新法12条1項1号・5条3項)】
【③映像確認義務違反(AV新法12条1項2号・8条)】
【④公表禁止期間違反(AV新法12条1項3号・9条)】
AV出演契約は、公表後1年以内であれば、その申込みを撤回し、任意に解除をすることができます(AV新法13条1項)。
この契約解除は書面や電磁的記録(電子メールなど)で行う必要があります。
経過措置として、AV新法施行後2年間は、公表から2年以内の解除権が認められています。
この任意解除の期間は複雑なので、以下の図を参照してください。
この任意解除については、解除通知の書面が発送されたときに効力が生じます(発信主義 AV新法13条2項)。
制作公表者は、出演者に対して損害賠償請求はできません(AV新法13条3項)。他方で、出演者から制作公表者に対する損害賠償請求は可能です。
解除された場合には、双方が、原状回復義務を負う(AV新法14条)ため、出演者が受領したAV出演報酬(ギャラ)は返還する必要があります。
制作公表者は、出演者からの任意解除を妨げるために不実告知(嘘をつく)をすることや、威迫・困惑させることが禁止されています(AV新法13条5項、6項)。
この任意解除妨害には、罰則があり、違反すると逮捕される可能性があります。
AV出演者は、AV出演契約に基づかないAVの公表や、無効・取消・解除事由があるAVの公表の差止、予防、削除などの措置を請求することができます(AV新法15条1項、2項)。
AVなどの性行為映像制作物が公表されてしまい、公衆の目に触れることになった場合、個人の尊厳が害され、事後的な金銭賠償では回復し難い損害をを被るおそれがあることから、AV新法はAVの差止請求権を認めています。
AV差止請求権の対象となるAVは、以下のとおりです。
・出演契約に基づかないAV
・出演契約と内容の異なるAV
・公表の方法・期間等が出演契約の内容と異なるAV
・無効・取消・解除事由があるAV出演契約に基づくAV
AV差止請求の相手方は、AVの制作公表を行う者や制作公表を行うおそれがある者です。制作公表者自身に限られません。
AV差止請求の内容は、事前にAVを公表しないようその予防請求や、すでに公表されてしまったAVの削除や店頭からの回収、データの消去などが含まれます。
制作公表者は、出演者が差止請求をしようとするときは、差止請求の相手方となりうるものの情報の提供をするなど、差止請求に協力をしなければなりません(AV新法15条3項)。
プロバイダ責任制限法は、インターネット上での誹謗中傷についての削除や発信者情報開示、これによるプロバイダ等の事業者の損害賠償責任について規定している法律です。
AV新法では、AV、性行為映像制作物が流通することによる出演者への権利侵害の程度が大きくなることから、プロバイダ責任制限法の特則を定め、削除や発信者情報開示請求がしやすいような規定(AV新法16条)がなされています。
具体的には、削除や開示に応じた場合のプロバイダ等の責任を以下の場合には損害賠償義務を負わないと限定することにより、削除や開示をしやすくしています。
・特定電気通信による情報であって性行為映像制作物に係るものの流通によって権利を侵害された出演者から、
①当該権利を侵害したとする情報 (以下「当該性行為映像制作物侵害情報」といいます。)
②当該権利が 侵害された旨
③当該権利が侵害されたとする理由
④当該性行為映像制作物侵害情報が性行為映像制作物に係るものである旨
を示して当該情報の送信を防止する措置(以下「性行為映像制作物侵害情報送信防止措置」といいます。)を講ずるよう申出があったとき。
・当該特定電気通信役務提供者が、発信者に対し上記①〜④を示して性行為映像制作物侵害情報送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを 照会したとき
・発信者が照会を受けた日から2日を経過しても当該発信者から性行為映像制作物侵害情報送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がな かったとき
前述したように、AV出演契約は、公表後1年以内であれば、その申込みを撤回し、任意に解除をすることができます(AV新法13条1項)。
この任意解除について、以下の2つの行為をした場合、解除妨害として、3年以下の懲役、300万円以下の罰金、又はこの併科(両方)が科せられます。
①任意解除についての不実告知(嘘をつく)
②任意解除を妨げるための威迫・困惑
また、法人の代表者や従業員が法人の業務に関して上記の行為を行った場合には、法人に対して、1億円以下の罰金刑が定められています(AV新法22条1号)。
前述したように、AV出演契約においては、出演契約書(AV新法6条)と説明書面(AV新法5条1項)に法定事項を記載して、出演者に交付をしなければなりません。
