前回の記事でも書いたように,現在,風俗トラブルの中でも盗撮被害が増えてきている。風俗の中でも特にデリヘルでは,風俗嬢のテリトリーではなく,客のテリトリーである自宅へ行く機会も多く,被害が増えてきている印象だ。
警察もカメラの小型化や高性能化による盗撮事犯の増加を懸念しており,取り締まりを強化していきている。
前回の記事では,風俗で盗撮した客が逮捕されるのか,刑事事件化した場合,どのような罪になるのかについて記載した。
今回は,刑事事件化をしないで,盗撮をした客に慰謝料などの損害賠償請求をする場合,示談等の民事事件で解決する場合について記載する。
前回の記事でも書いたように,風俗で働く女性キャストにとって,盗撮は重大な問題だ。
盗撮されること自体が風俗嬢に多大なる精神的ダメージを与える。加えて,万一,その盗撮動画がインターネット上に流出してしまった場合には,そのダメージは計り知れない。
デリヘル等の風俗店経営者にとっても,女性キャストが被害を受けて,お店を休んでしまったり,辞めてしまったりしたら,大きな損害だ。また,あの店では盗撮できたなどとの噂が広まってしまったら求人へのダメージは大きいだろう。
盗撮の被害にあえば,風俗嬢も風俗店も損害を被り,その損害を賠償してほしい,盗撮犯には賠償責任が生じることは理解できるだろう。
では,具体的な,法律上の根拠って何だろう?
結論から言えば,不法行為と債務不履行の2つだ。
不法行為とは何だろう?不法行為とは,民法が定める損害賠償請求を発生させる規定の中でも一般的な規定だ。
悪いことしたり,ミスして人に損害を与えたら,その損害を賠償しなさいという規定だ。
物を壊した場合の損害賠償請求や,交通事故の損害賠償請求などもこの不法行為に基づいて請求される。
民法
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
では,損害賠償請求ができる条件って何だろう?
「故意又は過失」:盗撮の場合は故意だよね。うっかり盗撮しちゃったとかではなく,意図的に盗撮してるからね。
「他人の権利…を侵害」:盗撮行為自体がプライバシー権等の人格権を侵害するね。店の営業権も侵害してるね。
「損害」:損害の発生が必要。これについては,後述する。
「これによって生じた」:盗撮行為と損害の因果関係が必要だよ。
以上のように,風俗での盗撮被害についても。不法行為による損害賠償請求ができる。
債務不履行とは,契約で決められた義務を履行しないことをいう。簡単にいうと約束違反だ。
約束を破られて損害が発生した場合に,その損害の賠償請求ができるという規定だ。
民法
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
デリヘル等の風俗店を利用する場合について考えてみよう。
客と風俗店との間で,客が風俗店に対価を払い風俗店と契約している女性キャストから性風俗関連特殊営業のサービスを受けることを目的とする契約を締結する。その契約の内容として,盗撮をしてはいけないという合意が含まれていれば,これに違反した場合の損害賠償請求ができる。
盗撮行為は犯罪行為であるため,これを禁止していることは強く推認されるし,HPの記載や予約の際の案内内容からも推認されて,契約の中身となっていると考えられる。
以上のように,風俗店で盗撮被害にあった場合には,不法行為や債務不履行に基づいて損害賠償請求ができる。
その際の損害額はどのように算定をするのだろう?そもそも盗撮された場合の損害って何?
盗撮された場合の損害として,考えやすいのが以下の2つだ。
1つは,慰謝料。もう1つは,休業損害だ。
慰謝料は,精神的苦痛を慰謝するための損害賠償だ。
盗撮された精神的なダメージを金額に換算して請求する。
休業損害は,盗撮被害によって精神的なダメージを受けるなどして出勤できなくなってしまった場合,盗撮行為がなく通常通り働けていたならば稼げていただろう損害を賠償するものだ。
風俗店で盗撮された場合の損害賠償請求の損害項目としては,上記の2つがメジャーだろう。
前述した盗撮被害による損害は,請求する側が立証するのが原則だ。
ただ,盗撮により具体的にどの程度のダメージを被ったか,その被害を立証することは容易ではない。
このように,立証が難しい場合の損害額をあらかじめ定めておくことが民法上認められている。
それが,損害賠償額の予定というものだ。契約書などでは違約金条項などと呼ばれたりもしている。
風俗トラブルとの関係でいえば,「本番強要したら罰金100万円」とかの記載が店舗型風俗店に貼り出してあったが,これはこの損害賠償額の予定に近いものだろう。
民法
(賠償額の予定)
第四百二十条 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。
すなわち,風俗店とお客さんがお店を利用する際の契約の内容として,盗撮をしたら損害賠償〜円,本番をしたら損害賠償〜円ということが定められていれば,その金額を盗撮や本番による損害として請求できるのだ。
契約の内容となっていると後々立証するためには,HPに記載しておく,予約時に案内をして証拠化しておく,サービス開始前に規約にサインをしてもらっておくなどが必要だろう。
ただ,この場合にも注意しておいて欲しいのは,高額すぎる場合には,公序良俗違反として無効(一部無効)になってしまう可能性があるということだ。
適正な金額を記載するようにしよう。
盗撮した客に損害賠償請求ができることはわかった。
その根拠として不法行為だとか債務不履行があること,損害項目として慰謝料や休業損害があることもわかった。
で,いったい,いくらの損害賠償請求ができるの?相場とかあるの?
