ここ最近、AV、アダルト動画の配信、販売事業を始める人が増えてきている。
個人撮影の無修正動画をFC2コンテンツマーケットで販売したり、pornhub等のアダルトサイトにUPする人たちも増えてきている。
そんな人たちの間には、無修正のAV・アダルト動画であっても海外サーバーであれば日本法は適用されず違法ではないとの認識を持っている人もいるようだ。
しかし、2017年1月には「カリビアンコム」で動画配信をしていたAV会社が逮捕され、2021年11月には「FC2コンテンツマーケット」で無修正の個人撮影動画を販売していた人たちが一斉摘発され、複数人が逮捕されている。
海外サーバーでの無修正AV・アダルト動画の販売や公開は違法なのだろうか?
刑法上のわいせつ電磁的記録等送信頒布罪・わいせつ電磁的記録媒体陳列罪の国外犯規定、逮捕事例、判例等について、解説をしていく。
まずは、海外サーバーである「カリビアンコム」や「FC2コンテンツマーケット」で無修正AV・アダルト動画を販売・配信して逮捕された事例を紹介する。
カリビアンコムに無修正動画を配信して逮捕。「海外サーバーなら合法」説はもはや通用しない?
1月11日、海外アダルトサイト『カリビアンコム』に無修正のわいせつ動画を配信し、制作会社・ピエロが摘発された事件。台湾出身の社長(67歳)ら6人が逮捕された(わいせつ電磁的記録媒体送信頒布罪)。
『カリビアンコム』といえば、2001年に動画配信サービスを開始した老舗サイトで日本人作品が多く、有名女優の無修正動画も視聴できるとあって人気を博していた。
ピエロは自社制作した動画を配信していたが、報道によると、年間300本ほど制作し、台湾の別会社を経由して『カリビアンコム』に裏動画を納品。昨年までの9年間で約14億円を売り上げていたとされる。
2017,2,1 週プレNEWS https://www.excite.co.jp/news/article/Shueishapn_20170201_79419/
この事件では、海外サイトである「カリビアンコム」で無修正動画を配信したAV制作会社社長らが逮捕されている。
出演していた女優もわいせつ電磁的記録媒体送信頒布罪の幇助犯として逮捕された。
本件逮捕事例や個人撮影のAV等の違法性については、以下の記事も参照して欲しい。
海上自衛官、国立研究機関主任も…わいせつ動画配信「一斉摘発」の裏にある警察当局の執念
19日までに、海外サイト「FC2」で無修正のわいせつ動画を販売したとして、警視庁などは男7人を逮捕した。逮捕者の中には、海上自衛官や産業技術総合研究所(産総研)の主任研究員なども含まれており、合計で約4億7000万円を売り上げていたとみられる。捜査関係者は「FC2は無法地帯となっている」として徹底的に取り締まる姿勢をみせる。
今回逮捕された男らは全国に散らばっており、警視庁、茨城県警、愛知県警が一斉摘発した。
捜査関係者はこう語気を強める。
「FC2は潰すまで徹底的にやるつもりだ。女性に金を払って自分たちで動画を撮影しているランキング上位者は特に悪質性が高い。(わいせつ動画配信は)小遣い稼ぎなど軽い気持ちでやるべきではなく、違法行為だということを知らしめていく」
警察が目を光らせる、わいせつ動画の配信。気軽に手を出すと痛い目を見ることは間違いない。(AERAdot.編集部)
2021,11,25 AERAdot. https://news.goo.ne.jp/article/dot/nation/dot-2021112400073.html
昨年末には、FC2コンテンツマーケットで無修正の個人撮影動画を販売していた人たちが一斉に逮捕された。
逮捕された人たちは共犯関係ではなく、それぞれ、別の事件として逮捕されている。
また、FC2のポイントと商品券を交換する業者がわいせつ電磁的記録等送信頒布罪の幇助犯で逮捕されている。
報道によると、風俗店で盗撮をした動画が販売されていたことが捜査のきっかけになったようだ。
風俗での盗撮の逮捕事例については、以下の記事を参照して欲しい。
刑法175条は、わいせつ物頒布等について、2年以下の懲役、250万円以下の罰金を定めている。
(わいせつ物頒布等)
第百七十五条 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
刑法175条1項前段は、わいせつな小説、無修正のエロ本、無修正アダルトDVD、無修正動画を保存したPC・USBなどの有体物を不特定・多数に配ったり、陳列する行為を禁止している。
他方で、刑法175条1項後段は、無修正動画などのデータをネット上で不特定多数に送信したり、販売したりする行為を禁止している。
そして、わいせつの定義については、以下の古い最高裁判例がある。
「わいせつ」とは、いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するものをいう(最判昭26年5月10日)。
現在のわいせつ電磁的記録等の送信頒布罪・公然陳列罪における捜査実務においては、無修正の性器がうつされているものが「わいせつ」だという運用がなされているように思う。
わいせつ電磁的記録等送信頒布罪における「頒布」(刑法175条1項後段)とは、不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめることをいう(最判平成26年11月25日)。
「公然陳列」(刑法175条1項前段)とは、わいせつ物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいう(最判平成13年7月16日)。
無修正のAV・アダルト動画の販売やネット上での頒布(アップロード)について、日本ではわいせつ電磁的記録等送信頒布罪などに該当して違法となる。
他方で、無修正のAV・アダルト動画の販売等が禁止されていない国もある。
そして、インターネットは国を超えて、データにアクセスをしたり送受信ができるものだ。
そうだとすれば、無修正のAV・アダルト動画の販売等が適法な国のサーバーを使用して動画の販売等を行う場合は違法なのだろうか?日本の刑法は適用されるのだろうか?
