各都道府県で続々と迷惑防止条例が改正され,盗撮犯の処罰範囲が広がってきている。
実際に,盗撮事件での逮捕ニュースも増えてきている。
それだけ盗撮被害が続出しているということだろう。
では,盗撮被害にあった場合,慰謝料・損害賠償請求ができるのか?
その場合の慰謝料額の相場はいくらなのか?
今回は,盗撮慰謝料の相場について,解説する!
解説動画はこちら🔻
盗撮行為は,各都道府県の迷惑防止条例で規定されている。
盗撮とは,「正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること」をいう。
東京都の迷惑防止条例では,以下の場所での盗撮が禁止されている。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
→自宅やホテルにデリヘルを呼ぶ場合や店舗型の風俗店のプレイルームも対象となる。
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
その罰則は,1年以下の懲役,100万円以下の罰金だ。
常習犯の場合は,2年以下の懲役,100万円以下の罰金となる。
その他,わいせつ電磁的記録の頒布罪,住居侵入罪,軽犯罪法違反等に該当する可能性がある。
詳細は,以下の記事を参考にしてほしい。
盗撮被害者の加害者に対する慰謝料請求の法的根拠は,不法行為に基づく損害賠償請求だ。
不法行為とは,故意や過失により他人の権利を侵害する違法行為をした場合に損害賠償義務を負うというものだ。
民法
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
なお,盗撮の慰謝料請求の時効は原則3年だ。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
慰謝料とは,精神的な損害についての賠償,内心の痛みを与えられたっことへの償いのことだ。
財産的な損害ではなく,精神的な損害を含む無形的な損害を広く慰謝料と呼ぶ場合もある。
慰謝料は,財産的な損害とは異なり,客観的に算定することは困難だ。
例えば,現金5万円を盗まれたという財産的な被害の場合には,5万円が損害になる。
他方で,盗撮をされた場合の精神的苦痛がいくらの損害になるか,客観的に算定することは困難だろう。
では,その算定が困難な慰謝料の損害はどのように算定をするのだろうか?
判例上,慰謝料は,諸般の事情を考慮した上で裁判官が裁量により算定するものとされている。そして,裁判官はその根拠を明らかにせず,原告側も損害額それ自体を立証する必要はないとされている。
要するに,裁判官が裁量で決めるから明確な根拠はないよということだ。
ただ,今までの裁判例の蓄積や,弁護士としての経験から,以下の要素が盗撮の慰謝料を左右すると思う。
・行為態様の悪質性
初犯か常習犯か,未遂か既遂か,スマホ1台の撮影なのか専用の機材を複数使っているのか。
どのような状態を盗撮されたのか(下着なのか,裸体なのかで違うはず)
流出の有無,危険性など。
・被害結果の重大性
被害女性が被害後働けるようになるまでの期間の長短,精神疾患等の診断結果の有無・程度,実害(身バレの有無など)の有無など。
・行為後の反省や謝罪の有無
前述のように,盗撮の慰謝料について,具体的な算定方法や算定基準はなく,最終的には裁判官の裁量により判断される。
また,示談の場合には,前述した算定要素に加えて,慰謝料を払う盗撮犯の事情や経済状況,被害者の被害感情等によって,合意に至る金額は異なってくる。
では,実際の盗撮慰謝料の相場はいくらなのだろうか?
盗撮被害にあった場合,いくら請求できるのだろうか?
ネット上の情報では,20〜30万円が相場だ!みたいな記事を目にするが,これまで説明をしてきたとおり,相場なんてものはない。
あえて,相場という話をするとして。。たしかに,20〜30万円で示談が成立するケースも少なくはない。
しかし,当法律事務所の弁護士の実感としては,この金額よりも高いように感じている。
当法律事務所の弁護士が扱う盗撮被害事例として,デリヘル等の風俗店での盗撮事例が多いこともその要因にはなっているとは思うが。。
最終的には,裁判になったときに,いくらで判決が出るだろうということを予測して,相場を決定していくべきだと考える。
しかし,盗撮についての慰謝料を示した裁判例が少ないのだ。公表されている事例としては数件だろう。
なお,当法律事務所で盗撮の慰謝料についての損害賠償の裁判をした事例では,100万円で裁判上の和解をしたケース,50万円の慰謝料の判決が出されたあケースなどがある。
《盗撮慰謝料裁判例》慰謝料200万円
東京地判平成16年7月14日
販売業者が,レースクイーンであって原告の全裸を盗撮したビデオを販売した事例
4 争点(3)(原告の被った損害)について