慰謝料の金額については以下の要素などを総合考慮して決めていくことになるだろう。
・行為態様の悪質性
初犯か常習犯か,未遂か既遂か,スマホ1台の撮影なのか専用の機材を複数使っているのか,流出の有無など。
・被害結果の重大性
女性キャストは被害後働けるようになるまでの期間の長短,精神疾患等の診断結果の有無・程度,実害(身バレの有無など)の有無など。
・行為後の反省や謝罪の有無
他方で,休業損害については,盗撮被害にあった風俗嬢のこれまでの売上,出勤日数,被害後の出勤状況などから判断されることになるだろう。
以上の事情のほかに,裁判ではなく交渉・示談で解決をしていく場合には,双方の事情が重要なファクターとなる。
盗撮をしてしまった客の社会的な地位,財産状況,盗撮被害にあった風俗嬢の怒りの程度,盗撮被害にあった風俗店の方針などによって,実際の示談の成立する金額は異なってくる。
当法律事務所の弁護士は,風俗店や風俗嬢からの依頼で盗撮をした客に損害賠償請求をした事案,損害賠償請求をされている客からの依頼で店や風俗嬢と交渉した事案など,両側面からの数多くの案件を経験してきた。
10万円程度で示談した事案もあれば,200万近い金額で示談をした事案もある。
以下のリンク先のページに客側の代理人として示談をしたケースをまとめたので,ひとつの参考にしてほしい。
→リンク:https://criminal-case.gladiator.jp/category/settle-column/
また,以下のページでは,盗撮の慰謝料相場について考察し,裁判例も紹介しているので,こちらも参考にしてほしい。
プレイ中や終了後に風俗嬢が盗撮を発見,店に電話をして店の人がホテル等へやってきて示談交渉。
デリヘルでの盗撮被害にあったときの示談交渉はこんな流れが多い。
その際に注意すべきことは何か?
もちろん,一番気をつけなければならないのは,怒りのあまりカッとなって脅迫・恐喝をしないことだ。「会社に連絡をするぞ」「家族にばらすぞ」などと脅してしうと店側が恐喝罪等で逮捕されてしまうリスクがあるからだ。
また,逮捕されないとしても,後から示談をひっくり返されてしまうリスクもある。
すなわち,脅迫されてした示談だから取り消す,示談書も無効だとの主張がなされ,その脅迫の主張が認められてしまうかもしれないのだ。実際に風俗トラブルの示談書を脅迫されたものとして取り消して,すでに支払ってもらっていた示談金の一部を返せという裁判れ一もある。
健全に風俗店を営む皆様は脅したりはしないだろう。
ただ,脅していなくても,後からあのときの示談書は脅されて書いたものだから無効だなどと難癖をつけられて支払いを拒絶される例もある。
そのため,示談交渉の一部始終を録音・録画しておくのが良い。これにより,脅したりせずに,相手方も納得のうえで合意したことの証拠になる。
また,今後の流出防止,証拠確保のために,撮影に使用された盗撮機材は没収したいところだ。とはいえ,相手が拒否しているものを無理やりとるわけにはいかないので,納得してもらい,その旨の一筆をとるべきだ。
示談書・合意書とは,示談した内容を記載した書面のことだ。
この示談書を作る最大のメリットは,示談した内容を証拠化することにある。
盗撮をした客が当日示談金全額を用意できない場合などで,後日の支払いを約束して示談をしたとする。その後,盗撮をした客がお金を払いたくなくなって,盗撮はしていないとか,金額が高すぎるとか言って支払いを拒むことがある。このように事後に合意した内容を蒸し返されることを防ぐために,しっかりと示談書を締結すべきだ。
その際には,いつ,どこで,どんな行為(盗撮と記載)を行ったかをしっかりと記載すべきだ。
また,先ほど述べたように,客が盗撮に使用したカメラ等の機材の所有権を放棄し,そのカメラやデータを店ないしは女性キャストが正当な目的の範囲内で利用できるような条項も付け加えるべきだ。
盗撮犯が逃げてしまって,店からの電話にも出ない。
このような相談を受けることがある。
この場合にも,弁護士であれば,電話番号からその電話番号を使用している客の契約者情報を取得できる可能性がある。過去に当法律事務所の弁護士が依頼を受けたケースでも,電話番号から住所・氏名を特定して,その住所宛に損害賠償請求を求める内容証明を送り,損害金を回収できたケースがあった。
そのため,逃げられてしまった場合にも,上記のような方法があると覚えておいてほしい。
なお,その他の風俗トラブル記事は以下のページを参照してほしい。