犯罪行為を行った場所が海外の場合や、犯人が外国人の場合に日本の刑法が適用されるのか?日本の刑法はどこまで適用されるのか?といった問題がある。
刑法の国外犯規定は、属地主義を原則(刑法1条1項)としている。
属地主義とは、日本国内で行われた犯罪については、行為者の国籍を問わず日本の刑法を適用するという原則だ。
犯罪行為の全てが日本国内で行われたことまでは必要ではなく、犯罪行為の一部ないしは犯罪行為の結果が日本国内で生じていれば、日本の刑法が適用できると考えられている。
(国内犯)
第一条 この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。
他方で、殺人罪や強姦罪など、刑法が定める重大な犯罪については、犯人や被害者が日本人であれば、国外で行われた行為であっても日本の刑法を適用するという属人主義(刑法3条)も適用される。
日本ではわいせつ電磁的記録等送信頒布罪などには、属人主義の規定はないため、原則通り、属地主義が適用されることになる。
すなわち、犯罪行為が日本で行われた場合に、日本の刑法のわいせつ電磁的記録等送信頒布罪などが適用される。
わいせつ電磁的記録等送信頒布罪などとの関係でいえば、頒布行為や公然陳列行為が日本国内で行われている場合には、日本の刑法が適用され、違法となる。
日本国内から海外サーバーにアップロードをするようなケースでは、頒布行為や公然陳列行為が日本国内で行われたといえ、日本の刑法が適用される。
では、海外から海外サーバーにアップロードをした場合はどうだろうか??
この点については、判例を紹介しつつ解説していく。
ここでは、海外から海外サーバーに無修正動画をアップロードした事件において、わいせつ電磁的記録等送信頒布罪及びわいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪の成立を認めた最高裁の判例(最判平成26年11月25日)を紹介・解説する。
【事案の概要】
日本在住の被告人が、アメリカ在住の共犯者に対して、日本国内で撮影・編集した無修正AV・アダルト動画のデータファイルをアメリカ在住の共犯者に送り、共犯者がアメリカのサーバー上にアップロード・有料配信をし、日本人の顧客が当該サーバーから当該動画をダウンロードした。
【判決の概要】
刑法175条1項後段にいう「頒布」とは、不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめることをいうと解される。
そして、前記の事実関係によれば、被告人らが運営する前記配信サイトには、インターネットを介したダウンロード操作に応じて自動的にデータを送信する機能が備え付けられていたのであって、顧客による操作は被告人らが意図していた送信の契機となるものにすぎず、被告人らは、これに応じてサーバコンピュータから顧客のパーソナルコンピュータへデータを送信したというべきである。したがって、不特定の者である顧客によるダウンロード操作を契機とするものであっても、その操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用して送信する方法によってわいせつな動画等のデータファイルを当該顧客のパーソナルコンピュータ等の記録媒体上に記録、保存させることは、刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録の「頒布」に当たる。
また、前記の事実関係の下では、被告人らが、同項後段の罪を日本国内において犯した者に当たることも、同条2項所定の目的を有していたことも明らかである。
【弁護士による解説】
まず、本件では、被告人は、わいせつ電磁的記録等送信頒布罪及びわいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪で起訴されている。
これらの犯罪が適用されるためには、犯罪行為の少なくとも一部が日本国内で行われている必要がある。
なお、わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪においては、日本国内で有償頒布する目的で保管する必要があると考えられる(改正前わいせつ物販売目的所持罪について、最判昭和55年12月22日参照)。そのため、頒布行為が国外で行われていたと解釈される場合には、わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪も成立しないことになる。
本件での被告人らの行為を分解すると以下のようになる。
①共謀(共犯者間で無修正動画を海外サーバーの海外サイトで配信する計画を立てる)
②日本で無修正AVの撮影・編集
③日本からアメリカに②のデータファイルを送信
④アメリカで無修正動画データをアップロード
⑤顧客が日本で無修正動画をダウンロード
以上の行為のうち、①②③⑤は日本国内で行われ、④はアメリカで行われている。
わいせつ電磁的記録等送信頒布罪の刑法175条後段「頒布」行為について、動画サイトへのアップロード行為(④)と考えると、頒布行為が国外で行われたとも考えられる。
この点について、最高裁は、「頒布」について、不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめることであると解釈し、顧客がダウンロードするための操作は当初から意図されたもので、顧客のダウンロードに関する行為も「頒布」に含まれると解釈している。
すなわち、この最高裁判決は、上記④のみならず⑤も「頒布」に含まれると解釈している。
そして、⑤が日本国内で行われているため、犯罪構成要件事実あたる「頒布」行為が日本国内で行われているため、日本法が適用されると判断している。
この最高裁判決は、①②③について、犯罪行為の一部に該当するかどうかの判断はしていない。
この最高裁判例についての判例タイムズの解説(判例タイムズ1410号79頁)によると、①の共謀行為が犯罪は犯罪行為の一部に該当するとしている。
以上で見てきたように、わいせつ電磁的記録等送信頒布罪などは、属地主義を原則から、犯罪行為の一部が日本国内で行われた場合に適用される。
そして、海外サーバーであろうとも、日本国内の顧客がダウンロードできる状態にし、顧客がダウンロードする行為は「頒布」に該当し、日本法が適用される。
そうだとすれば、海外サーバーを使用したとしても、無修正AV・アダルト動画の販売やアップロードは違法であると考えるべきだ。