非風俗のメンズエステ店で本番強要をしたとして逮捕された俳優の新井浩文氏について,本日,判決があった。
暴行・脅迫がないとして無罪を主張していた新井氏だが,有罪判決が言い渡された。
執行猶予がつかない懲役5年の実刑判決だ。
動画でも5分ほどで簡単解説をしているので,お時間のない方は動画を見てね♪
風俗トラブルの中でも本番強要事例は多い。デリヘル等の一般的な風俗店のほか,手コキ店やピンサロ店,メンズエステ店での本番強要事例もある。
本番強要は,今回のように重い実刑判決が下されることもある。
今回の記事では,強制性交罪の量刑相場,無罪判決事例のポイント等について解説していこうと思う。
風俗での本番トラブルと逮捕等の刑事事件については以下の記事を参考にしてほしい。
新井浩文被告に懲役5年判決 東京地裁「卑劣で悪質」
派遣型マッサージ店の女性従業員に乱暴したとして、強制性交罪に問われた俳優の新井浩文=本名・朴慶培(パク・キョンベ)=被告(40)の判決公判が2日、東京地裁で開かれた。滝岡俊文裁判長は「犯行は卑劣で悪質。経緯に酌むべき点はない」として、求刑通り懲役5年を言い渡した。新井被告側は即日控訴した。
弁護側は、女性の反応から受け入れられていると誤認したと主張。同罪の構成要件である「反抗を著しく困難にするような暴行」もなかったとして、無罪を主張していた。
判決は、体格差などを踏まえ、女性が何度も拒絶感や抵抗を示したのに服を脱がせたり押し倒したりした上で性交に至った状況を暴行と認定。新井被告自身が事件直後に「おわび」として現金を渡そうとしたことなどからも、女性と合意があったと誤信するとは「到底考え難い」と断じた。
さらに、女性が客である新井被告に施術中だったという「抵抗しにくい状況に付け入り、続けざまに暴行を加えた」と非難し、実刑は免れないと結論付けた。
新井被告は公判で、強く抵抗されず「同意があったと思った」と述べる一方、後に「同意がなかったのではないかという不安が少しあった」とも話していた。
判決によると、新井被告は昨年7月1日、東京都内の自宅で30代女性に頭を押さえつけるなどの暴行を加え、乱暴した。
新井被告は「血と骨」「アウトレイジ ビヨンド」などの映画に出演し、実力派として評価されていた。
https://www.sankei.com/affairs/news/191202/afr1912020012-n1.html
まず,1つ目の大きなポイントが2017年に刑法が改正されたことだ。
この改正により,強姦罪が強制性交罪になった。これにより,重罰化された。
具体的には,以下のとおりだ。
3年以上の有期懲役(強姦)
↓
5年以上の有期懲役(強制性交)
この,5年以上というのが非常に重要だ。
なぜなら,執行猶予は,3年以下の懲役の判決を言い渡された場合に付けることができるからだ。懲役5年の有罪判決では執行猶予を付けられないのだ。
刑法改正後の強制性交罪では,酌量減軽がされるような場合にしか,執行猶予がつかないのだ。
刑法
(強制性交等)
第百七十七条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。(刑の全部の執行猶予)
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。(酌量減軽)
第六十六条 犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる。(酌量減軽の方法)
第七十一条 酌量減軽をするときも、第六十八条及び前条の例による。(法律上の減軽の方法)
第六十八条 法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。
三 有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の二分の一を減ずる。
上記のように,強制性交罪では酌量減軽がなされなければ執行猶予はつかない。
ただ,執行猶予が付いている事例もあるので量刑相場とともに紹介する。
まず,以下の量刑をまとめた表を見てほしい。
実刑判決が多い。
執行猶予がついた2つの判決ではともに示談が成立している。
次に,執行猶予がついた判決を見てみよう。
東京地判平成29年11月15日
《事案の概要》
告人が,同人方において,被害者(当時26歳)をベッド上に引き倒し,両肩を両手で押さえつけながら唇に無理矢理接吻した上,両足を両手で押さえつけるなどの暴行を加え,反抗を抑圧して同人と性交したとする強制性交等被告事件。裁判所は,被告人は,被害者が終始抵抗していたにもかかわらず意に介さず,暴行を加えて性交に及んでおり,その犯意は強固で,自己中心的な犯行で卑劣というほかなく,刑事責任は重いが,示談により被害者が被害届,告訴も取り下げる意向を示していることなど被告人にとって酌むべき事情も認められることから,酌量減軽をした上で,刑の執行を猶予するのを相当とし,懲役3年,執行猶予5年とした事例
《量刑理由》