これに違反して、出演契約書・説明書面を交付しない場合や、法が定める記載事項が記載されていない場合、虚偽の内容の書面を交付した場合には、6月以下の懲役、100万円以下の罰金、又はこの併科(両方)が科せられます。
また、法人の代表者や従業員が法人の業務に関して上記の行為を行った場合には、法人に対して、100万円以下の罰金刑が定められています(AV新法22条2号)。
2022年12月6日、警視庁は、AV新法を適用した全国初の摘発をしたと発表しました。
その後、2023年9月14日、東京地裁は、懲役2年、執行猶予3年、罰金150万円、追徴金約876万円(求刑懲役2年、罰金150万円、追徴金約876万円)の判決を出しました。
FC2で無修正動画を販売していた男について、AV新法の契約書面の交付義務違反で逮捕したとのことです。
判例での量刑については、AV新法違反の他、わいせつ電磁的記録の陳列罪も同時に判断されているため、AV新法違反の身の場合よりも重くなっていると考えられます。
前述したように、AV新法は、適正AV業界から多くの批判が上がっており、その運用についても疑問視されています。そのため、違法な無修正業者、違法同人AV業者がAV新法違反で最初に逮捕・摘発されるのではないかと予測していましたが、現実に、そのようになりました。
今後も、違法同人AV業者がAV新法違反で逮捕・摘発される事例は増えてくるでしょう。
【AV出演者に契約書不交付か 役員を逮捕 AV新法で全国初の検挙】
アダルトビデオを制作する際に出演者に契約書などを交付しなかったとして、映像制作会社の50歳の役員がAV出演被害防止・救済法、いわゆる「AV新法」違反の疑いで警視庁に逮捕されました。
ことし6月に施行された「AV新法」を適用して検挙するのは全国で初めてだということです。
逮捕されたのは東京 品川区に住む映像制作会社の役員の〇〇容疑者(50)です。
警視庁によりますと、役員はことし8月から10月までの間に、アダルトビデオの制作にあたって、出演者3人に契約書などを交付しなかったとしてAV出演被害防止・救済法、いわゆる「AV新法」違反の疑いが持たれています。
「AV新法」は、アダルトビデオへの出演の強要などを防ぐため、ことし6月に施行され、制作者側と出演者が書面で契約を交わすことなどが義務づけられたほか、契約にあたってうその説明をした場合や、契約の際に書面を渡さなかった場合などについての罰則も設けられました。
役員は、わいせつな行為を撮影した無修正の動画を動画投稿サイトに投稿したとして逮捕・起訴されましたが、別の動画を制作する際に出演者に契約書などを交付しなかった疑いがあることが新たに分かったということです。
調べに対し、容疑を認めているということです。
「AV新法」を適用して検挙するのは、全国で初めてだということです。
2022年12月6日 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221206/k10013914011000.html
AV新法違反罪の男に有罪 全国初適用、東京地裁
自ら制作したアダルトビデオ(AV)の出演女性に必要な契約書を交付しなかったなどとして、AV出演被害防止・救済法違反などの罪に問われた映像制作会社「グレイスエンターテイメント」(千葉県市川市)の代表〇〇被告(50)に東京地裁(安永健次裁判長)は14日、懲役2年、執行猶予3年、罰金150万円、追徴金約876万円(求刑懲役2年、罰金150万円、追徴金約876万円)の判決を言い渡した。法人は求刑通り罰金30万円とした。
同法は昨年6月施行。警視庁が同年12月、〇〇被告を全国で初めて立件した。
〇〇被告は同法違反罪については無罪を主張。わいせつ電磁的記録陳列罪の起訴内容は認めていた。
東京新聞 2023年9月14日 https://www.tokyo-np.co.jp/article/277310
AV新法では、対象となるAVについて、「性行為映像制作物」として定義をしています。
「性行為映像制作物」には、性行為・性交についての映像が含まれています。
AVの出演者は、報酬・ギャラをもらう以上、性行為の対価としての報酬を得ているといえそうです。
他方で、売春防止法は、「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう(売春防止法2条)と定義しています。
そして、売春防止法は、売春を禁止し、あっせんや場所の提供など、売春を助長するような行為に罰則を設けています。
AV女優や男優といったAV出演者は、報酬をもらい、不特定の相手と性交をしている以上、売春防止法が禁止する売春に該当すると考えられます。
そうなると、AV制作会社やプロダクションなどは、売春をあっせんしたり、場所を提供する違法行為をおこなっていると考えられるところです。
