さいたま市大宮駅のキャバクラ経営者が健康保険法違反で逮捕された。
暴力団との関係を視野に入れて捜査を進めるとのことで,別件(暴力団関係)を洗うために健康保険の未加入で逮捕されたのではないかという別件逮捕ではないかという声も上がっている。
まずはニュースを見てみよう。
南銀キャバクラ経営者2人を逮捕 背後に暴力団組織か 県警が一斉に家宅捜索、売上金の流れ調べる
健康保険の被保険者の資格を取得したのに届け出なかったとして、埼玉県警大宮駅周辺地区暴力団壊滅集中取締本部は5日までに、健康保険法違反の疑いで、さいたま市大宮区の大宮南銀座通り(南銀)でキャバクラ店を営業する、いずれも飲食業の「サードニクス」代表取締役の男(30)=さいたま市岩槻区加倉1丁目=と、「TOP’Sホールディングス」代表取締役の男(29)=同市中央区本町東5丁目=を逮捕し、さいたま地検に送検した。
県警は4日、南銀地区の店舗など数カ所を一斉に家宅捜索。背後に暴力団組織が関係しているとみて、両容疑者の関係や売上金の流れについて調べる。
逮捕、送検容疑は、30歳男が2013年6月25日、29歳男が昨年4月1日、それぞれの会社の代表取締役に就任し、被保険者の資格を得たのに、正当な理由なく、5日以内に日本年金機構に届け出なかった疑い。
県警捜査4課によると、2人は南銀地区でそれぞれキャバクラ店を営業。本社は名古屋市など別の場所で登記しており、会社の実態はなかったとみられる。同地区は県の条例で暴力団排除特別強化地域に指定されている。
両容疑者は「日本年金機構から何度か封筒が届いたが、届け出していなかった」と供述しているという。
埼玉新聞 2020/11/6 10:15 https://www.47news.jp/localnews/5463043.html
健康保険未加入でどうして逮捕されたのか?
ニュース内容を見ると、「会社の役員として健康保険に加入するための届け出をしなかった」として警察がキャバクラ店の経営者ら2人を逮捕したとあります。
今回問題となるのは、健康保険法という法律です。
健康保険の適用事業者に該当する場合、事業主は新しく従業員を雇ったときには、5日以内に日本年金機構に対して「被保険者資格取得届」を提出しなければならないこととなっています。
健康保険法
第四十八条 適用事業所の事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、被保険者の資格の取得及び喪失並びに報酬月額及び賞与額に関する事項を保険者等に届け出なければならない。健康保険法施行規則
第二十四条 法第四十八条の規定による被保険者(任意継続被保険者を除く。以下この条、第二十九条、第三十六条、第三十六条の二及び第四十二条において同じ。)の資格の取得に関する届出は、当該事実があった日から五日以内に、様式第三号又は様式第三号の二による健康保険被保険者資格取得届を機構又は健康保険組合(様式第三号の二によるものである場合にあっては、機構)に提出することによって行うものとする。この場合において、協会が管掌する健康保険の被保険者が同時に厚生年金保険の被保険者の資格を取得したときは、個人番号又は基礎年金番号、第三種被保険者(国民年金法等の一部を改正する法律(昭和六十年法律第三十四号)附則第五条第十二号に規定する第三種被保険者をいう。第二十八条において同じ。)に該当することの有無を付記しなければならない。
健康保険の未加入はただの法律違反ではなく、罰則付きの違法行為となっています。
事業主が正当な理由がなくて被保険者資格取得届を提出しない場合には、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金が定められています。
また、被保険者資格取得届の提出が遅れたり、提出されていないことが後で発覚したりした場合には、新しく従業員を雇ったときにさかのぼって保険料を支払わなければなりません。
健康保険法
第二百八条 事業主が、正当な理由がなくて次の各号のいずれかに該当するときは、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第四十八条(第百六十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をしたとき
今回のニュースを見ると、キャバクラ店は会社により経営がされていたようです。
株式会社、有限会社、合同会社といった「法人」が常時従業員を使用する場合には、健康保険法の「適用事業者」になり、従業員の人数にかかわらず健康保険に加入する手続きを取らないといけないことになります。
健康保険法
第三条
3 この法律において「適用事業所」とは、次の各号のいずれかに該当する事業所をいう。
二 前号に掲げるもののほか、国、地方公共団体又は法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの
キャバクラでは、ホステスや黒服といわれるボーイが働いています。キャバクラ店がホステスやボーイを「常時従業員」として雇っているケースも多いと思いますので、法人が経営しているキャバクラ店がホステスやボーイを雇ったときには、健康保険に加入する手続きを取らなければなりません。
ホステスやボーイとは業務委託契約を締結していると考えている経営者も多く、健康保険の未加入でも問題はないと考えている方もいるかもしれません。しかし、労働者に当たるかどうかは契約の名称で判断されず、働き方の実態に着目されます。労働者に当たるかどうかは弁護士などに相談してみてください。
ホステスが労働者に当たるかは次の記事も参照してください。
注意点ですが、会社の代表取締役などの役員も会社に使用されている立場なので「常時従業員」にあたります。ホステスやボーイを雇っていなくても、自分が健康保険に未加入である経営者は原則として違法となります。
今回逮捕された経営者2人も代表取締役として被保険者の資格を得たのに、正当な理由なく届出をしなかったことが原因で逮捕されています。
健康保険に未加入だと逮捕されてしまうのか。
今回のニュースは被保険者資格取得届を提出していなかったことで逮捕されているようです。しかし、新しく従業員を雇ったときに健康保険に未加入であった事業主はみな逮捕されてしまうのでしょうか。
風俗グループ率いる35歳男逮捕、健康保険法違反疑い 愛知県警
愛知県警捜査4課と中署などは27日、健康保険の被保険者の資格を得たのに届け出なかったとして、健康保険法違反の疑いで、東海地方でキャバクラなどの風俗店を経営するグループを率いる〇〇容疑者(35)=名古屋市中区=ら4人を逮捕した。
4人はいずれもグループ関連会社の代表取締役。〇〇容疑者は「社会保険に入っていないことは事実だが、会社の経理関係は任せているとしか言えない」と容疑を一部否認している。
4人の逮捕容疑は、平成25~28年、それぞれ代表取締役に就任し、健康保険の被保険者の資格を得たのに、5日以内に日本年金機構に届けなかったとしている。事業所としての届け自体が現在まで出されていないという。
産経NEWS 2018.4.27 21:17 https://www.sanspo.com/geino/news/20180427/tro18042720550008-n1.html
社員を健康保険に加入せず 金沢の暴力団組長ら逮捕
雇用した社員を健康保険に加入させていなかったとして、金沢市の暴力団の組長と会社役員の男が8日逮捕されました。
逮捕されたのは金沢市新神田の指定暴力団・6代目山口組傘下組織の組長・〇〇容疑者(71)と、金沢市小立野の会社役員・〇〇容疑者(29)です。
石川県警の合同捜査班によりますと、去年3月ごろから今年8月ごろまでの間、2人は共謀の上、雇用していた20代から50代の男性社員3人について、健康保険の被保険者としての資格を取得したにもかかわらず、日本年金機構に届け出なかった健康保険法違反の疑いがもたれています。
3人の社員が勤務していたのは金沢市内にある土木工事を営む会社で、外喜範容疑者が実質的に経営していて、悠人容疑者が代表取締役を務めていたということです。
調べに対し、2人とも容疑を否認しています。警察は余罪や共犯者の有無について捜査しています。
MRO北陸放送 2020年9月9日 18時55分 https://news.livedoor.com/article/detail/18870547/
このように、健康保険に未加入であったことで逮捕されてしまうケースもたしかにあります。
しかし、今回逮捕された経営者らも「日本年金機構から何度か封筒が届いたが、届け出していなかった」などと供述しているように、通常は日本年金機構から催促が来ます。それにもかかわらず、催促を無視して届出を提出しない場合は逮捕されてしまうのでしょう。
また、今回は、暴力団を取り締まる部署により逮捕がなされたようです。石川県でも暴力団がらみで健康保険法違反の逮捕者が出ており、警察の目的は健康保険法違反を取り締まることにあるとは必ずしもいえないようです。
ただし、従業員を新しく雇ったのに健康保険に未加入であることが違法であることに変わりはなく、日本年金機構からの催告を無視していればいつ逮捕され罰則の適用を受けるか分かりません。
健康保険と同様の加入条件がある厚生年金については、厚生労働省が取り締まりを厳しくしていると言われており、2018年9月時点で厚生年金への加入を逃れていた事業主は3年前に比べて半減したといわれております。健康保険についても取り締まりが厳しくなっていると思われます。
従業員から健康保険・厚生年金に入っていなかったことによる損害賠償請求をされてしまうケースなどもあるようです。
健康保険の未加入が分かった場合には、直ちに届出をするとともに未納分の保険料を納めましょう。
もしも警察により事業所を捜索されたり、経営者が逮捕されてしまったりしたときは刑事事件として対応しなくてはなりません。
当法律事務所ではキャバクラ店経営者からの相談や刑事事件の相談も多数受けておりますので、お困りの際は遠慮なくご相談ください。