被告人は,飲食店で同僚らと飲酒していた際,被害者らに声をかけて共に飲食することとなり,うまくいけばセックスできるかもしれないなどと考えて,酔った被告人を介抱するつもりの被害者に自宅内まで付き添わせ,本件犯行に及んでいる。被告人は,被害者が被告人方から帰ろうとするや,手をつかんでベッドの上に引き倒し,被害者が何度もやめて欲しいと述べて,終始抵抗していたにもかかわらず,これを意に介さず,判示のとおりの暴行を加えて,性交に及んでいる。その犯意は強固であり,被害者の人格を無視した欲望の赴くままの自己中心的な犯行であって,卑劣というほかない。被告人に対しては強い非難が妥当し,その刑事責任は重い。
もっとも,本件では,被告人は,両親の協力の下,被害者に対して400万円を支払って示談し,被害者が宥恕の意思を示し,被害届,告訴も取り下げる意向を示している。この点は,本件の量刑を決めるに当たって一定の重みを持つ事情である。加えて,本件の暴行は同種事案の中ではそれほど強度のものとは認められないこと,さらに,被告人に前科前歴がなく,被告人の母が出廷し,今後,被告人と同居して監督していく旨述べていることなど被告人にとって酌むべき事情も認められ,これらを併せ考慮すると,被告人に対しては,酌量減軽をした上で,その刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
メディア情報からだが,新井氏の事件について判決が示した量刑の理由を整理しよう。
・暴行の程度(本件の暴行自体が制圧的というほどに強度ではない)
・犯行の悪質性(被害者が被告人方で施術中であるという抵抗しにくい状況に付け入った)
・被害者の処罰感情(被害者の処罰感情が厳しい)
・動機(自己の性的な欲求を優先して犯行に及んだ)
今回の新井氏の判決と紹介した執行猶予が付いた判決を比較してみると…
暴行の程度,動機はそれほど変わらないように読める。
犯行の悪質性も実刑判決に影響を与えているとは思うが,一番大きい要因は,被害者の処罰感情ではないか。
執行猶予がついた事案では示談が成立し被害者が宥恕の意思を示し,被害届,告訴も取り下げる意向を示しているのに対して,今回の新井氏の実刑判決では示談は成立しておらず,被害者の処罰感情は厳しい。
今回,強制性交罪で執行猶予がつかず,実刑判決となったのは,示談が成立しておらず,被害者の処罰感情が強いままだったことが大きな要因となっていると考える。
なお、強制性交等罪についての事案で、元ミスター東大候補者のケースでは、示談が成立し、懲役3年・執行猶予5年の判決が出ている。
この件については、以下の記事を参照して欲しい。
今年に入ってから,強制性交罪について,数件の無罪判決が続いた。
3月には,以下の4つの無罪判決が出た。
福岡地裁久留米支部平成31年3月12日判決(「久留米判決」)
静岡地裁浜松支部平成31年3月19日判決(「浜松判決」)
名古屋地裁岡崎支部判決平成31年3月26日判決(「岡崎判決」)
静岡地裁平成31年3月28日判決(「静岡判決」)
これらの判決は,強制性交罪の要件である暴行・脅迫が認められず,また,加害者が暴行・脅迫に対する認識を欠いていたとして無罪となっている。
強制性交罪が成立するためには,被害者の反抗を著しく困難にする暴行・脅迫を用いるか,犯行が著しく困難な抗拒不能状態(泥酔状態など)に乗じた性交といえる必要がある。
暴行・脅迫や抗拒不能状態の存在がない場合の他,その故意がない場合にも無罪となる。
故意がない場合とは,同意があったと思っていた場合や,反抗できないほどは酔っていないと思っていた場合だ。
詳細については,以下の記事が詳しいので参照してほしい。
では,今回の新井氏の事件では,なぜ,有罪となったのだろうか。
判決内容を掲載しているメディアを参考にして,強制性交罪が認められた要素を書き出してみた。
・お店が性的サービスをしないことに同意していた
・女性とは初対面で性交を求める言動がなかった
・行為後に新井氏がお詫びとして7万円を渡そうとしたが拒否された
・行為直後に女性が店に相談をした
・行為後数日以内に女性が詳細な内容をメモに残した
上記事実について,新井氏も概ね認めているようで,このような事情があったとすれば,女性の同意はなく,女性の反抗を著しく困難にするような暴行脅迫があり,そのような状況を新井氏も認識していただろうとの判決だと考えられる。
この判決自体は妥当なものだと考えられ,新井氏は控訴したものの逆転無罪とはならないのではないかと予想する。
ただ,新井氏が控訴審判決の前に犯行を認めて,示談をすることができれば,執行猶予がつく可能性はあるだろう。
今回の事件を参考に,デリヘル等の風俗店で本番強要被害があった場合に,女性キャストやお店側がやるべきことを考えてみよう。
・本番禁止を周知徹底させる(できれば客の署名も)
・本番は断固拒否する
・本番の対価やお詫びをもらわない
・被害直後に店に相談,警察に通報などの対応をし,それを証拠に残す(LINE等文字に残る形で相談する)
・被害直後に被害状況を詳細にメモする
以上の行為により,後々,強制性交罪を立証しやすくなるので,知識として備えておいてほしい。
なお,メンズエステの法的な性質やメンズエステ経営側の逮捕事例等については,以下のサイトを参照してほしい。
また,風俗トラブル関連記事については,以下にまとめてあるので参照してほしい。