AV新法は、売春防止法が禁止する売春行為を「性行為映像制作物」と定義して、その契約等について定めていることから、売春に該当するAVを認める法律ともとらえることができそうです。
しかし、AV新法では、売春防止法などの他の法律が禁止する行為ができるようになるものではないという注意規定が存在します(AV新法3条4項)。
なんとも矛盾した規定だろうか。。。
売春防止法については、以下の記事をご参照ください。
ここまで見てきたように、AV新法では、さまざまな規制がなされています。
そして、それぞれの規制に違反した場合に、民事上の契約の効力が失われるだけなのか、刑事上の罰則が規定されていて逮捕されるリスクがあるのかなど、その効果にも違いがあります。
また、AV新法では、出演契約をする際に、出演契約書、説明書面に法定事由をもれなく記載をし、交付しなければなりません。
この書面の交付義務違反には刑事罰があり、違反すると逮捕されてしまう可能性があります。
にもかかわらず、AV新法の条文は複雑で、全ての法定事項を満たした契約書面・説明書面を作成するのは簡単ではありません。
AV関連業者の皆様は、是非とも、AV新法やナイトビジネス業界に詳しい弁護士に相談をして、できれば顧問契約をして法改正に対応するようにしてください。
グラディアトル法律事務所では、すでに複数の経営者の方からの依頼を受け、顧問弁護士としての業務を行う他、AV新法対応の契約書面・説明書面の作成を行なっております。
是非一度、ご相談ください。
アダルトビデオ・AVに出演する女優さんや男優さんを守るための法律で、AV出演に関する契約の内容や締結方法、撮影禁止期間・公表禁止期間などを定め、出演強要問題を防止するための法律です。
違反行為には罰則や契約の効力を無効にするような効果が定められています。
また、出演者であるAV女優さんやAV男優さんが、契約を任意に解除できる期間なども定めています。
もっとも、急遽作られたことから、業界の実情・実態が反映されておらず、かえって、出演者を苦しめる事態も生じてしまっております。
令和4(2022)年6月23日以降のAV出演契約から適用されます。
それより前にした契約にはAV新法は適用されません。
AV出演契約をしたとしても撮影を拒否できます。
出演したAVを公表前に確認することができます。
AV出演契約にAV新法への違反がある場合に契約の無効などを主張できます。
AV公表後1年以内(経過措置2年以内)は、理由なく自由に任意解除ができます。
AVの差止請求・削除請求ができます。
AV新法の対象となるAV=性行為映像制作物は、アダルトな内容の動画である旨は定義されていますが、従来のAVと個人で撮影するような同人AVを分けて規定していません。
そのため、個人で撮影するような同人AVにもAV新法の適用があります。
カップルpornhuberのような特定のカップルでAVを撮影し、公表しているような人たちの場合にも、AV新法の適用が除外されるような規定はありません。
しかし、カップルで同人AVを撮影し、公表している人たちは、AVの出演者であり、かつ、AVの制作公表者でもあります。このように同一人が出演者と制作公表者の両方の立場を有する場合には、自分で自分と契約をすることになり、契約の自己矛盾を起こします。
グラディアトル法律事務所の弁護士の見解としては、AV新法の趣旨からしても、特定のカップルで出演者と制作公表者を両立するような場合には、AV新法の適用はないものと考えます。
AV新法は、急遽成立したため、想定をしていない事項が生じてきています。
AV新法の中でもインパクトの強い撮影禁止期間や公表禁止期間の違反には罰則がないため、これに違反しても逮捕されません。
結論として、AV新法上、プラットローム側は、AV新法の契約書を作成・保存する義務はありません。
AV新法で契約書の作成義務や説明義務が生じるのは、AV「出演契約」を締結する場合です。
「出演契約」とは、出演者が、性行為映像制作物への出演をして、その性行為映像制作物の制作公表を行うことを承諾することを内容とする契約(AV新法2条6項)をいい、プラットフォームは出演者との間で「出演契約」を締結する立場にないからです。
なお、プラットフォームは、AVの制作公表者との間で契約をする「制作公表従事者」であると解されます。
「制作公表従事者」とは、制作公表者以外の者であって、制作公表者との間の雇用、請負、委任その他の契約に基づき性行為映像制作物の制作公表に従事する者(AV新法2条8項)をいいます。
AV新法上、プラットフォーム、制作公表従事者に対して、出演者の年齢確認義務や身分証の保存義務を定めた規定はありません。
また、風営法の映像送信型性風俗特殊営業においても、従業者名簿の作成や保存が義務付けられておらず、出演者の年齢確認義務や身分証の保存義務を定めた規定はありません。
風営法の映像送信型性風俗特殊営業の詳細や、届出が必要な人が誰なのかについては、以下の記事をご参照ください。