(1)ア 本件ビデオには,芸能人である原告が個人旅行先で露天風呂に入浴しているところを盗撮された画像が収録されている。被告は,その経営する店舗において,原告の写真等に,「Y1’!」,「話題騒然!」,「本人も認めた!話題のビデオ」などと記載した販促メモを貼り付けた本件宣伝を店内に掲示し,原告の盗撮された入浴画像が収録されていることを強調して販売していたものである。このような被告による本件ビデオの宣伝,販売行為により原告が多大な精神的損害を被ったであろうことは,想像に難くない。
この点について,被告は,原告が本件ビデオの店頭販売を確認した後,被告や他の販売業者に本件ビデオの販売中止を一度も要求していないことを理由に,精神的損害を被ったとの原告の主張を争っている。しかし,原告が平成12年7月1日に本件ビデオの販売を確認した後,制作会社であるFを通じて本件ビデオを回収しようと考え,同社の実体解明等に努めたこと,原告が平成13年2月10日に,被告の経営するB書店が本件入浴写真と販促メモを掲示して本件ビデオを販売していることを確認した後,警視庁管内の複数の警察署を訪れて被告の販売行為について相談し,同年6月には本件ビデオの制作会社であるFとともに被告を告訴するに至ったことにかんがみれば,被告の主張事実から,原告が被告の販売行為により精神的損害を被っていないなどということは到底できない。イ もっとも,本件ビデオの販売行為により財産的損害も被った旨の原告の主張については,原告が平成13年2月ころ,同年4月から始まる衛星放送の番組を理由も告げられずに降板されたことが認められるものの(原告本人12頁,13頁),原告が盗撮され,その盗撮画像が収録された本件ビデオが被告の店舗において販売されたこととの因果関係を認めるに足りる証拠はなく,ほかにも,原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
(2)ア 被告は,自ら盗撮ビデオの流通を防ぐための措置を何ら講じず,問屋が盗撮ビデオの流通を防ぐための措置を講じているのかどうかについても何ら関知せず,本件ビデオがやらせビデオではない真実の盗撮ビデオであってもかまわないとの認識の下に,本件宣伝を店内に掲示し,芸能人である原告の入浴画像が収録された盗撮ビデオであることを殊更に強調して,本件ビデオを販売していたものであり,盗撮ビデオである本件ビデオの流通に与した被告の責任は,決して小さくはない。
イ しかし他方,被告は,盗撮,本件ビデオの企画,制作自体には何ら関与しておらず,問屋が制作会社から仕入れた本件ビデオを更に問屋から仕入れて販売していたものにすぎない。また,原告から本件ビデオについて被害届が出されていることを知った後は,本件ビデオ自体の販売を中止している。
(3)以上のような本件ビデオの内容,原告の社会的地位,被告の不法行為の態様,その他本件に関する一切の事情を勘案すると,被告が本件入浴写真と販促メモを掲示して本件ビデオを販売したことによって原告が被った精神的損害の慰謝料としては,200万円が相当であると認められる。
《盗撮慰謝料裁判例2》慰謝料400万円,200万円
大阪地判平成21年3月27日
公衆浴場における盗撮映像をもとにDVDを制作・販売した行為が,当該盗撮映像に係る被撮影者のプライバシー権・肖像権を侵害し不法行為を構成するとして,当該DVDを制作・販売した会社及びその代表者の損害賠償責任が認められた事例
3 争点(2)(原告の損害額)について
(1) 慰謝料について
本件各DVDは,公衆浴場における女性用脱衣室及び女性用浴場の内部並びに女性の脱衣風景や入浴姿が撮影・編集されたものであり,その中に納められている原告の入浴姿は盗撮されたものであったところ,本件各DVDは商業用DVDとして相当数が制作・販売され,インターネットで商品の広告がされるなど,不特定多数の第三者が容易にそれらの存在及び内容を覚知し得る状態に置かれている(前記第2の1(2),第4の1(3),(4)クないしコ)。原告は,本件各DVDの存在を知るに及び,外出の際には自らが第三者から好奇の目で見られているのではないかなどと感じてストレスを高じるようになり,そのため,家事や子育てに支障を生じ,平成18年4月ころにはリストカットをするにまで至ったこともある(甲9,27,原告本人により認める。)など,本件不法行為によって多大な精神的苦痛を被っている。
他方,被告A,被告B,被告C及び被告Dは,本件各DVD(ただし,被告C及び被告Dは本件DVD1及び2について)が,出演者の承諾のない盗撮に係るものであることを認識しつつ,商品の売上増加を目しこれを認容して,商業目的でこれらの制作及び販売行為を行い多大な利益を得ていたものであり(前記1(3),2),その違法性は極めて大きい。
以上のほか,前記1ないし3にみた諸般の事情を総合考慮すると,原告の上記精神的苦痛を慰謝するには,本件DVD1及び2に係る本件不法行為につき400万円,本件DVD3に係る本件不法行為につき200万円をそれぞれ相当と認める。
今回の記事では,盗撮の慰謝料におけるその相場や請求額について説明した。
盗撮の損害賠償,示談,示談書等のその他の問題,風俗トラブルでの盗撮については,以下のページを参考にしてほしい。